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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
終焉と希望の第八章
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希望

 少年は涙を流しながら叫んだ。


『お前が選べ、田熊!! お前が正しいと思う選択をしてみろ!!』


 少年は選択肢を叩きつける。

 俺が後回しにしていた選択だ。


『僕を殺して魔法も人間も全員見捨てるか! それとも僕との共存を選ぶか! さぁ、どっちなんだ!?』


 この少年を殺したところでなんの解決にもならない。

 それで俺達の世界から来た人間たち以外が全て死んでしまうのなら倒す意味がない。

 だが、共存を選ぶのは諦めだ。

 可能性を模索せず、やりたい事と違う道を選ぶのはただの諦めだ。

 そんなことはいつでもできる。


「一つ聞きたい」

『何だい』


 少年はもう俺に何かを隠そうとは思っていないみたいだった。


「もしもお前を殺さなかったとして、お前は人間を守ろうと思うか」

『思わない。僕は一度決めたことは曲げない質なんだ。だからこの世界を終わらせる。君がどこに行こうが関係ない。自分が生み出したものを消すだけだ』


 少年が涙を流したまま力なくフッと笑った。


『疲れたんだ。人を育てることも、愛情を注ぐことにも』

「そうか」


 少年の意志は固かった。

 だがそれを固く誓ったわけではなくて、単にそうでない選択肢を選びたくなかったから世界を終わらせようと思ったというだけのような気がした。


「だったら、お前と共存するわけにはいかない」

『じゃあ僕を倒すのかい?』

「どうだろうな」


 俺は何か打開策が無いか考えていた。

 少年の言葉を思い返しながら、もう一つの選択肢を手繰り出す。


「俺がお前の作った魔法を受け継ぐことはできないか?」

『無理だね。魔法は僕が発動の仲介をしているから、君にその代わりは務まらない』

「どうやってもか?」

『無理と言ったら無理だよ。魔法は僕が作ったものだから、何が出来るか何が出来ないかは僕が一番良く分かる』


 少年の言葉には偽りがない。

 きちんと重みのある言葉だ。

 俺はその少年の態度を見ながら、少年がもう意志を持つ気力すら投げ出してしまったのを感じた。

 

 多分、今の少年なら俺が倒すと言えば抵抗もせず倒されるだろう。

 少年は全ての決定を俺に託した。託したというには少し消極的だが。


 俺は他の案も考えてみる。


「なぁ、人間を普通の人間にすることはできないのか」

『それには膨大なエネルギーが必要だ。そんなエネルギーはここにはない』


 あっさりとそう言い切られる。

 もしも人間を元に戻すことさえできれば、少年を倒しても失われるのは魔法だけだ。

 エネルギーをどうにかして集める方法が無いだろうか。

 俺は胸に手を当てて考える。

 胸に手を......?


「なぁ、俺の体をエネルギーに使えないか?」

『は?』

「だって俺の体の中には魂が沢山詰まってて、それの元はマナなんだろ? だったら俺の体を使って魔法を使えばどうにかなるだろ」

『正気か?』


 もちろん、と言い添える。

 少年は唖然とした顔で俺を見つめた。


『それをしたら君は死ぬかもしれない。というか十中八九死ぬんだよ?』

「少しでも可能性が残ってるなら良いじゃないか」

『それに僕を倒せない』

「......それもそうだな」


 俺は別の方法を探そうとするが思いつかない。

 今の俺にはこれが最善の方法に見える。


「なら同時。いや、お前が魔法を使ってからコンマ数秒単位で調整してお前を倒す」

『本気で言っているのか?』

「まかせろ。タイミングを合わせるのは得意なんだ。今まで外したことがない」

『......狂気だね』


 俺は何度か狂気じみていると言われたことがある。

 別にそれでも良いと思っている。実際、俺の自己犠牲の考えは多分他の人には真似できないと思っているし、そこが自分の長所だとも思っている。


 少年は俺の体に触れた。

 何かを確かめるように目を閉じたまま数分が過ぎた。

 俺はその間、小さな身じろぎをすることもなく立っていた。


 少年は俺の体から手を放し目を開けた。


『足りる』

「本当か!?」

『どうにかね。僕の中にある分とここにある分、君の中にある分、全部足してギリギリって感じだ。驚いたよ。沢山のマナを取り込んでいるとは思ったが、まさかここまでとはね』


 俺は胸をなでおろした。

 少年は俺の様子を見て、皮肉を言う気力を取り戻す。


『これから死ぬかもしれないのに悠長だね』

「みんな救う事が出来る道が見つかったんだ。別に良いだろ」


 少年は呆れたように笑った。

 こうやって話していると少し前まで敵対していたとは思えない。

 今も敵対はしているのだが、相手も俺も戦意喪失してしまったというのが正しいだろう。


『魔法の無い世界で彼らが生きていけるかどうか』

「生きていけるさ。人間はそんなことで生きることを諦めたりするほどヤワじゃない」


 俺は白い空間の向こうを見つめるように遠くを見据える。


「これからは皆で力を合わせて道を切り拓いて行くんだ。自分の未来をつかみ取るんだ」

『そうだと良いけどね』


 少年はもうそのことを諦めてしまったみたいだ。

 彼が見て来たこの世界の人間がどんな生き方をしていたかは分からないが、彼にもそれを信じた時期があったのだろう。


 少年は俺の体に手を当てた。

 どうやらこれから始めるらしい。


「こうなれたのも元をたどればお前のせいなのか。少しは感謝もしなくちゃいけないのか?」

『今更だね。死ぬ前に神に祈りでも捧げとくかい?』

「悪いな。俺の家は浄土真宗なんだ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」


 死ぬ前というのに不思議と怖くなかった。

 笑いが込み上げてくるぐらいだ。

 心のわだかまりが取れたようだった。


『じゃあ行くよ』

「おう」


 表情を引き締める。

 少年の背後に巨大な魔法陣が現れた。


 少年が俺の体に手を触れる。

 そのまま俺の体の中に手を突っ込んだ。

 体中を痛みが走るが歯を食いしばっても耐えられないほどではない。

 俺も少年の体に掌底を当てる。


 魔法陣が光った瞬間に間髪入れずに叫ぶ。


『『天地開闢』!!!』

「『魔拳滅殺』!!!」


 膨大な質量が解き放たれた。

 体がふわりと軽くなる。

 目の前の少年も俺の体もバラバラに砕けていく。

 不思議と痛くは無かった。


 そして白い空間が弾けた。

 決着です。

 戦いではなかったですが、結果的に田熊は目指した結果を勝ち取ることが出来ました。

 果たして魔法の無くなった世界で彼らはどうなってしまうのでしょうか。


 明日も連続投稿です。

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