第六十一話 リア充とはなんぞや
少し短めです。
夕方近くということで、そこそこに混雑している冒険者ギルド。
依頼報告の順番待ちや、依頼ボードを見ては代わり映えのしない内容にガッカリする冒険者。顔見知りと雑談に近い情報交換をしている者達もいるようだ。
「カクカクシカジカ…と言う事です」
そんな賑わいの中、常時依頼のゴブリンとオークの精算と森でのカード回収やサーペント戦についてギルドの受付で報告するおっさんことアイバー。
別に報告の義務は無いのかもしれないが、前生の会社勤めで報・連・相の癖がついているアイバーである。
「ふうむ…そのような事が」
いつものダークエルフ受付嬢カーミラは非番との事で男性受付のキースさんに報告している。特に問題は無いはずだが、なんだかガッカリしてしまうアイバー。
コンビニで若いお姉ちゃんバイトにレジ打ちしてもらう直前、おっさん店長がもう1つのレジを開けて『2番目にお待ちのお客様~こちらへどうぞ~』って言われたみたいな感じだ。
男の性である。ロマンシングなのだ。
もう一人の若くて可愛い受付嬢、クリエもいるのだが彼女とはなんとなく壁を感じているアイバー。
近所のコンビニでも何となくウマの合わない女性店員がいたが、そんな感じだ。
「では、その回収したカードをお見せ頂いてよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
拾ったカードを渡すと、魔道具らしきものにのせて確認しているキースさん。銀行業務みたいで手元はよく見えない。
「………ふむ、数日前から行方の知れない冒険者の方のカードで間違いありませんな。お届けいただきありがとうございます。
にしても、湖の岸で見つけた…ですか。ひょっとしたらアレではなくアイバーさんが仕留めたサーペントにやられた口かもですな。
時期が時期だけにあのように判断したのですが…」
アレと言うのはオークジェネラルの事だろう。オークジェネラル討伐の件はあまり口外しないでとの事だったのでおおっぴらには呼べないということだ。アイバーのすぐ近くには見知らぬ冒険者がいる訳なので尚更だ。
「サーペントは水の中にいることが多いですもんね…」
大型の蛇やワニ、カバは自重のせいで水中の方が浮力が働いて楽だと聞いた事がある。《鑑定》でも水場を主な生息地にしてるみたいな記述だったのでこの世界でもそうだと思ったアイバー。
「はい、もしくはアレの食い残しを丸飲みして…と言うことも考えられますな。なんにせよ、真相はゴブリンの巣穴ですな。
確実なのはこのカードの持ち主は生きてはいまい、ということですな」
「ですね…」
サーペントに丸飲みされた時点で生きてはいなかっただろう。人体は消化されて、それ以外がプッと尻穴から……………
そこまで考えたアイバーは、ギルドのカウンターの角に指を強く擦りつけた。深い意味は無い、全然無い。
見ればキースもいつもはしてない白い手袋をしている。執事とかがつけてそうな手袋だが、いつからしていたのだろう?
「ガウゥ…」
「ガウガウ?」『うんちのことです?』
今まで静かにしていた従魔達がこのタイミングで鳴いた。シューからは悲しげな、ブランからは念話通りの感情が伝わってくる。急に人間くさくなる時がある従魔達である。
そういえば臭いを嗅ぐのを嫌がって…あ、シューはカードをくわ…
「グルル!!」
それ以上考えるなと言わんばかりにシューが唸った。
ゴメンやで…でも俺も素手で触っちゃった…その点では、シューとより深い絆で結ばれた気がする。目を合わせて頷き合う主人と従魔。
「アイバーさん、ゴブリン17体にオーク4体で常時依頼21件達成、銀貨2枚と大銅貨3枚になります。
良いペースですな。ランクが上がるのもすぐでしょうな」
報告の間にも常時依頼の精算を進めていてくれたらしいキースさんである。報酬を受け取ってボロ袋に入れておく。
ふと、思った事を尋ねてみる。
「そういえば、ランクの上がり方って詳しく聞いた事が無かったですかね…Cランクからは試験があるって聞きましたけど、それ以下は数をこなせばいいんですか?」
「はい、その通りでございます。詳しいことは内規なので申せませんが…」
しばらくはあまり考えずに常時依頼や通常依頼をこなしていればよさそうだ。
キースに礼を言って受付を離れると、ギルド内で見知った顔を見つけた。
「あ~、アイバーニャ♪」
「あ、ホントだ。おつかれ~」
「どうもですぅ~」
猫獣人のリアと槍使いのミゼット、後ろにはローブ姿のポルカもいる。
彼女達とは2日前の夜に話して以来だ。宿が一緒なので遠目には見かけていたが、話しかける程の距離にはいなかった。
駆け寄って挨拶が出来るほどのコミュ力はおっさんには無いのだ。
「お三方、久しぶり…って程でもないけど元気してた?」
「お陰さまで順調ですぅ。
『伐採』のお仕事も、アイバーがいた頃に比べると少ないですけどぉ、以前よりは効率が上がりましたぁ♪」
舌ったらずな口調で魔法使いのポルカが報告してくれる。
「変態がいないみたいだけど…別行動?」
てっきり一緒に行動していると思ったのだが。
あのブーメランパンツに鉄兜、あとはほぼ全裸と言ってもいい古代ローマの剣闘士のごとき姿が見当たらない。
「…いや、変態は元々1人だから。私達のパーティーメンバーじゃないのよ」
「そうニャ、用事が無ければ近付かないニャ。一緒にいて同じパーティーになった、とか噂されたら恥ずかしいニャ…」
「うん…まあ、そうね…」
リアの往年の名作ギャルゲー風の断り方に、すごく納得がいってしまった。
貴公子verの変態ならともかく、冒険者verの変態と並ぶとか無理だわ。人は外見が大事だという見本だな。
「…で、どう? あれから魔法覚えた?」
外見に関しては若干自身にもダメージがきてしまう話題なので、早めの方向転換を図るアイバー。自称ギリギリフツメンなので、デリケートな話題である。
「あ、はいぃ♪ それなんですが…」
「…リアが次の日には《水魔法》を覚えたのよね、一番最初に」
「へえ~、スゴい…意外だねぇ」
「一番だったニャ♪ …意外ってなんニャ!!」
「そうなのよ!! スゴく意外だったの!!
ホントに覚えられるんだ!?、って驚きもあったんだけど、リアが一番っていう方が勝っちゃったのよね。魔法って…こう、頭のいい人が使うってイメージだったから」
「確かに意外だったですぅ」
「…うニャ…差別ニャ、獣人差別ニャ~!!」
不服そうな猫娘リアをよそに意外意外言う3人。
案外水魔法のスキル適性が高いのかもしれない。神様も完全ランダムだって言っていた記憶がある。
「で、他は?」
「…変態が昨日の夜中に《土魔法》を覚えたって言って今日から使ってたのよね…私はまだなのよ」
ちょっと悔しそうな表情を浮かべるミゼット。
「で、でもぉ、アイバーの言っていた事は間違いなさそうですしぃ、続けていれば必ず習得できるはずですぅ!!」
「そうニャ♪ 諦めたらそこで魔法終了ニャ♪」
ミゼットをフォローしたポルカだったが、続いてリアがポンと肩を叩く。若干よこしまな表情で。
「く、くっそー、リアにバカにされるなんて…」
「因果オホーニャ♪」
今日のリアはなんだか絶好調だな、と思いながらギャーギャー言い合う2人から距離を取るアイバー。
「さてと、俺はちょっと解体所の方に行ってくるから」
「あ、はいぃ。それじゃまたですぅ」
ポルカに挨拶だけしてギルドの受付を離れる。
なんだかんだで仲の良いパーティーだな、とおっさんな感想を抱くアイバーだった。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m




