第五十四話 無敵流ってカッコいい
修行パート午後編です。
午前中と同じく、武器を振るって無抵抗な樹木を破壊しようとするおっさんことアイバー。
「特典スキル《武芸の才》は武器系スキル5個で条件を満たしてた…という事は、もっといっぱい覚えれば更に上の特典スキルが覚えられるのではなかろうか?」
という訳で午前中とは別の武器を振るう。
今は忍者やスペインの仮面格闘家がつけていそうな鉤爪を振るっている最中である。
「シューが覚えてた《爪術》を取れるといいんだけど、ひょっとしたら魔物とか狼専用のスキルかもな…」
こんな事なら神様の所でのスキル選びの時によく見ておけばよかった、と後悔するアイバー。
転生してからも後悔がつきまとう。人生とはままならないモノだ。
ちなみに従魔の子狼2匹には、午前中と同じく周囲で採取と警戒をお願いしている。
「いやいや、反省はいいけど後悔はダメだな。ポジティブシンキング、ポジティブシンキング…やれる、やれる、俺はやれる!! もっと熱くなれよ!!」
たまにこのようにして気分を盛り上げないと寂しくなってしまうアイバーであった。
『スキル《爪術Lv1》を取得しました』
「お、やったぞ!! 熱くなった甲斐があった♪」
手甲型の爪を外して、次は杖を手にするアイバー。
「…ふと思ったんだけど《杖術》ってあるのかな? 《棍術》と被りそうな気がするけど…某格闘漫画では『突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀、杖は…』とかで別物扱いっぽかったような…
当時興味を持って調べたら、正式な流派として神道夢想流とか無比無敵流とかのカッコいい名前の流派があったんだよな♪ 字面が○想転生かよ!?とか術○・無敵流かよ!?って思ったわぁ♪
やべっ、やる気出てきた!!」
他にも二天一流とか新陰流とか『一つの太刀』とか、日本の武芸者達って今で言う中二病を拗らせてたんじゃねーの♪等と考えながら杖を振ったり回したりしていた。
「降龍天○霹!!」
等と叫びながら頭の上で杖をクルクル回す。
尚、読者諸兄特に幼年の子供達においては路上で棒きれなどを振り回さぬよう厳重に注意しておく。
『…スキル《杖術Lv1》を取得しました』
午後2つ目のスキルをゲットしたアイバー。
「おっしゃい!! だけど…武器系スキル10個目のはずだけど、特典スキルは無しかぁ…残念。
でもまあ、新スキルも得たしちょうどいい。あ~腕ダル」
午前の修行の疲労が残っているのか、腕が直ぐに疲れてしまう。肉体系の修行を一休みする事に決めたアイバー。
1時間半程経っていたので、MPも少し回復している。
次に取り出したるは、
「さーてと、シコシコするか」
袋から自慢の槍をボロンと取り出して、そっと布を用意する。
「せーの、コスコスコスコスコスコス…」
棒を握ってひたすら上下運動。
「クッ…そんなに激しく擦ったら溜まってるモノが…クゥ!!」
おっさんのむなしい一人遊び。
「……やっぱりこういうのは相手がいないとなぁ。ここにカーミラさんでも居てくれればいいのに…1人でやっても後でむなしくなるんだよな…」
…決して、おっさんが急に発情して森の中で一人遊びを始めている訳ではない……
「さて、そろそろフィニッシュでいいかな?」
それでもあえて言おう、最低であると。
「溜まってきたぁ…静電気!!
…ああ…やっぱりこういうのには恥じらって勘違いしてくれる相手がいないとむなしい」
完全に意図的アフレコだ。
一応説明すると、アイテムボックスのボロ袋から金属製の槍を取り出して、それの柄を動物の毛で作られた布のマントで擦る。すると布についた動物の毛が帯電してフワフワしてくる。
静電気発生である。
「さて、一人遊びをしててもしょうがないので、そろそろ真剣にやろう!!
布に向かって、《雷操作》」
前に教会で《雷魔法》の事を聞いてから、わりと直ぐに思い付いていた方法を試してみた。
羊毛のような素材はあったのだが、石油由来の化学繊維のあてがなかったので金属の槍で代用してみたアイバーである。
「スタンガンとかあればなぁ、って思ってたけどそんなもん無いしな。当然コンセントとかもない。
出来れば『電気と魔法を融合するイメージ!!』とか言ってスタンガン使いたかった気もするけど、無いもんは仕方ない…で、MPは…お、3減ってる♪
一応発動したって事だな」
詳しい知識はなかったが、『なんか無機物を擦り合わせれば静電気って出来るんじゃねーの?』と思って実際にやってみたら成功したようだ。
「あ、でも1回発動すると2回目はダメだな。また槍を擦らなくっちゃか…面倒だな…
誰かに手伝ってもらう…ダメだな。いくら魔法の訓練だって説明しても、鉄の棒を布で磨き続けるのを眺めて、たまに《雷操作》と呟く俺…絵面が新興宗教か性的倒錯者にしか見えん…あ、《雷操作》」
擦っていた布の毛が静電気特有のフワフワペタペタしてきた感じになってきた為、《雷操作》未習得verを使う。擦り合わせる行為を続けながら思索にふけるアイバー。
棒を布で擦る。
そんなに異常な事では無いはずなのに何故か性的な事に結びつけてしまう俺は汚れているのだろうか?
「バナナ、チョコバナナ、アイスキャンディーやソフトクリーム、ミルクや練乳と聞いただけで、なんかもうエロい!!
ピストン運動や潤滑油とかももうそっち系にしか思えない!! なんだ、この連想は? 中二とは違うが中二頃の思春期か?
狂ってるのは俺? それとも世界? あ、また静電気、溜まった《雷操作》」
恐るべきHENTAI国家NIPPON!!
だが案外、異世界の知り合いに頼めば特に疑問に思わずやってくれるかもしれない。
試しに想像でカーミラや宿屋3姉妹、冒険者3人娘に槍を持たせて布で磨いてもらったが…
「…ダメだ…何故か槍にモザイク処理されて、舌を出しながらメスの顔をして手を動かす想像しか出来ない…R-18指定になってしまう。ほい《雷操作》」
でもまあ、一応頼んでみよ♪っと心のメモに残しておくアイバー。ゲスい。
「取り合えず《雷魔法》習得のメドは立ったけど、時間はかかりそうだ。これも地道に続けていこう」
今あるMPを使いきったら《雷魔法》の修行は終了する事に決めたアイバー。
やがてMPが尽きた為、再び肉体系の修行に入る。
「槍を出したからこのままこれを使うか。名もなき樹木さん、またお相手お願いね」
突いて突いて時折払う。
慣れない得物だけに動かしづらいが、これが気にならない程度に振れるようになった頃にスキルとして習得される…ような気がしているアイバー。これまで覚えてきた武器系スキルの体感である。
「でもまあ、さっきまでは近距離武器だったけど、槍とかになると中距離武器になるのかね? ゲームのイメージだと後列の敵に届いたり、逆に後列から前列の敵に届いたりするイメージだけど…」
今時のゲームがどうなっているか詳しくないおっさん。懐かしのRPGやSLGにありそうな攻撃判定だ。
「そうなると中距離戦闘の[スキル適正]が無い俺はこっから大変かもな…」
あまりスキルの習得に時間が掛かるようなら、レベルアップを進めてしまおうと考えるアイバー。
特典スキルによる基礎ステータスの底上げは惜しいが、それらの習得条件が不明なままではずっとLvが足踏みした状態になってしまう。
ゲームなら色々試していくところだが…
「もし、またオークジェネラル級の魔物、それどころかもっと強い魔物とバッタリ何て事になったら、今度こそ死ぬかもだからな……惨めなまま死にたくねえし、シューとブランだって死なせたく無い………大事な家族だしな」
「ガウウ!!」
ぼんやりと考え事をして槍を振っていたアイバーの元にシューとブランが駆け寄ってきた。
意識を周囲に向けると、駆けてきた方向から何か近付いて来るのが分かる。なんとも言えない小さい気配が3つ、何となくゴブリンっぽい感じだ。
「う~む、これが《気配察知Lv1》の効果か? 所謂『気を感じる』を出来る日が来るとは思わなかった」
近付いて来る気配が小さく感じる。おそらくだが、小さく感じる気配というのは自分より弱いということなのだろう。スキル《気配察知》は魔法スキルと同じで、使い方が分かる親切設計のようだ。
その為、調子に乗るおっさん。
「戦闘能力たったの5、ゴミめ♪ この槍の錆にしてくれるわ♪」
《気配察知Lv1》の予想通り、薮から飛び出して来たのは3匹のゴブリン。
シューとブランを足止め要員として素のステータスで圧倒したアイバー。ゴブリンを仕留めながら数える余裕もあった程余裕だ。
『従魔のレベルが上がりました。ステータスを確認してください』
『スキル《連携Lv1》を取得しました』
『従魔がスキル《連携Lv1》を取得しました』
『従魔がスキル《連携Lv1》を取得しました』
そして戦闘後にブランのレベルが上がり、新スキル《連携Lv1》を取得した主人と従魔パーティー達。
そろそろ夕方か、と判断して帰り支度を始めるのだった。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m
静電気の設定は突っ込み処満載かもしれませんが、ファンタジー世界の話って事でスルーしてください。
修行パート、もう1話だけ続くんじゃ♪




