謝罪
再びキャンプに戻ってきた俺達はある懐かしい人を見つけた。
「藍染先生!」
俺達のクラスの担任教師だった藍染先生だった。いつぶりだろうか。
先生は俺の姿を見て目を丸くして驚いた後、困惑した瞳を向けてくる。
「お元気でしたか?」
「それはこっちのセリフよ。問題児......出て行くのも帰ってくるのも連絡なし。あれから私がどれだけ責められたことか。全部の責任を背負ってたのは先生なんだから、一言相談があっても良いだろうに」
「元気そうで何より」
藍染先生は愚痴が長い。叱っているのか自分の愚痴なのか分からないようなことをずっと言われ続けることになる。
俺は途中で話を打ち切る。藍染先生がクマがくっきりと刻みつけられた目でこちらを睨みつけていた。
何か話すことがあるだろうかと思って考えていたがあまりない。これだけ迷惑をかけたのだから謝罪の一つでも言いたくなるはずなのだが、不思議とそんな気持ちにはならなかった。俺の頭の中の先生はテキトーで大雑把で生徒の事なんてあんまり考えていないという印象のままだからだと気づいた。
俺が何か話すことは無いかと考えていると、藍染先生の方から口を開いた。
「それで、調子はどうなの? 石集めしてるんでしょ?」
「まあ、今のところは順調......って言っていいのかな。なんとか二つは今手元にあります。三つ目の手がかりはまだつかめていないのですが」
「危なくなったらやめなさい。こんなになってまで言うことではないかもしれないけれど、生徒の責任を持つのが先生の役目だよ。こんなところに来ても田熊君と私の関係は生徒と先生だ。こんなことになって生徒の安全も何も守れるわけはないけれど、それでも責任は持つわ。何かあったら頼って」
「ありがとうございます」
「全然頼る気ないって顔に書いてあるわよ」
俺はアハハと笑ってその指摘を受け流す。
何を言ってもダメだという風に、前の世界と変わらないボサボサの髪の毛を掻きむしっている。そんな光景でも懐かしく感じてしまい、思わず顔がほころんだ。藍染先生が苦笑いしながら眉をピクピクと動かしていた。
「とりあえずクラスメイトに会って行きなさい。田熊君が思っていることは一つかもしれないけれど、あなたへの感じ方は人それぞれなのよ。会って謝るなりなんなりしなさい」
俺は先生に連れられて奥の部屋に入った。
そこには見覚えのある顔が何人も居た。クラスメイトのほとんどが自分を見て良い顔はしなかった。大抵は目を逸らすか、困惑した顔で口をへの字に曲げていた。
誰も自分に話しかけようとしない。それを見て、前も同じだったことを思い出す。
前も同じだった。
ずっと誰からも話しかけられなかった。
武道以外を友達にする気はなかった。武道と恋人の様に接して、それさえできれば満足だった。
自分からも話しかけたことは無く、誰かから話しかけられること自体に鬱陶しさのようなものを感じていた。
その結果、こっちに来てからも誰からも慰めの言葉さえかけられることは無かった。誰も接して来てはくれなかったし、どちらかと言えば自分が無茶をして迷惑をかけるのを咎められてばかりだった。
そして俺はクラスメイトから孤立した。
当然の事だった。
だから俺は、ここで変わらなければいけない。
以前の俺は、自分の事を誰が何と思っていようが良かった。あの世界で俺は無敵だった。
でも今なら分かる。
無敵だったのは誰も敵になってくれなかったからだ。
それが誰かの視界に入るようになって、今は厄介者扱いを受けている。
真摯に接してこなかった俺への罰だ。
「みんな」
全員が自分を見ていた。
何を話し出すのだろうと、やや悲観的な思いで見つめていた。
「すまなかった」
俺は深々と頭を下げた。
一体何事なのだろうかと周囲がざわめく。ほとんどがその状況を飲み込めていなかった。
「勝手な行動をした。みんなの気持ちを考えてこなかった。誰かと接してこなかった。接して来ようとした人もはねのけて来た。今更謝ったところで、自分への思いが変わるとは思わない。それでも知らず知らずのうちに色々な迷惑をかけてしまった」
誰も自分の発言に口出ししなかった。
普通の人がこんな風に謝れば誰かが「顔を上げて」とか「そんなに謝らなくても」と言ってくれる。
でもこの期に及んで、自分と面と向かって文句や慰めはおろか、声をかけることが出来る人間すらいなかった。
俺は拳を握りしめる。
これが俺のこれまで行ってきた彼らへの行動の集大成だ。
それが分かった上で顔を上げた。
「その上で頼みがある。手伝ってほしい」
俺は話した。
何故、俺が石を盗み出してここを離れたのか。
俺がこれまで何を行ってきたのか。
そして何をしようとしているのか。
話していくうちに少しずつ声が上がるようになった。
一人は無謀だと言った。一人は参加はできないけれど賛同はすると言ってくれた。一人は何か知っていたら話すと言ってくれた。一人は自分の行動を非難した。一人はクラスメイトがそんなことになっているのは心配だと言った。
俺が思っている以上に色々な事を考えてくれていることを知った。
俺は知らず知らずのうちに一人ではなくなっていた。
「この周囲にプロメテウスの本拠地があることが分かった」
「えー、嘘でしょー!?」
「最近の異変はそれが原因で......」
「怖っ」
「何か知っているもの、聞いた話、噂。何でも良い。知っていることがあれば何でも教えてほしい。ガイノウトの祠が荒らされた今、早く対処しなければ取り返しのつかないことになる。時間がない」
クラスメイトの誰かが息を飲んだ。青ざめている人も居た。
部屋の端の方から声が聞こえた。
「時間はないけど、これ以上時間を忘れて話し続けるのはどうかと思うわ。一度食事にしましょう」
塩見がそう声をかけた。
それを聞いて窓から外を見ると、外は真っ暗になっていた。いつの間にか外気が肌寒い。
「それもそうだな」
「あっちでティファさんが作ってくれてるわ。久しぶりにまともな食事が食べられそうよ」
あちこちで喜びの声が上がった。
自分の話もティファが作ったご飯の話にかなうはずなかった。
俺が話を切り上げると同時に続々とクラスメイトが部屋から出て行った。
「まぁ、そんなもんだろうな」
「聞いてくれるだけよかったじゃない。それにみんなもないがしろにしているわけではないみたいだし」
「嬉しそうだな」
「そんなことないですよー」
塩見がそう言いながら部屋を出て行った。
誰も居なくなった部屋から出ようとした瞬間、それは起こった。
「うぐっ!?」
「隙を作るのが悪いんやで!」
背中に電撃のような痛みが走った。
何かを刺されたような痛みと共に、四肢に力が入らなくなる。腕を見ると、鬼化と人間化を繰り返しているのが分かった。自分の意志で自由に動かせない。
後ろを見てそこに立っている人物に驚いた。
「ギルド長......!? 仲間になったはず!?」
「ワイは保身に走るだけやで。自分が一番有利な方に動く!」
「きっさ、まぁ!!」
口まで痺れが来た。
体中が黒く変色したり肌色に戻ったりする。段々と自分の体の自由が利かなくなる。
俺はギルド長を睨みつけたまま歯を噛み締めていた。
突然の裏切りです。
誰が仲間で誰が味方になるか分からない。それがプロメテウス編です。




