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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
起死回生の第三章
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 俺はこの場で一番会いたくない人間に会った。


「ボルドー隊長、どうしてここに?」

「私は毎日ここに居る。こういう緊急事態に備えられるようにな。」

「毎日......!?」


 俺はその言葉に驚きを隠せなかった。

 ここにはベッドや泊まる設備などない。こんなところで毎日警戒し続けながら寝泊まりしているという事実に驚きを隠せなかった。


「この水晶玉は私達にとっても、この国にとっても、一番大事な物だ。そして私にとっては人生そのものだ。やすやすと全てを捧げた物を盗られる訳にはいかないのでな。」

「この石が無い方が国は平和になるでしょう。」

「だが死んでいった者達に示しがつかん。」


 瞬間、俺の勘が冴え渡る。反射的に跳んだ直後、俺のいた場所を攻撃が貫いていた。

 そこを貫いたのは巨大なランスだった。おおよそ人間が片手で持てる大きさではないランスを自分の腕の一部であるかのように滑らかな動きで突き出す。左手には分厚い盾。質素だが武器は全体に黄金のオーラを纏っていた。


「近接戦闘も多少嗜んでいてな。この部屋の中であれば全ての範囲をカバー出来る。」


 部屋には小さな明かりがひとつしかないにも関わらず、相手は壁の寸前でランスの矛先を止めていた。おそらく壁までの距離や自分の立ち位置まで完全に把握しているのだろう。

 ボルドー隊長も金城と同じようにマナで武器を作ることが出来るらしい。金城の時は鬼化で倒せたが、今回は鬼化を使わない。使っても指先だけである。


「一度目のあの攻撃が避けられるとは思わなかったぞ。」


 ボルドー隊長は表情一つ変えずにそう言った。全くそう思っていない顔である。あれぐらいの攻撃は避けられて当然ということだろう。

 俺は気づかれないように足を少し曲げて筋肉に力を入れた。


「空躍!」

「遅い!!」


 間髪入れずにそう声が響く。その声が届く頃には、俺は別の場所に移動していた。しかし、移動した場所にランスの矛先は向けられていた。

 瞬きするより速い高速移動にも関わらず、あのランスをこちら側に向けている。俺はランスの側面に手を触れながら刺突の攻撃を空中で躱した。

 触れた瞬間に指先が爆裂した。4本の指が同時に衝撃で舞い上がり天井に当たった。

 痛がっている暇などない。

 鬼化の能力で新しい指を作り上げながら、空中で翻した身を安定させるために天井を蹴った。自然落下より速いスピードで着地し、間髪入れずに空躍を使う。

 それでも動きを見失わないランスの矛先。

 これが魔法だ。懸命な努力や人間の限界をいとも軽々と超えてくる。


「なるほど。それが敵国の王を撃退し、老害を倒した力か。人並み外れているな。だが、たかがそんな動きで私を越えられると思うな!!」


 ランスに有るまじき横振りが俺の体を殴打しそうになる。俺は体を折り曲げながら足を跳ね上げて、空中で一回転する。回避が間に合わず体を掠った。

 体を掠っただけなのに大袈裟に血がピッと飛び出た。側面にも当たり判定があるらしい。物理法則を無視した攻撃だ。

 鋭い痛みが脳内を駆け巡る。同時に心の奥底から何かが顔を覗かせた気がした。


「グッ!!」

『――俺ヲ使エ。』

「誰が使われてやるかよ。この化け物が。」


 俺は脇腹に力を入れ自然治癒力で皮膚の膜を張った。ヤト爺が血を止めるために使っていた方法だ。治癒力を特定の部位に集中させることによって指向性を与えるのだ。

 止血のために皮膚だけを治す常人離れした技である。

 俺はここで暴走する訳にも、負けるわけにもいかない。

 実力で最後の砦を破壊してみせる。


「なるほど。その身の守り方は昔の老害に似ているな。あの老害に感化でもされたか?」

「老害というのはヤト爺の事か?」

「そうだ。それがどうかしたのか。国の為に戦うことも無く、部屋に引きこもっていた男が老害以外の何者だと――」

「お前に、ヤト爺の、何が分かる。」


 俺の中から怒りが湧き上がってくる。怒りに身を投げ出さないように、しっかりと自分の意識を保つ。


「知ったことか。昔、フェンリルを退けた英雄だからと言って、それから戦いに出ないのであれば、それは穀潰しと同じだろう。」


 ボルドー隊長はそう言い切った。

 フェンリルの侵略の前、隊長が雑務室から出てきたのを思い出す。ヤト爺は何でもないと言っていたが、何かあったのかもしれない。


「私は何度も奴を戦場に出るように説得した。しかしあの老害は一向に戦場に出向こうとはしなかった。その力があったにも関わらず。」


 ボルドー隊長は俺に攻撃をしかけながら独り言のようにそう呟いていた。俺は最小限の動き、次の攻撃場所の予測をしながら、その独り言に耳を傾ける。

 ボルドー隊長は俺に鋭い眼光を差し向けた。恨みがこもった強い視線だ。


「お前に、私の期待と裏切りを繰り返させられる気持ちの何が分かる。」


 それは俺を通してヤト爺に差し向けられた怨念であった。積年の恨みと言っても過言ではない。

 恨みのこもった一撃が放たれる。俺はその突きを半身を翻して躱す。

 さらに連続して横の大振り。足を曲げ顔を腰の位置まで下げて躱した。避けてばかりはいられない。上体を低く保ったまま地をスレスレに駆け、間合いを一気に詰める。

 盾と隊長の体の隙間に無理矢理、腕をねじ込む。


 正拳突きが確実にヒットした。しかし、魔道障壁にはヒビしか入らなかった。やはり体勢が整わなければ威力が思うように伝わらない。

 だが――


「俺はこんなとこで立ち止まってられないんだッ!!」


 足をもう一歩踏み込む。

 危険領域だが踏み込まなければ何も始まらない!

 俺は素早く拳を掌底に構え直す。指先に力を集中させる。


「魔拳――」


 俺の掌底が発動する前に脇腹を強い衝撃が襲った。肋骨が折れるような痛みと共に、俺の体は宙を舞い、壁に激突した。


「邪悪なマナだ。貴様、それをどこで使えるようになった。」


 反射神経が並外れているッ!!

 これが反射神経を魔法で強化した人間の力だ。反射だけではなく判断力も上がるらしい。俺は盾で横殴りにされたのだ。


『俺ヲ使エバ、奴二勝テル。サァ、使エ!!』

「うるさいぞ。」


 頭の中で俺の意識を泥沼に引きずり込もうとする者が居る。だが、俺はそんな誘惑には乗らないと決めた。


 第二の覚悟。

 使いこなせる範囲しか鬼化は使わない。


「俺は何にも負けない。もう負けることは許されない。敵にも、俺自身にも。」


 俺には背負うものがある。その中には自分の大切な人も居れば、目の前で戦っている相手も居る。

 全てを救うというのは即ち、そういうことだ。

 そして背負っているものは、時に背中を押してくれる。

 俺だけでない高みへ俺を引き上げてくれる。


「そして俺は守る。彼女も国も世界も。」


 守るものがあるから強くなる。

 何度でも立ち上がれる。

 諦めたらその瞬間に背負っているものが、転げ落ちる。


「だから、俺は止まれない。止まるわけにはいかない。隊長を倒して突き進む。」

「......面白い。」


 隊長の眼光はさらに鋭く纏うオーラはさらに輝きを増していた。


「やれるものならやってみろ!!田熊ァ!!俺の矜恃と人生と積み重ねてきたものを超えてみろ!!」


 目の前の鉄壁の砦は遥かに高い。

 しかし、やらねばならない。

 俺は治癒力で折れた肋骨を繋げると、その強大な砦を見据え、小さく息を吐いた。

田熊は新たな覚悟を胸に強大な壁に立ち向かいます。

その相手は守りのオスカー国、最大の砦であるボルドー隊長。

果たして互いの譲れない物を賭けた戦いの行方は如何に!?

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