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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
禁忌と魔王の第六章
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変革

ウィズは透明な壁に阻まれているにも関わらず、自分だけは中に入れる。その事実が自分の頭の中で理解できた時、顔が真っ青に染まる。


「君、一体何者なんだい?」

「俺にも分からん。だが信じてくれ。俺は魔獣たちの仲間なんかじゃない」

「そんなんじゃ信じられない」


なぜ自分がその中に入ることが出来るのかは分からない。そもそも入れる条件が分かっていないのだ。

だが普通の人が入れずに俺が入れると分かった以上、俺と普通の人には何らかの違いがあるに違いない。

その違いが善良なものであるとは考えにくいだろう。


「これはもう戦って納得させてもらうしかないね。うん。そうしないと納得なんてできないよ」

「どうしてそうなる」

「元々、宿を教えたら戦うことになってたんだ。遅かれ早かれだよ」


そんなことをしても納得なんかいかないだろうに。まるで子供のワガママを聞いているようだった。

ウィズが掌をこちらに向けるのを見て舌打ちを打つ。


ウィズから魔法弾が発射されるのを見て、体を捻って素早く避ける。

魔法弾の無造作な連弾を鬼化させた手で払い退ける。やや粗い攻撃だ。相手の避け方などが考慮されていない。彼女はこの方法で攻撃することに慣れていないらしい。

というのも短剣は折ってしまったので、彼女にはこれ以外の攻撃手段が無いのだ。それでも向かってくる意志に一種の狂気を感じた。相手は負けてしまう事も分かっているはずなのに。


「負けたまんまじゃムカつくんだよね!」

「今はそれどころじゃないだろう!」


マナが切れてしまったのか、今度は素手で殴りかかって来る。

徒手格闘なら絶対に負けない。これだけは自信を持って言える。


ウィズの目は確実に狂気に染まっていた。戦闘狂だ。

でも彼女がなぜそこまでして俺に向かってくるのか分からない訳ではなかった。

ウィズの欲求はただ単に強くありたいと思う欲求から来るものだ。それは俺が一番良く分かる。

俺は誰よりも強くなりたかった。実際、そうなれるように努力もした。それと色々な偶然も合わさって今の俺がある。

負けたままでは居られない。負けたという思いがどれほど自分の心を蝕むか、その思いを俺は絶望と共に思い知った。


彼女の思いは少し歪んだ形かもしれない。俺も一歩間違えばそうなっていたかもしれない。色々な人に治して貰った。

ウィズの気持ちは痛いほどよく分かるのだ。


でも。

いや、だからこそ。

俺はお前に負けてやることはできない。


相手の右ストレートを受け流し、流れるように間合いの中に入る。

ウィズはその危ない状況に臆することなく重心を動かしながら、ストレートを打ち込んだ手で裏拳を振り抜いた。

顎を見事に捉えたかに見えた裏拳は、田熊の左手の手刀に難なく阻まれた。田熊は手刀した手でそのまま相手の腕を掴み関節技をかける。


ウィズの体はなすすべなく地面に崩れ落ちた。


「クソッ! これじゃあいつまでも勝てないじゃないか!」

「お前はなぜそこまで戦おうとするんだ」

「僕にはそれしかないからだ!」


勢いよくそう言って地面に唾が散っていた。


「僕にはそういう生き方しかない! この国で生きるためにはそうするしかないんだ! 何をするにも誰よりも強くなきゃいけないんだ!」


叫ぶ彼女の後頭部を見ながら俺は度肝を抜かれたようにハッとする。

こんな少女がその生き方しか無いと言っている。

男の子みたいに髪を短くして、飾り気もない服を着て、魔獣と戦い、それで生計を立てている。

彼女にとってはそれが普通で、それが自分の生きる意味だった。

そういう人間もいる。それは分かるし相手の価値観を頭ごなしに否定したいわけじゃない。

でも俺には俺の価値観がある。

女の子がそうするのは少し間違っていると思った。少なくともその生き方しか無い訳では無いことを知って欲しかった。


「じゃあお前がそうしなくて良くなったらどうする」

「え......それは......」


俺は全てを変えられる訳では無い。王国が無くなってしまったからと言って力が至上主義の社会はそう簡単に変わるものでは無いだろう。

でも何も変えられない訳では無い。


「俺がこの状況を変えてやる」


少女はあんぐりと口を開けていた。


「ひとまず帰ろう。状況整理だ」


俺は状況に頭が追いつかないウィズを抱えあげて空躍した。


--------------------


「へぇー、田熊だけ通れたの。不思議ねー」


そう言いながらティファがコーシーを啜る。


「お前は呑気だな」

「私が驚いてもどうしようもないでしょうが」

「ホラー映画とか見てもそんな事言いながら意気揚々としていそうだな」

「ヤト爺は苦手だったらしいわよ。私は知らないけど」

「意外だ......」


まさかヤト爺にそんな弱点があったとは......

それはそれとして、状況整理だけは済ませておかなくてはならない。


「まあ話を聞く限り、田熊に特殊なところがあると考えた方が良さそうね。鬼化の異能が原因ではないかしら」


ベルモットがあっけらかんとそう言った。


「拙者は田熊氏にマナが無いからではないかと」

「何故そうなる?」

「それが分かったら苦労はしてないでござるよ。田熊氏もそれが分かっていて聞いたでござるね?」


要はこの情報だけではよく分からないのだった。

だがどうであれすることは変わらない。


「俺は外に居る魔獣を全部倒すことにした」


その場の空気が凍りつく。予想もつかない言葉に一同が絶句する。

ティファが大きくため息を吐いた。


「何か理由があるのね?」

「ああ。この街の状況を変化させるためだ」

「なら頑張って」


ティファがため息を吐きながら諦めたようにそう言った。

素直にそんなことを言って貰えるとは思わなかった。


「ああ、頑張る」


俺はその言葉を言い放ち、卓男の方を向いた。

卓男が嫌そうな目をして俺の事を見ている。


「卓男、何か強そうな武器を作ってくれないか?」

「まぁ、構想はあるでござる」


卓男の目がキラリと光った。これは何か確信めいたものがある顔だ。


「何日で済ませられる?」

「何日で済ませて欲しいでござるか」

「三日だ。ウィズの短剣も頼めるか?」


卓男が顔を歪ませながら俺の言葉を聞いている。


「田熊氏がそれを望んでいるならそうするでござる。ブラック企業も舌を巻くスケジュールでござるよ!」

「すまない」

「鍛冶師魂にかけて最高の逸品を作り上げるでござるよ!」


卓男はそう言うと鼻歌混じりに部屋を出ていった。


「作戦の決行は三日後だ。万全を期して挑む」

ウィズの将来を変えるため、田熊はこの状況を覆すことが出来るのでしょうか!?

次回はちょっとした準備......だけで済むと良いのですが。

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