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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
盲信と英雄の第七章
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機械兵

 天井が両開きになり、機械兵が現れた。

 その姿は巨大にして、異質だった。これがどうやって動いているのか、そもそも誰が動かしているのかも分からない。


「とにかく倒すっきゃねぇ! 行くぞ!」

「「「おー!!」」」


 金城の号令とともに、色とりどりの魔法弾が機械兵の胴体にめり込む。

 爆発の余力が装甲の中に吸い込まれるようにして消えた。

 装甲が軽くへこむだけで大した傷には至っていない。


 俺は魔法弾の合間をかいくぐり、兵器の一つに近づいた。

 相手もこちらに気づいたようで、臨戦態勢に入った。

 地面を踏みしめ筋肉に力を入れる。

 そのまま正拳突きを一発入れようとする。


「ウッ!?」


 見えなかった。

 視覚外から予想外の一発を叩き込まれる。

 攻撃を繰り出したのは目の前の敵ではなく、横に居た敵だった。

 どうやら一人が気づくと他の敵が反応するらしい。

 俺は勢いよく宙に投げ飛ばされ、壁に激突する。


「一対一の戦いは難しい......か」


 俺は傷口の筋肉で傷口を塞ぎながら、自然治癒力によって傷跡を治す。

 相手はこちらの方向を見つめていた。


「『空躍』」


 一気に間合いを詰める。

 相手の反応に一瞬の隙が出来た。

 その隙にタイミングを合わせて左足を軸足にしながら回し蹴りを叩き込む。

 回し蹴りを叩き込んだ相手と同時に俺も後ろからの攻撃で壁際に吹っ飛ばされる。


「反応速度が速すぎるッ......!」


 それに攻撃を叩き込んだ時、何やらシールドのような感触があって敵の体に当たる前に俺の拳が何かに弾かれたような感触があった。

 おそらく魔導障壁のようなものだろう。

 しかもかなりの硬度がある。

 正直、生身では厳しい。

 鬼化さえできれば。


「慎重に間合いを取るしかないな」


 一気に近づいても勝機は無い。

 相手の腕と足の長さを見ながら間合いをとりつつ戦うしかない。

 俺はこういう時の為に従来の武道の戦い方ではなく、ルールの無い戦場で生き抜く戦い方を編み出してきたのだ。

 あともう少しで相手に手が届く。

 ならここで踏ん張らなくてどこで踏ん張るというのだ?


 俺は床の感触を確かめながら、慎重に相手の出方を見計らう。

 相手がパンチを繰り出す。

 脇が開いた。


「ッ!?」


 俺は一歩踏み込んで突きの準備をする。

 その刹那の間隙を相手は見逃さなかった。

 相手のパンチは予想だにしない軌道を描いて、俺の懐を突き刺した。

 俺の脇腹から赤い血が溢れ出す。鬼化をしていない時に流れる血はきちんと赤い。


「お前の、手は、伸びるのかよッ......!?」


 しかも先端がとがっている。

 視界から途切れた一瞬でまさか拳の形まで変形させてみるとは思わなかった。

 俺の想像が及ばなかった。

 鬼化が出来ていないことにより心の余裕まで無くなっている。

 これまで俺がどれだけあの能力に頼りきりになってきたのかが身に染みて分かる。


 俺は息を整える。

 こんな時だからこそ、ゆっくりと冷静に。

 戦況を整理して。


「よし」


 相手の手の内は大体わかってきた。

 俺の拳が入らないほどの硬度を誇る魔導障壁。

 間合いが測ることの出来ないワイヤーアーム。

 俺の動体視力に勝る、機械ならではの反応速度とタイムラグの無いレスポンス。


 俺は一歩足を後ろに引いて受け身の体勢に入る。

 相手の攻撃を受け流し、その上で有効打を放つ。守主攻従の構え。

 俺の得意分野。俺の土俵で戦う。


「来い!」


 俺の声に呼応するように相手が動き始めた。

 予想通りの素早い動き。

 俺は体を反らして相手の攻撃を躱す。

 避けた俺を追撃するような一撃。体を反らした状態から宙返りで身を翻す。

 さらにもう一体の敵が背後から猛追してくる。


「この時を待っていた!」


 攻撃を受け流しながら相手のワイヤーアームを掴み、思い切り横から引っ張って軌道を変える。

 キリキリと音を立てながらワイヤーはさらに勢いを増す。

 だが変わった軌道をここから変えられるほど変態的な動きをすることは無かった。

 その機械兵の拳は真正面の機械兵の腹を貫いた。

 ワイヤーアームは何かに絡まったようで抜くことが出来ず、機械兵はワイヤーアームを戻そうとして機械兵と正面衝突してしまった。

 機械兵の部品はバラバラに砕け散る。

 俺は追い打ちを仕掛けるように機械兵の表面に掌を当てた。


 触れた瞬間にガイノウトに触れた時のような感覚に襲われる。

 この体が魔石で出来ているわけではない。だが、魔石に触れた時のようなおぞましい感覚。

 これは......


「この機械兵、人間の魂が入っている!」

「何?」

「間違いない! こいつら、魂を機械の中に入れて動かしてるんだ!」


 まさか人間の魂を入れた傀儡だとは思わなかった。


「『焔纏白日之劍(ソル・ヴォルカグニ) 赤備(あかぞな)え 紅槍貫撃(パーススカーレット)』!!」


 視界の端で光が瞬いた。

 機械兵が粉々に粉砕される。

 だが、一度に二体が限界だった。二体分の装甲を貫通したところで光が止まった。


「やっぱり連発はきついな。しかもこんだけやって二体かよ、チクショウ」


 壊れた機械兵はカタカタと揺らいでいた。

 俺は何か嫌な予感がしたが、次の敵に精一杯でどうすることも出来ない。

 機械兵の体が間もなく再生する。


「バカ、バカ、バカバカッ!」

「なんだあのぶっ壊れ!?」

「もうこれは笑うしかないでしょ」


 機械兵は攻撃を受ける前のような格好をして平然と俺達の前に現れた。


「再生機能付きって、どうやって倒せば良いんだよ」


 クラスメイトの誰かがボソりとそんなことをつぶやいた。

 俺だって分からない。

 ガイノウトの場合は吸収できたから勝てたものの、吸収できないものが再生するのであれば、再起不能にすることは難しい。


「とにかく打開策を考えるしかない! そのためにも倒し続けるしかない!」


 我ながらあまりにもずさんな計画であるが、その程度の事しか思い浮かばない。


「無駄だ。我らが機心兵霊スピリットマニピュレーターは人間の魂と怨念で動く哀れな機械兵よ。一度起動すれば我等でも止めることは不可能」


 管理者の一人が向こうからそう口出しをしてきた。

 額に脂汗が浮かぶ。


 ここが踏ん張りどころ......か。


「卓男! 例のヤツ持ってきてくれ」


 そう言うと後方で待機していた卓男がせっせと走りながら近づいて来た。


 俺にはここに来る前に頼んでいたものがある。

 それは魔術回路を仕込んだ薬を改造したものだ。


「良いんでござるか?」

「構わない」

「ではもう一度説明を。これは痛みを緩和する鎮静剤でござる。一時的に痛みを和らげることによって、人体を自由に動かせるものでござるが、決してあの注射の効力を打ち消す中和剤では無いのでそれはご了承いただきたいでござる」

「分かってる」


 卓男はその返答だけ聞くと、ためらいなく俺の腕に鎮静剤を打った。

 即効性のその薬が自分の体と痛みを切り離したのが分かった。


 俺は手に握り拳を作ると、ゆっくりと黒く変色させていく。

 暴走を沈めながら腕中が黒で色づく。

 やがて、毒は体中にいきわたる。

 黒く染め上げる。


「『鬼化 過熱我壊(オーバーロード)』」

いよいよ最終決戦っぽくなってきたようです。

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