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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
師弟と打倒の第四章
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捕食

 こうなることは分かっていた。

 既に俺の体から拘束具は外れている。共闘する理由はもう無くなった。

 俺にはここに留まる理由はない。ましてやもう一度捕まってやる気もない。戦わずに逃げ出せば悪魔はきっと、俺の守るべきものをいち早く殺すだろう。

 悪魔は顔に三日月を浮かべてせせら笑う。最初は顔に張り付いていたように見えた笑いが今ははっきりと笑っているように見える。


「さァ、邪魔者は消えたァァ!!やりあおうぜェ!」

「......そうだな。」


 全身に力を入れる。

 全身の鬼化がゆっくりと自分の体を蝕んでいくのが分かった。既に鬼化が自分の力では戻れないところまで来ている。


『ヤット、俺ノ力ヲ、使ウ気ニ、ナッタミタイダナァ!』

「お前に使われてやる気はない。」

「何、一人でブツブツ言ってんだァ!?」

「お前には関係ない。」


 しかし、自分の意志で手足は動く。むしろ今までよりも軽い。まだ体まで乗っ取られたわけではないようだ。

 ヴェニスの口角が一際鋭く刻まれた。

 戦いの火蓋が切って落とされた。


「『光矢纏雷(ビビッドアロー)』!」


 言い切るよりも早く、俺の体が動き出した。脳から出された指令が一瞬のラグもなく体を動かす。連続で放たれた光る矢を放たれる方向を予測しながら避けていく。紙一重だが、されど紙一重。最小限の動きで避けられている証拠である。

 間違いない。俺はあの高速の矢の動きを完全に見切った!


「そォ簡単にはいかねェさ。俺もそれなりに強ェンだぜ!」


 声が聞こえたのは真後ろだった。

 脇腹を刺すような痛みが襲う。俺は少しずつ視線を下に落とした。黒い液体が俺の腹から漏れていく。体の芯まで黒い傷跡。ドクンと心臓が大きく唸った。

 危ない。一瞬意識が途切れそうになった。心臓からのそりのそりと顔をのぞかせたもう一人の俺が脳を食ってしまうような気がした。


「矢って言うのは飛ばすだけが使い方じャァねェからなァ。」

「クソッ!」


 俺は無駄のない動きで矢を叩き折り、後ろ回し蹴りでヴェニスの体を弾き飛ばす。傷跡は瞬時に繋がり、元の状態とまるで変わらないようになる。


「やっぱりバケモンだなァ、お前。イヒヒヒヒヒ!!」

「何が可笑しい。」

「俺は強ェヤツが好きなんだァ。トツカさんも、そしてお前も!!本気で殺したくなっちまうほどになァ!!」


 狂っている。だが俺の心のどこかで戦いたいという気持ちが喚き始めているのを感じていた。

 俺も少しずつ狂い始めている。

 早くこの戦闘を終わらせないと!!


「焦るなよ。楽しい時間は始まったばかりだろ。」


 ゾッとするような冷たい声。

 俺はその声に反応し、最小限の動きで相手の攻撃を躱すと、一気に体の重心を切り替えて相手の脇腹にフックを打ち込む。また、魔導障壁に弾かれた。万全の状態で突きを撃たせてくれない。

 その間も鬼化の能力が俺を蝕み続ける。意識が刈り取られていく感じがした。


 視界の端が光った。

 しまった。反応が遅れた。

 頭の中に住むモノに気を取られていた。だからこんな肝心な時に遅れを取った。しかも3度も。


「オラオラオラオラオラオォラァァァ!!!」


 矢が何度も背中に刺さる。

 背中から黒い液体が吹き出す。背骨のようなものが折れて、髄液が脊髄から流れ出している。見えないがそんな気がする。足元の感覚が急速になくなっていく。

 俺は倒れ込みながらヴェニスに裏拳を叩き込む。ヴェニスが離れた瞬間に背中の傷をふさぎ、鬼化で無理やり筋肉を繋げ骨を接ぐ。骨の横に小さい筋肉を生やし、まるで骨折した時の添え木の様に背骨を補助する。

 地面に倒れ込んで背中を打たないように後ろ受け身を取りながら、ヴェニスが飛ばされた方向に体を反転させる。


「イヒヒヒヒィィィハハァァ!!!!」


 ヴェニスはケタケタと笑いながら、地面に打ち付けられた衝撃を何でもないように享受する。むしろ喜んでいるようでもあった。

 自分が攻撃を受けているのはどうでも良いとでもいうのだろうか。それでも攻撃が与えられたことをそこまで喜べるというのか。


「オォイ......勝負に集中しろよォ......分かってんだぜェ、こっちは。お前が勝負に集中できていないことがよォ!」

「俺は集中している。」

「してねェじゃねェか!!見えてんだよォ。焦りが。何でそんなに焦ってんのか知ンねェケドなァ!!」


 また消えた!

 ヴェニスは光速に近いスピードで動いている。あの町の時の戦いで一度予測が出来たのに、相手が一ひねり加えてくるせいで今は攻撃の方向が読めない!攻撃の瞬間は実体化することが分かっているにも関わらず手が出せないのだ!

 人間の視界は他の草食動物や魚などと比べても非常に狭い。そんな狭い視界の中で音もない相手の姿を捉えるのはかなり難しい。押しのけられた空気の流れや相手の呼吸などからしか相手の姿を捉えることはできない。

 ましてや今は集中して耳を澄ませると頭の中の声が聞こえてくるのだ。

 マズイ。

 これは非常にマズイ。

 俺の中の経験と勘で出来たサイレンがうるさいぐらいに鳴り響く。

 体が動かない。電流を流されているのもあるし、鬼化の能力が首元まで回ったのもある。俺の頭から出た信号が首の下まで届かない!


「なら、もっと戦いに集中させてやるよォ!!いらねェことが考えられねェぐらいになァ!!」

「オオオォォォォ!!」


 頭上に自分を包み込む大きさの光の環が現れた。

 ゴッドスパークほどの大きさはないが、その分エネルギーが凝縮されている!マナを感じることが出来ない俺でもそれの熱量は感じることが出来る!!


「今日はもう祈ったから祈る必要はねェなァ!!行くぜェェェェェェ!!『晴天ノ霹靂(ファインブレイキング)』!!」


 柱状の光が天を貫いた。地面から何かが噴き出したのか、それとも何かが降り注いでいるのか。それすらも考えることが出来なかった。

 俺の首元まで来ていた鬼化の能力がじわじわと顔を覆う。

 意識が途切れ――


 プツン


『サァ、オレノバン――』


 鬼化が耳まで来た時に、黒い宝石がキラリと輝いた。

 何か膜のようなものが自分を瞬時に包み込む。

 その瞬間、脳味噌をぐちゃぐちゃにかき混ぜたように意識が混濁し、鬼化の中に居たもう一人の自分が俺の意識と混ざり合う。

 自分が何者なのか。自分の姿がどんなものだったか。そんなことも分からなくなって、鬼化の体が溶けだしてしまう。何が起きているのか分からない。

 自分を包む暗室の前に何かが見えた。

 それは人影のようだった。


 意識が混濁していたからだろうか。

 それともその人影がはっきりと見えたからだろうか。

 ここがどこなのかもはっきりとしていないのに、その中で俺はその人を見て涙した。


『ヤト爺。』

『おう、久しぶりじゃねぇか。馬鹿野郎。』

田熊がおかしなことになってしまいました!

鬼化の能力が途中で止められてしまったからでしょうか?どうなってしまうんでしょう?

そしてあのヤト爺が見えました。三途の川を渡ったなんてことはないはずなのですが......

とにかく次回もお楽しみに!

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