第五十九話 夜9時からはロードショー
「………これってアレかな、もしかしてアレかな!?」
「ガウゥ?」
「ガウガウ?」
従魔が拾ってきた予想外なものに慌てるおっさんことアイバー。
深呼吸を2回してもなんだか落ち着かない、人の文字を書いて飲み込んでも落ち着かない…いざとなったら放り出そうと決めたらちょっと落ち着いた。
逃げるは恥ずいが役に立つなあ。
「自分のは…ある。俺が持っても文字が浮かび上がらない………てことは別人のカード…」
ここで頭の中に浮かび上がったのが数日前のギルド長との会話だ。
『調べてみたら5日前から行方知れずになっている冒険者があと2人いてな…タイミング的に、な?
もし遺体などを見つけたら回収をお願いしたい?
最悪カードだけでもいいのだが、アイバーくんはアイテムボックス持ちだからな…頼むよ』
『まあ、見つけたらって事でよければ…』
『ああ、それでいい』
行方不明者…カード…なんだろう、なんかテンション上がってしまう。非日常なドキドキ感である。
「………遺品、てヤツじゃないのかなコレ? シュー、これどこで拾ったの!?」
「ガウ!!」
こっち!! といった感じで案内する様子のシュー。砂浜の1部を前足で叩いて『ここ!』と示してくれている。
湖も大きいものになると砂浜のような岸が出来ることがあるが、ここサイアン湖にもあるようだ。
「? 流れ着いた…のか? じゃあ本体はドザエモン…アレ?
行方不明の人のだとしたら、なんか……」
「ガウガウ?」『どうしたです?』
何か不自然な点があるような気がするのだが、何が不自然なのか言語化出来ないアイバー。
何か腑に落ちないモノを感じながらも、拾ってしまったモノは仕方がないとボロ袋に収納しておく。
「ん~、まあギルドに届ければいいか。事情を聞かれたら、正直に話せばいいな…」
一応、近辺を見回してみたがそれ以上の痕跡は見あたらなかった。
シューとブランにも臭いを嗅いでもらって、警察犬みたいな事を期待したのだがダメだった。ちょっと臭いを嗅いだら鼻を背けられてしまった。おっさんは感じないが、なんか臭うのだろうか?
「…なんか妙に興奮してしまった…エベレストで先人の遺体を発見してしまった感じというか、山奥でバッグに入れられた札束を見つけてしまって関係ないのになんか犯罪に巻き込まれた感じのするソワソワ感というか…
一応周辺の捜索はしたし、これ以上はいいだろ…念の為《土魔法》で目印のモニュメント建てとこ」
《土壁》の重ね掛けでオベリスクっぽいモニュメントを建てておくアイバー。
「…ウム、日本民族の芸術の血が騒ぐ。芸術を暴発だ!! 《土槍》も使って飾り付けておこう♪」
先程までの興奮の名残か、興が乗ってきたので《土魔法》で造形物をこしらえる。ハイテンションのままに、よく分からない前衛芸術が湖岸に生まれてしまった瞬間である。
「さて、レベルアップ再開。また30分~1時間ぐらい魔物探しをしよう」
森に向かって歩き出すアイバーと従魔2匹。
この後昼を挟んで午後の3時頃まで狩りを続け、そこそこゴブリンとオークを狩ったアイバー達であった。
『従魔のレベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』
『従魔のレベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』
『従魔のレベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』
『従魔のレベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』
『スキル《槍術Lv1》を取得しました』
『スキル《HP自動回復Lv1》を取得しました』
『スキル《身体強化Lv1》を取得しました』
『従魔がスキル《気配察知Lv3》を取得しました』
『従魔がスキル《隠密Lv1》を取得しました』
『従魔がスキル《風魔法Lv1》を取得しました』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「《闇魔法》による奇襲はいいな。ゴブリン5~6匹ならほぼ問題なし。
オーク戦も以前は魔法メインだったけど、刀が通じるようになった…これは刀自体のお陰か。
にしても、槍を投擲したら《槍術Lv1》を得られるとは…予想外だったけど、今後は色々投げよう。コマンド『なげる』だ。
他2つのスキルの習得条件はよくわからんな」
北の森での狩りを終え、帰村中に本日の反省を行うアイバー。
前生からの癖で、反省や確認することをブツブツと唱えるように口にしてしまうのである。
「ゴブリンとオーク合わせて20匹近く狩ったけど、自分のレベルは上がんなかったな。
シューが1、ブランが3上がったからな。ギリギリでノルマクリアってことで…」
これでアイバー15、シュー12、ブラン8というレベル編成だ。
「シューが《気配察知Lv3》と《隠密Lv1》を習得したのは問題ない。シューは能力的に盗賊とか斥候っぽいからな。
今日一番驚いたのはブランが《風魔法Lv1》を覚えた事だな…魔力草食べたり小さく吠えたり、なんか前足動かしているな~、って思ったら魔法覚えてるんだもんな」
「ガウガウ♪」
念話で話を聞くと、以前リアや変態に魔法講義をした際に聞いていたらしい。厚切り肉食べたら足元で静かにしてるなぁ~と思ってたらそんな事してたのね…家の子は優秀だわぁ~。
で、Lv1魔法の《~操作》で一番身近にあって調達しやすかったのが空気だったので《風魔法》の《風操作》を使ってたという訳らしい。
狩りの最中にも採取をしてくれていたブラン。ついでに自身のMP回復も済ませていたという訳だ。
「子供で狼といえども女だな…抜け目ねぇ。
とはいえ、いい子いい子♪ 実に貴重な情報だ。魔物でも魔法スキルの習得は可能って事だもんな…シューもなんか覚えないかな♪」
「ガウ?」
「…火魔法とかどう? お肉も生より焼いた方が美味しくなるよ♪」
「ガウウゥ!?」『おいしい!?』
シューの操縦法が大分わかってきた主人である。
念話で《火操作》の訓練をしようと伝えたら渋ったが、こんがりお肉のイメージを伝えたら納得した。チョロイヌである。
「…レベルやスキル等の反省はこれぐらいにして、ちょっと気になる事があったんだよな…なんだったんだろ、アレ?」
アレとは森の中で時折見かけた奇妙な痕跡だ。
「っつうかコレ」
今もシューを先導に森の中を歩いている訳だが、時おり木の根元に削られたような跡がある。そこだけ生木部分が露出しており、印象としてはヤスリ掛けでもされたかのようだった。
それが不定期な間隔で傷を残しており、心なしか進むほどにその間隔が狭まっているような気がする。
「…なんか、とってもイヤな予感…《気配察知》には引っ掛かって無いんだけど…シュー?」
「ウゥ…」
首を振って唸るシュー。念話では、特に何の気配も感じない、的な返事がきたが、主人同様に何らかの予感でも感じているのか、挙動不審なシュー。
「…ああ、なんかコレ覚えがある。昔の木曜夜9時によくやってた映画のジャンルの9時40分頃っぽいぞ!! 最近だと午後の2時からやってるロードショー!!」
木○洋画劇場と聞けば察する人も多いであろう。
おっさんの青春時代はテレビ全盛期であり、火曜はサスペンス、木曜~日曜の夜9時から2時間映画の独壇場だった。おっさんはプロ野球のナイターとか興味なかったのだ。
特に木曜は、ある偏ったジャンルで有名だった。
「いわゆるB級、だが、ヴァンダミングアクションでも香港ジョッキーでもない…ましてやエロスでも!!
それはホラーやモンスターパニック…今の俺、狙われている感がビンビンだぜ…」
実はおっさん、ホラーやスプラッタ系の映画は苦手である。血とか汁がブシャーは平気なのだが『警戒して警戒して………襲われる!!』の『………』の間に耐えられない男なのである。
心臓に負担をかけるのはよくない、というのがおっさんの言い訳である。
「…気にしすぎかな!? 横を向いたらそこに…」
などとフッと横を向いてみる。
「………何も無いよなぁ。B級ホラーあるあるだとこれで正面見ると………無いよなぁ♪」
人間怖くなると口数が多くなるらしい。
あくまで一般論であるが、アイバーは一般論がだいたい当てはまる人間である。
「ベタだけど、これで上向いたら…」
爬虫類独特の感情の感じられない瞳と目があった。蛇のアゴの構造上、信じられないくらい開かれた口と、上顎から伸びた牙からトローリと垂れた透明な滴が印象的だった。
「モンスターパニックの方でしたかぁ!?」
2度目の不意打ちによる戦闘が始まる。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m
この話を投稿する日に午後のロードショーでアナコ○ダがやっていたのは偶然です…前から大蛇戦は構想してました…ホントですよ(^ー^;A




