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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
掌握と堕落の第二章
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王女

「私は、フェンリル国第三王女、ベルモット=フェンリルよ。」

「「......は?」」

「いや、言ったでしょ。私が何者なのか言えって。」

「頭が追い付かない。」

「結構、何を言われても大丈夫なように覚悟していたつもりでござるが......」


 普通なら冗談だと思ってしまうが、状況が状況だ。

 嘘や冗談を言えるような雰囲気ではないし、何より彼女のエメラルド色の瞳が本当だと言っている。

 単に理解が追い付いていないのである。こんな返答は俺の予想には無かった。


「でも俺は信じる。」

「田熊氏が信じるなら、最早拙者が疑問を抱く必要はないでござるよ。」

「......ありがとう。」


 ベルモットは少し驚いたような顔をして、すぐにいつもの妖艶で大人らしさがにじみ出る表情に戻った。

 彼女の驚いた顔は、少し幼げな感じがする。

 俺はその顔が無ければ信じようとは思わなかったかもしれない。


「それならばフェンリルの人々は、お前が居なくなったことによって攻めてきた。多分、そういうことであってるよな?王ならば娘を連れ戻しに来るのは自然だ。」


 それに王ならば戦力も整えられるはずだ。

 結局、俺のせいでこの侵略が起こるのだと思うと、もっと考えてから行動しなかった自分を責めたくなる。頼まれたからって普通は連れて帰らないだろう。


「それは違うと思うわ。」

「何故だ?」

「アイツは私の為に動かない。それだけは言えるもの。」

「......」


 普通の父と娘の感覚で考えてはいけないのかもしれない。

 俺は彼女の瞳を見つめながらじっと話を聞いていた。


「私たちの国は、過激派と穏健派が居るの。王国は過激派だったのだけれど、穏健派の人々を動かすことはできなかったの。私が予想するにアイツは、私が相手に連れ去られたとでも言って穏健派を動かしたのね。」

「はたから見れば連れ去られた様に見えるじゃないか。」

「それもそうね。でもアイツはそんな風には考えないでしょうね。」

「どういうことでござるか?」


 卓男と俺の頭には分かりやすいクエスチョンマークが浮かんでいた。

 彼女の言うことには偏見が多く含まれているように見えた。それが単純な嫌悪感からなのかもっと深い理由なのかが分からない。


「アイツは私が国を抜け出そうとしていることを知っていたもの。現に何回も傭兵に捕まえられたことがあるわ。捕まえられた私は何度もアイツの前に立たされたわ。」

「だから、連れ去られた可能性は低いと思われているだろうということか?」

「そうなるわね。それにアイツは私が脱走することをそこまで悪いとは思っていなかったの。もともと私は第三王女だし、お兄様が王位を継ぐことになっていたから私が居る必要は無いの。」


 ベルモットの思考の中には肝心なモノが含まれていない。

 ベルモットがアイツと呼んでいる人間が、彼女の父親だということだ。娘が必要のない父親などいるはずがない。

 ベルモットは俺がそう考えたのを知ってか知らずか、それに呼応するように答えた。


「世の中にはそういうヤツも居るのよ。貴方みたいな中途半端なお人よしには信じられないかもしれないけれどね。アイツは私を娘とも思っていないわ。」

「そんなことが――」

「あるのよ。」


 俺はこの悲し気だがそれを割り切っている人に、どう声をかけたら良かったのだろう。

 俺はそれに対する答えを見つけられないでいた。

 その時、大きな音を立てて扉が開いた。思わず心臓が跳ね上がるが、そこから入ってきたのは金髪の少女、ティファだった。


「ベル!!あんたねぇ!本当にそうだとしても、親のことをそういう風に言うもんじゃないの!!」

「でも」

「でもじゃないの!!私はあんたと父親の関係なんて知らないけど、あんたもその父親のことを全部知ってるわけじゃないわ!!ちゃんと話し合ったことあるの!?無いでしょう!ちゃんと話してからそういうことを言いなさい。」


 多分盗み聞きをしていたのだろう。その行為自体は決して称賛されるものではないし、ベルモットだってその行為を非難しようとしたはずだ。

 だがそれを聞いたベルモットの顔はただの少女になっていた。大人の顔は彼女を大人にするための仮面脱炭かもしれない。彼女が無理矢理に作り出したその仮面が今ははがれているような気がした。


 やはり、俺には誰かを叱るようなことも、心に響くような言葉も言えない。

 でも俺に出来ないことをティファはやってのける。性格に難はあるが......それも彼女のチャームポイントと言えなくもない。

 ベルモットはくすりと笑った。


「そうね。ありがとう。」


 俺は外を眺めた。その時に見えたのは驚愕の光景だった。

 窓の外の遥か遠くに黒い粒粒が見えた。

 アリの行列よりも大きく太いそれらは着実にここまでの距離を詰めてきている。あれだけの数の人を俺は見たことがない。俺の予感は当たっていた。

 まだこの距離であれば何かが出来るかもしれない。だが俺にはその方法がこれしか思い浮かばない。


「行ってくる。」


 俺は窓枠に足をかけた。

 ティファが慌てて俺の服の裾を掴んだ。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!何があったの!?」

「予感が当たった。」

「何の予感よ!?」

「敵が攻めてくる。大軍勢だ。ティファは全員にそれを知らせてこい。」

「はぁ!?」

「じゃあな。」


 俺はそう言って窓から外に勢いよく飛び出した。


 --------------------


 目の前に人影が見える。ティファさんだ。

 とても急いでいる様子だ。その表情は鬼気迫る表情だった。


「よう、ティファさん。そんなに急いで、何かあるのか?」

「大変よ、金城!敵が攻めてくるらしいの!!」


 その言葉に金城の目つきは一瞬で険しいものに変わる。


「それ、誰が言ってたんだ?」

「田熊よ。」

「あのヤロー......!」


 俺の中で熱が湧き上がってくるのを感じた。昔から気に食わない奴だったが、まさかこんなことまでするとは思っていなかった。

 俺は窓の外を眺めた。

 はるか遠くに何かがうごめいているのに気づく。言われてみなければあんなものに気づくことは無かっただろう。

 それは見たこともないような大軍勢で、俺達全員でかかったとしても倒せないかもしれない量だった。


「ティファさん、ありがとう。」


 俺は念話の魔法をボルドー隊長に繋ぎ、敵の軍勢が攻めてきている事を伝えた。

 アイツは報告すべき義務を全てティファさんに擦り付けて行ってしまった。どれだけ迷惑をかければ気が済むんだッ!?


 アイツは他のやつに頼ろうとしない。いつ何時であろうと。


「クソがッ!!」


 俺は一足先に出てしまったであろうアイツを食い止めなければならない。1人の人間をあんな戦場に出てしまったら守れるはずがない。

 俺は一目散に駆け出した。

出ていった田熊を追いかけるように金城が戦場に行きました。

果たして2人が出会った時何が起こってしまうのか。

明日もお楽しみに!

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