商店街一角
「ここが魔法器屋かぁ......」
俺は改めてその店の前に立つ。卓男を連れ戻した時にはあまり意識しなかったが、じっくり見ると――
「なんか良くある家電製品の店みたいだな。つまらなさそうだ。」
「ちょっ、ちょっと待って下され田熊氏!!ここには現代魔術と人類の叡智が結集しているのでござるよ!?」
そう言いながら卓男が中にあった何かを持ってくる。
「例えばコレ!! こんなに小型なのにエアコンと同等の冷却及び暖房能力があるのでござる! 持ち運び可能! 冷暖房完備! 小規模魔導障壁展開によりどこでも室内の快適さを保てる優れものでござる!!」
「でも高いんだろ?」
卓男が露骨に目を逸らす。テレビショッピングのようにはいかないらしい。
「他にはこれとか! 空間ワープができるでござるよ!! 座標軸を入力すればどこでも好きな場所へ転移できる優れものでござる!! 人体を再構築することで新たな肉体をその座標に作り出すらしいでござる!」
「それはすごいな。それを使って地動石の所に行ければ良いんだがな。」
「セキュリティの関係で他人の宅地内への座標設定は出来ないらしいでござる。」
「それはまた現代的な......でも、卓男なら作り替えられるんじゃないか?そういうの。」
「魔術商工会が技術を独占しているらしいでござるよ。お役に立てずすみませぬ。」
「なんか、ファンタジーの世界も一枚岩じゃないんだな。夢がない。お前が貸してくれた本にそんなことは書かれていなかったぞ。」
「剣と魔法の世界で敵をバッタバッタと倒しながら女の子とイチャイチャしてみたい人生だった......」
「何話してるの?」
「「なんでもない。」」
ベルモットに茶々を入れられて俺達は昔懐かしい回想を切り捨てた。
ベルモットが代車に載せた何かの装置をガラガラと押してくる。
「でもこれなんかは役に立つのではないかしら。」
「何の装置だ?」
「マナ加圧式流動制御装置よ。」
「マナ......なんだって?」
俺は聞きなれない単語の羅列を思わず右から左に聞き流してしまった。
「噛み砕いて言うと、要は余分なマナや変なマナを整理して、マナの流れを正しくする装置ってことね。」
「俺には魔法が使えないんだぞ?」
魔法が使えない俺にマナの流れは関係ないだろう。
「魔法が使えなくても『鬼化』の能力がマナに関係するとしたら、試してみる価値はあるわ。もしかしたら鬼化を制御できるかもしれないもの。」
「でもそんなでかい物持ちながら戦えないだろ。」
それは小さく見積もっても小学生サイズだ。持ち歩ける代物では無い。ベルモットだって代車を使わなければここに運んでくることすら出来なかっただろう。
「それは私達でなんとかするわよ。ね、卓男?」
「デュフフwwここに居るのを一体誰だと思っているのでござるか。」
「魔力が低めなオタクじゃないのか?」
「違うでござる!! いや、合っているけど違うでござる!! オスカー国最高の鍛冶師と王国禁書庫の中を読み漁ったあらゆる情報を知り尽くす魔道具技師でござるよ!!」
「改めて聞くと凄い肩書きだ。」
「事実でござるよ。」
卓男がジト目で見つめてくる。男のむさ苦しいジト目は要らん。
「俺はそれよりも隣にある建物が気になるんだが。」
その建物は立て看板こそ立派ではあったが、見かけとしては西部劇に出てくる酒場のような感じだった。
「ふむ。王国外壁依頼受注書?要するにギルドみたいな所でござるか?」
「かもしれない。」
俺は躊躇いなく中に入ってみた。
その中には屈強そうな男達、鎧を着た兵士達、ボロ布を着たホームレスまがいの人間など沢山の人々がいた。
食事をしている人間もいれば何やらこちらを見ながら話し合っている人間もいた。その視線には吟味や好奇に似た物があった。
「ここはどういうところなんだ?」
ミッドは「そんなことも知らずに入ったのか」と半ば呆れのような目線を俺に向けてくる。分かるわけないだろうが。
「ここは王国からの依頼を受注するところだよ。」
「それは前に書いてある看板を読んだだけだろうが。依頼の内容を教えろ。」
ミッドの顔に図々しいなぁと書いてある。悪かったな。
「捜し物とか、調達依頼とか......でも、一番多いのは魔獣討伐とかかなぁ?」
「今、なんて言った!?」
俺は勢いよくミッドの肩を掴んだ。ミッドは何に驚いているのか分からない、といった感情を露わにしていた。
「魔獣はまだこの世に存在しているのか!?」
記録石では英雄が駆逐したと書かれていたし、魔王はもう死んでいるはずなので魔獣を生み出す力は無いはずだ。
「おじさん、変なこと聞くよね。居るよ、魔獣は。」
「なん......だと......!」
「英雄が倒したあとも生き残りが居るんだよ。」
「数百年経った今でもか!?」
「そう......だよ?」
「そんなことが有り得るのか?」
「そんなこと俺に聞かれても分かんないよ。壁の外にもまぁまぁ居るし。居るものは居るんだよ。」
「そうか......」
なんだか腑に落ちない。
「魔獣の討伐依頼は魔石を納品することで達成報酬が貰えるんだ。大きさによっても違うけどね。」
「魔石?」
「魔獣の体内から出てくる石のことさ。色々な物の材料になるからこの大きさでも結構値がつくんだよ。」
そう言いながらミッドは魔石を取り出した。紫色に妖しく光り輝いている。
「それは自分で取ったのか?」
「まぁ、俺は強いからね!魔法も大人に負けないからね!」
俺は魔石を手に持とうとした。しかし指が魔石に触れた瞬間に心臓が一際大きく脈打った。
不味い!
俺は即座に手を離した。この感じは俺が俺に支配される時と似ている!冷や汗が噴き出して、顔が青ざめているのが分かる。
俺はミッドに異変を悟られないように笑った。
「その癖には俺に助けられてたけどな。」
「うーるーさーいー!」
なんとか息を落ち着かせる。
......何だったんだ、今のは。
俺はそれについて考えるのが怖くなり、首を振って考えないようにした。
ミッドが俺に毒を吐いている時、俺の視界はミッドの白目を向きながらカニ歩きで挑発する姿ではなく、立ち上がった男の姿を捉えていた。
好奇の視線を晒していた男である。
しかも相手は俺ではない。
「なあおじょ――」
「失せろ。」
ティファだ。
俺はティファに近づく男の手を捻り上げる。
「あぁ、なんだテ――」
「大人しく座れ。こいつらは見世物じゃない。触れるな。近づくな。それが出来ないならここから失せろ。出来るのか出来ないのか。」
「何だこのクソガッ痛テテテテェッ!!」
俺は手を離さない。関節技は暴れれば暴れるほどキツく縛り上げられていく。
「分かった! やめッ......やめろッ!!」
「答えになってない。」
「やめますッ! やめるから離せッ!!」
俺は離した瞬間に殴りかかってきた攻撃を受け流し、鳩尾に当て止めする。
当て止めとは突きを当ててから止める手法である。深く突かないことによりダメージは入らない。
だが熟練者の完璧な当て止めは、武道を知らない相手に死を幻視させることが出来る。
束の間の沈黙の後に見たものは、男の意気消沈した顔だった。
「あ、あば、あばば。」
そう言いながら男はへたりこんだ。
部屋のどこかから聞き覚えのある声がした。その声に背筋が凍る感じが伴う。
「驚いたぜェ。あの時の坊主がァこの短期間でまさかここまで強くなるなんてなァ。」
「お前はッ......!」
驚いてティファ達を掴み、跳躍して距離を取る。
その姿は忘れもしない。
「三日月の悪魔ッ......!」
俺に戦場で敗北を味合わせ投獄させた人間。
笑みが三日月に見える悪魔のような人間だった。
魔法のある世界と言っても文明が中世という訳ではないみたいです。色々なものがあるんですねー。
魔石に触れた時の田熊の反応も気になるし、昔の宿敵も気になります!(ちなみに男の名前は1回だけ出てきていました。なんという名前だったでしょうか!?)
次回は戦闘!?お楽しみに!




