演説と決断
クラスメイトの宴会芸もほとんどネタが尽き、宴もたけなわになり始めた。
ちなみに俺はロアさんに無茶振りをされて、何か面白い事をしろと言われたが、何も思いつかなかったので、仕方なく武道の型をした。それはあまり盛り上がらなかったので、その後に素手でレンガを摘み取る力業を見せると割と盛り上がった。
今度からは見ごたえがある宴会芸を少し練習するべきではないかと反省した。
話のネタも無くなってきた頃、ボルドー隊長がスッと立ちあがる。
どうしたのだろう、と周りが静まり返った。
「さて、宴もそろそろ落ち着いて来たので、これからの方針について語ろうと思う」
隊長が俺に目配せをする。
俺は目を何回か瞬かせた。俺が言うのか? そう目で訴えかけた。
次の瞬間、俺の体が一人でに持ち上がる。隊長が俺の首根っこを掴み、体を持ち上げたのだ。
隊長が俺を隣に座らせたのは、もしかしたらこれのためだったのかもしれない。
視線が俺に集まる。
「えっと、何を話せばいいのか......」
皆が怪訝そうに俺を見つめる。
まさか自分がこれからの方針なんて、大それたものを話すことになるとは思っていなかった。
隊長が隣でそっと耳打ちする。
「気張らなくていい。これからやらなければいけないことを言うんだ。それとやりたいこと、もしくはやってほしいこと。することが無くなって、皆、前も後ろも分からない状態だ。お前のあやふやな言葉でも無いよりはましだろう」
隊長の酷い物言いに、俺はあまり期待されていないのだろうと少し落ち込む。確かに俺はこういった形で前に立って話すのが得意な方ではない。
しかしそう言われたことによって、随分と気が楽になった。元から期待されていないのであれば、多少上手く出来なかったところで問題ないだろう。
「えっと、俺達がこれからすべきこと。多分、色々あると思います。まず、他の国との関係を築くこと。そして最終的には国を一つにしなければいけないと思います。そして、石に頼らなくても生きていけるように技術を高めること。貧困層と裕福層の差を無くすこと」
俺がすべきことを指折り数えていく。
それを聞いていた人たちは、それぞれに俺が言ったことについて考えてくれているみたいだ。
「そして俺がしなければならないことが一つだけあります。皆さんが自立して生きていくために、俺は......ある少年を倒さなければならない。その少年は『神様』を名乗っていて、この世界をめちゃめちゃにしようとしている」
俺がそう言うと、人々の顔が青ざめたのが分かった。
少年がそんな発言をしたことを知っている人は、あの場に居たクラスメイトと、クラスメイトから直接話を聞いた限られた人だけだ。
その真意を確かめるように傭兵たちは隊長の顔を見つめた。隊長は否定せず、ゆっくりと一回頷いた。
「出来れば皆さんに力を貸していただきたい。もちろん直接戦うのは俺ですが、今はまだ対抗策がありません。だから対抗策が出来るまでの間、一緒に戦って下さい」
皆が怖気づいている。
ここからなら他の人の顔が良く見える。
「もちろん、無理に戦う必要はありません。それを強要してしまったら、俺達が戦争を無くした意味がない。でも、あなたが動くことによって、救われる命があるかもしれない。相手がどうやって何をしてくるのかは分かりませんが、直接的に手を出してくることは出来ないのではないかと考えています」
人々が眉をひそめた。
ここから先は俺の考えだ。
アイツが直接的に手を出せるならば、これまでのどこかで殺されていてもおかしくないだろう。
クラスメイトが集まっていたあの場で殺されていたかもしれない。
だが、それをしていないということは、直接的には手出しが出来ないと考えても良いかもしれない。
これまでにヤツがしたことは、俺に異能を与えたこと。人々に同様に加護と称して異能を与えてきたこと。石を作り出したこと。ガイノウトを作り出したこと。そして魔法を作り出したこと。
他にもいろいろあるかもしれないが、直接的に人の命を奪うことは無かったはずだ。
「直接的に手を出してくるなら、俺達にはどうしようもないかもしれない。でも、そうでないのであれば、まだ対抗のしようがあります。ですが、一人では何もできません。だから! あなたたちの力を貸してください!」
俺の説明を聞いて、すぐに二つ返事で肯定してくれる人は中々居ないだろう。
俺がずっと頭を下げていると、隊長がもう良いという風に俺の肩を叩いた。ロアさんが、服の裾を引っ張る。
「中々良い演説だった。だが、この場で決断を促すには少し」
隊長がそう言おうとした瞬間だった。
激しい光が窓の外から降り注ぐ。
遅れてやってくる爆音に窓ガラスがパンッと割れた。
「何が起こっている!」
「市街地方向からです!」
俺は目を凝らして市街地を覗いた。
そこには驚愕の光景が広がっていた。
「基地の外に何十人もの人が集結しています......それぞれが武器を手に取っている」
「それは、誰だ?」
「おそらく市民です」
「馬鹿な......」
何が起こっているのか完全に理解している者はこの中に一人も居なかっただろう。
だが、誰が後ろについているのか、それを想像することは容易だった。
「まさか、神がこれの黒幕を務めているのか?」
「どうやったのかは分かりませんが、このタイミングでこの暴動。そうとしか考えられない」
俺は顔を上げ、部屋から立ち去る。
一刻も早くこの暴動をやめさせなければ。
それが出来なければ、せめてこの暴動の理由だけでも突き止めなければいけない。
「待てよ!」
俺が外に出ようとした刹那、誰かに後ろから呼び止められた。
「お前、俺達を頼るんじゃなかったのかよ」
後ろに居たのは金城。
いや、それだけではない。
クラスメイトの皆がたっていた。
そして遅れてやって来た人影。
俺はそれを見てハッとする。
傭兵だ。
決断を迷っていたあの傭兵たちが、クラスメイトの後ろに立っていたのだ。
「若い衆が頑張ってるのに、俺達が何もしないなんてことが出来る訳ないだろ」
「お前が一番迷ってたくせによく言うぜ!」
「うるせぇ! 余計なこと言うんじゃねぇよ!」
「ありがとうございます」
俺はこの人たちの覚悟を侮っていたのかもしれない。
この人たちも俺達と一緒に戦ってきた仲間じゃないか。
「行きましょう。一緒に」
俺はそう言いながら、攻撃飛び交う荒野へ繰り出した。
謎の暴動の発生!
一体誰が何のために引き起こしているのでしょうか?




