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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
禁忌と魔王の第六章
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救済

「やっぱりここは俺の心の中だったか」

「やっぱり?」

「いや、何でもない」


 ここには何度も来たことがあった。ガイノウトを吸収した時の記憶もおぼろげだが確かにある。

 最初に神を自称する少年と会ったのもここだった。

 もう一人の俺と会ったのもここだった。

 だが、ここの様子がまさかこれほどまでに変わっているとは思わなかった。

 蠢く亡霊が周りを取り囲み、俺に嘆きを叫び、遠巻きに眺めている。あまり気持ちのいい場所では無い。


「ここからその......ナー君? を探し出すんだったか?」

「そーです。知っている人間だったら引き寄せられますからね」

「そうか」


 もしかしたら俺が願えばヤト爺の魂も引き寄せられるのだろうか。

 そうなったらヤト爺と話してみたい気もしなくはない。

 そう言えばヴェニスと戦った時に、俺はヤト爺と話している。アレはヤト爺の魂と話したのだろうか。それとも俺の心の中で眠るヤト爺と話したのだろうか。

 思えばあれ以来会えないままである。まあ死んでしまったのだから、もう会えないのは当たり前なのだが。


「もうすぐ、もうすぐです」


 リタは祈るように手を顔の前で組んで目を瞑りながら、何かを必死に唱えていた。

 俺はそれを静観する亡霊とともにリタを眺めていた。亡霊たちは何かを待ちわびるようにじっと眺め、時折

 罵詈雑言を浴びせかける。

 リタはそんな言葉など聞こえていないかのように必死に祈り続けていた。もしかしたら本当に俺にしか聞こえていないのかもしれない。


「来ました!」


 亡霊たちの中から一つの魂がふわりと浮かんで出て来た。その姿も俺にとっては亡霊の一つにしか見えないが、リタにとっては違うものに見えるみたいだ。

 リタがソレを掴もうと手を伸ばす。

 だが、浮かんで来た亡霊についてくるように複数の亡霊がリタの伸ばした手を掴もうとする。


「危ない!」


 俺はリタを引きずり降ろそうとする複数の亡霊を蹴り飛ばした。

 脇から波紋が広がるように亡霊が浮かび上がった。

 その亡霊たちが自分の腕をつかむ。俺はその亡霊を振り払いながら、亡霊たちを投げ飛ばす。

 目的の魂を引っ張り上げようとするが、亡霊たちの中に飲み込まれるように姿を消してしまう。

 まるで液体を殴っているような感覚に思わず眩暈がする。

 地面の無い精神世界で、自分の体も安定しないまま亡霊に攻撃を当てるのは非常に難しい。蹴り飛ばしても投げ飛ばしても次から次へと亡霊たちが湧き上がってくる。


「切りが無いな」


 しかも登ってくるたびに亡霊たちに目的の魂が引き摺り降ろされる。

 俺は芥川龍之介の蜘蛛の糸という小説を頭に思い浮かべた。

 この亡霊に自我も業も罪もあるのかどうかは分からないが、これが生前は人間だったことやこの亡霊が生を求めていることは確かだ。

 つまるところ俺は地獄を這いあがってこようとする人間の魂を落とす地獄の番人とでもいったところだろうか。

 亡霊たち一つ一つは力も持ちえない脆い者だが、これほどまでに数が集まるとまるで液体の様に動き出す。

 まるで沼。

 人の足をからめとり底に引きずり落とす沼である。

 亡霊たちにそんな気があるのかどうかは知らないが、沼が意志を持たないようにその気を無くても沈めてしまう。


「リタ! まだつかめないのか!?」

「ダメです! ナー君がどんどん離れて行ってます!」


 魂が亡霊の中を沈んだり出てきたりを繰り返している。

 どうにもじれったい。


「俺が引っ張り上げてくる! リタは亡霊の姿が見えるように祈り続けろ!」

「わ、分かったです!」


 俺は沼の中に躊躇なく飛び込んだ。

 自分の体の中を魂が通り抜ける感覚。拒んだところでどうにもならない。自分の意志をかき乱す。

 まさか自分の意志でここの中に飛び込むことになるとは思わなかった。

 自分の腕や足を掴み、亡霊が自分に縋り付く。

 あの時は完全な精神体だったから亡霊にあらがう事は出来なかったが、今回は現実とつながったまま精神になっている。

 俺は拳圧ですがりつく亡霊を吹き飛ばした。

 周りを亡霊に取り囲まれ、すべてを振り払うことが出来なくなってしまった。


「大人しくッ......しろッ!!」


 裏拳、回し蹴りから後ろ回し蹴りを繰り出し、周囲の亡霊を叩きつける。

 だがキリがない。

 これが亡霊の力、生きる事への執着と言うのだろうか。

 上を見るとリタが亡霊に見え隠れしている。これが亡霊の視線なのかもしれない。

 もしかしたら、あそこに縋り付けばひょっとすると。そういう希望が見え隠れしているのかもしれない。

 だから足掻く。

 死んでまでこんなにも足掻いている。


「何て執着心なんだ......!」


 俺は亡霊を振り払った。

 俺がここにいる間に亡霊たちは山を築き、リタをつかみ取ろうとしていた。

 こんなただの亡霊に、俺は道を阻まれ続けるのか?

 大切なものを守るどころか自分の体まで吸い込まれて、この巨大な流れに二度も負けてしまうのか?

 このままでは俺もリタも飲み込まれてしまう。

 また俺の未熟さのせいで。


「こんな奴らにッ!」


 俺は連続で握り拳を亡霊に叩きつける。

 速く、強く、近づく間を一切与えないほどに微塵も隙を与えない。

 足場が安定しなかろうが鬼化が発動しなかろうが関係ない。

 拳が効くなら全てを貫け。


「大切なモンまで奪われてッ!」


 拳圧で衝撃波が弾けて爆音を撒き散らしながら、亡霊を蹴散らす。

 衝撃波が周りの嘆きの声を全てかき消した。


「たまるかァァァァ!!!」


 怒号を飛ばしながら亡霊の壁を蹴り破る。

 一瞬だけ亡霊は少し怖気づいたように自分に触れるのを躊躇った。

 俺はその隙に目的の魂を引きずり出す。


「受け取れぇぇ!!」


 俺は魂を放り投げる。

 直線的に飛んだそれをリタは見事にキャッチした。


「ナイスパスですよ!」


 リタはさながらターミネーターのようにサムズアップしながら消えていった。

 程なくして俺の意識も何かに引っ張られるように戻っていく。

 俺は魔法陣から飛び起きた。


「何だ、夢だったのか」

「何言ってるですか」

「お決まりの文句」


 俺は精一杯のジョークで場を和ませようとしたが、リタはそういう状態ではなかったみたいだ。

 脂汗を滲ませながら、魔法陣を使って何か物体を作り上げようとしている。


「行きますよ、せーのっ!」


 強烈な爆音をあげて白煙が立ち込める。

 その物体の中で何か物陰が見えた。


「あれ......ボクは......?」


 そこに現れたのは一人の男だった。

蘇生魔法、成功したみたいですね。

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