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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
自戒と不倒の第五章
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融合

 目の前の瓦礫の怪物を見つめながら、俺は勝ち筋を考える。

 ことごとく潰されていく勝ち筋を見つめながら、また新しい勝ち筋を思いつく。

 勝ち筋が勝ち筋ではないことに気づいた。

 相手の攻撃は避けられなくはない。でも決定的な一打は入らない。俺の体はどんどん疲労していく。それ以上に心も疲労しきっていた。このままでは倒すことが出来ない。

 何時間も拮抗したままの勝負が続いていた。相手には疲労している様子が全くと言って良いほどない。ならばこれは拮抗ではない。俺は確実に押されていた。


 途中から分かっていたような気がする。これは俺の力が足りないのだと。純粋なパワーで負けている。加護の力が違いすぎる。あの神様を名乗る少年がほくそ笑んでいる気がした。

 あの少年は俺に言った。ここから先に進めばお前は死ぬと。その通りになるかもしれないと思ってしまった。結局アイツの思うつぼだったという訳だ。


 瓦礫の破片が俺の体を貫いた。俺は怪物の攻撃を避けながら傷を治す。まるで千手観音の様に石壁の手を生やし、それでいて禍々しさを覚えるフォルムをしていた。

 腕一本ぐらいならどうにかして落とすことも出来るかもしれない。だからって何になる。俺はこの赤目の部分を攻撃されたら終わり。相手も本体はどこかにあるのだろうがそれをこの中から探すのは不可能だ。

 こんなに簡単に『不可能』と言ってしまうのは諦めが早いのではないかと自分でも思ってしまう。でも自分の武道家としての精神は異様なほど冷静だった。その冷静な判断として下した結論が『不可能』という一言に集結していた。


 心がまた折れそうになった。


『オ前、マタ、諦メルノカ?』

「諦めてはいないだろ。」


 自分の中から響いてくる声にヤケクソのようにそう言った。


『ソンナ、オ前ニ、コノ能力ヲ、使ウ、権利ハ、無イ。』


 腕が自分の意図を超えて動いた。近くの瓦礫を無理やりに殴り飛ばし、勝手に相手の方に向かっていく。相手の無数の攻撃を身に受けながら傷も気にせず前に向かっていく。


『オ前ニ、使エナイナラ、オ前ニ、任セル、必要ハ、無イ!』

「そう......か。」


 何だかそれでも良いと思ってしまった。

 俺の力では勝てない。でもあの時、ヤト爺さえも殺してしまったコイツなら倒せるかもしれない。俺には無理だ。もう無理だ。

 もうどうにでもなってしまえ。

 そう思った瞬間に指輪がひび割れた。入ったヒビの部分からドロドロとおぞましい液体が流れ出す。それは俺の体から出ていた黒い液体だった。その液体が俺の体を取り囲み、自分の体を侵食していく。


 俺の能力は自分の体を侵食し、侵食した部分を強化する能力。侵食は肉体だけに限らず心にも及ぶ。

 始めは『鬼化の能力』という名の何かが俺の心の中に住んでいて、それが俺が能力を使うのを阻んでいるのだと思った。

 次に俺は、その心は自分のものだと気づいた。ただ勝ちたいという欲望。欲求。戦いを求める本能。俺の中の願望。それらを一緒くたにして丸めたものだと気づいた。そしてそれに身を任せてはならないことを学んだ。

 さらに俺は、それが危険なモノだと忌避するようになった。それに支配されれば自分ではない何かになってしまうと分かってしまったからだ。

 そして今、俺はそれに身を任せてしまった。自分の心が折れたから誰かにその役目を押し付けてしまいたいと思ったからだった。そうしたら楽になれると思ったからだ。


 残ったのは後悔でも自暴自棄な気持ちでも無かった。

 そこに残ったのは自分のことを少し遠くから俯瞰する自分だった。

 俺の中の鬼に身を任せた自分は倒すべき相手の方に一直線に向かっていた。


「コロス! コロス! 勝ツ!!」


 それは欲望だし、自分の忌避するべきものと何も変わってはいなかったが、今なら分かることがある。

 俺もコイツも同じ方向を向いている。


 鬼化した自分は大きく拳を振り上げていた。そこには殺意だけが纏われていた。一直線な眼光は標的しかとらえていない。

 もう少しで相手の体に打撃が当たるかと思われた瞬間、横から大きな衝撃がやってきた。体はいとも簡単に吹き飛ばされて地面に肢体を転がしている。立ち上がろうとした瞬間に無数の拳が降り注ぐ。


「どうだった。」


 気が付くと俺達は二人とも果ての無い世界の中にいた。俺の心の中の世界だ。


『ウルセエ! コロス! コロス!!』


 目の前の自分は勝ちの事しか見えていないようだった。かつての自分だった。勝ちに固執していた自分の姿だった。

 最初に自分と向き合った時はこの自分が醜いと感じてしまっていた。欲望に支配されてしまえばこんなにも獣のような物に成り下がってしまうのかと思った。


『俺ハ、アイツヲ、ブッ倒シテ、勝ツ!!』

「そうだな。俺も勝ちたい。」

『ナラ、何デ、オ前ハ、諦メタ!? 戦ウコトヲ、諦メタ、オ前ガ、口ヲ、出スナ!!』


 それは正しいと思った。どうしようもなく正しい意見で反論の余地などみじんもない。


「俺は心が弱い。だから諦めそうになった。実際一度諦めてしまった。何もかもをお前に押し付けてしまったんだ。だからお前のその心を俺に貸してほしい。」

『......』

「いや、ちょっと違う。お前は俺だ。だから俺はお前を受け入れる。」


 向き合っている自分は牙を向きながら俺に反発していた。


『俺ヲ、従エルツモリカ!?』

「そうじゃない。......いや、そうだな。俺はお前を使う。お前は俺の能力だ。俺の能力で、俺のどうしようもない本能で、今の俺に足りないものだ。だからお前の力を俺の物にしてあの豚野郎をブチのめす。お前が諦めない限り俺も諦めない。一緒に戦ってくれ。」

『......』


 目の前の俺はその言葉には何も答えなかった。だが俺が握手をしようと伸ばした手を力いっぱいにパァンとはたいた。

 ヒリヒリとした痛みに目を瞑り、その目を開いた時には既にもう一人の俺の姿は消えてなくなっていた。


 瓦礫の山を押しのけて、散らばった黒い液体を体の中に飲み込むように取り込んでいく。


「確かに受け取った。」


 俺は何かを掴むように拳を握りしめる。降り注ぐ拳を瞬時に鬼化させた拳で殴り返す。相手の拳が弾かれて空高くに振り上げられた。地面は拳の反動で深くめり込んでいた。


「これで終わりにする。」

ついにVSフェンリル王も終盤へと近づいてまいりました!

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