全ての終わり
俺はその白い果ての無い空間に足を踏み入れた。
目の前にはもう見慣れてしまった一人の少年が、張り付けたような笑みを浮かべてそこに立っていた。
俺は拳をグッと固く握りしめ目の前に居る少年を睨みつけた。
「ついにここまで来たぞ。」
「ここは僕の場所だよ。君が入って来て良い場所じゃない。」
「お前はこんなところで高みの見物をしていたのか......!」
見ているだけで沸々と怒りが湧き上がってくる。俺はこいつが神様を名乗りながらこの世界に行ってきたことの内容を知ってしまった。だから目の前で笑うこの少年を許すことが出来ない。
「僕が居なければこの世界は生まれる事すらなかった。生物も人も魔法も生まれることは無かったんだ。だから僕にはこの世界を好きに従える権利がある。好きに弄ぶ権利がある。そうだろう?」
「そんなわけあるか、この外道が。」
「ひどい言いようだね。」
少年はそんなことはどうでも良いという風にクスクスと笑う。
「それにしてもこんなところまでよく来たね。正直、ここまで君が来るとは思っていなかったし、人がここに足を踏み入れるとは思っても居なかった。一体どんな手を使ったんだい?」
「ここには俺だけの力で来られたわけじゃない。俺は色々な人に支えられてここまで来た。お前には想像もつかないかもしれないけどな。」
俺は色々な人に支えられてここまで来た。
誰よりも強くなるために、強さをひたむきに求めていたあの頃。それだけでは本当の強さは得られないと知ったあの日。俺は自分を止められずに大切な人を失った。
失意に沈んでいた俺を助けてくれたのは、沢山の仲間たちだった。
そして俺は全てを救うと誓った。
「俺は全てを救うためにここまで来た。色々な人の思いを背負ってここに立っている。」
俺は自分を助けてくれたすべての人たちの思いを背負っている。色々な人が俺に思いを託してくれた。
金髪の少女は俺の折れかけた心をいつも支えてくれた。肥満気味の親友は無条件に俺を信じ、俺がいつも必要とするものを提供してくれた。エメラルドグリーンの瞳の少女は自分の運命を変え、俺の道を作ってくれた。老人は俺に未来を託し、俺の心を作った。
クラスメイトとは少しいざこざもあったが、最終的には俺に全てを託してくれた。だから俺は今ここに立てている。
色々な人と戦い、俺は心を交わしてきた。
敵対してきた者達にも色々な思いがあった。俺が嫉妬し俺に嫉妬した者、国のことを本当に一生懸命に考えていた者、戦うことを生きがいにした者、自己のことを一番に考えた者、国から迫害にされ誰からも除け者にされ続けてきた者、そしてすべての国を支配しようとした者。
交わした人間の心に嘘偽りは無かった。もちろん内容自体には納得がいかないこともあった。でも今考えてみると、どの人間にも一本芯の通った考え方があった。そういう意味では俺と同じだ。
俺はこの世界の人々を救いたいと思った。
俺が武道を身に着けたのは武道の魅力に引き込まれたからというのもあるが、始めたのは幼少期に戦隊モノのヒーローに憧れたからだった。今はそんなあやふやな気持ちに揺るがされることは無いが、それでも俺の心の根底にあるのは全ての人を思いやる気持ちだった。
自分の良いところは一途なところだ。その気持ちを真っ直ぐ貫いてここまで来た。
「だからお前を倒す。もうお前はこの世界には必要ないんだ。」
「出来るものなら。」
これは異世界に召喚された少年が様々な人と出会い、この世界の真実を知り、やがて世界の理不尽に立ち向かう、語り継がれることのない英雄譚である。
かなりネタバレ要素の含まれるプロローグですが、問題のない範囲で出したつもりです。
ここから始まる英雄譚。
ある一人の少年の物語にお付き合いください。