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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
師弟と打倒の第四章
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ドラゴン

「これ......一体何なんだ?」

「魔獣に決まってンだろォが!!しかも俺が呼び出される理由は一つしかねェ!普通の奴では相手にならねェってことだよォ!!」


 壁外に出てすぐにあの非常ベルの意味を知った。

 俺の目の前にはただ物ではない大きさの魔獣(バケモノ)が暴れ狂っていた。トカゲの図体に蝙蝠の羽を無理やりくっつけたような見た目だ。人間の何倍もある大きさの魔獣だ。もしかしたら壁よりも大きいかもしれない。全身は黒い鱗のようなもので覆われている。まるで鎧でも着ているようだ。全身黒色の地肌に赤い二本線が頭から尻尾に向けて一直線に伸びていた。

 まるで鬼化した時の俺みたいな見た目だ......と思ってしまうのはあの話を聞いた後だからか。

 とにかく間違いない。


「ドラゴンだ。」

「アレが大型魔獣だァ!!気ィ張れェェェェ!!!!」


 俺は咄嗟に構えを取り、ドラゴンのブレスを避ける。金城の炎よりも強い火力かもしれない。離れているにも関わらず肌を焼くような熱さを感じる。

 俺は瞬時に右腕に鬼化を宿す。

 鬼化の能力の痛みが気にならなくなっている自分が居る。それがものすごく危うい事の様に感じた。まるで自分ではない何かになることに躊躇が無くなっているような気がする。

 だが今はそれを気にしている場合ではない。


「テメェ!俺と戦った時よりもその黒い腕、デカくなってねェか!?」

「俺は成長する。俺は止まらない!」


 俺は空躍で跳び、ドラゴンの背中側に回る。これで攻撃は届か――


「グッ!」


 尻尾が俺の横っ腹を叩き殴る。俺は痛みを感じる暇もなく地面にたたきつけられた。

 アイツ、後ろにも目が付いているんじゃないのか!?なんだアイツは!?

 遅れてやってくる腹が裂けるような痛み、悶絶している暇もない。口から出る赤い血をペッと吐き出し内臓を自然治癒力で修復する。

 ドラゴンの尻尾が向かってくる。逃げたい気持ちをこらえながら、鬼化を宿した腕で尻尾に正拳突きを叩き込む。まるで金属と金属が触れ合ったような火花が散り尻尾の勢いが止まる。尻尾の鱗にはヒビが入っていた。

 だが芯まで攻撃は届いていない!


鬼化強化(ブースト・オン)!!」


 ここで追撃しないでいつ攻撃を叩き込む!?

 鬼化した腕が一気に引き締まるのが分かる。それと同時に俺の腕の熱量が上がった。体の芯から自分を焼くような熱さ。骨の中に溶岩を流し込んだような熱さだ。だが、この痛みを受け入れなければ相手は倒せない!!


「うぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!」


 肺の中に溜まっていた空気を一気に力に変えて、右腕で渾身の一撃を叩き入れる!鱗の中身を掴んだ!!左腕も鱗の中に入れて尻尾を抱え込む。

 俺は一気に左足を踏み込んだ。左足が鬼化して膨張すると同時に地中に深く沈み込む。体の固定は完了だ!


「だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「グルルルルォォォォォォォ!!!」


 尻尾を掴んだまま体を逸らす。尻尾の中の筋繊維がブチブチと千切れる音がする。

 ドラゴン相手にジャーマンスープレックスするのは初めてだが出来ないことは無い!!

 足が深く地中に沈み込み、ガッチリと固定されている。腕に力が入り、目が煌々と赤く輝く。

 ドラゴンの尻尾が完全に千切れ放物線を描きながら後方に飛んで行く。俺は素早く足を引き抜き、空躍で避難した。


「やるじゃねェか!!」

「これぐらいなら俺にも出来る。」

「良いねェ!強ェヤツは好きだぜェ!!!」


 ヴェニスが掌を掲げる。あの構えは前にも見たことがある。

 俺はヴェニスの攻撃を当てやすくするためにあえてドラゴンの注意を引き、出来る限りヴェニスとすれすれまで近づける。


「上出来だァ!!」

「当たり前だろうが!」


 俺は一気にドラゴンから離れた。ビリビリと感じるヴェニスの殺気。来るッ!!


「我がヴェニスの名において奇跡を賜る。神よ、我が身に力を宿したまえ。されば我は神敵を討つ者とならん。『神雷激震(ゴッドスパーク)』!!」


 辺り一帯が黄金色に包まれた。焼き切るような熱量だ。前に街で使っていたモノよりも遥かにデカい!!あれでも余計な被害を出さないために威力を抑えていたのだろう。

 遅れてやってくる雷鳴が鼓膜を叩く。耳を抑えていてこれなのだから抑えていなければ鼓膜が破れていただろう。強すぎる音圧を感じた。

 雷が砂埃を巻き上げる。魔獣の体が焼ける黒い煙と混じって焦げ茶色の煙幕がドラゴンを覆った。


「当たったァァ!!」

「いや、気配が消えない。」


 確かに当たった。ダメージも入っているだろう。

 だが――


「マジかよォ......」


 ドラゴンは咆哮を上げ土煙を振り払うと、何事もなかったかの様に立ち上がり猛り狂う。

 体中が黒いので鱗や中身が焦げているのかどうかも分からない。外見的にはノーダメージ。


「尻尾が治りかけている......」


 あれだけ命がけで千切った尻尾が少しずつ元の形を取り戻していく。トカゲの尻尾が治るのはそんなに早くはないんだぞ!?


「魔獣は体の中にある魔石が核になってる。だからソイツを壊すか取り出さない限り、実質的には魔獣は死なねェ。実際には魔石が壊れなくてもダメージの蓄積で死ぬ場合があるが、こういう場合はそんな死に方は望めねェ。オマケに俺の魔法とあの魔獣の相性がワリィ。」

「魔石を壊すしかないんだな。」

「簡単に言ってくれるじゃねェか。イヒヒヒヒヒヒ!」


 気持ちの悪い笑い方だ。何故笑っているのか分からない。

 俺は拳を握りなおした。ブーストした腕が震えている。筋肉疲労だろうか。だが今震えてしまっては話にならない。

 中途半端なダメージでは話にならない。


「敵を引き付けろ。」

「人使いの荒ェヤツだぜ!」


 俺の能力は戦うためにある。何かを守るためにある。

 俺にはこの能力を止めてくれる人がいる。俺は一人で戦っているわけではない。

 俺はイヤリングに触れ、ズボンを握った。そして握り拳で胸を叩いた。

 ここから先は俺の限界を超える。

 どうなるか分からない。自我が保てていれば良い方だ。

 周りに居る全ての人間を守るためにこの能力を使う。


「引き付けて来てやったぞ!!!」

「ああ、すまない。」


 俺は左腕と右足に力を入れた。体中に身を焼くような熱さが走り、俺の精神を焦がす。

 だがこんなことで俺の心は折れない。色々な人に支えてもらって、色々な物を支えている。俺にはその譲れない矜持がある。

 向かってくるドラゴンはこちらに視線を移した。呼吸とともにドラゴンの喉奥から光が覗く。

 俺は一瞬で相手の懐に忍び込む。足と足の間。ちょうど敵の中央だ。


「食らえ!」


 左腕のアッパーで相手の鱗を叩き割る。黒い皮膚が覗いていた。

 俺は間髪入れずに相手の硬い皮膚に掌底を当てる。

 両足に力を入れ全身のバネの力を全て右腕に集中させる。目がルビーの様に一際強く光り輝いた。

 俺の掌底は全てを貫く!!


「魔拳滅殺!!!」


 相手の体を衝撃が走った。一点を貫く衝撃が相手の体をかき分けるように突き進む。


「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉらァ!!!!」


 足が地中にめり込み、天を突くような攻撃が魔獣を貫いた。

 魔獣の肉体が煙の様になり、少しずつ消えていく。

 中から覗いた魔石に空中で亀裂が入った。真っ二つに割れて人間と同じようなサイズの魔石が地面にめり込んだ。


「イヒヒヒヒィィィハハハハハハハァァァァァァァ!!!」


 後方で悪魔の笑い声が聞こえる。

 頭の中でもう一人の俺が語り掛ける。


「さァ、邪魔者は消えたァァ!!やりあおうぜェ!」

「......そうだな。」


 俺は三日月を浮かべた悪魔と向き合った。

遅かれ早かれヴェニスとは戦う運命でした。ましてや指名手配で食い止めなければならない立場という名目もあります。

二人の戦いが始まります。

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