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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
掌握と堕落の第二章
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陽動

 敵の部隊はもう大障壁の寸前まで来ていた。

 こちらも部隊を整えているところなのだろうが、このままで間に合わないのは明らかだ。

 どうにかして時間稼ぎをしなければ......!

 最悪、大障壁が割れても軍が間に合えばそれでいい。大障壁に迎撃システムが無いのであればそれはただの時間稼ぎの一つに過ぎない。

 目の前の全員を倒すことは出来ないだろう。何せ数が多すぎる。下手に動けば陽動どころか簡単に殺されてしまうだろう。あれだけの数を一度に相手するのは愚策だ。


 何人だ。

 目の前には何人いる?千か?二千か?

 相手より自分の方が目は良いはずだ。物陰に隠れて偵察している分には気づかれることは無い。策を練るんだ。何かいい方法があるかもしれない。

 ......いや、ここに居ては何もできない。何も始まらない。

 戦え。

 出来るところまでやってやる。

 俺の右腕も左腕もまだ戻らないままだった。もしかするともう戻らないのかもしれない。

 でも戦えるならそれでいい。

 二度とこの力が使えなくなってしまうか、この腕のままかを選ぶならこの腕のままを選ぶだろう。

 それが俺の歩く道だ。歩かなければならない道だ。


 俺はその思いに背中を押されるように走り出した。

 相手の視界にチラリと映り込む程度、存在を認知されるがどこにいるか特定はできない。そのギリギリを行く速さで相手の目の前を通り過ぎる。

 兵士の目が俺を追った。

 こちらを振り向いた瞬間が作戦の開始だ。

 さぁ、来い!!


 初対面の相手の身体能力は分からない。だが予測することはできる。戦場のレベル、大隊の人数、俺はその事情に詳しくはないが戦いに関しての勘だけなら誰にも劣らない自信はある。

 戦線を一度、前に見たことが功を奏した。

 戦場には様々な強さの人間がいる。俺より弱い人間も、バケモノみたいに強い人間も。

 あの三日月を顔に浮かべた悪魔のような人間はそうはいない。あの強さになれば、そこそこ顔が知れ渡るようになるらしいということを、俺はあの牢獄の中で知った。俺の目の前では噂話をしていなかったようだが、俺の耳なら牢獄の中の音ぐらいなら全て聞き取れる。

 俺の目の前に居るのは小隊が何個も集まった大隊が複数個と言ったところだ。


 だが何かがおかしい。

 違和感の正体は分からない。

 何かとてつもない物を見落としているような気がした。


 兵士が振り向いた瞬間に正拳突きで意識を刈り取る。相手が魔法を構える前に倒れた相手を敵に投げつける。

 何人かがドミノ倒しの様に倒れるが、それだけだ。

 たったそれだけ。

 こちらを狙える人間が狙えるだけこちらを狙っている。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 俺は右手で地面を思い切り殴った。

 地面が抉れて巨大なクレーターを形作る。それは人一人がすっぽりと隠れても余りあるほどの大きさだった。

 俺は歴史の授業か何かで習った塹壕戦と言うのを思い出していた。

 端的に言うと雨あられのような機銃の弾を避けるために、長い溝を掘り進め機銃の後ろを取り相手を倒すというものだった。

 今回は俺が魔法弾に当たらないこと、俺が戦場に留まり続けていると相手に示すことによって相手を踏みとどまらせることが条件だ。一人で陽動作戦なんて普通は出来ることではないがそれでもやるしかない。

 理屈で踏みとどまっていては、こんなことは出来ないのだ。


 ここは隠れるために作った場所ではない。

 俺がここに居ると思わせるために作った穴だ。塹壕のような立派なモノを作る時間は俺にはないし、それには相手が近すぎる。次に掘る場所を予測された時点で即死だ。


「撃てぇ!!」

「『空躍(くうやく)』」


 俺が居た場所に魔法弾が複数打ち込まれ、穴の中で暴れまわって穴を大きくしていた。俺はそこに皆が気を取られている間に回し蹴りと足刀を別々の敵に食らわせた後、胸倉を掴み空中に放り出した。

 誰かが空を見上げた。高く舞い上がるそれを見て、自分の存在を思い出したときにはもう遅い。

 ぽっかりと口を開けたマヌケの顔にフックを叩き込む。顎が外れるように動いた後、ドサッと倒れた。


 敵の目線がこちらに動いた瞬間にまた地面に拳を叩き込む。

 自分の腕から出たとは思えないような爆風と土煙。どうしようもない土くれが自分の方向にも跳ね返って飛んできて、後にはデカい穴が残る。

 黒い腕はこんなにも強い物なのかと呆れるが、これが自分の力なのだと思うと恐ろしくも嬉しくもある。だがこんなことでは相手は倒せない。

「『空躍』」

 跳ぶ。

 空躍の制動距離も段々と短くなってきて実践レベルになりつつある。修練の賜物だ。

 また穴は魔法弾につぶされてしまうが時間稼ぎにはなっている。


 だが一向に敵の数が減っている気配はない。このままでは埒が明かない。

 この小隊の長はどこだ?長を叩いた方が手っ取り早いが、なかなか見つけられずにいる。そのために位置を変えながら小隊長の位置を探しているのだ。もう少し見分けがつけば良いのに。

 そう思いながらしきりに目を凝らす。

 居た!

 一人、指令を出しそびれて狼狽えている男が居た。

 俺は心の中で苦笑しながら、穴を目で追いかけている男を狼狽えている男に向かって蹴り飛ばした。まぁ、あんな頭は有っても無くても変わりないだろうが、有るよりは無いほうが良い。

 だが小隊一つを倒しただけではどうにもならない。

 この小隊をまとめているのが大隊長だ。その人間を止めればとりあえずは足止めできる。


 ここまで来て違和感の正体に気づく。

 この大隊をまとめているのは誰だ?

 この膨大な数の人間をまとめている部隊が存在しない。

 それが違和感だ。


 どこだ。どこにいる。

 こんなことをしている間にも人が進む。


 俺は高く跳んだ。狙われやすくはなるがここからなら遠くまで見渡せる。

 そこで俺は絶句した。


 山が動いている。


 山と言うよりは城だろうか。歪な形の巨大な物体の周りに人間が並んでいる。あんなものは見たことがない。

 その上に1人誰かいるように見えたが、はっきりとした姿まではよく見えなかった。


 束の間の滞空時間が終わり、体が降下し始める。

 上空で体を捻りながら魔法弾を躱し、地面に着地する瞬間に拳を地面に打ち付けて衝撃を吸収する。

 衝撃を吸い込んだ地面は重さに耐えきれなくなった空き箱のようにベコリとへこんだ。


 一体あれは何だったんだ!?

 あれが全てを従える本当の頭なのか!?


 畳み掛けるように状況は悪化する。

 甲高い金属音にも似た爆音が耳を叩く。音の発生源は後ろだった。

 その音が何から発生したものなのか理解が追いつかなかったが、次第にそれの正体がわかった。


 大障壁が割れた。


 確かに小隊を抑えるだけではどうにもならないとは思っていた。だが、ここまで速いとは……!

 不味い。非常に不味い。

 どうか、間に合ってくれ!!

 ここまで来たら最早、俺に足止めはできない!


 だから突っ込む。

 俺の空躍は奇襲向きだ。行くしかない。

 例えそこが地獄であろうとも行くしかない。

 俺は戦い抜くと決めたのだ。

 覚悟はとっくに出来ている。

 いざ、戦場へ。

動く城!?まるでジブリのあれじゃないか!?と思った人はちょっと違います。もっとでかくて機械っぽくないやつが訳の分からない原理で動いていると言った感じです。

続きはまた明日!


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