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第六十八話 赤いと3倍速そう

五十音タイトル最初に戻ります。


ギルド長とおしゃべり回です。

 朝の散歩がてら村を見て回り、湖岸沿いの道を下り続けるおっさんことアイバー。

 湖を見渡せる位置にいるわけだが、湖岸の向こう側が確認出来ないほどの大きさだ。この村名の由来となるだけでなく、北部領の領都の名の由来にもなっているとの事なのでさぞかし大きいのだろう。


「大きい湖って言うと、日本なら琵琶湖だな。世界だと…カスピ海だっけ? 死海?」


 正解はカスピ海。日本の国土より僅かに狭い程の大きさなので琵琶湖とは比べ物にならない。

 特徴としては、流れ込む川はあっても流れ出る川がなく水面からの蒸発による水位が保たれている。あと、海には繋がっていないが塩湖。大きさと地下資源により各国の利害が渦巻く湖だ。


「まあ、わからんもんはわからんの精神でいこう。面積とか確認する方法も知らないし」


 とりあえず綺麗な湖だと認識して歩くアイバー。

 先程娼館に行くために曲がった所を真っ直ぐ進むと港湾施設だ。

 テクテク真っ直ぐ歩いていると、遠目だが見覚えのある人物の影を見つけた。港湾の倉庫らしき建物から出てきたのは、バブル時代を連想させる赤いレザージャケットミニスカ姿のゴージャスな影、


「おや!? アイバーくん? こんな所でどうしたのかね?」


 アイバーをくん付けで呼ぶゴージャスな人はこの村に1人しかいない。冒険者ギルドのギルド長その人である。


「おはようございます、ギルド長。今日は仕事を休みにして村内散策兼従魔の運動です」


 とりあえず質問に答えておく。仕事にせよ会話にせよ先に始めた方や振られた方、頼まれた方を先に行わなければならない。質問に質問で返すなどもっての他だ。一般的なマナーである。

 が、(まれ)に何をおいても優先しなければならない事も社会にはあるので注意だ。学校や一般社会では教えてくれない、権力者に対する振る舞いには気を付けよう。


「ホラ、シューもブランも挨拶して!!」


「ガウウ♪」


「ガウウガウウ」『こんにちはです』


 挨拶は人間関係の基本だからな。


「よく従っているね」


 ギルド長の足元におすわりして挨拶する従魔達。

 見上げる格好になっているので、ミニスカの奥が見えていそうだ。従魔と視界の共有とか出来ないだろうか?


「よしよし、可愛らしいね。いい主人を持って幸せだ………私も結婚して子供を持って白い家に犬を飼って過ごしたいなぁ…」


 はて? なんか小声で何か言っているがよく聞き取れなかった。しゃがんでシューとブランをかいぐりかいぐりしているので聞き取りづらいのだ。


「ギルド長はここで何を?」


「あ、いや、なあに、数日後に定期船がくるのでね。港湾施設や備品の確認だよ。当日になってアレがない、コレが使えないなんてなったりしたら面倒だからね」


「なるほど…にしても、ギルド長自らですか?」


 備品の点検なんて組織の長がやる仕事ではない気がする。


「ふふ、まあ普通ならそういう反応だろうね♪

 イレギュラーな仕事は私がやる方が早いんだ。むしろカーミラやクリエに一般業務を抜けさせる方が後々面倒になったりするんだよ。

 規模の小さなギルド特有の現象とでもいうのかな?」


「…ギルドに限らず、長の仕事って交渉とか調整みたいなのが多いイメージですけど、これだけ小さい村だとそういう仕事自体が無い…みたいな!?」


「そんな感じだね…アイバーくんは世間の機微にも聡いのだね」


「ああ、いえ…」


「ふふ、まあ備品の点検も終わったところだ。少し話でもしないかい!?

 ちょうど、伝えておきたい事があってね。ゴーシュからの伝言でもあるんだよ。今日は休みだと言うなら時間あるだろう!?

 …ここでただの知人からちょっと親しい知り合いぐらいになっておかなければ…」


 またなんか小さい声で言ってるけどよく聞き取れなかった。俺、難聴系主人公じゃなかったはずだけど…まあいいか。


 ふーむ、どうしたモノだろうか? 

 アイバーの感覚からすると多少時代遅れの感があるとはいえ、ゴージャス美女からのお誘いとあれば悪い気はしない。だが、長年休日ボッチ生活をしていたおっさんは急な予定と言うものに尻込みする傾向があった。

 具体的に言うと、居留守を使ったり『今出先で~~中なんですよ』と布団の中から伝えたりしていた…アイバーさんはコミュ症である。


 が、転生してからはリア充とまではいかなくてもせめてもうちょっとこう前向きに生きようと決意したはずだ。

 スキル《努力の才》を取ったのも、楽な方にばかり向かないよう日々努力して、両親達の(のこ)してくれたモノを忘れないようにとの願いを込めたのだ!!!

 

 …それを思い出すのがちょっとした雑談に付き合うか断るか程度のコミュニケーションだというのが情けない話だが。

 コミュ症の人間にはこんな事でも考えすぎるモノなのである。


「そうですね、時間はありますね。で、伝えておきたいことってなんですか?」


 雑談の仕方が分からず、直球で用件を切り出すアイバー。

 いわゆる用件人間というヤツだ。一緒に飯屋に入っても、食事を済ませたらすぐ出ようというタイプの人間である。雑談等を楽しめず『飯屋は飯を食うところでしょ?』的なイラッとする奴である。

 食事の場をコミュニケーションの場と考えている人間には相容れないかもしれないが、家庭で食事中は話さないというルールを課せられている場合もあるので許してやってほしい。


「いきなりだな…もうちょっとこう、軽い雑談も楽しまないかい? 

 私達は知り合いだが、お互いの事を知らないだろう? ちょっとしたことでいいから話さないかい…例えば趣味とか」


 用件人間の拙速さにダメ出ししながらも、会話を続けてくれるギルド長。大人な対応であるが、その奥には若い男への下心が見え隠れしている。聞きたい事もお見合いみたいだ。

 が、せっかくの会話の糸口の提供なのでありがたく乗らせていただくアイバー。コミュ症にとっては会話のテーマが決まっていた方が話しやすい。


「そうですね趣味………趣味というか楽しみですけど、料理ですかね? 新メニューの開発?」


 趣味が思い付かないアイバー。娯楽の少なそうなこの世界で読書や映画鑑賞はふさわしくなさそうだ。

 なんとかひねり出したのが、最近作ったトンカツや唐揚げ、ハンバーグ等の料理だ。まあ、ウソではない。


「男性でというのは珍しいね!? 本職の料理人以外だと、家庭の食卓というのは女の仕事だからね」


「やっぱりそうなんですね」


 男尊女卑というか、男は働いて女は家の仕事って言うのが普通の世界っぽいもんな。

 だとすると昨晩マーちゃんの家で料理した時セシリーさん驚いてたのかな?


「…む…アイバーくん、他の女の事を考えているだろう!! 女性と一緒にいる時に他の女の事を考えるのはマナー違反だぞ」


 それは恋人間でのマナーでは!?と思ったが口には出さないでおく。

 ここはなに食わぬ顔で先程の話の続きを振っておこう。


「あ、じゃあギルド長も料理したりするんですか?」


「え!? うん、まあ、そのぉ…それなりかな?」


「へぇ~、ちょっと食べてみたいです。ギルド長の手料理」


 ちょっと恥ずいが、(コビ)を売っておこう。女性の手料理に興味あるしな。

 あれ? そう言えばこの世界に来てから自分の手料理とハーゲンさんの宿料理ぐらいしか口にしてないんじゃ…女性からって屋台のオバちゃんの肉串くらい?


「そ、そうか♪ き、機会があればな!!」


「ぜひお願いします!!」


 下心はないが、これだけ女性に囲まれている状況で少しも甘酸っぱい展開がないのはさみしい。多少不味くてもいいから、そういうイベントもあって欲しいものである。


「ど、どうした急に!? まあ(やぶさ)かではないが…

 ん、んん!! 次は君から聞きたいことはないかい? なんでも構わないよ、好きな男のタイプや年収、欲しい子供の数、結婚したら家庭に入るか働き続けるか等々、なんでも構わないとも!!」


 なんだろう? ギルド長、時折暴走するんだよなぁ…結婚したい願望が強いんだろう。

 まさか成人したての15歳にまで粉をかけてくるとは思わなかった…精神はおっさんだけど。

 あまり刺激してもよくなさそうだから無難な質問にしておこうと思うアイバー。


「そうですね…そう言えば、ギルド長の服っていつも赤色ですけど何かこだわりとかあるんですか?

 服の造りは変わっても、色には必ず赤が入ってますよね? 気になってたんです」


「ああ、そんなことでいいの?

 …って言っても大した理由はないよ。初めて迷宮(ダンジョン)で開けた宝箱の中身が赤いガントレットでそれを身に付けているうちに二つ名が『赤…まあ、そこはどうでもいいかな…

 …と、まあ周りから認められて呼ばれているうちに自然と身に付けるようになったと言ったところだ。それが続いているんだよ」


「じゃあその思い出のガントレットとかもまだあったり…」


「いや、ある戦いで失われてしまった…あの時は死ぬかと思ったね。それで…」


 二つ名とか色々気になるところだったが、本人が濁していたので空気を読んで聞くのはやめておく。

 その後天気や村の共通の知人、神官さんや鍛冶師のおっちゃん達の話題で盛り上がった。


「…いや、楽しかった♪

 あまり長々と話して引き留めるのも悪い。そろそろおひらきにしようか。

 それで、ゴーシュからの伝言なんだが…」



 

お読みいただきありがとうございましたm(__)m


更新延び延びになって申し訳ありません。


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