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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
起死回生の第三章
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異世界単騎特攻

 小さく息を吐く。

 辺りがシンと静まり返る。張り詰めた緊張の糸は千切れてしまいそうなほど、細く強く引き締められていた。少しでも緩んでしまえば殺される。


 状況を把握しろ。

 部屋の広さ、物の配置、隊長の位置、武器の矛先の方向、目線に呼吸、全てが相手の心を読み取る手がかりになる。

 次の動き、その次の動き、そのまた次の動きまで先読みしろ。単純なパワーや速さでは今の俺には勝てない。頼れるのは己の経験と技量だ。


 突きの攻撃を誘導し、横に受け流しながら一歩踏み込む。


 ここからが正念場だ。

 相手のランスの間合いに入った。当然のことだが、拳とランスであればリーチが長いのはランスだ。だから自分の攻撃は当たらないにも関わらず、相手の攻撃は当たる絶対的に不利な間合いが発生する。

 俺はそこを潜り抜け、隊長に一発入れなければならない。


 大振りを体を逸らして躱し、俺の体勢のバランスが崩れた所でランスが直角に曲がり足元を狙ってくる。常識外れな動きだが、対応できないほどではない。タイミングを見計らい、一瞬だけ地から足を離す。

 崩れた体勢を元に戻しながらもう一歩踏み込む。

 ランスの方向がまた変わった!慣性を無視した動きだ。下から上に突き上げる動き。これが日本刀だったら擬似的な燕返しだ。それも、燕返しより難しい!

 重心がグラついている状態では対応できない!

 折角詰めた間合いをもう一度元に戻す。


「私の剣には自動追尾(オートエイム)物理無視(フィジックエラー)が付与してある。盾には自動防御(オートメイル)速度上昇(ヘイスト)は2回重ねがけだ。魔法の使えない相手に負けるはずがない。」


 俺は飛び退いて着地する。


「負けるはずがない、だと?」


 確かに戦力差は歴然だ。相手の方が有利に決まっている。隊長の分析は正しいのかもしれない。

 だが――


「負けるはずのない戦いなど、この世に存在しない。」


 俺は相手を見据えながら足を踏み出す。

 相手がたじろぎ、一歩後ずさりした。


「戦いを舐めるな。」


 その時、体から力が湧き上がるのを感じた。俺の片目が赤く光り輝き、鬼化している指先が強く脈打つ。


「空躍!」

「そこか!」


 相手の後ろに跳んだにも関わらず、矛先はこちらを向いていた。まだ速さが足りない。


「空躍!!」


 空中で身を翻しながら背後を取ろうとする。矛先はすんでの所で出し抜けたものの、盾に防がれた。盾の殴打で弾き飛ばされる。

 壁に激突する前に体勢を立て直し、足の筋肉に負荷をかけながら壁を蹴る。その反発力で一気に間合いを詰める!


「そんな直線の攻撃――」

「空躍!」


 相手が突きを繰り出した瞬間に後ろに回り込む!

 間合いに入ったッ!!

 素早く掌底の構えに切り替える!


「魔拳――」

速度(ヘイ)上昇(スト)ォ!!」


 盾の殴打を掌底で受け流そうとしたが、間に合わないッ!!

 殴打をまともにくらいながら壁に激突する。


 まだ速く動けるのか!?


 肺の中に入っていた空気が無理矢理出てくる。その空気は喉を通り声にならない音を出す。またも背中を叩きつけられて、意識が飛びそうになる。脳天をチカチカとした光が舞った。

 俺は未だに影を覗かせ続けるもう一人の俺を心の奥底に押し込む。


『ドウシテ、俺ヲ、出サナイィィ!!』

「俺が......自分自身にも......負けられないからだ。お前を使いこなすと決めた。だからこの能力は俺が使う。」


 片目が一層強く赤く光る。


鬼化強化(ブースト・オン)


 指先が溶けそうな程に熱くなる。より硬く、より強靭に指先が変化するのが分かった。


「やはりその力は邪悪だ。マナの流れが澱んでいる。歪ませていると言ってもいい。貴様は――」

「話している暇があるのか。」

「何ィッ!?」


 相手の視界を盗み、背後に立ってそう言う。

 すぐさま相手は反応し、ランスの矛先をこちら側に向けた。俺は重心を移動させながら相手の背後へ回り込もうとする。

 一瞬だけ相手の視界から自分の姿を消すことは可能だが、相手の速さが段違いだ。すぐに追いつかれてしまう。

 しかしここで止まってはいられない!!


 力を指先に集中しつつ、足だけでなく体全体の筋肉を稼働させる。ランスの攻撃の先の先を読み、隙をわざと作り誘導する。

 相手が吐息をスっと素早く吸った瞬間に攻撃が炸裂する。攻撃と身体が噛み合って動いている証拠だ。

 情報量が頭の中でパンクしそうになる。フェイントを見切り、相手の足運びを見て、腕の筋肉の隆起を確かめる。

 オートエイムを騙す!!


 完璧なタイミングで懐に入り込む。俺は身構えながら腰をどっしりと落とした。重心は低く保ちつつ体を安定させる。

 刹那、隠されていた相手の盾の後ろから魔法弾が放たれた。光の筋が俺の体の中心と交錯する。


「こんな不意打ちは出来るだけしたくなかったのだがな。切り札は最後まで残しておくタチなんだ。」


 血がポタポタと垂れる。

 俺は()()()()()()


「全て想定の範囲内だ。」


 俺は魔法弾を握り潰した。手のひらから血が噴き出す。そして間髪入れずに完璧な体勢から掌底を放つ!

 全身の筋肉から発せられる力を、鬼化で強化した指に集中させる!


「魔拳滅殺!!!」


 一際赤目が輝くと同時に、掌底が魔導障壁に炸裂する。衝撃波が撒き散らされて掌底が少しずつ鉄壁にめり込んでいく。

 すり足で踏み込みさらに負荷をかける。障壁が割れ、2枚目にもヒビが入った。


「うぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」


 さらに踏み込む!!

 魔導障壁を一気に貫き、相手の体に到達する。

 力は弱まることなく相手の体を捉えた。

 相手は斜め上に真っ直ぐに突き上げられて天井に激突した。そして床に落ちた。


 俺は相手をひと睨みすると、衝撃波を受けて床に落ちていた記録石を手に取った。


「待......て、田熊......」


 俺がその言葉に何か返答することは無かった。


 --------------------


 外に出るとティファ、卓男、ベルモットの3人が身支度を済ませて待っていた。

 ティファは家財道具を風呂敷に包んでおり、卓男はベルモットに持たされていたと思われる荷物と自分の荷物をそれぞれ手に持ち、背中に背負っていた。


「はい、田熊。お願いね。」


 ティファが手渡してくると同時に卓男も同じところに荷物を持ってくる。俺は引越し業者のトラックじゃないんだぞ。

 ともあれ全て持ち運ぶのは俺だ。俺は持ち運び方法を頭に巡らせる。


「うおっ!」

「キャッ!」


 俺は荷物を背負った後、二人を小脇に抱える。


「ティファ、肩車するから頭にしっかり捕まっておけ。」

「了解。」


 そして残り2つの荷物を両手で鷲掴みにする。

 俺でなければこんな事はできないだろうなと一人で感心する。これが支える側と逆だったら騎馬戦の騎馬みたいになるのだろう。


「吐くなよ。」

「「え?」」


 左脇に抱えているベルモットは既に経験したことがあるだろう。青白い顔で目線を逸らしている。


「空躍。」


 悲鳴が耳元で鳴り響く。ジェットコースターの乗り物になった気分だ。

 こうして俺たちの異世界単騎特攻が始まった。

第三章、これにて閉幕です!!

やっとタイトル回収ができました。ここまで思ったよりも長かったですね......

さて明日からは第四章です!


感想等もくれると嬉しいです(小声)

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