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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
絶望と渇望の第一章
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順応

 ドアを開けて入ってきた金髪の少女は手早く押入れから座布団を取り出すとちゃぶ台の空いているところに置いた。


「話は聞かせてもらったわよ。」

「また盗み聞きか、ティファ。趣味が悪いな。」

「うるさいわね!聞こえてきたものはしょうがないでしょう!」


 そのティファと呼ばれた少女は肩より少し長い金髪を揺らしながら正座した。金髪の人が慣れた仕草で正座をするのはなんだか新鮮味がある。顔や髪の毛は綺麗だが手は少し荒れていた。

 年齢は自分よりも少し下だろうか。まだあどけなさが残るものの他のクラスメイトにはない大人っぽさがあった。この世界で生きていると自分達よりも早く大人になってしまうのかもしれない。


「それよりも!あんたよ!あんた!」

「俺ですか?」

「そうよ!今日から雑務室に人がくるって聞いてみれば何よ!はっきりしない男ね!」


 そう言いながらティファは片手間に箱に手を伸ばして中からお湯を注ぐ。四人分の緑色の変な飲み物を注ぎ分けるとこちらに差し出した。

 正直なところ、俺の頭の中はこの状況についていけてなかった。いきなりやってきた少女が自分に腹を立てながら飲み物を注いでいるという光景があまりにも現実離れしすぎていた。


「やりたいことがあるならすればいいじゃない!戦いたいって言ったり信念がどうのって言ったりする割には行動力が無いのよ!せっかくこんな何もないところに配属されてるんだからどうにかすればいいでしょう!?」

「でも俺には魔法が......」


 そう。俺には魔法が使えない。

 攻撃も当たらないような人間をどうやって倒せば良いんだ?

 あんなバケモノたちに俺の武術が、培ってきたものが通用するのか?

 通用させなければ戦えないのは分かっている。でも勝てる気がしない。勝てるビジョンが全く見えない。


「魔法が使えないからどうしたの!?」

「は?」

「私は戦ったりなんかできないから魔法がどうのこうのとかは良く分からないけど、一回負けたからもう勝てないなんて甘えてんじゃないわよ!戦ったらどっちかは負けるの!それぐらい私にだって分かるわよ!それにあなたこっちに来たばっかりなんでしょ?誰に負けたのか知らないけど今まで戦ってきた人にすぐ勝てるわけないでしょう!?」

「でも......」

「でもじゃないわよ!諦めるのはもうちょっと色々な事をしてからにしなさい!あぁ、もう!洗濯物取り込んでくる!!」


 ティファはグイッと緑色の飲み物を一気に飲み干して飛び出すように出て行った。

 俺は何も言えず、ただ唖然としたまま身じろぎすら出来なかった。


「何というか......嵐が過ぎ去ったみたいな感じ......」

「あの物言いは拙者も感服したでござる。」

「慣れる。」


 ゆっくりと緑色の飲み物に手を伸ばす。

 元の世界ではこんなに緑色でドロドロしたまるでエイリアンの体液のようなものを飲むことなどできなかっただろう。今はなんというか頭が少し混乱しているので抵抗なく手が伸ばせた。

 ゴクリと一口。

 外見に反して口の中に爽やかな風味が広がる。さっぱりとした甘さがあって飲みやすい。のど越しも良い。ごくごく飲めるし、魔法の防御を殴った時の腫れも少しずつ引いていくような気がする。


「もう一杯ありますか?」

「ねぇよ。それに俺にも多分そこの卓男とかいう奴にも作れないだろうな。」

「え?」


 どういうことだろう。ティファは箱に手を伸ばしてその飲み物を作っていたように思うが。


「アレは魔法具の類だ。マナで動くんだ。だからマナ量が低すぎてお前達は動かせない。ティファがマナの貯蔵庫にいっつも貯めておいてくれるけどアレは明かりとかのためだ。こんな嗜好品に使ってはいけない。」

「ヤト爺はどうなんですか?」

「ここに居るんだ。察しろよ。」


 ............

 沈黙が流れる。


「田熊氏、田熊氏。拙者たち、あの子の介護がないと生きていけないのでは?」

「まさかこんな年から身の回りのことが出来なくなるとはな。」


 俺はぽっかりと空いたように雲一つない空を窓から見つめた。


 --------------------


「どうしたでござるか?本なんか読んで。」

「書庫があったから少し魔法について学んでおこうと思ったんだ。魔法が使えなくても知っておかなければ対策も出来ないのでな。」

「デュフフww少し元気を取り戻せたようですな。拙者が励ますまでも無かったでござるね。」

「ああ、すまない。心配かけた。」


 卓男が笑いながらそう言った。


「拙者も頑張るでござるよ!鍛冶師スキルを使って田熊氏の武器を作るのでござる!」

「俺に使えるのか?」

「ええ!もちろんでござるよ!まだまだ小さなものしか作れませんが。」

「じゃあその時にはよろしく。」


 しかし、魔法のことを調べれば調べるほどそれのバケモノぶりが分かる。

 防御壁は常時展開されており危機感が募れば募る程、マナの振り当てる量が多くなる。

 魔法弾の威力はピンからキリまであるが強いものになると普通の人間の防御などいともたやすく破ってしまうらしい。発射速度も尋常ではないらしい。書いてある発射速度は桁違いなのではないかと思うほど大きい値を示している。

 ちなみに近接で戦うことはあまり行われないそうである。わざわざ近づいて攻撃するのは魔法弾という手段がある中で適していないのだろう。


 こんな相手に勝てるのか?

 もしかしたら魔法弾を目で追うことすら難しいかもしれない。

 ......いや、ここで諦めたらまた同じようになってしまう。とにかくやってみないことには分からない。


 --------------------


 食堂から良い香りが漂っている。

 厨房にはティファが立っており忙しそうに食事を作っている。他の料理人も少し居るがこの人数だけでここにいる全員の食事を作っているのかと思うともう少し人数を増やした方が良いのではないかと思った。

 中でもティファは人一倍動いているように見える。

 俺は木製のお盆に乗った料理を持っていくと食堂の端の方の席へ座った。


 食べ始めて少しして少し離れたところに金城(かねしろ)が座った。


「お前もこの時間に食べてるのか。良い身分だな。」

「悪いか?」

「いや、ただこれからの時間は訓練を終えた奴らが入ってきて混むからもう少し時間をずらして食えばいいのにと思っただけだ。」


 金城は俺を見てそう言った。

 俺は金城とあまり仲が良くない。確かに金城の能力は認めるが自分とは相いれない存在のような気がしている。分かり合うことの出来ないような壁がある気がしている。


「良いだろ。別に。お前には関係ない。」

「お前は良いよな。いつでも飯は食えるし、危険なこともしなくて良い。お前みたいになりてぇよ!俺たちは無理矢理朝から晩まで訓練させられて兵士に仕立て上げられてるっていうのになぁ!」

「何だと。」


 思わず立ち上がってしまう。人の気も知らないで。


「そこまでです。宿舎内での戦闘はご法度です。」


 そこに立っていたのは俺たちが召喚されたときに一緒に立ち会っていた人だった。確か名前は......

 俺が思い出そうとしていたら金城の方が先に口を開いた。


「ロアさん、すみません。ついカッとなってしまいました。」

「次からは気をつけてください。」


 金城はそう言ってお辞儀すると食事に戻った。ロアさんもそれを見て食事に戻る。ロアさんは俺とあまり面識が無いだけで訓練には付き合っているのかもしれない。

 俺は相手の言い分も間違ってはいないと思いながらも、言いようのない怒りが込み上げてくるのを感じていた。改めて好きになれないと思った。

 俺も訓練に出られれば――――

 魔法の訓練は出来なくても間近で見られれば何か得られるかもしれない。


 一度打診してみる価値はあるかもしれないという考えが浮かび上がってから決断するまでにそう時間はかからなかった。

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