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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
盲信と英雄の第七章
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黒づくめの兵団

 自由落下しながらバラバラの瓦礫を足場にして、足を踏み外した卓男達を両手いっぱいに抱える。

 この世界にやって来た時もこういう風に飛び降りたことを思い出した。

 俺はてっきり地下室のような場所にたどり着くのだと思っていたが、そこは思っていたものとは違った。

 そこは一本道の様になっており、反対側には上り下りするためのはしごがあった。どうやら正規の方法は、このはしごで行き来をするらしい。


「まさか地下にこんなところが広がっているとはな」

「あんな国の本拠地でござるし、何があったっておかしくないでござる」


 俺は卓男達を腕の中から降ろしながらそこに着地させた。

 ともあれ、援護を呼ぶにしては人が誰も居ない。もしかしたら違和感を感じてもう逃げてしまったのかもしれない。

 遅れて上に待機していたクラスメイトも次々に飛び降りてくる。

 こんな闇の中に飛び込むのはとても勇気のいることだ。昔の自分達なら不可抗力でなければ近づこうともしなかったし、自分から飛び降りるなんて考えもしなかっただろう。

 魔法は偉大だが、そんなものよりも人間の心の持ちようが大事なのだと改めて実感した。

 俺達は強くなったのだ。


「にしても、これだったら本拠地の場所じゃなくて、生命石の場所を聞き出した方がよかったかもしれねぇな」

「地下にあるなら何で熱感知じゃ探知できなかったんだ?」

「それは、あれだけ壁が厚かったら熱感知ではとても探索できないでござるよ。こんなこともあろうかと人体ダウジングを持ってきたので暗闇の中でも人のいる方向が分かるでござるよ」


 そう言いながら卓男が懐から取り出したのは鉄を折り曲げたような棒だった。

 それは水源を探し出すためのものではないのかとツッコミを入れたくなるが、意図してその形で作っているのだろう。


「というか熱感知があれば地下でも索敵できるんじゃないのか? 熱感知の方が何人も居ることが分かるし、それに一本道だから必要ないだろ」

「......それもそうでござるね」


 卓男が寂しげな表情でダウジングを懐に戻す。

 何だか悪いことをしてしまった気分だ。


「人の気配がするわね。しかもどんどん遠ざかってる」


 話しかけてきたのは塩見だ。

 冷静に言っているが、内心焦っているようにも見えた。

 それはそうだろう。彼女には逃げる敵の姿が見えているのだ。

 自分達を待ってくれているということが少し嬉しかった。お礼は帰ってから言うことにしよう。


「行こう。敵影を追いかける!」


 俺は周りに呼びかけて皆と一緒に走り出した。

 一瞬、塩見を抱えて先に行くことも考えたが、先には何があるか分からない。もしかすると罠が仕掛けられている可能性もある。


 実際、その判断は合っていた。

 俺がその開けた場所に踏み入った瞬間に、多数の気配を感じてその部屋から飛び退いた。

 先程まで俺の居た場所に多数の魔法弾が叩き込まれる。

 生身でこれを食らったら鬼化を使わざるを得なくなる。ただでさえ注射器の毒の効果が計り知れないというのに、相手の前で堂々と傷を治すのは自殺行為だ。


「一気に押し入る。それで良いな」

「ああ」


 金城がクラスメイトに手で合図を送る。

 クラスメイトの一人がスキルでシールドを貼る。

 カウントダウンが始まった。


 三


 二


 一


 金城がゴーサインを出すとともにクラスメイトが一気に押し入った。

 魔法弾の撃ち合いが始まる。

 色とりどりの魔法弾が高速で行き交い、壁が破裂した。だが相手も手練れなのか、見方からも敵からも悲鳴は上がらなかった。

 俺も少し経ってから部屋の中に入る。

 そこでは黒づくめの男が縦横無尽に行き交いながら魔法弾で味方に攻撃を仕掛けている。

 どうやらこういう事態も想定して対策をしていたらしい。出来るだけ襲撃に気づかれないように情報を抑制していたつもりだったが、やはり情報を全て遮断することは無理だったみたいだ。

 機械のようなものが電子的な光を壁中から放っていた。

 それらがどんな役割を果たしているのかは分からなかったが、召喚者で身体が強化されている自分達と同等に戦えるのは流石である。


 クラスメイトが陣形を作りながら敵に攻撃を仕掛ける。

 その弾はことごとく敵に躱される。

 黒づくめのローブに翻弄されているのが見て取れる。闇の中に溶け込んでしまうので、目で追うのにも必死になる。

 鉤爪やロープ、レールを用いた空中移動に、魔法を用いてローラースケートのような動きで地上を動いている。


「拙者には何が起こっているのかさっぱりでござるよ。俗に言うヤムチャ視点でござる」

「下がってろ。そんで目も瞑っておけ」

「何故でござる?」

「良いから」


 俺は卓男を背に体勢を整える。

 クラスメイトの東雲の掌が眩く光り出すのが分かった。

 クラスの女子の中でもノリが良く、いつも笑っている印象があるが、狙撃の時となると雰囲気が一変する。

 スゥっと息を吸いながら手のひらの光を一点に集中させる。


「『雷光狙撃(ボルトスナイプ)』!」


 稲妻が空を切り裂き、宙を伝播する。

 空間を切り裂くかのように白いヒビが空気の中に溶け込んだかと思うと暗かった部屋が真っ白に照らし出される。

 クラスメイトはこうなることを予想して事前に目を慣らしていたが、敵側はそうでは無い。バランスの狂ったプロメテウス兵は地面に叩き落とされる者もいた。


「目くらましはあんたらだけの特技じゃないんだよっ!」


 敵兵が落ちてくる中、一瞬の隙が生じた。

 不自然なほど速く落ちてくる人間に俺の反応が遅れる。

 自分めがけて振ってくるその男は背中に注射器をブスリと刺した。

 苦痛が体中を駆け巡る。


「グゥッ!?」


 注射器は一本だけではなかった。一瞬で三本刺した後、身を軽々と翻して自分の目の前に立っていた。


「クソッ!!」


 俺は注射器をすぐに抜いたが、薬剤は既に体の中に入っていた。

 体中が痺れて感覚が薄れてゆく。

 自分の体の中から石の塊が皮膚を割いて突き出してきていた。

 体を翻した男は勢いよくローブを取った。


「奇襲は私達の専売特許だ。そして私はお前と初めて会った時からお前のことが嫌いだ」

「その......声は!」


 その男の顔に俺は見覚えがある。

 王都で情報を聞き出したプロメテウスの男だった。


「どうしてお前が!」

「今は伝達などたいそうな事はしていない。だが、こちらも度重なる実験で人手が不足しているから傭兵として使われているのだ。それに命も握られた状態でな」


 男は首のあたりをトントンと叩いた。

 そこにはチョーカーが付けてある。

 おそらく発動すれば死ぬ類いの魔法器だろう。


「だがそれで好都合。こんな奇襲で弱らせてから戦うのは嫌いだ。だが、こうするほかあるまい。さぁ、あの時の雪辱を今ここで果たそうではないか」


 俺は震える足で立ち上がった。

 ついにプロメテウスと全面抗争です。

 薬剤を打ち込まれて窮地の田熊の目の前には、あの時戦った男が立ちはだかります。

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