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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
絶望と渇望の第一章
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模擬戦

「お願いします!」

「そう言われてもなぁ......」

「そこを何とか!」


 カシューさんは困った顔をして苦笑いした。さしずめこんなことを言われるとは予想もしていなかったのだろう。

「俺を試してくれ。」

 その言葉を言い出すのに紆余曲折あって一週間ほどかかってしまった。

 決心してからの三日間で少しだけ対策は立てたつもりだがそれが通用するかどうかわかったものではない。


「でも君、魔法使えないし......」

「隣で修業させていただくだけでも良いんです!何か得られるものがあればそれで良いんです!それに魔法が使えないから何もできないかどうか決めつけるのは早いと思います。試してからでも良いと思います。」

「試すかぁ......どうするかなぁ。」

「なんでもいいです!チャンスを下さい!」

「......少しだけだよ。」


 小さくガッツポーズをする。

 しかし、まだ何も好転したわけではない。本来の目的を果たす機会を与えられただけだった。今の俺でも何か出来るかどうかは分からない。でもやれるだけやってみよう。


 --------------------


「ここが訓練場。そして君の模擬戦の場所だよ。」


 予想以上に広いその会場は全長3kmであると書庫の本に書かれてあった。それだけの長さがないと魔法弾を使用した演習は出来ないらしい。とんでもない射程距離と速度があるのだろう。

 カシューさんがクラスメイトのところに行き二人連れてくる。


「そして君に戦ってもらうのは、この二人だよ。」

「何でこんな奴と俺が戦わなきゃいけねぇんだよ!」

「まぁ、いいじゃない。減るもんじゃないし、」


 そう言って紹介されたのは、金城と塩見(しおみ)優奈(ゆうな)だ。


「現時点でこの二人が一番強いんだよ。だから君がこの二人に勝てたら戦線に出してあげよう。二人は手加減は無しだからね。」

「ンな事言われなくてもわかってんだよ!」

「そもそも魔法すら使えない人と模擬戦で戦う自体が間違っているのだけれど......まぁいいわ。」


 金城は少し怒っていたが塩見は別に何とも思っていないようだった。塩見とは何かが言えるほど深い中ではないが、向こうに居た時からあまり自分の考えを話す方でも無かったように思う。

 塩見はしっかりとまとめられたおさげの黒髪を垂らしながら、細い黒のフレームの眼鏡をクイッと上げた。

 でもどうして二人なのだろう。


「どうして二人と同時なんですか?」

「あぁ。長距離戦の場合は索敵役と攻撃役の二人一組になるんだ。君の場合は戦闘に出たいんだからこれぐらいで戦ってもらわなければ困るんだ。」


 カシューさんがこちらを見て苦笑する。その時の目がわずかに光を失っていたように思った。

 ゾクりと何やら嫌な感じがする。


「じゃあスタート位置についてね。準備ができたら魔法器で合図してもらえばいいから。田熊くんは準備することは......ないよね?」

「無いです。そちらのタイミングで始めてください。」

「じゃあ、スタートはこの魔法器で音を出して合図するからそれに従って始めてください。それじゃあ各自位置について!」


「模擬戦の開始を宣言する!!」


 --------------------


 体が温まっていくのを感じる。

 集中しろ。一点に目を凝らせ。

 本に書いてあったことを頭に巡らせてどんな攻撃が来ても大丈夫なように心を落ち着かせる。


 遠くの方に小さく明るく輝くものが見える。

 アレが魔法弾か。ここからでは正確な大きさを判断することも出来ない。

 最初は間合いを自分の有利なところまで縮めるところから。

 足に力を入れて地面を――――


 次の瞬間、俺は横っ飛びしていた。

 頭に警報が鳴り響き危機感が全身を駆け巡った。そして他の思考を放棄し『ただ避ける事だけ』に専念する。

 数秒もしないうちに自分の真横を俺と同じほどの直径の火球が激烈な熱量を放ちながら過ぎ去っていく。

 遅れてやってきた衝撃。直接当たっても居ないのに風圧だけで吹き飛ばされてしまうような気がした。これが衝撃波なのか!?

 地面に靴をめり込ませて耐える。靴底が少しずつすり減っていくのが分かる。

 下手な理論や作戦、考えていること、そして恐怖さえも一度に吹き飛ばしてしまえるほどの圧倒的な火力。

 地面には深くえぐれた跡が残っていた。


「これが、魔法。」


 少し慣れた感覚。バケモノが目の前でも物怖じしないように息を整える。

 大丈夫。大丈夫。避けられる。

 実に3秒間の出来事だった。


 --------------------


 間合いを詰めるために懸命に走る。

 あちら側に居た時よりも少し速くなった。

 心を折られそうになった時でも長年の習慣は消えずに早起きしてトレーニングを怠らなかった。

 ここでは成長速度が違うのかもしれない。


 相手の手元が光る。

 来るッ!!

 反射神経と勘だけで避ける。

 一回でも避け損なえば致命傷は免れない。一瞬の判断の遅れが自分の体を死へと誘うことになる。

 相手の狙いは無慈悲に正確だ。

 だからこそ避けられる。

 タイミングを見測り射出されると同時に弾一つ分躱せば、余裕はなくても直撃は免れられる。


 間合いを詰めろ!

 もっと速く!


 そして――――

 入った、自分の間合いッ!

 拳が届く距離にあるという束の間の安堵と、避けるスペースのないことによる焦燥感。

 緊張感が訓練場を支配する。


 だが何かが違った。

 感じたことのないものを感じた。相手を純粋に殺してやるという殺気。悪意も私利私欲も含まれていない殺気。まるで殺意の塊をぶつけられているような感じだ。

 金城の顔には青筋が立っていた。

 この殺気はいかに模擬戦だろうが人に向けてはいけないものだ。

 人として超えてはならない一線があるとするならここだ。

 こんな短期間でこんなにも人は変われてしまうものなのか!?異常な環境、求められることの違い、戦う必要性。これらがそろえば人はここまで残酷になれるのか!?


 金城は分かっていない。

 その攻撃がどれだけの物を奪ってしまうか。手加減など一切無用の一撃が放たれる!!


焼却砲(ヘルフレイムブラスト)ォォォ!!!!」

 見たこともないような極太のレーザー砲が放たれる。

 避けきれない!!


「死ねェェェェ!!!」

「ぐおォォォォアアアアアア!!!!」


 皮膚が溶けだす痛み。直撃は免れたところでそんなことは意にも介さないような火力。肺に入った熱風が体の中から俺の体を焼き尽くす。火力に吹き飛ばされて地面を転がっていく。なされるがままだった。

 今にも溶け落ちてしまいそうな左腕を抑えながら声にならない叫び声を上げる。


「救急班!彼を医務室に連れて行ってくれるかな?」

「もちろんです。」


 視界の端にロアさんがうつる。

 そこからの記憶は途切れてしまった。

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