彼女が知れば悲しむだろう
☆これまでの登場人物
・ジム・デッカード
本作の主人公。サラリーマン。街でゾンビに襲われていたところをケインに助けられる。武器は護身用に持っていたハンドガンと戦闘中に拾った大ぶりのレンチだったが、ハンドガンは弾が切れたため現在使用できない。
・ケイン・キック
本作もう1人の主人公。消防士。ジムを助け、以後2人で行動する。状況判断が的確で、頭の切れる男。武器は万能斧。
・ケイト
トレーニングジムの利用者で、アーチェリーを練習しにきていた。ポニーテールにした金髪と所持している弓が特徴の若い女性。
・フレッド
トレーニングジムの利用者で、ケイトとジェフリーの友達だったが、噛まれたあと感染し、ゾンビになった後、死亡する。
・ジェフリー
トレーニングジムの利用者で、ケイトやフレッドと同じくアーチェリーの選手だった。発症したフレッドともみ合いになり、屋上から突き落とす。筋肉質で人の良い男。
☆前回までのFAZ
トレーニングジム内部に侵入したジムとケインの2人は、弓を持った2人の男女と出会う。2人はジェフリーとケイトと名乗り、トレーニングジムを4人で脱出しようとするのだった。
(2020年10月10日 23:15 ニューリバティシティ トレーニングジム)
時刻は11時を過ぎた。屋上には3人の男と女が1人。通りは新年を迎える時のように人で溢れかえっているが、聴こえてくるのは高揚感の混じったざわめきではなく、意志を感じられないうめき声だった。
4人の目は完全に闇夜に適応していた。
「これまでのところ、」
ケインが話し出す。
「くそったれウィルスはゾンビどもを支配しちゃいるが、生きてた時のようには脳が信号を伝えられないらしい。奴ら登れてせいぜい階段程度、ハシゴや出っ張りの少ない壁は登れないはずだ。つまり建物の屋根には上がってこれない。そこでだ、俺たち4人で建物の屋根伝いに移動する。目指すは警察署、そこまでずっと地面に降りないのは無理だろうが、危険はちょっとでも少ないほうがいい。矢だって数に限りがあるしな。」
ジェフリーが頷く。
「ケインの意見に賛成だ。」
「私もよ」ケイトも続いた。
ジムはそこで話を遮った。
「だがケイン、まずは物資の補給が先だろ。
俺たちが持ってきた食料も少ないし、火炎瓶も数に限りがある。弾もさっきので尽きた。」
ケインは頷いた。
「ああ、それもそうだな。まずはこの建物を探索しよう。
俺とジム、ジェフリーとケイトのふたチームに分かれてー」
ジェフリーが遮った。
「いや、俺がケインと行くよ。ジムがケイトと。ジム、いいだろう?」
ジムは答えた。
「あ、ああ別に構わないが」
「じゃあケイン、そういうことで」
ジェフリーはケインの目を見た。ケインは何かを理解したようだったが、ジェフリーの表情はジムからは見れなかった。
ケイトからは2人とも見えてなかったらしい。特に気にかかるような様子も見せず、屋上と下の階とを繋ぐドアに向かった。
「早速行きましょう、デッカードさん」
ケイトがジムを呼んだ。
「ああ、すぐに行くよ」
そう言ってジムは2人に向き直った。
「ケイン?」
「ジェフリーが話したいことがあるらしいからな。今回は2人1組で行動するし、3時間後に集合しよう。」
ケインがジムに言った。
「…ああ、わかった。2人とも気をつけろよ」
ジムはケイトが待っているドアに向かった。
彼の胸には不安が残ったのだった。
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「悪いな、ケイン。だがあんたには伝えとかなきゃならない。」
二手に分かれてすぐに、ジェフリーが切り出してきた。
ケインは深いため息をついた。2人は立ち止まる。
これを恐れていたんだ。
ジェフリーは続ける。
「ケイトからフレッドのことは聞いたよな?」
「ああ。」
「噛まれた。」
「………」
「あいつともみ合った時に噛まれてるんだ。今はなんともないが、いつ外にいるやつらみたいになっちまうか分からない。」
「…確かか?」
「ああ。」
「…そうか」
「ケイトは俺が噛まれた事を知らない。知ったらショックを受けるだろう。彼女がこの事を知る前に、今ここで俺を始末してくれ。」
「………」
薄暗い廊下に、鈍い音が響いた。一拍おいて、何かが床に崩れ落ちる音が続いた。
少しして、男は再び歩き始めた。
足音は一人分だった。
ジェフリーは個人的には殺すのが惜しいキャラクターなのですが、初期の頃からここで死ぬ設定でした。




