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第六十二話 ルンルン気分の週末を

サーペントの生態回です。

 解体所のカウンターにボロ袋から取り出したオーク4体とサーペントをのせたおっさんことアイバー。


「サーペントか。ここいらじゃ珍しいな」


 ギルドの解体担当職員のゴーシュさんは魔物の状態を確認しながら、そんな言葉をかけてきた。

 解体所にはゴーシュとアイバーしかいないので、アイバーに向けられた言葉で間違いないだろう。相変わらず人のいない部署である。


「珍しいですか?」


「ああ、比較的暖かい土地を好む魔物だ。ここいらは今ぐらいなら暖かいが、どちらかと言えば肌寒い期間が長い。蛇やトカゲの部類は適さんはずだ」


 アイバーが森で見た植生や話を聞いた印象では、北海道やアメリカ五大湖辺りのような印象だ。季節は春~初夏ぐらいだと思っている。

 大蛇の生息地域というとアマゾン等に代表される熱帯雨林が思い浮かぶので、確かにちょっとアンバランスな気がする。


「全く見ない訳じゃ無いがな…魔物の中にもはぐれ者や変わり者は出てくるモノだ。

 さて、首がキレイに切断されているな…ここから処理するか…」


 抑揚のない声音だが、心なしか嬉しそうな感じがするゴーシュさん。解体業務を専門にしている人というのはこういうものなのだろうか?

 刃物を使って切るだけでなく皮剥ぎなども同時進行で行っている。解体の手際が良すぎてい過ぎて理解できない件。


「なんだか楽しそうですね、ゴーシュさん…」


「………ん………まあ……仕事がないよりはな…で、取り分はどうする? なにか自分で欲しい素材はあるか」


「オーク肉を1体分お願いします。残りの皮とか睾丸は買い取りで。

 あと、サーペントって食えます?」


「…食えるな。少し独特のくさみはあるが鳥肉に似て美味い。皮や牙、毒袋もソコソコ良い値がつく。買い取りでいいか?」


「じゃあ、お肉は半分もらえます? 食べてみたいんで。その他は魔石以外は全部買い取りでお願いします」


「わかった。魔石と肉を切り出すだけなら大して時間もかからん。少ししたら来い」


「少しなら待ちますよ」


「好きにしろ」


 しかし、やはりヘビ肉というのは鳥肉に似ているのか…ワニ肉なんかも鳥肉に似ているって聞くから、○○リザードとかいたら食べてみたいモノだ。


「サーペントってどれくらいの強さの魔物なんでしょうか!?」


 待つ間の暇潰しに話を振ってみる。邪魔だとか思われたら黙っていよう。


「種族全般のランクで言えばDの中程といったところだが…こいつは普通の奴よりかなりデカい。ギリギリでCランクに入るかもな。

 以前ボウズが殺ったオークジェネラルはBの中位だな」


 話ながら作業するくらいはお手の物らしい。魔物に目を向け、解体を進めながらこちらの質問に答えてくれる。


「俺、結構ヤバかったですけどそれでもDランクですか…」


「…確かボウズは狼の子供を連れてたな。他にパーティーを組んでる奴はいないのか?」


「あ、はい…まだ」


 人間的にはぼっちです。

 シューとブランはいつも通り解体所に入りたがらなかったので外で待っている。


「それで、だな。

 サーペントは基本、一人がオトリになって絡み付かれている間に周りの仲間が仕留める。オトリ役は毒にさえ気を付けていればいい。厚目の金属鎧(プレートメイル)でも装備していれば、そうそう怪我を負うこともないからな。

 魔法なら《火魔法》が有効だな。

 数匹の群れになるとまた違うが、それはどんな魔物にも当てはまるか…」


「なるほど」


 確かに俺が締め付けられてる間はサーペントも動けなかったから、その間に頭とかを潰せればいいのか。

 残念ながら俺の《火魔法》はレベルが低い。

 シューとブランでは攻撃力が足りなかったし、オトリにしたら一瞬で潰されちゃいそうだったしなぁ…子狼だから仕方ないけど。やっぱり新しい仲間が必要かなぁ。


「実質1人でこの大物を討伐か…将軍種(ジェネラル)の件といい、なりたての冒険者にしちゃトンデモねえ成果だよ、ボウズ」


 おお、職人肌の人のゴーシュさんに誉められた!! うれ…


「だが…悪目立ちには気を付けろ。たいていロクな事にならん…まあ、何故かその歳でわきまえてそうだがな」


「…どうも」


 一応それなりに気を付けているつもりのアイバーであるが、わかる人にはわかってしまうのかもしれない。デキる男、ゴーシュさん!!


「ほらよ、サーペントの魔石だ。通常のサーペントの倍ぐらいはある。譲ってくれるなら大銀貨相当にはなるな」


 カウンターにおかれた魔石は手に収まるくらいの大きさで、体表と同じく青く透き通っている。ゴブリンやオークの魔石は親指大の黒いガラス片といった印象だったが、こちらは大きなサファイアのようだ。


「何となくですが魔石は取っておきたいんで。

 オークジェネラルの魔石は強制買い取りだったので見れなかったんですよね…どんなんでした?」


「大きさはそれとそう変わらなかったが、色は暗めの赤だった。籠められた魔力はそれとは比較にならなかったな」


「? 『魔力』がどんだけ籠められてる、とかって分かるもんなんですか?」


「スキル《魔力察知》を持っていれば分かる…その様子だと持っていないようだな」


 新しいスキルの情報だ。ラッキー♪


「今は必要ないかもしれんが、中級から上級の冒険者には必須だぞ」


「ちなみに習得条件は?」


「魔法戦を繰り返してればそのうち覚える。生きてればな」


「脅かさないでください…」


「本気だ。ヘビ肉半分だったな、皮剥ぎと切り出し終わったぞ」


 ドンと肉の塊がカウンターに置かれる。皮を剥ぐと、全体的に白っぽい肉に所々に赤い繊維が入っているような感じだ。


「う~む、これがヘビ肉…やっぱ(うなぎ)とは違うな」


 鰻のような蒲焼きみたいなのが出来れば、と思っていたアイバーだが、肉質を見て無理だと悟った。煮たり焼いたりを色々試してみようと思うアイバー。


 その後オーク肉1体分とそれ以外の素材の買い取り金額を受け取り、解体所を後にするアイバー。ヘビ皮が良い値段になるらしく、大銀貨2枚程を受け取りホクホクである。


「約20万円なり♪」


 解体所からでると、シューとブランが軒下で寝そべって重なりながら眠っていた。

 子供だからな~疲れが溜まっていたのかもしれない。ステータス上では疲労状態等の記載はないようだから気が抜けたかな?


「ん~~、ほらシュー、ブラン、帰るよ」


「クゥゥ…」


「クゥクゥ…」


 シューもブランもイヤイヤするように顔を前足で隠したり、お腹側の毛皮に埋めたりしている。シューはともかくブランもこんな態度を取るとは珍しい…だいぶおねむのようだ。


「そういや、ここ何日かは外に出ずっぱりだったからな…明日、明後日くらいは休養日に当てとこうかな」


 転生してから10日程、完全オフの日を作っていなかった事に思い至るアイバー。森にゴブリン狩りに行かない日も、なんだかんだでギルドに呼び出されたりしているので1日2日ゆっくり休みたいと思ってしまう現代日本人感覚である。


「言うなれば、ギルドに行って依頼を受ければ出勤、用があったり呼び出されただけでも臨時会議に出たようなもの。森にゴブリン退治に行けば工場や現場に直行してるようなものだな。

 連日出勤は精神衛生上よくない!! 休もう!!」


 休むとなれば全力で肯定するおっさん。

 これは現代人に必須のスキル。仕事を忘れよう、誰かがやってくれるさ!!の精神で。


「疲れてるようなら抱きかかえて行っちゃうか!? 子狼2匹ならなんとかなるだろ」


 丸まって寝ている従魔2匹を下から掬い上げるようにして、なるべく姿勢を崩さないように抱き上げる主人。

 多少姿勢が崩れるが、主人に抱き上げられていることに気付くとそのまま体重を預ける従魔達。信頼しているのだろう。

 そのまま胸の中で眠り続ける様は親に甘える子供のようで、ちょっとキュンとなるアイバー。あるかないか分からなかった父性が、あると証明された瞬間である。


「清湖亭に帰るぞ~」


 従魔2匹を抱き上げながら仮宿への家路につく。

『明日は休みだ。そう思うとこの腕に掛かる重みは幸せと責任の重さだな♪』等とお花畑な事を考えるアイバー。

 臨時収入と子狼の可愛らしさ、明日が休日というトリプルな幸福感によりトリップしている様子である。今日はこのままご飯食べて酒飲んでゆっくり休もう、と思っていた時、


「あー♪ しゅーちゃんとぶーちゃん♪ 寝んねしてるの♪」


 平穏をクラッシュするお子様、マーちゃんとの遭遇である。

 



お読みいただきありがとうございましたm(__)m


オークジェネラルの魔石が扱い不明になってしまっていた為、討伐証明として強制買い取りとする設定にしました。合わせて第四十話の報酬受け取りの部分を追加訂正させてもらっています。

申し訳ありませんm(__)m

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