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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
掌握と堕落の第二章
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嫉妬

 現実に戻ってきた田熊を襲ったのは、体の中が焼けるような激しい痛みだ。心臓の鼓動が血液を送るたびに、体が悲鳴を上げるのが分かる。

 だが同時に分かることがあった。

 力が溢れてくる。そうとしか言いようのない感覚だった。

 これまで力が溢れてきたことなどなかった。力はあくまで自分の物であって自分で振り絞るものだからだ。これは明らかにそれとは質が違う。


 俺は拳に力を入れる。力を注ぎこむと言った方が正しい。

 ゆっくりと腕を燃やし尽くすような熱さに耐えながら、右腕に溢れんばかりの力を移していく。

 突如、一際強い心臓の音とともに俺の体に異変が起こった。

 腕が黒く変色していく。まるで炭化した人間の腕のような色だった。そして腕が肥大化する。その腕は筋肉の配置や、合理性を無視して、直立状態で地面についてしまいそうなほど大きくなる。

 腕から人間の体にあるはずのない異物が飛び出した。無数にあるそれらは腕全体を包み込み、まるで魚の鱗の様に固くびっしりと敷き詰められる。


 持ち上げた右手は予想以上に軽い。見た目には反して、元の腕より軽いかもしれない。

 無くなった指が戻っていることに気づく。拳を握り、構える。力を入れた瞬間に一気に鋼鉄の様に硬くなり、一塊の巨岩のようになる。


 これならば勝てるかもしれない。


 --------------------


 真っ黒い腕。

 まるで人間のものとは思えねぇ。

 田熊が俺の出した糸をそのまま握りつぶすのが、はっきりと見える。部位は破壊できているようだが、すぐにまた再生しちまう。アホみたいな力だ。

 この熱さからなのか冷や汗なのかは分かんねぇけど、汗がダラダラ流れてくる。

 チキショウ。

 あんなもんも手に入れちまったのか。

 アレじゃあまるで――


「バケモンじゃねぇかよ。」


 --------------------


 俺から見たお前たちは、これまで十分にバケモノだった。

 俺には魔法が使える感覚が分からない。俺が魚とは違って、水の中では呼吸できないのと同じぐらい分からない。

 今の俺の姿を見れば確かにバケモノに見えるだろう。

 でもな、俺からしてみれば、訳の分からない原理で動く高火力の弾を放ったり、おおよそ重量上げの世界チャンピオンでも持ち上げられないであろう量の槍をいとも簡単に動かしたりして、それを何とも思っていないお前たちの方が、よっぽどバケモノだ。


 俺は槍を無理やりねじ伏せて、変色した腕が焼けるのにも構わず槍を破壊する。

 俺の腕もすぐに再生するとはいえ、やはり焼けるのは痛い。そのうえしっかりと意識を保ちつつ、次なる攻撃を全て予測し、最善の一手を導き出す。

 そうでもしないと金城とまともに戦えない。


 やはり金城は強い。俺はキツく奥歯を噛み締めた。


 --------------------


 俺が生み出した魔法を次々にぶっ壊していく。テンポよく、着実に、一つずつ丁寧に、壊していく。

 このままでは負ける!

 一体、コイツはどこまで強くなるんだ!?


 思えば昔からコイツはそうだった。

 俺は武道とかには、全く興味は無かったがコイツが強いというのは噂に聞いていた。もっともコイツはそれをひけらかすどころか、他人と話さえしなかったわけだが。

 俺はその姿が気に食わなかった。

 何度かサッカーに誘ってみたけどコイツがそれに参加することは無かった。

 食事時には教室の中央であっても、自分一人だけの空間を形成していた。

 コイツには自信があった。俺は色々なことも出来るし、周りにも気は配れるが、それをしなくなって周りから人が遠のいていけば、コイツの様に自分の芯を持てるという自信は無かった。


 俺は一人では生きていけないが、コイツは一人でも生きていける。


 ここまでやって来てふと気づく。

 この嫌悪は嫉妬だ。

 俺が絶対に持つことが出来ないであろう『自分』という人間の核を持っている田熊への嫉妬心だ。

 俺は心のどこかでずっとアイツのことを羨ましいと思っていた。自分の立場を作るために躍起になって努力していた俺は、そんなことをしなくても自分を持つ田熊を妬ましいと思った。

 俺には信じられる何かは無かったから。


 そのことに気づいて、そんなことで田熊を嫌悪していた自分に呆れた。次に、この気持ちに気づけた自分ならもしかしたら田熊を純粋に認められるかもしれないと思った。そして、そんな相手を倒すためには持てる全力を出し切らなければならないと決意した。


 あの田熊に中途半端な武器などは通用しない。通用するとすればあの腕に対抗できるほど強い威力の武器だけだ。

 もっと強く、マナを集中させろ。

 俺の持てる全てを注いだ槍を作り出せ。

 周りから槍がなくなるとともに一点にマナが集中する。

 田熊を倒せる新たな槍を、この場で創造する!!


 --------------------


 それは戦いの最中とは思えないほど神秘的で優雅な光景だった。

 俺が感じることの出来ないはずの何かの流れが、金城を中心として集まってきているのだった。金城はゆっくりと目を閉じる。普通ならば致命的だろうが、一瞬で集まった力が具現化する。


 それは赤熱を通り越して白色に輝く薙刀だった。ところどころに施された金色の装飾は職人が何日もかけて作るそれに等しい物のようにも思えた。それから発せられる圧倒的な熱量は他の追随を許さない。溶鉱炉の具現化のような炎の塊が洗練されたフォルムになって目の前にたたずんでいる。

 何だこれは。


 ゆっくりと開かれた金城の目は蒼く輝いていた。その目には純粋な力への欲求が見て取れた。鋭く強い目だ。

 矛先がピタリとこちらを向いていた。


焔纏白日之劍(ソル・ヴォルカグニ)!!」


 この土壇場で新しい武器を生成する。

 そんなことが出来るのは、圧倒的なセンス、つまり才能であった。

 何でもうまくこなす容量の良さ、すぐに物事の重要な部分を汲み取れる才能の塊。俺が羨ましいと思ったのは魔法だけではない。

 だから俺は嫉妬した。

 そんなものは自分にはないからただひたすらに努力を積むしかなかった。誰よりも努力をしてきたのに才能ある一角の人間に勝てないままでいる。

 もしもそれが在ったらと妬んでしまう。


 だからこそ俺はここで超えて見せる。

 右手で足りなければ左手も使うしかない!!

 俺は一瞬で左手を黒く変色させる。感覚は掴んだ。痛みには慣れないけれど。

 さらなる強さを。


「金城ォォ!!」

「田熊ァァァ!!」


 俺は一直線に間合いを詰める。

 燃え盛る薙刀の刀身を手刀で受ける。刃の部分を避けて触れているのにも関わらず、黒い腕は溶かされるように燃えていく。

 自分の腕がすり減る痛みに耐えながら、手刀を這わせて剣の軌道を変える。破裂するような痛みと共に自分の腕が蒸発していく。

 自分の腕が尽きる寸前に刀身と柄の境目にたどり着く。

 だがこのまま薙刀は柄の部分も発光している。生身で触れれば即座に焼き切られてしまうだろう。

 だがここまで来られた。この間合いが重要なのだ。

 重心を一気に落とすことによって相手の視界、攻撃の線から逃れると同時に十分に足の筋肉に力を入れることが出来るようになる。それがギリギリ通用するのがこの間合いだ。


「なっ!?」


 姿勢を一気に低くする。

 右手は指を揃えて掌底を形作る。この位置からなら確実に入る。これは勘ではない。圧倒的な練習量から来る経験則である。片足を大きく踏み込み腕全体を硬化させると同時に、一気に空気を肺の中に溜める。


魔拳滅殺(まけんめっさつ)!!!」


 掌底は魔導障壁を破り、金城の鳩尾に完璧な角度で入った。

 金城は当たった衝撃で斜め上に一直線に飛翔する。ただドーム型の結界に直撃すれば体はただでは済まないので、もう一歩踏み込んで自分の体の勢いを加速させ、ドームに当たる寸前で受け止める。

 そのまま地上に降りると金城をそのドームの中に寝かせた。


「すまない。」


 俺は自分を止めようとしてくれた金城への後ろめたさを感じながら、結界の外へ出た。

お互いが嫌悪していたのは、お互いがその良さを分かっていたからです。

戦いを通して田熊と金城はお互いを認め合うことが出来ました。

この戦いが終わればきっと彼らの関係は今よりも良くなるはずです。

そう。

無事に終わればの話です。

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