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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
絶望と渇望の第一章
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初陣

 ゆっくりと着地を試みるがまだ慣れていないせいか勢いが殺しきれない。

 危うく人に突っ込んでしまいそうになり、慌てて受け身を取る。

 砂埃が大袈裟に舞った。


「おい!にいちゃん!大丈夫かよ!?怪我は!?」

「あ、いえ。大丈夫です。」

「そう......か?すっげぇ派手に吹き飛んだじゃねぇか。」


 そこには数人の中年の男性が居た。その中の一人が自分に近寄ってくる。もっさりとしたヒゲを


「にいちゃん......見ねぇ顔だと思ったら、魔法が使えないっていう例のヤツじゃねぇか。どうしてこんなところに居るんだよ。」

「そんなことより相手はどこですか?」

「そんなこと見りゃ分かる......ッ危ねぇ!!」


 視界の端に魔法弾が映る。咄嗟に右腕を弾にかざした。

 ガンッという金属音にも似た重くて鈍い音が右腕から響く。

 まるでトラックに体当たりされるような衝撃に数歩後ずさりするも、魔法弾は衝撃で軌道が曲がり、明後日の方向に飛んで行った。


「ッッ......大丈夫ですか?」

「いや、ワイは大丈夫やけど、にいちゃん......なんやねんソレ。」

「これですか?これは籠手(こて)ですよ。」

「ほぉ。......なんやねんソレ。」


 籠手とは拳から肘にかけての上腕部を守る防具の一種である。剣道でつけるアレだ。ただしこれは卓男が作った特注品なので普通の魔法弾になら耐えられる代物である。

 卓男曰く、

「急ピッチで作り上げたので右の分しか作れなかったでござるが、多分、サイズはぴったりでござるよー!それに耐久力もバツグン!動きやすさも重視した優れものでござる!!さらにさらに、驚きの自爆機能も搭載しているでござる!!!」

 らしい。

 そんな機能つけなくてもいいだろ、と言ったらゲラゲラ笑いながら、それもロマンでござるよ!と言っていた。


「そんなんもあるんやなぁ。ワイもつけてほしいわ。ワイらは肉壁の役割果たしとるだけやからなぁ。それがあれば生存率が上がるでぇ。」


 中年の男性は笑いながら鼻をほじっていた。


「それでは行ってきます。」

「は?なに言うとんねん。」

「敵の場所に突っ込んできます。」


 俺は両手を地につけてクラウチングスタートの構えを取る。

 足の筋肉に力を入れると自然と口が動いた。

「空躍」


 途端に男性たちの姿は視界から掻き消えた。


 --------------------


「よっと。」


 今回は今さっきの反省を生かして、受け身を取りながら着地する。

 周りを見ると、身慣れたローブ調の服ではない人々が立っていた。魔術師というよりは鉄の鎧を身に纏った西洋の昔の戦士みたいな格好だ。

 俺は相手が気づくと同時に、一瞬で構えを直す。


「何者だ!ここはフェンリル国境前線基地だぞ!」

「さぁな。」


 相手の掌が煌めくと同時に開戦の鐘が鳴り響く。

 相手の掌の延長線上に伸びる射線を、相手の瞳孔がわずかに開き手のひらが煌めいた瞬間に体一つ分避ける。

 爆音とともに体の横を通り過ぎていく火球。火球の軌道、後を引く光の線がくっきりと見えた。

 衝撃波をまともに体で受けないように衝撃を受け流す。

 見える。

 魔法弾がくっきりと。

 魔法弾に慣れたことも要因の一つだが、これが見えるという事実は新たな事実を確信へと導いた。


 俺は確実に強くなっている。


 爆音でこちらの存在に気付いたのか遠くに居る兵士たちが少しずつ近寄ってくる。4人ほどではあったがされど4人だ。俺の死角を取るには十分な人数。魔法を放つ瞬間が見えないと離れてからの熱気や気配だけではよけきれない。

 俺の力量不足だ。

 だが、ここまで来たのだから、人を集めて倒さなければ意味がないと割り切ってしまうことにした。


 俺は適切な間合いと立ち位置を測りながら、敵の掌を凝視する。

 簡単な魔法ならスキルの類に含まれず、発声しなくても魔法を出せるということは自分にとって脅威でしかない。

 放たれた一発目、それに続くように間髪入れず次々に弾丸が襲い掛かる。

 体の必要な筋肉に力を入れて普通では考えられないような速さで体を動かす。前よりも体が強くなったからと言って流石に慣性力に逆らって無理矢理体を動かすのはキツい。

 だが魔法弾が直撃するよりはマシだ。

 それでも避け切れない時は右手の籠手を使い魔法弾を受け流す。

 直撃は反動が大きいが、受け流しながら軌道をずらすのであれば造作ない。卓男はなかなか良いモノを作ったなと感心する。


「フゥッ......ハァッ!!」


 防戦だけでは勝つことはできない。俺は一瞬で相手との間合いを詰めると腕の筋肉に力を入れた。

 間合いを詰めた勢いを殺さぬように、左の拳で魔導障壁に手刀を入れる。障壁に小さなヒビが入る。

 流石、魔導障壁だ。こんなことでは壊れないらしい。

 だが本命は左の拳の反動を利用した右腕から放たれる正拳突きだ。

 無機質な音が戦場に響き渡り、勢いを殺しきれなかった拳が相手の肉体を捉えた。鳩尾を拳が深く抉る。

 相手は突っ伏すように倒れ、膝が地面につく前に俺はまた間合いを取る。

 やっと一人。

 だが感覚は掴めた。

 魔導障壁の強さが相手のマナ量に依存するとはいえこれは大きな進歩だった。

 俺の攻撃は敵に通用する。


 相手の攻撃の間隔にも慣れるとそこからは俺の独壇場と言っても過言ではなかった。

 相手は自分の動きこそ目で追えるみたいだがそれに対する対処の方法は持ち合わせていないようだった。

 ぬるりと懐に忍び込み、全力を用いて一撃で魔導衝撃を破裂させる。相手のマナ量が少なくなっているのも相まって俺の攻撃は驚くほど上手く相手の防御壁を貫通した。


 体の重心を上手く動かしながら無理のない体勢を保ちながら、魔法弾スレスレを避け続ける。段々と自分の体の動きが最適化されつつあるのが分かる。

 グッと重心を低くし足を曲げ、足を伸ばすと同時に、相手のくるぶしを刈り取るような足払いで相手の体勢を崩す。地面に相手の体が打ち付けられた瞬間に自重に任せたかかと落としを炸裂させる。

 相手の防御壁を巻き込みながら、すべてを粉砕する一撃がダイレクトに体にめり込む。当たった瞬間に少し痙攣したかと思うとすぐに地面にのびてしまった。


「あとはお前一人だな。」

「お前は一体......何者なんだ?」

「俺が聞きたいくらいだ。」


 相手は身構えたが既に遅い。

 こちらに掌を向ける前に首筋を掴んで地面にたたきつける。

 相手の顔が少しずつ青ざめていく。


「俺達には......神がついている......創造神に......栄光あれ......!」

「そんなものに頼るな。」


 相手が泡を吹いて白目をむいた。

 俺は膝に着いた砂埃を軽く払って立ち上がる。


 周りを見渡そうと顔を上げた時、不意に前方から乾いた音が連続して聞こえた。

 目の前には軽装の男が拍手をしながらこちらに近づいて来ていた。

 慌てて飛び退き、相手を睨みつける。


「素晴らしい戦いぶりだな。遠いところから魔法を撃ち続けるオスカー国の愚民どもにしては珍しい。」

「お前、いつからそこに居た。」

「さぁて。いつからだったかな。」


 俺でもその乾いた拍手が聞こえるまで存在にすら気づくことが出来なかった。細心の注意を払っていたつもりだったのだが気が付けばここまで間合いを詰められている。

 一体、何者だ。

 相手がニヤリと口角を上げた。


「せいぜい楽しませてくれよォ!?」


 その瞳は狂気に爛々と輝いていた。

体の中で一か所でも相手の攻撃に触れても良い場所があるだけで、戦い方も大きく変わるけれど一番大きく変わるのはやはり安心感だと思います。

特にこの場合は全部完全に避けることを意識しなくても良いので、攻撃の幅が広がることに利点があるように思います。

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