門番
「こうやって改めて見るとやっぱり大きいよな。」
「王城だから大きいのは当然でしょう? それに私は見慣れてるしそんなに驚くことでもないわね。そんなに見上げてるとお上りさんみたいに見られるわよ。」
「お上りさんなんだから良いだろう。別に、」
目の前に見えるのは天を突くような摩天楼の城だった。
ただの石材で出来ているとは思えない。きっと地動石で作られているのだろう。ところどころに装飾が施されている。遠目から見ても豪奢だった城は近くから見ても細部まで作り込まれていて、力の象徴と化していた。
「これがフェンリル国なんだな。」
「そうね。これがフェンリル国よ。」
「あのー、なんか浸ってるとこ申し訳ないんですが、門番さん近づいて来てるですよ?」
「分かってる。」
門番が歩きながら近づいてきている。何事かと言った顔だ。俺が何者なのかにはまだ気が付いていないみたいだ。目に巨大な隈を蓄えた卓男がここに来る前に渡してくれたフードのおかげだろうか。
フードにはビニールのようなものがかぶせてあり顔を丸々覆い隠している。視界は少しぼやけてしまっている。普通のビニールよりは厚みがある。
認識阻害が入っているとかなんとか、でも魔法は利用していないようである。光の屈折がどうのこうのと言っていたが詳しくはさっぱりわからない。こちらからも少し相手の影がぼやけて見えるが、相手からもぼやけているということだろうか。
あともう一つ貰い受けたものがあるがその効果は後で試すとしよう。
「誰ですか。数日間は王城の見学を禁止していたはずですが。王からは誰も通すなと命じられております。」
「あー、そう......ですか。」
ガタイのいい男はそう言うと俺の帰りを顎で促した。もちろんガタイが良いと言っても俺ほどではない、と言いたいところだが俺と同じ、もしくは俺よりも大きい体かもしれない。おそらく魔法の類いで強化しているのだろう。そんな小細工もせず俺よりもガタイが良いというのはあり得ない。信じたくない。
ともあれその言葉に応じる訳にはいかない。だが上手い返しが思いつくわけでも無く、そのまま立ち尽くしていた。
「とりあえずその被り物を脱いでくれますか?」
門番が俺のフードに手をかける。俺はあまり意識せずにその手を払いのけた。門番が不審げに俺を見つめる。まずいと思ったが今更もう遅い。
門番が槍に手をかける。自分の体以上の大きさのある槍だ。
「今すぐこの場から退出してください。そうでなければあなたを拘束することになります。」
何だか罪もない人間を痛めつけるのは気が引けるがここまで来てそんな甘ったれたことは言っていられない。
せめて誠意は見せたい。俺は自分でフードを脱ぎ捨てた。卓男には申し訳ないがどうせ王城に入れば不審者扱いされるのだしここに来るまでに役目は終えたと思うべきだろう。
「なっ......お前は!」
「あぁ、俺がお前達の探している人間だ。ここにある地動石を奪いに来た。」
「不審者を発見しました。直ちにしかるべき措置を取らせていただきます。」
門番が素早い動きで槍を取り出して構えを取るよりも前に鋭い足刀蹴りを腹に打ち込む。
鳩尾に蹴りが入り、鉄製の装甲靴が線上に土をかき分ける。それでも踏ん張っているのか土に膝は付いていない。やはり王国の門番をするような人間はこんな不意打ちでは倒れてくれないのだろう。
「下がれ。ベルモット、リタ。そういう約束だ。絶対に攻撃を届かせないようにする。だから無理だけはするな。」
「分かったわ。」
「あっ、その前に身体強化を少しかけておくのです。」
「ありがとう。」
体から力がみなぎってくる。鬼化を使った時とは少し違う感じだ。鬼化を使うと体の臓器が焼け落ちるように熱くなるが、これはほんのり温かくてまるで干したばかりの毛布にくるまれているように心地よかった。
鬼化は出来れば使うべきではないのだ。
アレを使うと鉛筆をカッターで削るように着実に命が無くなっていくのが分かるのだ。
門番が体勢を立て直し、槍を改めて構え直す。ティファの腕よりも太いような持ち手に手を駆けながら筋骨隆々な体を躍動させこちらに突撃してくる。
後ろにはベルモットたちが居る。決して後ろに通すわけにはいかない。
俺はいつもなら受け流している攻撃を蹴り上げて軌道をずらすと相手が槍を引くよりも前に槍に上段突きを鋭く打ち込んだ。槍は変形することは無かったが、門番の手から離れそうになる。
「クソッ!!」
「もう一発だ!!」
足を一歩引いて重心を押し上げながら右足を高く空へと伸ばす。重心を落としながら全体重をかかとに集中させる。槍に当たった瞬間に門番が槍を制動しようとする力と相まって、槍が地面にたたきつけられる。
バァンと乾いた音を打ち鳴らしながら槍が土の中にめり込む。
「こんなものでは俺は倒せないぞ。」
「宝具の槍が......王から授かった槍が。」
確かに槍は折れていなかった。俺の全力の攻撃を三回も受けたにも関わらず傷一つついていないのは驚きだが扱うものがその武器に見合っていない。
悪いがこんなところで負けるわけにはいかないのだ。
門番は槍を抜こうとしていたが土に埋まったものは中々抜けるものではない。だが門番は目に涙を溜めながら槍を抜こうとしていた。
俺はそんな門番を横目で見ながら門をくぐりぬけようとした。
「待てッ!」
「なぁ、門番。この門はお前がそこまでして守るべきものなのか?」
「も、もちろんだ。」
門番はきつく歯を食いしばりながらこちらを睨んでいる。さながら親の仇でも見ているかのようだ。
「お前が守っている者は誰だ。」
「フェンリル国王だ! 俺は代々フェンリル国王に仕える家系の末裔だ! 親が守ってきたものを俺は守り続ける! それが俺の使命だ!!」
「本当にそうか?」
門番が歯を噛み締めたまま俺を見つめていた。だが目線は敵意から疑惑に変わっていた。
「お前が何をしてきたのか。どういう思いでここに居るのか俺は知らん。だが、俺はあの王に微塵も人を引き付ける魅力は感じなかった。お前が仕えていたのはフェンリル国王かもしれないが、アウテグラル=フェンリルではない。そうじゃないか? だからお前が仕えている人間なんてものはこんなクソみたいな場所には居ない。そうだろう?」
門番はうなだれた。
俺はベルモットとリタを呼び寄せた。
途中、ベルモットがフードを取り立ち止まって静かにお辞儀をした。門番は涙で顔中を汚した。ベルモットが差し出したハンカチを大事そうに受け取り顔をその中に埋める。
俺達が門を抜けるまでこちらを見ることは無かった。
ついに田熊がフェンリル城内に入り込みました。
一体何が田熊を待ち受けているのでしょうか。




