第五十三話 みんなはマネしないでね♪
修行パート昼飯編です。
午前中を武器スキルの習得に費やしたおっさんことアイバー。
「限界だ…飽きた」
意思の弱いおっさんである。
まあ、武器を取っ替え引っ替えとは言え、やってる事は生木をぶっ叩いているだけだ。スキル習得の天の声さんだけが外部からの刺激。一応、ボクシング映画アンデスのテーマを脳内再生したりして頑張ったりしたのだが…
現代のライン工が抱える問題の様なモノだ。ひたすら単純作業…人によっては心が壊れる、ような気がする。
「手にマメとかが出来ないのは助かったが、握力の方が限界だ…腕がプルプルしてる。
こういう時は休むのが大切だ…疲れた心と体をペット療法で癒そう。少し早めのお昼休憩だ」
シューとブランをモフモフする。頭を撫でるよりも、お腹のプクッと膨れた辺りの皮をモニュモニュする方が好きなおっさん。
ひとしきりモムモムしてから昼食にする。
「シューとブランは清湖亭のお弁当な、肉弁当だぞ~♪」
「キャン♪」『おにくおにく♪』
「シュー、マナさんが魔物でも食べられる野菜も入れてくれたからな~♪ 少しだから残さんようにね♪」
「クゥッ!?」『おやさい!?』
「クゥクゥ」『いいきかいなのです』
ブランは《鑑定》で食べられる植物を確認して食べていたので、野菜等を食べるのに抵抗はない。
それに引き換え、シューは完全肉食。今まで野菜が付け合わせ等に出ても、残して放っておきブランが仕方なく食べているような状態だ。
多少矯正するべきかな?と思い、清湖亭のお弁当にほんの少し野菜を入れてもらった。ちょっと強引でゴメンな…
「ほんのちょっとだから。最初に丸飲みしちゃいなさいよ!? そしたら残りはおにくだけだからね~♪」
「キャンキャン♪」『そうですそうです♪』
「クゥ~ゥ…」
しばらく視線をお弁当とアイバーの間で往復させていたシューだったが、やがて諦めたかのようにお弁当に向かう。ブロッコリーのような茹で野菜の匂いを嗅いで………一息に丸飲みした。
「エライ♪エライ♪ 後はお肉だけだぞ~♪」
「キャンキャン♪」『しゅーねぇ、えらいです♪』
「キャウ~ン♪」『おにく~♪』
幼児の好き嫌いを直しているかのような気分のアイバー。シューと共にブランも食べ始めた為、そのまま周囲を警戒して見張り役をする。葉の擦れる音や鳥の鳴き声が聞こえてくるだけだ。
ギルド長が言っていた通り魔物は少ないようで、これまでに見たのはワイルドボア1匹だけだ。オークジェネラルの件で警備隊の調査があったが、ついでに見かけた魔物も討伐していたのかものしれない。
『スキル《気配察知Lv1》を取得しました』
『スキル《予測Lv1》を取得しました』
「お、新スキル習得成功だ♪ ポンポンくるなあ♪」
《気配察知》はそのまま周囲の気配を察知しやすくするものだろう。
「今度魔物を見つける時に使い勝手を確認しないとな。もう1つは《予測》かぁ…なんか色々予想したからか? 先読みとか出来るのかな? 一対一の戦闘で有利になるスキルっぽいな♪」
相変わらずスキルの説明が見れない為、想像を働かせる。妄想とも言うが、楽しいモノだ。
「ガウ♪」
「ガウガウ♪」
従魔2匹の食事が終わって吠えてきたので、周囲の警戒を頼んだ。
今度はアイバーが食事である。
「…さて、食事兼スキル修行だ。シューとブランはちょっと離れたところで見張りしててな!? 火起こすから危ないぞ」
宿屋から借りてきた火打石と火口、薪をボロ袋から取り出す。場所を選んで、教わった通りに火を起こし、見るからに焚き火といった風情の火を作り出すアイバー。
「《火操作》、《風操作》、《土壁》」
火魔法で火の勢いを一定にして、風魔法で煙を直上に誘導。土魔法で火の周囲を囲む。
「《土壁》を工夫すれば即席のカマドになりそう…今日はただの風避けだけど」
パチパチと音をさせて燃える薪を見ていると、なんだか惹きつけられるモノがある。
前生での田舎暮らしでも、枯れ草や植木のはらった枝を燃やすと不思議と火を絶やさずにおきたかったモノだ。原初の記憶ってヤツだろうか?
ちなみに軽微な焚き火兼農業を営む上での焚き火であったので法律や条例には抵触していないハズだ。
焚き火をする時には注意が必要です!!
「さて、火も起こした事だし……《回復魔法》のLv上げを始めるか。
まずは毒草だ」
『毒草:弱い毒性をもった植物。体内に取り込む事で弱毒状態になる』
チョイスがおかしいが、本人からすればこれでいい。
毒草を噛まずに飲み込むと、胃の辺りに不快感を感じる。鈍くジワジワくる痛み、胃壁に昔の肩たたきマシーンを当てられているような感覚だ。
「グッ…ステータス閲覧…」
【 H P 】358/368 弱毒
【 M P 】255/261
満タンだったHPが毒草の影響で10下がって、状態異常の部分に『弱毒』がついていた。
「…よし、今度は…《回復魔法Lv3》の《解毒》と《治癒》」
オークジェネラル戦後の救助待ち時に覚えた《回復魔法Lv3》を使うアイバー。
【 H P 】368/368
【 M P 】239/261
HPは回復し、状態異常も回復。お腹の毒性も消えたようで、不快感もない。
「よし、これなら大丈夫!! 続きだ♪」
同じように、毒草を口にする。そして《回復魔法》を使う。
これがアイバーが思いついていた回復魔法の訓練法だった。
回復魔法を優先したのは単純に死ににくくなるであろう事。また、継戦能力が上がると思ったからだ。本か何かで、『走れなくなった兵士から死んでいく』みたいな言葉を目にしたことがあったおっさん。
他の魔法と違い、回復魔法は怪我やHPが減っていないと発動しない。その為思い付いたのがこの方法だった。
・魔法は使えば使うほどLvが上がりやすい。
↓
・でも回復魔法はHPが減ってないと発動しない。
↓
・毒のあるものを食べるとHP減る。ついでに毒の状態異常になる。
↓
・それを回復していけば回復魔法沢山使える。
↓
・回復魔法のLvアップ♪
という過程を構想していたアイバー。
「まあ、いくらステータスで異常が無くても体には悪そうだけどな…アーニスのファンタジー設定に大分助けられてると思わなければ…」
ブツブツ言いつつ、毒草を食べる事10回。
『スキル《毒耐性Lv1》を取得しました』
狙っていた《回復魔法》ではなかったが、新スキルゲットである。《解毒》と《治癒》を掛け終えた後、HPとMPを確認する。
【 H P 】368/368
【 M P 】86/261
MPが大分減ってきているのと、口の中の雰囲気を変えたい為、食べるモノを毒草から変更する。
「毒草は言わばオードブル。今日のメインは…テテテ、テッテテ~魔力茸~」
某国民的アニメのヒミツ道具の旧効果音を口ずさみ取り出したるは白く光る茸である。
『魔力茸:淡く発光する白い菌類。魔力を帯びており毒性があるが摂取するとMPを回復させる』
「これで毒状態になりつつMPを回復させられるって寸法だ。今日ブランに集めてもらったからな♪」
この見た目は光るマッシュルームな魔力茸を焼くために火を起こしたおっさんである。トンカツの時に購入した鉄の串にキノコを刺して炙っていく。生のキノコは食べにくいのだ。
『スキル《料理Lv1》を取得しました』
思わぬところでスキルを得た。
「魔力茸は…全部で8つか。あんまりないけど、午後もあるしな。お腹パンパンで動けないんじゃどうしようもない…腹8分目だ」
焼けた魔力茸をフーフーしてからかぶりつく…今度は塩ぐらいは持ってこようと思ったおっさん。
「ハフハフ、《解毒》……熱がってる内に毒が進んだらヤバいからな」
8つ目の魔力茸を食べ終えたところで《毒耐性Lv2》を得た。
「回復魔法のLvは上がったばっかりだからな、1日2日じゃあ上がらないかな? まあ、地道に続けていこう。ほい、火の始末っと《土操作》」
燃えカスに土をかけて火の始末をする。
こうして毒まみれの昼食を終え、午後の修行に入るおっさんであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アイバーのフルコース
■オードブル――――毒草
■スープ――――――???
■魚料理――――――???
■肉料理――――――オークジェネラルのトンカツ
■メイン――――――???
■サラダ――――――魔力茸
■デザート―――――メンゴ
■ドリンク―――――???
お読みいただきありがとうございましたm(__)m
フルコース埋まるかな?




