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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
終焉と希望の第八章
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覚悟の差

 荒れた荒野がまたもや戦場と化す。

 まさかこんなことになるとは思わなかったし、なってほしくも無かった。

 せめてここでもう一度血を流させてはならない。


「凌ぎ切る!」


 戦場を縦横無尽に駆け抜ける。


「これでも食らえ!」


 凶悪な大きさの魔法弾。

 躊躇なく俺はその魔法弾に向かって突っ込んでいく。


 高速から地面を抉りながらブレーキをかける。

 乾いた荒れ地が砂煙を上げた。

 ストンと腰を落とし、万全な体勢から正拳突きを放つ。


「ハァッ!」


 魔法弾が爆ぜた。

 バラバラになった魔法弾が俺の体に突き刺さった。体はこれまでにない速さで再生する。

 躊躇いもなく攻撃の中に入ってそれを打ち消した俺の姿を見て、ギョッと目を見開くのがありありと見えた。

 当然だ。背負っている覚悟が違う。

 

 間髪入れずに空中に飛んだ。

 魔法弾に突っ込むようになりながら、重力に逆らい跳び蹴りを入れる。

 

「うぉぉぉおお!」


 無理矢理突っ込んだせいでかなり無理な体勢で跳ね返すことになってしまった。

 一度膝を曲げタメを入れてからもう一度インパクトを叩き込む。

 魔法弾はその形を無くすことは無かったが、軌道が真上に変わり雲を切り裂いて彼方へ飛んで行く。

 反動で俺は地面に叩き落とされる。

 落ちる寸前に手を突き、かろうじて受け身で衝撃を流す。


 直後、飛んで来た連弾に体が焼かれた。

 だが二発目以降は全てはじき返す。

 ただ躱すだけでは駄目だ。

 後ろに攻撃を通してしまったら、誰かがそれを止めなければならない。

 それでは意味がない。

 ここから先には弾は通さない!


 上段受け、撃ち落とし、内受け、基本的な受け方だが洗練されればどんな派手な受け方よりも心強い武器になる。

 足さばきを利用して、普通では為しえない範囲の攻撃をカバーする。

 だが、この攻撃の量、再生が間に合わない!

 攻撃を受けるたびに破損した体がさらに飛び散っていくのが分かる!

 いつもは適度に攻撃を躱して回復の時間を稼いでいるのだが、今回はそれが出来ない!


 無茶に体を動かしたことで、少しずつ後退を余儀なくされる。

 横目に金城が映る。

 彼も彼でとてつもない動きだ。何個の目があるのか分からないほど大量の槍を一度に操り、それらで鮮やかに攻撃を切り裂いている。

 だが、明らかに最初よりも今の方が人が増えている。

 少年が今も市民の扇動をしているということなのか。

 金城はこちらに手を貸す余裕もないらしい。

 クラスメイトも一人一人が自分に出来ることをしている。

 ここで引き下がる訳には――


 生身の体で攻撃を受けきり、破壊と再生を繰り返す。

 そんな俺を倒そうとする住民たちの目は狂気に染まっていた。

 なんとしても俺を倒さなければならないという使命感に溺れているようでもあった。 


「この怪物どもがッ!」


 聞き慣れたセリフだが、怪物と呼ばれているのは自分だけではないことに驚いた。

 クラスメイトも怪物の中に含まれていた。

 彼らは怪物なんかじゃない。

 傭兵になるしか選択肢がない中、必死に努力して、ようやくここまでの力を手に入れたんだ。

 俺はクラスメイトが今みたいになる前を知っている。

 皆、それぞれに高校生活を楽しんでいた。そんな人並みの日常さえも、彼らは与えられなかったんだ。

 戦うための努力もしてない奴に何が分かる!


 四方八方から囲い込まれる。

 同時に放たれた魔法弾をまともに受け、俺の体は崩れ落ちた。


「田熊!」


 立ち上がろうとする背中にさらに叩き込まれる連弾。

 感覚が麻痺しているのか、人が倒れようとも攻撃をやめる気配すらない。

 その時。

 俺の脇を魔法弾が通り抜ける。

 あと五センチ俺の腕が長ければ届いていたかもしれない。

 ゆっくりとスローモーションのようにその映像が瞳の奥から流れ込む。

 魔法弾の先に居たのは塩見だった。

 仲間にバフをかけていて飛んでくる魔法弾に気が付いていない。


「塩見!」


 塩見がゆっくりとこちらを振り向く。

 そして目を見開いた。

 魔法弾の輝きが、瞳に映り、彼女が魔法弾の陰に隠れた後。

 爆ぜた。


「きゃっ!」


 一際甲高い悲鳴が戦場に響き渡る。

 爆風と砂煙が彼女の体を覆い隠す。

 一瞬、敵の攻撃が止まり、仲間の防御の手も止まった。


 砂煙が風に流されると、そこには倒れた一人の少女の姿があった。

 金城が駆け寄った。


「塩見! 塩見!! 返事しろよ!」


 金城が塩見の安否を確かめるため、肩をゆさぶり、耳元に大声で話しかける。

 首に手を、胸に耳を当てる。

 その様子を敵も味方も息を飲んで見つめていた。

 そして、顔を上げた。


「良かった! まだかろうじて息がある! まだ生きてる! 生きてる!!」


 はっはっはっと戦場にも関わらず大きな笑い声をあげた。

 敵のうちの一人が声を上げた。


「まだだ! まだ、俺達の戦いは終わってねぇ!」


 味方を鼓舞するように声を上げた。

 だが、住民のうちの何割かはもう狂気を失っていたようだった。

 目の前で倒れた普通の女の子の姿を見てしまった。

 そして自分の手には色々な人の大切な物を失わせる力があることを知ってしまった。

 こうなってしまえば簡単には動けない。

 彼らは戦士になる訓練も気持ちを割り切る練習もしていない。それが当然。至極普通の事なのだ。


「どうした!? アイツらは俺達の家族を殺すかもしれないんだぞ!?」


 その言葉に住民の目が見開かれる。

 震える手を無理やり持ち上げ、現実から目を逸らす。

 

「うぉおおおおお!!!」


 彼らが雄たけびを上げた。

 恐怖心から目を逸らし、なけなしの勇気を振り絞る。

 そして俺は――


 バキィィィィッッッ!!!!


 強く足を踏み込んだ。

 地面が裂ける音が民衆に轟く。

 彼らは唖然としながらこちらを見ていた。

 再び場が静まり返る。

 俺はそのまま、住民を煽っていた男に近寄る。


「何だ、お前は! 失せろ、バケモノ!!」


 彼は狂気に染まった目で俺を見ていた。

 だが少しだけたじろいだのが俺には見えた。

 彼は小刻みに震える手を俺の顔面に向けた。


「やってみろ」


 俺はそのまま進み、彼との距離を縮める。

 そして彼の掌を俺の頭に押し付けた。


「馬鹿、な」

「やってみろと言っているんだ!!」


 彼の顔からは冷や汗が流れていた。

 目に佇んでいた狂気は揺らぎ、手の震えはどうしようもなく収まらなかった。

 俺はその理由を知っている。


 覚悟が足りないのだ。

 

 彼が手を下ろした。既に力が抜けてしまっている。


「無理、だ。俺には、出来ない。俺にだって......お前にだって、家族が居る......!」

「その通りだ」


 俺はこの戦場が元の価値観を取り戻していることを感じた。

 そして緊張の糸が途切れた民衆がどうしていいのかも分からず涙するのを、俺は黙って見ているしかなかった。


『あれ? 僕があげた加護で、自分達の大切なものを守るんじゃなかったのかい? そんなところで立ちすくんでたら敵の思うつぼだよ?』


 聞こえたのは忌まわしい声。

 見上げるとそこには何度も見た少年の姿があった。

 少年は俺の姿を見て、ニヤリと笑った。


「この、ド外道がッ!」


 硬く握りしめた拳がギリッと音を鳴らした。

いよいよ黒幕が現れました。

ここからどんな展開を見せていくのでしょうか。

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