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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
盲信と英雄の第七章
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実体のない国家

 俺達は雑草の上に降り立ち、そのまま荷物を下ろした。ついでにゲロを吐きそうなやつらを残して、街の様子を見に行く。


「ちょっと雰囲気が変わった気がする」

「あたしもそんな気がするですよ」

「リタ、お前大丈夫なのか?」

「大丈夫でした。封印とかいうのが解かれたせいなのかもしれねぇです」


 封印が解かれただけで何が違うのかは良く分からないが、とにかく酔っていないらしい。

 ティファも慣れて来たみたいなのでそんなものなのかもしれない。


 人々が行き交う往来。思い込みかもしれないが、前よりも活気が出たような気がする。少し治安が悪くなって怒号が飛び交っているのはご愛敬である。それと同じぐらい豪快な笑い声も聞こえているので良い事にしよう。

 それに前は自由が少なすぎたような気もする。まぁ、俺の私見でしかないのだが。


「ここに来るのもなんだか久しぶりのような気がするな」

「実際には一週間も経ってねえですが」

「まぁ、色々な事が起こったからな。密度が濃すぎる」


 俺は久しぶりにボロ屋の前に帰ってきた。ガイノウトの祠近辺の住宅を見た後だと、この家も中々良い物に見えてくる。

 周りの家が豪邸なので、この家が異質に見えるだけなのかもしれない。


「これだけボロボロなんだから周りの住民からも苦情が来るんじゃないのか?」

「聞く話によると、ナー君が生きている間に色々な保護をしてくれたみてぇです。おかげさまで近所の人たちも私の家には一切手出しが出来ないんです」

「やっぱりあいつ、凄いヤツだったんだな」


 家に戻ると汚い用事を済ませたギルド長のおじさんが玄関に座り込んでいた。


「あんなヤバいやり方するなんて思ぉてもみいひんかったわ」


 ケタケタと笑っている。やはり張り付けたような笑みだ。


「話があるんだろう。中で話そう」

「おう」


 途端に張り付けたような笑みが消えた。

 俺はその変わりようを見て、ようやくこの人の本性が拝めるのだと思った。


 --------------------


「それでお前が殺されるって言うのはどういうことなんだ?」

「簡単な話や。ワイがお前の管理をできひんかったから、プロメテウスから殺されるっちゅうだけの話や」

「......どういうことだ?」

「ワイはプロメテウスの部隊でも偵察部隊ゆうところに配属されとったんや。まあようするにプロメテウスの手先だったゆうこっちゃな。ワイはガイノウトの管理と、フェンリルのバランスを取ることを命じられとったんやが、お前が現れてガイノウトを倒しよったからワイが責められとるゆうことや」


 つまり裏切りみたいに誤解されているということか。


「お前、プロメテウスの事を何か知っているのか?」

「んー。知っているような知らんようなって感じやな。20よりも前からプロメテウスで使われとるが、あの内部がどうなっとるんかまではよう分からん。あそこは『実体のない国家』やからな。国の領土もなけりゃ、明確な国民の定義もない。国というより組織と言った方が良いかもしれへん」


 そんな国が本当に存在できるのかどうかと疑問に思う。

 まるでテロリストみたいだなと思いながら、話を聞いていた。


「変な国だな。それでスパイ行為ばっかりやってるっていうのか?」

「英雄の意志を継いどるっちゅうことやな。それが一番平和につながると思っとるわけや。ワイもそのうちの一人やな」

「それで相手は自分のミスかどうかも分からない物を許してくれなかった、と」

「そういうこっちゃな。まあそういう所やし、仕方ないやろ。俺も仲間に同じようなことやって来たし、因果応報っちゅうヤツやな」


 何だかその軽さが腑に落ちない感じがした。

 この男は人間の命の重さを軽く見すぎているような気がした。もちろん、自分のものも含めてである。


「もう良い、分かった。次はミルフィ、お前の番だ」


 そう言われてミルフィが振り向く。ミルフィはベルモットの背後で椅子にも座らずに、何か申し付けられるのを待っているようだった。

 俺はミルフィを見ながら開いている椅子を指差した。ミルフィは音も立てずにその椅子に座る。


「何でしょう」

「お前、プロメテウスの命を受けて俺の命を取ろうとしてるんだったよな」

「まあ今のあなたは死ぬのかどうかも分かりませんが」


 ミルフィが皮肉を言う。確かに俺の心臓を刺したり赤目を刺したりしたところで、今の俺は死ねるのかどうかも分からない。ガイノウトを吸収してしまい、自分の力さえコントロールできなくなる時がある。


「俺にも分からん。それはそれとして、プロメテウスと連絡を取る手段はあるのか?」

「あります。ですが、その手段が今も機能するかどうかは分かりません。何しろ一度連絡が途絶えてしまっていますから、裏切ったと思われているかもしれません」


 裏切っているかもしれない......か。

 実際、一週間も連絡が取れなければ寝返ったと思われても仕方ない。

 解決策は何か聞けば思い浮かぶかもしれない。とりあえず、具体的な方法を聞いてみないことには話にならないだろう。


「連絡を取る方法は?」

「これです」

「......紙?」


 ミルフィが差し出したのは一枚の紙だった。しかも白紙、何も書かれていない。

 これに何か書いて渡すというのだろうか。


「この紙は暗号紙と言って、指定の魔法器を使わなければ文字は書けないし、解読用の魔法器を使わなければ文字を解読することはできません。これを近くの往来のゴミ箱の中に入れておけばごみ処理業者のように見える諜報員を介して、その手の者に情報が伝わり、諜報員が派遣されてきます」

「厳重なんだな」


 それだけ思慮深いということなのだろう。

 それを聞いて確信できることがあるとするならば、普通の方法では本部の位置など特定することは出来ないだろうということだけだ。

 まずは彼女のプロメテウスにおける信用を取り戻すという所からだろう。


「だったらこれを持っていけ」


 俺はミルフィの刀を素早く奪い取り、自分の腕を切り落とした。

 慣れてしまったその痛みに悲鳴も出さないで、切り落とした腕を取りミルフィに受け渡す。潤沢な内部の魔石だけ使って腕を蘇らせる。切り口から出た黒い液体も俺の体の中に戻っていった。

 切られた腕は黒く変色していた。


「本当に怪物ですね」


 周りの卓男やベルモットが俺の行為をおっかなびっくり見ている。

 だがこうするしか方法はないだろう。本当なら首をあげたいところだが、そんなことをしたら俺の命がどういう風になるか分かったものではない。そもそも首を斬り落としたら、首の方に意識があってそちら側が回復するのか、それとも胴体に意識があってそちら側が回復するのか。それを検証する勇気が俺にはない。

 胴体に意識があったら、それこそゴキブリではないか。


「生命力と言い、この真っ黒な腕と言い、ヤト爺が言っていたゴキブリにそっくりね。あちらの世界だと忌み嫌われる最恐の虫と聞いているわ」

「ゴキブリとは言い得て妙でござるね。気持ち悪いでござる」

「そうはありたくないと思っていたところだ」


 卓男はトイレに駆け込もうとするも、ベルモットに先を越されたみたいで、口を押えたまま下を向いていた。

 俺は切った腕をミルフィに手渡す。ミルフィが気持ち悪そうにその腕の感触を確かめている。多分人間の腕とは思えないほど硬くなっている事だろう。


「これがあれば、もしかするとまだ繋がりを斬らないで済むかもしれません」

「そうなると良いな。頑張ってこい」


 俺は紙を持って外へ出て行く彼女を送った。

 後は結果を待つのみである。

プロメテウス編始まりましたね。

昔書いたものではここら辺は駆け足になってしまいました。

今回はじっくりやっていければ良いと思っています。

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