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第五十八話 ゆるやかな成長

ゴブリンとの戦闘回です。

「フッ!!」


 肩口から入った刀がスルリと通過し逆の脇下に抜ける。本来分かたれてはいけない筈の体躯が2つになり、変顔のまま事切れるゴブリン。

 おそらく何が起こったか分からない戸惑いの表情なのだろうが、あいにくとゴブリンの表情の変化に詳しくないおっさんことアイバーである。


 鍛冶師のおっちゃんの工房を出た後、今日も北の森で訓練を行う。いつものように森と湖をジグザグに移動しつつ、発見した魔物を辻斬り中である。

 切り捨て御免!!


 訓練といっても、本日の目的はレベルアップなので実戦を行っているアイバー。ゴブリンを1匹を不意打ちで倒す程度なら訓練と言っても差し支えない程度の負荷だ。


「ふぅ、2匹目と。まだまだレベル上がんないか…


 ヒュッと刀を振って血糊を払う。新しい刀の調子は良い。良すぎるぐらいだ。


「さすが名刀『岩刃(イワノハ)』って自分でつけたんだけど…抜けば玉散る氷の刃じゃないけど、スッと入ってスッと抜ける。血脂(ちあぶら)もあんまこびりついたりしてない気がする…前の刀と重さは変わらないけど密度っつうか厚みっつうか、刀身の質が違うように感じるな…いい買い物したぜ♪」


 刀身を仰ぎ見てから鞘に納める。

 見ると今斬ったゴブリンにシューとブランが食いついていた。


「食べていいけど顔回りは避けてな、耳だけ切り取っちゃうから」


「グァウ!!」『りょうかい!!』


「グァウァウ」『おむねのいしだけだしとくです』


 ブランが胸辺りに食いつくと魔石を胸周辺から取

り出してくれていた。1・2回ゴブリンを解体しているのを見せたら、魔石の存在を知り取り出してくれるようになったのだ。

 いい子いい子してやったら喜んでくれた。 


「…まあゴブリンの魔石は銅貨1枚程度なんだけどなぁ」


 それでも魔石は魔石、大量の魔力的なモノが必要となる場面もあるかもしれないとストックしておくアイバー。

 何となくギザギザの十円玉をとっておいた前生を思い出した。


 ゴブリンに食らいつく2匹を尻目に右耳を切り取っておく。食事中の犬猫に近付くと唸られる事もあるが、主人認定されているからか大人しいモノだった。


「ほい、そろそろ行くよ。シュー、また先導お願い。ゴブリンの死骸は、《落穴(ビット)》、《土操作(アースムーブ)》で土葬にっと 」


「ガウ!!」


 シューを先頭にアイバー、ブランが並ぶいつもの隊列を作る。

 スキル《気配察知》は基本全方位に向けられるが、意識すればある程度方向を絞ることも出来そうだった。シューに前方側に集中してもらい、アイバーは後方を警戒しながら進んでいく。


「今日はオークジェネラルと遭遇した日ぐらい狩れればいいな…またアレと戦うのは勘弁だけど…」


 今考えると、よく勝てたモノである。思い出しただけで鳥肌モノの恐怖だ。

 よくJーPOPの歌詞で、昨日の自分より今日は成長してるみたいなのがあるが、またあれと戦うのは勘弁だ。そういう意味では先日の自分に負けてるアイバーであるが、世の男性のほとんどはそんなモノだ。老害の武勇伝などその最たるモノであろう。

 勇気と無謀は若者の特権だが、身の程を知るのも男の成長に必要だ。


「今の俺は体は15、心は40手前だからな…身の程を知りつつ、蓄えた知識を勇気と経験で試していこう!!」


「ウゥ…」


 シューの索敵に反応があったようで警戒の念が飛んできた。


「前方左手、数5ね…少し多いな。

 よし、今日のビックリドッキリ魔法《闇魔法Lv2》、《闇霧(ダークミスト)》と《睡魔(スリープ)》を使ってみよう♪」


 つい先日覚えた魔法で、運用方法に関しては親切設定からの情報で考え済みだ。


 腰を屈めて中腰、抜き足差し足忍び足で慎重に進む。少し歩くと、藪の向こうにゴブリン5匹が固まっているのが確認出来た。

 オークジェネラルとの戦いによりレベルアップしたアイバーだが、未だ戦闘においては不意打ち闇討ち上等の暗殺者ルートである。


「驕る平家は久からず、安全第一…正々堂々正面対決は他の人に任せておこう」


 手振りと念話で従魔2匹をゴブリンの進行方向へ誘導、先制後にゴブリンが逃げ出したら足止めするよう指示を出しておく。

 本人はボロ袋から投擲物として槍と矛を1本づつ取り出す。オークジェネラル戦以来有用性に気付いた投槍である。


「…投げボ○グっぽくて好きだ…」


 投槍の感想を呟きながら《闇魔法》使用の為、集中するアイバー。


「先ずは…《睡魔(スリープ)》×5」


 《睡魔(スリープ)》は《闇魔法Lv2》で覚えた魔法で、文字通り対象に眠気を与える魔法だ。範囲魔法ではないようで、1魔法につき1体が対象だが同時発動は可能だった。闇成分のエフェクトが何もないので、発動しているか不安になる魔法である。


「ギギ!?」「ギャウギィ!?」「ギギャア!!」「「…zzz」」


 5匹中2匹に成功したようで、足取りが怪しくなる。成功判定的なモノがあるのかと思いつつ観察し、1匹がその場でへたりこみもう1匹が近くの木にすがりついて倒れ込む。


「ここで、《闇霧(ダークミスト)》」


 ゴブリンの集団周辺に黒い闇成分が発生し、そのまま覆いつくす。

 《闇魔法Lv2》のもう1つ、《闇霧(ダークミスト)》は指定範囲に闇成分を発生させる魔法。発生させた闇には例の安眠効果的なモノはあるが、直接的な攻撃力はない。


「でも、視界はふさがれる。そんでもって急な暗闇の中で駆け出すような豪の者がいるかな?」


「グゲギャ!!」「ギィィ!?」「グゲギャ~」


 案の定、黒い靄の中からゴブリンの鳴き声が聞こえるが飛び出してくるような気配はない。《闇霧(ダークミスト)》は範囲指定後に固定される魔法なので、その範囲外に移動されてしまうと効果がないのだ。


「そのまま元の位置にいてくれよ。槍の~《投擲》!!」


 黒い靄の中に全力で槍をぶち込む。目標としては、《闇霧(ダークミスト)》を使う前に見たゴブリン達の立ち位置に向けてだ。


「ゲピィ!!」「ギギ!?」「グギャギャ!?」


「…もう一発…矛の~《投擲》!!」


「グギッ!?」「ッギギガ!!」


 矛をぶん投げた後は刀を抜き、黒い靄にやや近付く。その間ずっとゴブリンの鳴き声が聞こえてくるが、この魔法の難点は中から外が見えないように外からも中がどうなっているか分からない点だ。どのような状況になっているかは魔法の効果が切れてみないと分からない。

 《闇霧(ダークミスト)》は10秒程で自然に解除される魔法なのでそろそろだ。


「…解けた」


 《睡魔(スリープ)》が効いた2匹は魔法前の姿のまま伏している。残りの3匹のうち1匹の腹には槍が突き刺さっており、もう1匹は肩口から出血している。2本目の矛はかする程度だったようである。無傷なのは1匹。

 そして闇の霧が晴れた事により、自分達の状況が鮮明になりなおさら混乱するゴブリン達。


「ギギィ…」「ゲギャー!!」「ギィ、ギィ!?」


 急に目の前が暗くなったかと思えば暗中に痛い思いをし、目の前がハッキリしたかと思えば腹に槍が刺さっていたり肩から出血している。

 思考能力のある生き物程混乱するのではないだろうか? 混乱しない為には相当場慣れしているような練度の高い精鋭、もしくその逆に一目散に逃げる獣のような本能で動く者達の方がいいのかもしれない。


「…混乱から立ち直る前にぶった斬らないとな」


 駆け出すアイバー。狙いは無傷のゴブリン。

 

「フッ!!」


 右薙ぎの横一閃。落ちる首。1体目。


「セッ!!」


 肩を押さえているゴブリンを視界に入れ、返す刀で兜割り。2体目。


「フッ!!」


 もう一度右薙ぎ。腹に槍が刺さったゴブリンの、顔面半ばにめり込ませる。3体目。


「…チッ」


 力任せに刀を引き抜き、寝こけているゴブリン延髄に突き立てる事2回。4体目、5体目。


「ップゥ~~…、シュー、ブラン!! もう出てきていいよ!!」


 今回は従魔達の出番はなかったな、と思っていると木陰から2匹の子狼がトテトテと近付いてくる。


『従魔のレベルが上がりました。ステータスを確認してください』


 途中天の声が聞こえてきたため確認するとブランのレベルが上がっていた。


「ガウガウ♪」


「ブランはまだレベルが低いからな…今日中に後2~3は上げたい。俺とシューは…1レベル上がればいいぐらいかな? オークジェネラルで多めの経験値っぽいモノを得ちゃったからなぁ…まあ仕方ない。 

 シュー、周りの警戒よろしく」


「ガウ!!」


 現状と将来への展望を考えつつ、突き立った槍を掴みゴブリンに足を掛けて引き抜く。矛も少し離れた地面に落ちていたため回収する。次は耳削ぎと魔石回収だ。


「ん~、不意打ちに《闇魔法》を併用すれば、多少数に差があってもイケるな…格下相手だけど。

 刀の取り回しも《刀術Lv3》のお陰か前よりスムーズにいった気がする、けど3匹目で振り抜けなかったのはちょっと失敗だなぁ…今度ああなったら直ぐに手を離して別の武器かなぁ? 手放す訓練もしとかなきゃ」


 ゴブリンの右耳を削ぎながら戦闘の考察と反省を行うアイバー。

 

「《魔法解除(マジックキャンセル)》の魔法とかないかな? 《闇霧(ダークミスト)》を任意のタイミングで霧を晴らせた方がやり易い気がする」


 魔石を取り出しているとブランが手伝ってくれる。魔石を死体からほじくりだすとくわえて目の前に置いてくれる。するとお座りしたまま尻尾を振っているので、血塗れの手を木や乾いた地面で拭ってから頭を撫でてやる。


「ヨシヨシ、ありがとな♪」


「ガウガウ♪」


 犬猫は捕った獲物を主人に見せに来るという本能なのだろう。

 

 5匹分の右耳と魔石を回収し、死体を土に埋めて再び進軍しようとするアイバー。


「ガウウゥ…」


 なんかちょっとシューちゃんがご機嫌ナナメである。念からすると、魔石の件でブランだけが誉められているのがご不満らしい。


「まあ、索敵とか別方面の活躍をしてもらっているからね…」


 玉虫色の返事でなだめる主人。いまいち納得出来ていないようなシューだったが、


「…おっ湖岸だ。ちょっと休憩にしよう」


 話を変えるのにもちょうどいいので、休憩にするアイバー。


「休憩はこまめに取らないと疲労が溜まっちゃうからな。シュー、ブランおいで♪ 《小状態回復(リカバー)》掛けておくからな」


「ガウ」


「ガウガウ」


 1人と2匹に《小状態回復(リカバー)》を5回づつ掛けておき疲労対策をしておく。以前痛い目にあった経験からの予防法だ。


 その後少しの間休憩とする。

 シューとブランは湖の水をペロペロしているが、アイバーはボロ袋から皮袋を取り出してぬるい水で喉を潤す。


「…早いところ《水魔法》のLvを上げて水を産み出せるようにしたいなあ…」


 今後のLv上げ魔法の方針を得たアイバーである。


「さて、そろそろ行くか」


 休憩を終え、更なるレベルアップに励もうとするアイバーだったが、


「ガウ!!」


 座っているアイバーの元にくわえていた何かを差し出してくるシューちゃん。どうやら先程の件を覚えていたらしい。

 案外子供っぽいところがあるんだなあ、とシューを微笑ましく思う。と同時に食欲全開のチョロイヌから同種のブランに競争心を持つなんて成長してるじゃないか、と親心を震わせているアイバー。


「ヤレヤレ、何を拾って来てくれたのかなぁ…ってこれ!?」


 素っ気ない鈍色のカード、アイバーも持つ冒険者カードであった。



お読みいただきありがとうございましたm(__)m


成長の物差しがゴブリン…スケール小さい系主人公。


物語が…動き出す!! そんな感じの煽りが似合えばいいなあと思って書きました(*´∀`)

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