第ハ話 計画の要は臨機応変
祝転生部屋脱出記念、本日二話目ですm(__)m
目を開けるとそこは森○子だった。
「くっだらねえオヤジギャグを思ってしまった。
体は15、心はおっさんだなぁ」
光の奔流から解放され瞬き3回、周囲は事前の説明通りの森であった。
足元には魔方陣の名残のような幾何学模様が瞬いていたがやがて消える。
「…当たり前だけどもう戻れないのか…色々楽しかった分反動が…いかんいかん!!
神様にも言われたろ!!」
先程まで一緒だった神様のことを思い地面に一礼した。
「…にしても、森だなあ…この上なく森だ」
前は木、右を向いても木、左を向いても木、後ろを向いたら大岩があった。
取り敢えず登ってみた。かなり苔むしてはいるがゴツゴツしているので手足をかけるには十分である。さほどかからずにてっぺんまで到着する。
「ヤッホーーーーー!!」
ここまでで様式美であろう。
男の子は高い所があれば登り、登れば叫び、長い棒状のモノがあれば武器に見立て、穴があったら覗きたがるもしくは挿れたがるバカな生き物である 。
当然返答などあろうはずもない。
「…太古の昔から受け継がれる遺伝子のせいだ…俺は悪くない」
誰にともなく言い訳した後、周囲を見渡す。先程より高所から見渡すことで別のモノが見えてこないかと期待していたのだが…
「大して変わらないな…」
数メートル違うだけでも見渡せる距離はかなり違う。三角比の応用で距離等の当たりもつけられるはずだがおっさんは文系なので忘れていた。サインコサインタンジェントの呪文くらいは覚えているが。《算術Lv5》の適用範囲外のようだ。
唯一分かるのはここが平地に存在する森だという事である。
「田舎の山の中とは違うな、まあ日本で普通の人がが入れるような里山は杉だらけだけど…」
正確には木材確保用の人工林である。残念な事に木が育ちきる頃には外材の輸入に取って代わられ、今では花粉症の誘発原因の1つとして負のレガシーとなってしまっている。
一部で町おこしとして林業再興の動きがあったが元田舎在住としてはぜひとも頑張って欲しいものだ。
「街道近くの森って聞いてたけど…街道がわからん!!ギリギリ見えるくらいのところに飛ばしてよ!!」
おっさん早々にピンチである。
おっさんは考えた。必死に考えた。そして出た結論は、
「ぶきやぼうぐはかならずそうびしてください。もっているだけじゃダメですよ、だな!!」
取り敢えず大岩の上でアイテムボックスという名のボロ袋から装備を取り出し付けていく。
メインウェポンの刀を帯び、10本1セットの投げナイフも装備。
因みにこの刀を鑑定してみたところ、
『数打ちの刀:量産品の刀で低品質。主に刀鍛冶見習いの練習用として打たれる。』
との事だった。なんかただの刀じゃなくてちょっとした修飾語がカッコいいじゃないですか♪
防具はフルアーマーもあったが動きやすさを重視して薄手のレザー製の防具にした。気分と格好は聖なる闘士である!! テンションアガるぅ~♪
頭部は視界がふさがれるとよくない的な聞きかじり知識があったので鉢がねである。防御力としてはわりかし疑問なのだが…新撰組みたいでテンションアガるぅ~♪
もはやなんでもアガってしまう青天井状態だ。今は野外で天井はないのでまさにピッタリ♪
装備を着け終わったところでおっさんは再び考える。必死になって考える。考えをまとめる為声に出してみる。
「俺は今遭難状態だ。
今までの常識なら救助が来るまで動かないってのが定番、だがそもそも異世界…もう、俺が生きる世界だな、アーニスに救助隊があるのかが疑問、それに俺がここにいるって事を誰も知らない。救助を待ってここを動かないのは無し。
幸いな事に街道が近くにあるって情報がある。問題はどの方向にあるのかがわからないって事だ。方角を知る方法は…ダメか、方角がわかっても地図みたいなモノがあって生きる方法だもんな。
じゃあ視点を変えて食料はどうだ!? 飲まず食わずじゃ長くは持たない。アイテムボ…ボロ布でいいや…の中に食料、飲料の類いはない…森の中の食べられそうな…《鑑定》がある!! 食用に向いてるかは調べられるかも、後は森にそれがあるかどうか。よし、1つ明るい材料ができたぞ。
他には…ブツブツブツブツブツブツブツブツ…」
おっさんは考えていく。おっさんは必死になって考えていく。端からみればブツブツ言っている危ない人なのでここが森の中で良かっただろう。
おっさんの思考には多分にスキル《冷徹》の恩恵が含まれているのだが、今回は問題点の提起と検証に集中しているため客観視は出来ないようだ。
思考は一時間にもおよんだ。
「出来た!! 俺のフォレストブレイク!!」
直訳すると森林破壊っぽくなってしまうのだが、正確にはdeforestationである。
おっさんとしては森を抜け出すイメージをそれっぽくつけたのであるが。
「これが俺の全力だ!!
1、この大岩をベースキャンプ化する。
2、この大岩を中心に四方を1日ごとに探索。探索時は《土魔法Lv1》の《土操作》を使い土の道標を作る。道すがら食料・飲用可能な水源の捜索。
3、探索時間はMPが切れるまでとして最終到達地点で《土魔法Lv2》の《土壁》を使用し目印とする。道標をたどって帰還。
4、2を繰り返して探索範囲を広げていく
5、最終的には臨機応変に
完璧だろ♪」
最後の1文が大変日本的である。会議とかやっても最後に『どんなに準備しても予期しないトラブルがあるかもしれません。計画はあくまで計画、臨機応変にいきましょう!!』的な締めで終わることは多い。
おっさんも昔は、『それ言ったら会議の意味なくね?』と思っていたが、上司の立場になると案外と使い勝手いい言葉だと実感したものである。
さて上記の計画の中で中核になるのは《土魔法》である。おっさんがブツブツ考えている際、魔法の効果の検証に至り各魔法を使用してみたのである。
「やっべ、魔法の検証が最優先って思ってたの忘れてたわ。役に立つのがあるかもだし、ちょっとやってみよ…降り降り…イテッ!!」
大岩から降りようとして手の平を擦りむいてしまったため調度いいと《回復魔法》を使おうとする。
使おうとしてやり方が分からないと迷うが、自然と頭の中に浮かんでくる親切設計だった。
「えーと患部に手をかざして呪文唱えりゃいいのね、《小治癒》……おお!! テニスボール位の緑の優しい光が患部を覆って治っていく!!
すごーい、完全に魔法だ!!」
興奮冷めやらぬおっさんはもう一度使おうとする。が、
「《小治癒》……ん? 発動しない!? あーこれ傷がないと発動しないのか、え? 自動で判断してるの!? AI?」
再び親切設計がレクチャーしてくれたようだ。もっと試したいとも思うが断念して他の魔法も試すことにする。
「《土魔法》はレベル高い分多そうだから、先に《闇魔法》試そう。え~と、《闇操作》」
闇属性ということで若干声を低くし精一杯カッコつけたポーズで呪文を唱えるおっさん…今回は仁王立ちで両手にソフトボールを持つようなポーズである…痛々しい…
しばらくなにも起きなかったが、目を凝らしてみると周囲の物陰部分から黒い羽虫のようなモノが浮かび上がり、徐々に数を増やしながらおっさんの周りに近付いてくる。
影から抽出された闇成分と親切設計はあらかじめ教えてくれているのだが、なんというか蝿の大軍を連想させる光景にかなりひく…
「我慢が大事…我慢が大事…怖くない…怖くない…」
大人の忍耐力を見せ、纏まりつくような闇に触れてみると意外にも滑らかな絹布のような感触がする。
「あー、しっとりとして滑らか、僅かにヒンヤリとしたこの感触、極上のビロードに包まれてるみたいで安心するぅ~♪」
親切設計によると《闇魔法》は負の感情と安寧を司るらしい。今一把握しきれない部分はあるが《闇操作》の黒いモヤには直接的な攻撃力はなく視覚妨害と睡眠誘発の効果があるとの事だ。夜繋がりで安眠効果があるという事らしい。
影、暗がりに棲息?するため昼間はゆっくりとしか集まれないが、夜はそこいら中に存在するため効果が非常に速く高いらしい。
「あまりの心地よさに寝てしまうところだった。夜寝る前に使えばすぐ寝付けそうだ♪」
安眠の手段を確保する事に喜ぶおっさんだが、少し前から不眠を気にしており、起きているからトイレに行くのかトイレに行きたいから起きるのか悩んでいた次第である。
今は15歳の肉体とはいえ、メンタルな部分ではMIN55という低数に定評のある男である。そういう負の部分では《闇魔法》との親和性が高く当初から《闇魔法》スキルを発現していたのも納得であるのかもしれない。
「最後に《土魔法》だな。
Lv1は《土操作》……おお、土を動かすことができる感覚ってこれか!?」
オーケストラの指揮者のように手を振ると一定の量の地面の土が手の動きに合わせて動き出す。
範囲は狭く手の先3m程、サッカーボール程度の量だ。土は宙に浮かす事はできずモグラの穴がモコモコ動いているような印象だ。手先の動きに連動し速度も正比例している。
「Lv1の魔法は1種づつしかないみたいだな。
Lv2は《土壁》と《落穴》か…《土壁》!! おお、ニョキッと!!《落穴》!! おお、ズボッと」
指定した地面の地点を中心とした範囲の土を壁状にするのと穴状にする魔法だった。土は無くなったりどこからか湧いてくるのではなく周りの土を集めたり退けたりしているようだ。
その証左に壁が出来たところの周囲は小さなクレーター状になっており、穴の周囲の土は締められ穴のフチに土手が出来ている。
どうやら同じLv2魔法の為か、動かしている土の量は同量のようだ。試しに同じ地点を指定して壁と穴を作ってみるとほぼ元の地面に戻った。掘り起こされたような跡は残っているが。範囲は8m程で視認無しでも意識すれば後方などにも発動可能だった。
特筆するのはスピードだろう。どちらも指定して発動直後に結構な勢いで競り上がったり掘削されている。
Lv3も2種類あったが完全に戦闘殺傷目的であり、森からの脱出には関連しない為割愛する。
「フッフッフッフ、これで勝つる!!」
これよりおっさんの脱出劇が始まる!!
習得魔法の検証回でしたm(__)m