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第五十二話 マスター、指示を

皆大好き修行パート回です。

 特典スキルの事を聞いたので、ギルド長と並んで解体所から受付に戻るおっさんことアイバー。


「そうだ、アイバーくん。知っているかも知れんが今日から北の森は立ち入りの制限が解けている。まあ、魔物は少ないと思うがな」


 それは初耳だ。 

 

「やっぱりあれって、オークジェネラル関連の調査とかだったんですか?」


「ああ、警備隊の大半に動いてもらってかなりの範囲を調査したんだが、オークの群れや集落はみつからなかった。一安心だよ」


 そうか、これから集落(コミュニティー)を作るところだったのかも…倒しておいてよかったな。


「その調査中に冒険者の遺体が見つかってね…ここ数日のモノで、食い散らかされた跡にオークジェネラルの口とほぼ一致していた部分があった。鉄錘(メイス)持ちの冒険者だったのだがね…」


「あ~、ひょっとして…」


 鉄錘(メイス)って覚えがあるな。鍛治師のおっちゃんに渡し忘れたヤツ…


「これですかね? 打ち合って壊れてますけど、オークジェネラルが持ってたヤツなんですが…」


 ボロ袋から壊れた鉄錘(メイス)を取り出すアイバー。


「ボロボロだな。激闘の名残と言ったところか。ちょっと判別出来んが…それはきみの戦利品だ。気にせず持っていてくれ」


 まあ、処分するつもりでしたが。


「調べてみたら5日前から行方知れずになっている冒険者があと2人いてな…タイミング的に、な?

もし遺体などを見つけたら回収をお願いしたい?

 最悪カードだけでもいいのだが、アイバーくんはアイテムボックス持ちだからな…頼むよ」


「まあ、見つけたらって事でよければ…」


「ああ、それでいい」


 ちょっとしんみりしながら受付に戻るアイバー。

 扉を開けるとシューとブランが尻尾フリフリで駆け寄って来てくれた。ラブリー♪


「キャン♪」


「キャンキャン♪」


「ちょっと重い話が続いたから癒されるな~♡

 よ~しよしよし♪」


「いい子達ですね。大人しくしてましたよ」


「………フン」


 話を聞くと、椅子に座ったカーミラさんの足元で丸まっていたそうだ。クリエさんの視線が痛い…俺のせいじゃ無いでしょーよ。


「あ、それじゃ失礼します。今日は北の森でちょっとした修行でも…常時依頼を出来たらやってきますね」


「お気をつけて」


 クリエ嬢の視線から逃げるようにしてギルドを出るアイバー。


 ふと、刀がそろそろ打ち上がっているかもと思ったが鍛治師のおっちゃんは3日くれと言っていた。


 一昨日、昨日、今日で考えようによって3日目でもある。

 のだが、アイバーは前生の会社でこれをやられて『3日でって言った件出来てる?』と朝に言われた時には愕然とした。なんとか当日の夕方までに仕上げたが、その他は全て後回し。退勤は午前様になった記憶だ。自分の感覚だと『それって、明日中とかの感覚じゃない?』と思ったモノだ…

 益子部長、あんときゃ退職が頭をちらつきましたよ!!


 鍛治師のおっちゃんにそんな気分を押し付ける訳にはいかんな。余裕を持って明日の夕方頃か、明後日の朝にでも顔を出すとしよう。


「それにせっかく良いこと教えてもらって、北の森で頑張る事も出来たしな!!」


 本日は北の森で修行だ。(ちまた)では評判の悪いとされる修行パートである。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 数日振りの北の森を歩くアイバーと従魔2匹。あまり奥には入らないように気をつける。


「よし、特典スキル《武芸の才》を取るために武器を振ろう!!」


 せっかく習得条件を知ったのだから、覚えない理由もない。習得時にボーナスがついて、更にレベルアップ毎に補正が入るのだから低レベルの内に覚えておいた方がお得である。


「武器系のスキル5個だったよな…今あるのは《刀術》《斧術》は確定、《投擲》と《体術》は微妙なラインだな…

 確か[近接戦闘:C]の適正があった筈だからオーソドックスに剣…いやオークジェネラル戦であれだけ振った戦鎚にしてみるか?」


 取り合えずボロ袋から近接武器と呼ばれそうな物を幾つか出してみる。


・ショートソード

・ロングソード

・大剣

・短剣

・サーベル

・戦鎚

・棍棒


 変わり種として、


・カイザーナックル

・爪(スペインの仮面格闘家が付けていそうな物)

・トンファー

・小太刀

・ヌンチャク

・杖


「…こんな感じかな? 神様も色々入れてくれたんだな。色々想像力を掻き立てられるラインナップだ」


 この他にも長柄の武器や弓矢等もボロ袋には入っている。一般品らしいが武器屋でも出来そうな品揃えだ。

 男の子としては武器を並べて見てるだけでも楽しいな♪


「ガウ!!」


「ガウガウ?」『ぶらんたちはなにすればいいです?』


「おっと、すまん。今日も『伐採』の時と一緒で、近くで色々探してくれるか。今日は『魔力茸(まりょくだけ)』を中心に頼むよ。

 魔物がいたらいつも通り俺の方に誘導してな!? まだ、そういう状況になった事ないけど」


「ガウウガウウ!?」『たべるとだめなやつをあつめるです!?』


念話で伝えたが、やはりブランは頭がいい。『魔力茸(まりょくだけ)』の事も直ぐに分かったし、それが毒物で危険な事も分かっている。


「本来ならな。

 ちょっと試したいことがあるから採ってきてくれ。採る時には気をつけてな!?」


「ガウガウ」『わかったです』


「ガウ」


 ボロ袋をシューに持たせ、従魔達に採取をお願いする。走り出す従魔達、元気いっぱいだ。


「さて戦鎚から始めるか」


 従魔を見送り戦鎚を手に取るアイバー。

 目の前の手頃な木に向かって鎚を降り下ろす。鎚の攻撃面がスパイク状になっている為、表皮を破って白っぽい生木部分を露出させた。それを何度も繰り返していると、やがて木が自重に耐えられなくなり折れる。


「………なんかやってる事が昨日までの木こり仕事と変わんないな。

 いや、切断面とかが斧に比べるとグチャグチャだから木材には使えないか…単なる自然破壊だな」


 まあ自然が有り余ってるからいいだろ、と納得するしかないな。日本の山野だって間伐とかしないとよくないって聞くし。


 倒れた木をさらにぶっ叩いて、削りカス状にしていくアイバー。ただ倒しておくのも邪魔なので、土に還り易くしておく。マッチポンプエコである。


『スキル《鎚術Lv1》を取得しました』


 お、早い♪ オークジェネラルとの戦闘で熟練度の積み重ねがあったお陰かな♪


「でも特典スキルはまだか…」


 戦鎚はそこら辺の木に立て掛けて、今度はロングソードを手にするアイバー。倒れた幹から横に出ている枝を払っていく。


「剣というより(なた)の使い方だな…」


 斬るというより剣の重量を叩きつけるといった使い方。アイバーの中の西洋剣術はそのようなイメージだ。


「某伝奇活劇の剣士もテクニックよりはスピード&パワー、慎重さよりは思いっきりのよさタイプっぽいもんな」


 どちらかと言うと槍や弓の方がテクニックタイプなイメージである。


「なので、細かいことは考えずにブン回そう」


 枝を斬り落とし、幹の先端の方から切り落としていく。ザックザクやっていると、


『スキル《剣術Lv1》を取得しました』


『特典スキル《武芸の才》を取得しました』


「お、やった♪ やっぱ《投擲》は武器系のスキルなんだろうな」


 次は短剣にでもしようかと考えるアイバー。《剣術》と《短剣術》や《大剣術》は別扱いなイメージがある為だ。

 と、短剣に持ちかえたところで、


「ガウウ!!」


 どこかからシューの鳴き声が聞こえてくる。警戒の鳴き声、どうやら魔物に遭遇してこちらに誘導しているようだ。


 シューとブランが木陰から飛び出してくる。そのすぐ後ろには猪がついてきていた。

 素早く《鑑定》を行う。


『ワイルドボア:大陸全土の森林や山岳に生息する魔物。突進による攻撃・防衛行動を取る』


 どうやらビッグボアの下位互換のようだ。


「ブモオォォ!!」


 スキル《狂化Lv4》を発動、手にした短剣を思いっきり投擲する!!


「オオ!!」


「ブ………」


 厚目の刃の短剣が猪の眉間に吸い込まれる。即死して倒れる猪。


「久々のヘッドショットだ」


 直ぐ様《狂化》を解くアイバー。


「ガウ♪」『おいしそう♪』


「ガウガウ♪」『おみごとです♪』


『従魔のレベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』


 天の声が聞こえてステータス閲覧を行うとブランのレベルが上がっていた。


「シューもブランも大丈夫だったか?」


「ガウ!!」


「ガウガウ!!」『だいじょうぶです!!』


「無理はするなよ。小まめに休憩とっていいからな?」


 再び森へ走り出す従魔2匹。


 それを見守りつつ、ボロ袋で仕留めたワイルドボアの血抜きと糞尿の処理を行うアイバー。

 その後も武器を振るい《短剣術Lv1》と《大剣術Lv1》、《棍術Lv1》を習得した午前中だった。



 


お読みいただきありがとうございましたm(__)m


あと1~2話修行編が続く予定です。

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