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異世界単騎特攻  作者: 桐之霧ノ助
盲信と英雄の第七章
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暴動

 俺は金城たちに追いつき、一緒に谷岡が指し示す場所へと向かう。


「また手遅れになってなきゃ良いがな」

「また?」

「前に着いた時には既に争っていた奴らが全員倒れていた。原因を突き止めるどころか争いを止める事さえできなかった」


 それを聞いてやっと事態が飲み込めて来た。俺は話を聞いてから飲み込むまでに少し時間がかかる。

 これが緊迫した状況で予断を許さない状況だということがようやく飲み込めた。

 俺は谷岡と塩見、それに金城を一息に抱える。塩見は驚いているだけでなく顔も真っ赤に染め上げていた。今は恥ずかしさをとどめておいてほしい。


「谷岡、大体どっちの方向だ?」

「あ、あっちの方!」

「分かった。しっかり掴まっておけ!」


 俺は躊躇なく空躍を発動させた。スキルによる移動なのでそこまで大きくはないが慣性が働く。襲い掛かる重力に金城が顔を歪ませた。

 軒を連ねる屋根を人を抱えながら高速で跳ぶ姿は、さながらアメリカンコミックのヒーローのようだった。

 目を見張ると遠くで人々が何やら騒がしく動いているのが見える。耳を澄ませばこの町の静かな雰囲気には似合わない怒鳴り声が聞こえてくる。

 屋根の端に足をかけて思いきり跳躍した。風を切る音が間近で聞こえる。


「着いたな」

「お前、凄いなコレ。まさかホントに飛び回って旅をしてるとは思わなかったぜ」

「それ以外に移動手段がないからな。俺がこっちに来て初めて出来るようになった事がこれで良かった。そんなことより今はこの状況をどうするかだろ?」


 そこは地獄絵図だった。

 沢山の人々が理性を失って、体から血を流していても争うことをやめる様子はない。

 石畳に赤い液体が浸み込んで、踏まれて、まき散らされて、広がっていく。それでいて誰も止める人間が居ない。どう見ても異様な光景だ。


「にしてもどうやって止めるか」


 力づくで止める訳にもいかない。全員気絶させることも出来るが、それでは争って倒れるのと同じだ。どうやって止めるか考えずに来た俺が悪い。


「こういうのは俺の方が上手いらしいな」

「は?」

「良いから黙って見てろ。お前は下がれ」


 金城は目をスッと閉じる。手に光のようなものが溜まっていくのが見えた。

 まさかここで魔法弾を放つつもりか?


「『威圧(プレッシャー)』『制圧(コントロール)』」


 光が溜まった手のひらを民衆の方に向けた。光は拡散して周りの空気の中に溶け込んでいく。

 次の瞬間、もの凄い重力とえも言われぬ恐怖を感じた。次に訪れたのは吐き気だった。食べ物が喉を逆流するような感覚だった。

 周りの人間も同じような感覚を味わっているようだった。民衆は口を押えて倒れ込む。

 暴れるのが収まったころに金城が手を振り下ろした。途端に押さえつけられていた体がふわりと軽くなる。


「凄いな」

「今さっきのお前の飛び跳ねるヤツの方がやべぇよ。俺はちょっとスキルを使っただけだ」

「それを言うなら俺もスキルを使っただけだよ」

「持ち上げるのは完全に腕力じゃねぇか」


 金城はキッパリとそう言い切った。確かに持ち上げるのは腕力だ。見つけたのも自分の眼。スキルは一部と言えなくもない。


「それより、聞き込みだ。今さっきので意識は戻ってるはずだ」

「......本当だ」


 周りを見渡してみると、人々は正気を取り戻していた。刺激を与えると元に戻るという訳でもない辺り、生理的嫌悪感や色々な物が関係しているのだろう。もしかしたらスキルの類いなのかもしれないと勘繰る。

 俺は目の前で目を覚ました女に話しかける。

 頭から流れた血を指で拭いながら少し下に目線を合わせた。


「何故ここで争っていた?」

「争っていた? あなた、何を言っているの? 痛ッ!」

「お前たちはここでこんな傷が出来るほど殴り合っていたんだ。何も覚えていないのか?」

「......ごめんなさい。私、あなたが何を言っているのか、全くわからない」

「そうか、すまない」


 俺は指に着いた血を石畳に擦り付けた。


「聞いた話は本当だったみたいだな」

「また、取り逃がした」

「は?」

「また取り逃がしたって言ってんだよッ! クソッ! また何もできなかった! これを引き起こした相手がいつまでたっても見つからねぇ! またイタチごっこじゃねぇか!!」


 金城が勢いに任せて地面を蹴り上げた。泥のような土が勢いよく跳ねて石畳を汚す。

 塩見が端の方で壁に寄りかかりながらその様子を見ていた。

 俺は塩見に近づく。


「まだ着いて行けてないのか?」

「あれから結構立つけど、デリカシーはまだ身についてないの?」

「すまん。努力はしてるんだが」

「努力してその程度だったら、振り回されている人も大変ね」


 塩見はこちらを嫌そうな目で見つめた。


「着いて行けないよ。でも自分なりに頑張ろうとしてるつもり。まぁ、金城はサポートする必要もないくらい優秀だけどね」

「確かに」

「でも私は私にしか出来ないことを見つけたから」

「私にしか......出来ないこと?」


 俺は首を捻った。塩見にしか出来ないことをパッと思いつけなかったからだ。

 塩見はさらに嫌そうな目をしてこちらを見ている。今のは失礼だった。流石に俺でも分かる。


「私にしかできないこと。それは、優秀な金城のサポートをしようとしてあげること。金城が頼りたくなったらまず傍にいてあげる事ね。少なくとも相談相手ぐらいにはなってあげられるから」

「そうか」


 俺はその言葉を聞いてホッと一安心した。

 彼女も何か出来ることを見つけられたのならそれが一番良い。


「金城なら大体のことは一人で解決してしまいそうだけどな」

「それもそうね」


 二人で憤る金城を遠巻きに見つめていた。金城は心を落ち着けてこちらにやってくる。


「戻るぞ」

「はいはい」

「了解」


 そんな様子を谷岡が微笑ましそうに眺めていた。まるで他人事のように眺める姿が俺には少し異質なものに感じられた。

 俺は訝しく思って声をかける。


「お前は戻らないのか?」

「クラスメイトをお前呼ばわりはないだろ!? 行きますよー」


 そう言ってヘラヘラとついてくる。クラスに居た頃と雰囲気は変わらないようである。あの頃に思いを馳せて少し懐かしい気持ちになった。

 心につっかえていた違和感がふわりと消えた。

結局、暴動の犯人は見つからず仕舞いでしたね。

元凶は一体何を企んでいるのでしょうか。

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