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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
盲信と英雄の第七章
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共闘

 体の痺れが取れ始めたころにはギルド長と谷岡の姿は空気の中に溶け込んでしまっていた。

 まるで幻覚でも見ていたかのように痕跡も何も残さずに俺の体の中に痺れだけを残して消えてしまう。風が吹き抜けて扉が揺れた。

 ほどなくして卓男を連れた金城が戻ってきた。クソッという罵声と共に手に持っていた錠剤をかなぐり捨てる。


「また、逃がしちまった。ようやく尻尾がつかめそうだったのに......!」

「何も、分からなかった、わけじゃ、ない」

「どういうことだ?」

「谷岡が、ヤツを、連れ出した」

「何だと?」


 金城が八つ当たりのように俺の胸倉を掴んだ。少し経って金城は俺の服を手放した。

 手足の感覚が戻って来ると同時に感じる違和感。剥がれた黒い塊が自分の体に反応しない。いつもなら離れてもすぐに元通りになるのに、地に落ちたまま屑のようになっている。


「これ、どうなってるんだ?」


 試しに指を鬼化させてみるが、鬼化の発動が遅くなっている。

 まるで電気信号を伝達するはずの神経がささくれた植物の茎にすり替わってしまったかのようだった。

 普通に体を動かす分に支障はないらしい。だが、鬼化を発動すると少し体が重くなる。

 言わずもがなあの薬剤のせいだろう。一本で済んだから良かったものの、何本も入れられたらどうなるか分からない。

 これがプロメテウスの脅威なのだと握り拳を作る。


「その砂鉄みたいなの、何なんだよ」

「鬼化の破片だ。つまるところ魔石みたいなもんだと思う」

「魔石? なんだそりゃ?」


 そう言えば金城は魔獣のことすら知らなかった。改めて俺達が違う所で違う経験をしていたことを感じる。

 話す時間もないので手早く魔石について説明する。


「つまり魔獣の核となるのが魔石で、お前の体を作ってるのもそれってことか」

「話が早くて助かる」


 金城は俺のたどたどしい話の中から要の部分を取り出した。


「そう言えば、フェンリルから亡命してきた人の中に研究者って名乗る人が居たけども、一応その人に解析してもらった方が良いんじゃないか?」

「亡命?」

「あぁ。フェンリル城が落とされてから治安が悪くなってよ、それでこっちに来る人が多くなったんだ。まぁ、その研究者の人は研究費が降りてこないからいっそのこと引っ越ししたみたいだけどな」


 金城は頭を掻きながら歯切れの悪い口調でそう言っている。金城にしては珍しい。


「どうかしたのか?」

「......その人、ちょっと取っ付き難くてな。俺、苦手なんだ」

「誰とでもそつなく話せる金城らしくないな」

「俺は、お前と違って、努力してきたんだよ! お前には分からないかもしれないけどな!」


 金城の必死な様子に俺は思わず噴き出した。

 金城は頭を掻きながら部屋を抜け、ある一人の女性を呼び出した。俺はその姿を見て驚愕する。


「ライさん!」

「おう、坊や! どうしてこんな偏屈な所に居るんだい?」

「偏屈で悪かったな」

「プロメテウスの拠点がここら辺にあることが分かったんです。だからそこから生命石を奪いに来たんです」


 現れたのは下層区で出会った研究者と名乗る女性、ライだった。

 この人の夫はかつて俺と戦った戦闘狂のヴェニスである。あの時はこんな人にも妻が居るのだと腑に落ちなかったものである。


「それより、これを解析してほしいんです」

「解析ねぇ。坊や、私に指図出来る立場になるとは良い度胸だね。サンプル用に皮膚切り取るわよ」

「勘弁してください」

「分かった分かった。解析でもなんでもしてあげるわ。どうせこんなところに居ても退屈なだけだからね」


 俺はライさんが口の端を上げて笑うのを見て、何だか懐かしい気持ちになった。


「そういえばヴェニスさんはどうなったんですか?」

「そうねー。あいつはまた坊やと戦いたがってるわよ。いつか坊やを倒して星をつかみ取ってやるって言ってたわ」

「変わりなさそうですね。変わっててほしかったですけど」


 俺はそう言いながら苦笑いした。

 ライさんは豪快に笑いながら、呼んでこようか?と言ってくれた。だが俺はそれを断る。そんな危ない相手とは今は会いたくない。

 ライさんは何かを思い出したようにあぁ、と声を上げた。


「そう言えば、今さっきそこの扉から『迷彩』を使った人が二人出て行ったけど、何かあったのかい?」


 俺はライさんの肩を掴み顔を近づけた。ライさんは目を瞬かせて俺の顔をまじまじと見ている。


「どういうことですか? というか何でそんなことを知ってるんですか?」

「どういう事っていったままだよ。アレも迷彩のスキルは使えるからね。だから迷彩看破のコンタクトレンズをいつでも着けることにしているんだ」


 ライさんは目の中に指を入れると、コンタクトレンズを取り出した。こんなものを着けていたのかと驚嘆する。


「主人が時々、それを使ったまま家に入ってくることがあるんでね。これがあると助かるんだよ」


 彼らは空気に溶け込んだわけではなかった。よくよく考えれば彼らの「ずっとそこに居るんだろう?」というような発言からもそこに居ることは明白だった。つまり彼らは完全に気配を消しただけだったのである。

 気付かなかった自分自身に腹が立つ。

 俺は迷いなく部屋を飛び出した。


「ちょ、ちょっと! どこ行くんだい!?」

「追います」

「見つけられるのかい!?」

「匂いでも音でも辿ってどうにかして見つけ出します。それが出来るというのはあなたの主人で実証済みです」


 それだけ言うと飛び出した。

 あの時は静かで誰も居ない場所だったから見つけられたかもしれないなんて、考えて辞められるような状態ではなかった。


「ちょっと待てよ!」

「何だ」


 そこに立っていたのは金城だった。

 振り向いた瞬間の光景があの時戦った日の風景と重なった。

 だが聞こえてきたのは全く逆の言葉だった。


「俺も行く」

「......おう」


 それだけではなかった。金城の後ろから女子が駆け寄ってくる。

 塩見だ。


「索敵なら私の方が得意よ。曲がりなりにも私はサポーターだから」


 塩見がそうきっぱりと言い切った。とても強い目をしていた。

 これまでの彼女の瞳であれば、彼女の存在をここまで心強くは感じなかっただろう。


「分かった。行こう、一緒に」


 俺はあの日、同じ方向を向けなかった仲間たちと共に、人通りの多い路地を駆け抜けた。

昔戦った人と仲間になって戦うのアツいっすね。

でもここからもっとアツくなりますよ!


投稿したつもりで確認ボタン押し忘れてたみたいですね。

申し訳ないです。

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