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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
終焉と希望の第八章
132/136

 俺はその白い果ての無い空間に足を踏み入れた。

 ここが少年の居た場所。


「ついにここまで来たぞ。」

『ここは僕の場所だよ。君が入って来て良い場所じゃない』

「お前はこんなところで高みの見物をしていたのか......!」


 少年はこの場所から、人を操り、争いを起こし、多くの人の命を蔑ろにしてきた。

 決して許される行為ではない。


『僕が居なければこの世界は生まれる事すらなかった。生物も人も魔法も生まれることは無かったんだ。だから僕にはこの世界を好きに従える権利がある。好きに弄ぶ権利がある。そうだろう?』

「そんなわけあるか、この外道が」

『ひどい言いようだね』


 少年は笑った。

 俺が怒っていることに対して、その反応が面白いという風に。


『それにしてもこんなところまでよく来たね。正直、ここまで君が来るとは思っていなかったし、人がここに足を踏み入れるとは思っても居なかった。一体どんな手を使ったんだい?』

「ここには俺だけの力で来られたわけじゃない。俺は色々な人に支えられてここまで来た。お前には想像もつかないかもしれないけどな」


 卓男が作ってくれた剣。

 今は役目を果たし、外装を留めるだけのガラクタになってしまった。

 どんな原理でここに入ってきたのかは分からない。

 でも実際に俺はここにいる。


「俺は全てを救うためにここまで来た。色々な人の思いを背負ってここに立っている」


 俺はこの世界の人々を救いたいと思った。

 俺は英雄になりたかった。

 俺は正義の味方になりたかった。


 でも今はそれだけじゃない。

 俺の意志には支えてくれた人々の意志が宿っていた。

 そして彼らもそれぞれに道を歩む決断をした。

 戦わずにお互いを認め合える道を探し出した。


「だからお前を倒す。もうお前はこの世界には必要ないんだ」

『出来るものなら』


 少年は挑発のようにニヤリと笑った。

 底意地の悪い笑みだった。


 そして少年は()()()()()()


『僕はここでは何もしない。君の好きなようにすればいい。ただし、僕を倒すということの意味を本当に分かっているのかな?』


 少年は両手を上げたままそう告げる。

 俺はその意味を理解しかねていた。


『僕が死ねば僕が作り上げたものは全て消える。魔法はもちろん。そして()()

「......どういうことだ」


 人が消える?

 一体どういうことなのか。


『おかしいと思わないかい?』

「何がだ?」

『この世界には君たちの世界とは違った物が沢山あるということに、だよ。魔法然り、マナ然り、魂然り。特に、『人間は魂と肉体から出来ていて、死んだ人間の魂は魂の保管庫に貯蔵される。魂と肉体となるものを組み合わせれば、人間が蘇生できる』なんてそんなことあり得ないと思わないかい?』

「何が言いたい!」


 少年は口の端を釣り上げた。

 生理的な嫌悪感が俺の体を這いまわる。

 これから少年の口から聞きたくなかった言葉が飛び出すであろうという勘。外れてくれと祈りながらも、外れることは決してない。


『この世界の人間は、僕が作ったまがい物だということだ』


 愕然とした。

 この世界の人間はまがい物?

 ティファが? ベルモットが? 隊長が? ロアさんが?

 沢山の人の顔が脳裏をかすめた。


『普通の人間に魂なんて存在しないよ。僕は魔法を作り上げる過程で、エネルギーを高密度に圧縮した物に意志を持たせることに成功した。それを入れ物の中に入れて動かすことに成功した。いわばブリキのおもちゃの中に電池を入れて動かしているようなものだよ。それがこの世界の人間だ』


 ゾッとした。

 そんなこと、思い浮かべたことも無かった。

 てっきり、自分にはまだまだ知らないことがあるのだなぁという程度にしか思っていなかった。


『死んだ人間の魂は保管庫の中に入れられる。それはマナをこの世界に溢れさせないようにするためだ。必要以上のマナが世界に溢れると僕でも対応できないような超常現象が起きかねない。だからプロメテウスを誘導して保管庫を作らせた。死後の魂が出て行かないようにするために枷となる魔法も付け加えさせた』


 死んだ人間の魂は枷に縛られる。まさかそんな理由だったとは思わなかった。


『まぁ、君とガイノウトがその枷を緩ませちゃったわけなんだけど。あのバケモノは役に立つかと思って取っておいたのだけど、それがまさかこんな結果を引き起こすとは思わなかったよ』


 少年は俺の体を指差す。

 俺は自分の体に触れた。

 俺の体の中には沢山の魂が詰まっている。その魂は今はおとなしい。

 これが死後の罪が軽くなった証拠なのだろうか。


「なんでお前は、不完全な人間を作り出したんだ」

『なんでって、それは面白そうだったからさ。それに人間を本物の形で作るのはかなりの手間がかかる。莫大なエネルギーが居るんだ。それこそ、この世界のほとんどのエネルギーを使いはたすぐらいにはね』


 その理論に頭に血が上るのを感じた。

 面白そうだったから? エネルギーが居るから? そんな理由で生命を弄んだのか?

 そもそも、何でこの少年は人間を作り上げることができた?

 なぜ作ったのが人間だったんだ?

 元から人間を知っていたのか?


 行き場のない疑問が湧き上がる。


「人間は、そんなに簡単な生き物じゃないだろ」

『良いじゃないか! 君は僕が作り出したまがい物で楽しんだのだろう? ティファとかいう名前の――』

「それ以上、彼女の尊厳を貶めるな!!」


 俺は吠えるように言葉を吐き出した。

 少年はその様子を心底面白いという風に笑った。

 俺はティファを偽物だと思ったことなんて一度もない。彼女は俺と同じ人間で、少し意地っ張りで、皮肉ばかり言うヤツで......だけど芯が一本通っている強い心を持った一人の少女だった。


 少年は俺の気持ちを確かめた上で言葉を放った。


『このまま僕を倒せば、魔法どころか、君の愛した人形さえもバラバラに砕け散るだろう。当然だよね。マナが壊れれば魂も壊れるんだからさ。――それでも僕を殺すかい?』


 答えは分かり切っているという風に少年は笑い始めた。

 俺は膝から崩れ落ちた。

 一体どうすればいい。何をすればいい。

 その答えを誰かが教えてくれるなら、どんなに良かったことだろう。

 だがしかし、そこには俺一人しかいなかった。


 手か零れ落ちた剣の柄に一枚の紙が括りつけられていた。

 メモだ。

 確かベルモットが読めと言っていたものだった。

 俺はすがるようにそのメモを開く。

 そこには俺の求めている二択の答えは書かれていなかった。

 だがそこには、俺の求めていた『ある仮定』が書かれてあった。


 それは卓男が話していた『ある仮定』について書かれてあった。

 もしもこの理論が正しければ、剣はちゃんと機能を果たし、少年のところまで連れて行ってくれる、と。


 それを読んだ瞬間に、俺の中でとあるパズルの最後の一ピースが埋まったような気がした。

 全ての疑問を解決する一ピース。

 なぜ少年は人間を作り出したのか。

 なぜ少年のことを神様だと思えなかったのか。

 なぜ少年の気持ちが俺には理解できるのか。


「なぁ、一つ確認して良いか」

『なんなりと』


 俺は立ち上がる。

 一つの答えを提示するために。


「お前、人間だろ」


 少年は眉すら動かさなかった。

 だが、その瞳には動揺が映っていた。


『どうやってその答えに行き着いた』


 場が異様に張りつめるのを感じた。

 怒涛の伏線回収です! ずっとこれがやりたかったんです!!


 そしてなんと! 今日から完結まで連続投稿です!!

 残り4話か3話、全力で駆け抜けていきますよ!

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