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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
師弟と打倒の第四章
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魔獣

 朝食を食べている最中にミッドは気になることを言い始めた。


「おじさん。食べ終わったら魔獣狩りに行ってみない?」

「魔獣狩り?」

「そう。」


 ミッドはそういうとパンを一つ口の中に放り込んで一気に牛乳で流し込んだ。俺の倍ぐらいのスピードで食べているような気がする。妹のメルも見かけによらず結構食べるのが早い。

 多分、周りの環境がそうさせたんだろう。早く食べなければ他人に取られてしまう。それが当たり前なのかもしれない。この国にはあまり長く住みたくはないなと思った。

 今日の俺の予定はヴェニスの館に行こうと思っていたが、神様と名乗る少年に心をくじかれたので一日修行しようと考えていた。どうせ修行をするのであれば、その魔獣狩りというものに行ってみたい気持ちはある。

 だが――


「無理だ。俺ではまだ力不足だろう。」

「えー、そんなことないよ。おじさんなら十分魔獣とも戦えるよ。」


 多分、戦えるのだろう。だが俺にはまだ足りない。その足りないものを埋め合わせる方が先決だ。魔獣狩りなんてことに精を出している時ではない。


「良いじゃない。行ってきなさいよ。」

「ティファ......」

「どうせこんなところで一人で体動かしてたってどうにもならないわよ。それに魔獣狩りってお金になるんでしょ?」

「あっ、はい。なります。昨日見せた魔石は結構高く売れますから。仕事は命がけですけど。」

「なら行かない手はないじゃない!タダ飯を食べさせるような余裕はないのよ。」


 結局、それが理由か。でも確かに俺はそれを断る理由はない。

 ティファが見透かしたような目で俺を見る。


「行きたいんでしょ。心置きなく行ってきなさい。」

「......あぁ。そうだな。」


 --------------------


「ここに魔獣が居るのか?」

「うん。いるときは沢山いるよ。」


 そこは町の壁の外だった。フェンリルは壁で囲まれた王国だ。何故壁で囲まれているのだろうと思っていたが外に魔獣が居るのなら守るのも分かる。

 ちなみに壁を正式に通るためには通行許可証と呼ばれる身分証明書が必要になる。もちろん俺はそんなものは持ち合わせていないので普通に壁を乗り越えた。


「おじさん......アレ、普通は乗り越えられるようなモノじゃないよ。」

「だろうな。壁が乗り越えられたら防護もクソもないだろう。」


 ミッドは俺を見ながら呆れたような顔をしている。「お前がそれを言うか」と言いたげな目だ。俺はゆっくりと顔を逸らした。


「ほら!アレが魔獣だよ!」


 俺はミッドが指さした方を向いた。

 そこに居たのは人間より少し大きいサイズの動物だった。四足歩行で図体がどっしりとしている。頭から角を生やした姿はまるでサイのようだ。ただ足が異様に大きく太い点と、体から黒くて歪な物が複数個も突き出ている点はサイとは違う。特に後者は元の世界の動物にはあり得ない特徴だと思う。


 魔獣がこちらに気づいた。

 魔獣の足がはちきれんばかりに膨れ上がる。そして一気に駆け出した。


「おじさん!!」

「ミッド、少し下がっていてくれるか?」

「うん......」


 相手の力を正確に測っておきたい。俺は回避重視で観察することにした。

 向かってくる魔獣のスピードはまるで新幹線のような速さだった。一気に間合いが狭まる。

 だが対応できない速さではない。体を捻って闘牛士のようにヒラリと攻撃を躱す。勢いを殺しきれずに数メートル走った後、方向転換して真っ直ぐにこちらに向かってくる。


「ブォォォォオオオオオオ!!!!」

「うるさい。」


 辺り一帯に咆哮が響き渡る。鼓膜が破れるぐらい大きな音だ。はっきりと言ってうるさい。

 その時、体から生えている歪な物体が動き出すように見えた。俺は危機感を感じその場を跳び退いた。

 体から伸びた無数の物体が俺の居た場所を貫いた。速い!避けられないスピードではないが魔法弾よりはずっと速い。

 伸びた物体は柱状の形をしていた。俺が言えたことではないが質量保存の法則を無視している!

 柱がガタガタと震える。俺の背中に寒気が走った。一体何を仕掛けてくるつもりだ!?


 ガンッ!!


 柱が枝分かれしたことに気づいた時には、柱は俺の顎に当たっていた。

 脳天に突き刺さるような痛みがして、脳震盪を起こしそうになる。脳が震えて意識が持っていかれそうになる。


「おじさん!」

「心配......するなッ!」


 ミッドにこれは見せたくなかった。というか出来ることならこれは誰にも見せたくない。

 だが使うしかないようだ。相手を舐めていた俺が悪かった。

 俺は右腕に力を入れる。少しずつ自分が成長しているのが分かる。黒い奔流が右腕を駆け巡り留まるのが分かる。右腕全体が少しずつ変色していく。金城の時と同じだ。痛みにはもう慣れた。それに最初の時よりも痛みが少なくなっているような気がする。成長の証だ。


「おじさん......それ......」

「驚いたか?」


 俺は伸びる柱を右腕の手刀で叩き折る。心なしか、前よりも膨張の度合いが少なくなり引き締まったように感じる。硬度も硬くなったような気がする。

 こんな一日や二日で成長するものなのかと自分でも驚きたくなる。

 俺はサイモドキに近寄りながら無数の柱を躱す。心の準備さえできていれば簡単に避けられる。目で見えない部分は他の感覚器官でカバーする。

 全ての柱の位置を把握した!震えてから柱が伸びるまでのインターバル、伸びる長さ、自分までに届く時間、全てが手に取るように分かる!

 俺は柱と柱の間の隙間を縫うように走り出した。拳を固める。黒い物が自分の腕に収束していくような気がした。

 今までにない程の力が湧いてくる。

 足を踏み込めば地面が軋む。腕を構えれば周りの空気が変わる。腕に力を入れれば当たるビジョンが見えてくる。

 拳を振り出せば敵が弾け飛ぶ。

 渾身の一撃が敵の腹に食い込む。貫いた自分の腕に何かが引っかかっていた。それをすぐさまミッドの方に放り投げる。


「魔石だろ、それ。」

「魔獣の体の中から直接取り出す人なんて初めて見たよ。すごいね、それ。」

「まぁ......な。」


 正直、この能力を褒められても嬉しくはない。俺はすぐさま鬼化を解く。


「あれは小さいサイズだね。」

「そうなのか?」

「うん。おじさんみたいに近づいて戦う人なんて居ないから。近づかれたら普通は終わりだよ。もっと大きいヤツはもっと強い。俺は小さいサイズしかまだ倒せないけどね。」

「そうか......」


 強いというほど強くはなかったが、これ以上強いものがこの世界にはまだ沢山残っているという事実に戦慄した。

 これでは人々が平和に暮らせるわけが無い。


「俺はもっと沢山の魔獣を倒す。今日は一日付き合ってもらうぞ。」

「もしかして変なスイッチ入れちゃったかな......?」


 ミッドは俺が拳を握り直すのを見ながらうんざりしたような顔になっていた。

英雄が駆逐したとされる魔獣はまだまだ生き残っているみたいですね。

記録石にあった歴史といい、矛盾点ばかりが目立ちます。

一体何が正しいのでしょうか?

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