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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
盲信と英雄の第七章
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下した決断

 俺は度重なる反動を受けて地面に急降下する体を操る。

 眼前を瓦礫が通り過ぎ、受け身を取りながら着地した。

 クラスメイトが唖然とした表情で起こった出来事を見つめているのを見て実感が湧いてくる。


「俺が英雄を倒した」


 ぼそりと呟いた。


 目の前の祭壇は最初の荘厳さが見る影もなく無残になっていた。

 あれだけの戦闘が起こった後だ。無理もない。

 俺はその祭壇の中央に何か光り輝くものを見つけた。

 それは水晶玉のようであり、俺が求めていた他のものたちと瓜二つだった。


「これが、生命石」

「これを祭壇の一部に組み込むことによってあれだけの蘇生を可能させていたということでござる。こんな石になぜここまでの力が秘められているのか理解しかねるでござるよ」


 卓男が懐から二つの石を取り出した。

 一つ目は記録石。全ての事象を記録するもの......とされてきたが、実はこれは鍵と一対になっていて、二つ組み合わせると記録石で記録された事を改ざんすることが出来る。そして改ざんされた記録は本物の歴史となる。

 二つ目は地動石。この世の全ての地形を変えることが出来る。かつて戦っていたフェンリル城もこれによって作られていた。最初の時はこの石に嫌と言うほど苦しめられた。だがその戦いのおかげで戦術を今のものに変えられてここに立てている。


「三つ、集めた」

「これで石が揃ったのでござるね」


 そして揃ったということは来る。

 慣れた寒気。だがいつもとは違うことがあった。

 周りの時が止まっていない。


『おめでとう。まさか君たちがここまでやるとは思っていなかったよ』

「内心焦っているんじゃないのか?」

『君は会うたびに皮肉を言うね。皮肉しか言えないのかい?』


 明確な敵が居なくなった今、それは最大の脅威と言っても過言ではない。

 腕組みをしながらこちらを見つめて来る。

 神を名乗る少年だ。


「アレは何でござるか?」

「......あれは、神を名乗る少年だ。実際、他の奴らには神様と呼ばれている」

「神? 神!? あの神様でござるか!?」

「まぁ、どの神の事を言っているかは分からないが、その神だよ」


 頭の中に直接響く声。

 いつもなら時が止まっている空間に二人きりだった。


『本当に三つの石を揃えることが出来るとは思ってもみなかったよ』

「これらの石を揃えると願いが叶う。そうだな」

『そうだよ』


 少年ははっきりと言い切る。


『どんな願いを叶えたい?』


 俺がその答えを発しようとすると、後ろから肩を掴まれた。

 ボロボロの金城だ。体中を血まみれにしている。


「俺達を......元居た世界に戻してくれ」


 少年は金城の言葉に考え込んだ。

 さも真剣そうな表情だ。本当に真剣に考え込んでいるのかは分からない。

 そして少年は驚くべき言葉を発した。


『どうやって?』

「どうやって......?」


 その瞬間、俺の思考がピタリと止まった。

 どうやって? 考えたことも無かった。

 思えば、この石がどうやって地形を変えたり過去を変えたり、生命を生き返らせたりしているのか、それすらも分からない。

 まさか目の前の少年からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。


『僕が何でも叶うと言ったのは、この世界での話だ。この世界の中であれば、どんな物でも作り上げることが出来るし、それに命を宿すことも出来る。永遠の命を手に入れることも出来るし、その水晶玉で実質的にどんなことでも出来るから、何でも出来ると言ったんだ』


 あっけらかんとそう告げる少年に憤りの声を上げたのは金城だ。


「それじゃ、話が違うじゃねぇか!」

『僕は君と約束したわけではない。それにその約束を守る義理も無いんだ。その約束を守ろうとしているのは僕が誰にでも優しい『神様』だからだよ』


 少年はその暴言を意にも介さずヒラリと躱す。

 誰が『誰にでも優しい神様』だ。これだけ人間の業を煮詰めて体の中に入れたような奴が誰にでも優しいわけがないだろうが。

 かつてこの男は国々を自壊させるためにこの三つの石を配った。

 国々はコイツの思い通りになり、三つの国に分かれてしまった。

 コイツが何をしたいのかは分からない。どういう意図で国々をバラバラにさせたのか。

 でもコイツが誰にでも優しい神様で無い事だけは分かる。


「金城。俺は実際、この石で叶えることは何一つないと思っているんだ」

「......は?」

「この玉は、このくだらない戦争を起こした引き金だった。そしてこの玉をめぐって何人もの人間が命を落とした。その時点でこの少年に操られていたんだ」


 俺は石を掴んだ。

 この玉が存在する限り、それを求めて誰かが争う。

 もしも俺達がこの国を離れて元の世界に帰ったとしても、この世界は争いを続けるだろう。

 火は煙を手で覆っても、火元を消さなければ消えることは無い。


「だから、この石に頼ってはダメなんだ。人間は神に頼るべきじゃない。特に、こんな神様なんて到底呼べないようなものに縋り付いてはいけないんだ」


 俺は石を握る手に力を籠める。


「なぁ、神様。この石でお前を消すことは出来るのか?」

『無理だね。その石は僕が居ないと機能しないから殺すことは不可能だ』

「ならこの石は」


 ――必要ない。

 そう言いながら握力を強めると、途端に記録石が粉々に砕け散った。


「何をッ!?」


 金城が身を乗り出す。

 しかしその血まみれの体では上手く動けず、俺を止めることは出来ない。


「だからこれは俺達だけで解決するしかない。少年もこれを機に身を引け」


 地動石が砂へと変わる。

 天井が無くなった地下に風が吹き渡り、砂塵を連れて宙へと去って行く。


 もともとこれが目的だった。

 自分は手に入れた石を使うつもりは無かったし、こんな奴にすがりつく気もなかった。

 ただこの世界から火種を消す。そのためだけにこの石を集めてきたのだ。

 ならばこんな石など揃ってしまえばあとは壊すだけである。


『その石があれば少なくともヤト爺は生き返らせられるよ』

「未練はない」


 少年の顔から表情が消えた。

 憎たらしいような微笑みが、消滅する。

 この顔になった少年は何をしでかすか分からない。

 それでも俺は石を握る手に力を込めた。


「お前はこの世界の裏舞台から降りるんだ」


 生命石が跡形もなく壊れた。

 クラスメイトが唖然とした表情で見つめる。中には俺に責めるような目線を向ける人も居た。


『分かったよ。君たちが僕の遊び道具でなくなるなら、こちらにも考えがある』

「考え?」

『僕はこの世界を終わらせることにするよ』


 少年はそれだけ言い残して消えた。


 そしてそれは俺達の最終決戦への幕開けでもあった。

 長かった第七章も終わり、いよいよ次からは最終章である第八章の幕開けです!

 田熊達は最後に何を選ぶのか。どう生きていくのか。そして来たる最終決戦の行方は!?

 いよいよ全てが終わります!

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