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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
禁忌と魔王の第六章
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決戦準備

 俺は三日後までにウィズに稽古をつけることにした。

 ウィズは中々筋が良い。武道の心得さえあれば勝手に昇華させることも出来るだろう。

 この子に足りないのは基礎的な知識だ。体の動かす事は早くすることだけなら独学で鍛えられないこともないが、足の運び方や相手の動きを見るのは教わらないと中々出来ない。

 組み手を何度も行えば自然に上達するだろうか。


「もっと踏み込め! 届かんぞ!!」

「これ以上踏み込むって、股が裂けちゃうよ!?」

「足運びを工夫するんだ! すり足で相手に気づかれないように間合いを縮めろ!!」


 武道なんてものは一人で作り上げるものではない。それに一生をささげたような人たちが何人も何人も受け継いで完成させようと頑張っているのだ。

 それを自分の肉体に会うような形に未調整するのにさらに時間がかかる。人間の一生でたどり着けるものではないのは明白だ。

 だから基本を教えてやらなければいけない。

 彼女には動き方の心得はあるようだから、あとは考え方の練習だ。相手の動きに自分の間合いを合わせることが出来れば、相手の間合いを的確に見定めることが出来る。それは人間相手に限らない。

 魔獣との戦闘となれば必ず彼女もついてくるだろう。俺にはそれを止められる自信はない。だからせめてその時が来る前に、自分の身は自分で守れるぐらいの強さを身につけなければならない。


「もっと力を上手く使え! 自分の軌道全てに円を意識するんだ! 小さな力を上手く使うためには力で勝負しないことが大事だ!」

「そんなこと言われても分かんないよ!」

「それでいい! いつも頭の隅に置いておくだけで良いんだ!」


 いつか体で理解できる日が来る。

 円とは全ての力の動きに関係するものだ。体には重心があり、重心を動かすのは難しい。それを滑らかに動かし、筋肉に頼らず素早く体を動かすためには重心を中心として円の動きをすることが必要だ。

 筋肉に頼る武道はいくつかある。筋肉で相手の攻撃を耐え力で相手をなぎ倒すやり方もあることにはある。

 しかもこの世界には上限はない。人間に限界が無いのだ。鍛えれば鍛えるほど強くなれる。

 だがそれには少し時間が必要だし、俺みたいに召喚者として成長スピードを増幅されていなければ気づかないこともある。魔獣に筋力で対抗するには3日間はあまりにも短すぎる。

 だから俺が教えるのは筋力に頼るものではなく足運びや相手の重心を操るものにしなければならない。受け止めるより受け流す。立ち向かうより翻弄する戦い方だ。


「相手の動きをしっかりと見ろ!」

「見てるよ!」

「じゃあ、俺の次の動きをイメージしろ! これまでの俺の動きから次の動きをイメージするんだ!」


 ウィズの動きが少し止まった。

 それからまた動き出すと少しだけウィズの動きが良くなっていた。俺はそれを受けて少し移動のレベルを上げる。ウィズはそれに少しずつ対応できるようになっていた。

 動きながらよく考えている。慣れないながらに良い動きだ。

 そう思った瞬間に自分の武道家としての血が沸き立つのを感じた。

 俺も武道家なんだな。

 こっちの世界に来てから久しぶりにそう感じた。


 ------------------


 ウィズとの訓練が終わり家に帰ると温かい食事が待っていた。


「今日は呼ばなくても帰ってきたのね」

「まぁ、たまにはそういうときもあっていいんじゃないかと」

「僕、もうへとへとだよ......」


 本当のことを言うと、ウィズがもう少し動けそうであればまだ続けるつもりだったのだ。

 慣れない動きはかなり労力を使う。


「はい、お昼ご飯。あんまりウィズをこき使っちゃダメよ」

「分かっている。それよりその格好はなんだ?」

「ああ、これ?」


 ティファが着ていたのは白と黒を基調としたメイド服だ。ところどころにフリルがあしらってある。こんな荒廃した世界観に見合わない代物だ。ティファの荷物の中には入っていなかったと思うのだが......


「ここのギルドの受付嬢としてこれを着て働いているの。前任の人のおさがりで、ギルド長がこれを着て働きなさいって」

「......ギルド長ぶんなぐってくる」

「別に良いじゃない。可愛くて私は好きよ」

「なら良いんだが......」


 あのヘラヘラとした笑みが脳裏に浮かぶ。もしも俺のせいでいやいや着せられているのであれば、俺が何とかしないわけにはいかないと思ったが、ティファが満足していたのならまぁ許せないこともない。

 確かに可愛いことは認める。

 オスカーでやっていたころは作業着のような服だったから、こういう服はむしろお洒落着のような感じがする。ティファだって俺よりも年下の女の子だ。お洒落だってしたいときもあるだろう。


「良く似合っていると思う」

「ありがとう。もうちょっと具体的に言えたら100点満点ね」

「善処する」


 もうちょっとで決戦しようと思っているにも関わらず、その時ばかりは和やかな気持ちになった。


 ------------------


 次の日、俺は訓練に出かけようとしてギルド長を見かけた。

 ギルド長は裏路地のところに入っていくので気配を極力消して尾行する。何だか良く分からないが直感的に尾行したくなったのだ。

 そこにはフードの被った男が居た。茶色の薄汚いフードである。

 ギルド長はそれと話しているようだった。

 俺は話しかけようかと思ったが、不自然な寒気に襲われて後ろを振り返る。


「......またお前か。俺を尾行でもしているのか?」

「そんな面倒なことはしないよ。君がどこに居ても僕は君に会いに来ることが出来る。なんてったって神様だからね」


 神様を名乗る少年だった。

 俺はギルド長の方を見る。彼らの動きは止まっていた。周りの物全てが止まっているようだった。

 まただ。


「失せろ」

「酷いなあ。僕は直接君に何かをした覚えはないよ」

「ティファに触れた。明確な敵意を見せた。それだけだとしてもお前を敵視する理由としては十分だ」


 少年が顔に笑顔を貼り付けたままその言葉を聞き流している。


「君、魔獣討伐をしようとしているみたいだね」

「そうだ」

「それは難しいと思うよ」


 少年は眉一つ動かさずそう言った。

 俺は前にもそんなことを言われたことがあった。フェンリル王と戦った時だった。


「お前は俺がフェンリル王と戦った時、俺に勝てないと言った。お前の予想ぐらい覆してやる」

「だから君に不可能って言葉は言わないことにしたんだ。でも一つだけ良いことを伝えておいてあげるよ」


 俺は意味深なその言葉に耳を傾ける。少年はもったいぶったようにニコニコと笑いながら俺の周囲を歩いている。


「早く言え!」

「......ガイノウトは生きている。ここまで来るのにかなりの時間がかかったが、ほとんど完全回復した。封印も問題なく通過している」

「なん......だと......?」


 俺は絶句した。少年がニヤリと笑った。


「期待しているよ? 英雄モドキ」


 それだけ言うとフッと消えてしまった。俺の中に焦りが生まれた。

 心臓の鼓動に合わせて少しずつ大きくなってくるのが分かる。

 俺はその言葉を頭に入れて、ゆっくりと口を動かし、飲み込むように上を向いた。


 --------------------


 3日目の朝が来た。

 随分と早い時間帯に目が覚めてしまった。ベッドから降りた瞬間の事だった。

 とても大きい破裂音が壁の方から聞こえた。


 俺は戸惑うことなく卓男の部屋に向かった。

 そこには椅子に腰かけて寝る卓男がいた。その横に短剣が五本とかなり大きい剣が置いてあった。

 大きい剣は黒い刀身で赤い一本線が中心に入っていた。


『これは魔石の結晶で田熊氏が持ち帰ったロングソードをコーティングした大剣でござる。空間断絶の効果を残したままマナの無い田熊氏でも扱えるようにしたのでござる。名前はディメンションカットマイトフレームロングソードⅯk(マーク).2でござるよ!』

「まぁロングソードより長いからロングロングソードってところだろ。」


 俺は傍らに置いてあったメモを読んでロングロングソードを持ち上げた。自分の身長より長い剣だ。2m以上の剣なので重いのだろうとは思っていたがまさかここまでとは思わなかった。俺じゃなかったら持ち上げる事すら出来ないだろう。まさに俺専用の剣である。


「ありがとう卓男」


 それだけ言うと俺は急いで外に出た。


「やっぱり出てきていたか」

「アレぐらいなら気づくでしょ」


 玄関でウィズと鉢合わせになった。

 俺はウィズに短剣を手渡す。扱いやすそうに振るのを見てやはり卓男は流石だなと思っていた。


「覚悟は出来たか?」

「そっちこそ」


 俺は煙が立ち込める壁外を見据えて気を引き締めていた。

 あの向こうがどうなっているかは分からない。でも行くしかないのだ。


「行こう。未来を守ろう」

準備やらなにやらを済ませた田熊はいざ戦場へ!

神様は例のごとく出てきて忠告していきました。一章に一回ぐらいは出てるんじゃないの?

守りたいもの全てを守るため、戦え田熊!!

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