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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
起死回生の第三章
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友達

 ベルモットに着いて行くように鍛冶工房に入っていく。

 そこに居たのは、というか十中八九居ると思っていたぽっちゃりめの男。


「卓男。」

「おー、田熊氏!いらっしゃったのでござるか!!今日はお呼びしてもいないのに!」

「ベルモットと話をしていたら思った以上に時間が経ってしまっていてな、申し訳なかったから送り届けに来たんだ。」

「思ったこと全部言うのね。貴方は。」

「すまん。」

「怒ってないわよ。」


 ベルモットは呆れたような顔でそう言った。だが声は笑っていた。

 卓男はその様子を見てにこやかに笑っていた。無論、俺は怒られている側なので苦笑いすることしかできないのだが。


「じゃあ、拙者も少し田熊氏と二人きりで話してくるでござる。」

「あら、貴方も行くの?」

「ええ。最近ゆっくりと話す時間が無かったでござるから。」

「気持ち悪い言い方だな。」

「田熊氏が意識していない時の言い方はもっと思わせぶりでござるよ。」

「......それホントか?」

「......ホントでござる。」


 ......今度からはもう少し発する言葉には意識を向けよう。

 俺はそう思うことにした。出来るはずもないのだが。

 俺と卓男は目配せすると二人で外に出た。


「ベル、良い顔してたでござる。」

「話していたことは特段、良い事ではなかったけどな。」

「それは田熊氏が鈍感だから良い話かどうか分からなかっただけなのでは?」

「否定できない。」

「冗談でござるよ。」


 卓男はケタケタと笑った。あんなことがあった後だから、俺に嫌なことを考えさせないようにしているのだろう。卓男はそういう気遣いができる男だ。


「田熊氏の意識が戻るまで、みんなかなり心配していたのでござるよ。無論、拙者もでござる。」

「それは......心配かけたな。」

「田熊氏が謝ることではないでござるよ。田熊氏は立派にやってくれたでござる。」

「俺は――」

「田熊氏が敵の隊を退けたというのは紛れもない事実でござる。ヤト爺が死んだのは確かに悲しい事でござるが、田熊氏が退けてくれなければもっと多くの人が死んでいた。それはれっきとした事実でござる。」

「卓男......」

「拙者達は亡くなってしまった人間よりも生きた人間の方を大切にしたいと思っているでござる。それは多分、ティファ氏もベルも同じだと思うでござるよ。」


 ティファは俺が目覚めた時、必死に励ましてくれようとしていた。俺はその思いを踏みにじってしまった。もう少し周りのことが見えていればあんなことにはならなかったのかもしれない。ティファの思いを無下にしてしまった。

 罪悪感で胸が張り裂けそうになる。


「まぁ、そう気負うことは無いでござるよ。ティファ氏も田熊氏の気持ちを理解しているはずでござる。ティファ氏は田熊氏のようなカチコチの頭ではないでござる。」

「褒められているのか、けなされているのか分からなくなってきた。」

「ユーモア溢れる励ましの言葉でござるよ。」


 卓男は腰のあたりから魔法瓶を取り出した。


「これ、ベルが作ったんでござるよ。」

「へぇ。何が出来るんだ?」

「液体を圧縮してストックできるんでござるよ。」

「それ......凄いのか?」

「凄いでござるよ!!使い方によっては戦況を一変出来る代物でござる!!液体をある程度ストックできるということは規模の大きい物を作れば、何もないところから水攻めなんてこともできるし、もっと小さいところで実用的なところから行けば、水など物資の補給線を省くことが出来るでござる!!これまで補給線に沿ってしか配置できなかった兵士たちをもっと効率的に置くことが出来るでござる!!」


 とても早口だ。内容が半分も入ってこなかった。

 だが熱意は伝わってきた。

 卓男はその様子を見て苦笑いすると中に入ったコーシーを淹れて俺に手渡した。


「なにより残りを気にすることなくコーシーが飲めるでござる。」

「そりゃいい。」


 卓男は自分の分も注ぐとグイッと飲み干した。まるで中年のサラリーマンが会社帰りに気晴らしに寄った酒場で、愚痴を言いながら酒を飲みほしているような感じだった。

 俺はその様子を見ながら器に入った緑色の液体を飲み干した。いつにも増してスカッとしたのど越しだった。


「ベルはとても楽しそうにそれを作っていたでござるよ。」

「そう。」

「田熊氏は彼女のその幸せも作ってあげたということでござる。そういうことに対するお礼は田熊氏には伝わらなかったのではないかと思ったので。」

「ありがとう。卓男。」

「どういたしましてでござる。」


 卓男はデュフフwwと気持ち悪い声で笑う。俺がありがとうと言ったのがそんなに面白かったのだろうか。多分違うのだろう。


「その様子だとティファ氏も自分がどれだけ心配していたか伝えてはいないみたいでござるね。」

「へ?」

「ティファ氏、田熊氏がいつ起きるかも分かってないのに、毎日、いつ起きても良いようになるべく仕事も早く済ませて看病してたでござる。ここ何日か、食事はずっと田熊氏の為に作ったおかゆでしたし、厨房に行ってもティファ氏が居ないなんてことは初めてだったでござるよ。」

「そっか......」


 そんなこと考えてもみなかった。

 目が覚めたら隣に居たってだけでも不信感を持たなければならなかったんだ。俺にはそこまで頭が回らなかった。

 自分がいつ起きても良い準備を4日間。赤の他人の安否を祈りながら4日間。

 ドアを開けるたびに起きていないか案じて、寝るたびに自分が寝ている間に起きてしまったらと不安になる。もしかしたらそんなに寝られていないかもしれない。

 涙のシミを見た。

 俺を見ながら泣いたものだろうか。

 ヤト爺を殺した俺を見ながら、俺の息が吹き返すことを願い続けて泣いたのだろうか。


 死んでいる人間よりも生きている人間を優先する。


 それは簡単な事ではない。もう死んだんだから、なんて割り切るのには時間がかかる。

 ティファは極めて冷静にすることに努めていた。

 それが今、ようやく分かった。


「なぁ、卓男。」

「なんでござるか。」

「なんでお前は俺にそんなに肩入れするんだ。」

「んー。それしかないから?」

「なんだそれは。」


 卓男は俺のことをずっと思ってくれている。

 こっちに来る前も、来てからも。

 それがずっと不思議でたまらなかった。


「拙者の作る武器は魔術師向きではないでござる。近接戦闘武器がほとんど。魔法器を作るためには膨大なマナが必要だし、何より異世界向きに自分の頭を変えなきゃならないでござる。」

「卓男ならそれぐらいはできるんじゃないか?」

「んー。どうでござろう。でも理由はいらないでござる。そういうことにしといてくだされ。」

「え?」

「拙者達は友達でござる。」

「......そうだな。」


 あぁ。忘れていた。

 俺たちは友達だった。


 俺はこの頃まともに笑っていないのを思い出して笑った。

卓男は最初から最後までホントの友達です。

『最後』は話を追いながら見て行って下さい。

『最初』の話はもう少し先になりそうです。

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