第四十九話 プレゼントフロムようじょ
バレンタインデー…ハァ(´д`|||)
ギリギリ間に合いました。
気がついたら村郊外の畦道に立っていたおっさんことアイバー。教会から出た後の記憶がない。
「ふう…………気にしない、それがいい。ジョージ? キリィ? そうだよ洋風な名前になら、いかにもありそうじゃないか!! 何をビクビクする必要があるって言うんだ?」
一見何でもない風に、実際は必死に心の均衡をとろうとするアイバー。
いったい何をそんなに怯えているのか…ハハハハハハ。
「ハハハハハハ♪ ハハハハハハ!!」
「オジちゃん!? 何笑ってるの?」
「!? ッホモォッ!!」
精神の均衡をとろうとするあまり、傍目からは精神に失調をきたした人と化したアイバーに声がかけられる。
変な声を上げてしまうアイバー。
「ねえねえ? オジちゃん!?
あ、ワンちゃんだ!! ワンちゃん増えてる~♪ マーちゃんに会いに来てくれたの!?」
「キャウン!?」
「キャウンキャウン?」『しゅーねぇ、どうしたです?』
なんだか聞き覚えのある声と会話内容、シューへの執着・興味だと思うアイバー。
「ねえオジちゃん、ワンちゃんなでてい~い?」
服の袖を引っ張ってくる幼女…茶髪に未だ性のハッキリ別たれていない中性的な容姿。
………『性』とか表現したが、決してアイバーに幼女趣味がある訳ではない。
「え~と、マーちゃんだっけ?」
「そうです!! マーちゃんなの♪ 5さいです♪」
満面の笑顔で見上げてくる幼女。
間違いない。この村に来た日の夕方に出会った親子の子供の方だ。
あの時も狼のシューを『ワンちゃん』と呼んで撫でたがってたけど、あの時はシューが人を怖がってたんだよな。
今なら大丈夫な気がするが…
「シュー、ブラン、この子に撫でさせてもいいか?」
「…ガウ」
「ガウガウ」『いいです』
シューは少し渋り気味だが一応了承の意は届いてる。ブランは問題無しとのことだ。
相変わらずシューは食べ物関係以外では念話を飛ばしてこない。この子この先大丈夫かな?
2匹に噛みついたり吠えないよう念を押しておく。
「いいってさ。でも、優しく撫でてやってね」
「うん♪ やったー♪ オジちゃんワンちゃんとしゃべれるの? スゴいね~♪」
言って、地面に伏せたシューとブランに近付き、ウンコ座りをして手を目一杯伸ばして頭を撫でようとするマーちゃん。幼児によく見られるポーズだ。
独特の緊張感に包まれて、手のひらがシューの頭に迫っていく。慎重におっかなびっくり手を進めるマーちゃん、迫りくる手をじっと見つめるシュー、両者を見守るブランとアイバー。
「………」
「………!!」
マーちゃんの手がシューの頭の上を滑るようにして撫でる。何度か撫でて噛んだり吠えたりしないのを確認したのか、ウンコ座りの姿勢のまま足を前にズラしてシューに近づいた。
「えへへぇ~♪ 可愛い♪」
「クゥ」
シューの頭だけでなく背中の方にも手を伸ばして撫でていく。やがて両手で撫で回し始めた。
「ねぇねぇ!? この子、おなまえあるの!? なかったらマーちゃんがつけてあげる♪」
「いや、もうあるよ…今触ってるのがシュー、隣に伏せてる少し黄色い色をしてるのがブランだよ」
「そっかぁ…」
名前つけたかったなあ…って思ってるのがわかるなぁ。
「ぶーちゃんもこっちおいで♪」
「……クゥクゥ?」
えらい名前で呼ばれたなあ、と思ったアイバーにブランが困り顔、実際にはそういう感情、を向けてきた。正確には『こいつなにいってるです?』だ。
従魔と意思疏通が出来るのは、基本的に主人だけだ。この場合もマーちゃんの言葉をアイバーが従魔2匹に通訳してやる必要があった……何となく察する事も出来るような場面があったとすればそれは偶然である。宇宙空間の巨大ロボット同士の戦闘中に、明らかに隔絶しているはずのパイロットの会話が奇跡的に噛み合っているような偶然である。
「…ブラン、シューの直ぐ隣に行ってやってくれ」
伏せていたブランが立ち上がり、なでくり回されているシューの元へ近付いた。
主人と従魔の念話も、正確には言葉でのやり取りではなくイメージのやり取りに近い。イメージを明確にする為に言葉にしていると言うべきか。
「ぶーちゃんもいい子♪ えへへ♪」
幼女マーちゃんはシューとブランの頭に片手づつ置いて撫でている。
「ねえ、マーちゃん!? マーちゃんはいつも1人で遊んでるの?」
「うん、ママがいろんなとこでおてつだいしてるからいっしょに行くの。で、おしごとしてるあいだはそのまわりであそんでるの」
シューとブランから目を離さずに、アイバーの質問に答える幼女マーちゃん。
「あっちの木の向こうでおしごとしてるよ」
幼女と従魔達から目を離して周囲を見渡すと、畑仕事をしているらしき影が幾つか見てとれる。鋤や鍬で土をならしているようだ。
「『畑』の依頼ってヤツもあんな感じなのかな?」
1人ごちるアイバー。
「まあ、今日の仕事は終わってるからなぁ、少しぐらいなら付き合ってもいいか」
「クゥゥ…」
「クゥゥクゥゥ…」『おもいですぅ…』
従魔達の鳴き声に振り返ると、幼女まーちゃんが従魔達の背中に跨がろうとしていた。
「んしょ、んしょ。しゅーちゃんぶーちゃん、のっかるからじっとしてて!!」
「こらこら!!! 駄目だよ!?」
「あー!?」
念話で逃げるように伝えると、アイバーの足元に避難してくる従魔2匹。足の下からスルリと逃げ出した子狼達にブーたれた幼女。
「なんでうごかすの!! マーちゃんのるとこだったのに!!」
「マーちゃん、ワンちゃんはまだ小さいから重いものを背中にのせると体痛くしちゃうんだよ」
「マーちゃんおもくないもん!! ママとかオジちゃんよりちいちゃいもん!!」
「…よく見てみ、シューちゃんもブランちゃんもマーちゃんより小さいでしょ? 小さい子に乗っかったらつぶれちゃうよ!?」
「ガウ」
子供相手の説明は言葉を選ぶなぁ…イトコの子供とかに骨の構造とかで説明しようとしたけど聞いてくれなかったよなぁ。
「あと、マーちゃん5歳でしょ? シューちゃんとブランちゃんは、まだ1歳にもなってない赤ちゃんなんだよ」
犬の1歳って人間の20歳くらいって聞くけどそれはスルーの方向で。
「ガウガウ」
「え?じゃあマーちゃんのほうがおねえちゃん?」
怒りが驚き、驚きが期待と喜びに変わっていく幼女。年上のお姉さんへの憧れというか、自分より下が出来た優越感というか、そんなモノが沸き立っているのかもしれない。
「えへへ~、じゃあおねえちゃんがママにしょうかいしてあげる♪ いこ♪」
出た、幼児の自分理論!!と思っていると、おもむろに駆け出すマーちゃん。
「ちょっと、走るとあぶな…」
と、言いかけている途中で蹴躓いて転んだ。舗装もされていないデコボコ畦道なので当然だろう。
逆に声をかける事でフラグを立ててしまったか…
「…………………ッ、ゥゥ、ウアアアア~ン!!」
あら、泣き出してしまった。
ん? この状況、端から見たらかなりヤバいんじゃないだろうか?
泣く幼女。近くには見知らぬ若い男の冒険者でギリギリフツメン、ジャッジの辛い人の見ようによってはブサメン。
あ、これ事案だ。
《冷徹》さんが危険だといっている気がする!!
なんとかしなくては!!
「大丈夫!! 怪我してない?」
「ウアアアアア~ン!! い~たい~!!」
全力で痛いを訴える幼女。顔クシャクシャだ。
右膝と右肘を押さえているので、そちらに注目する。
「よしよし、治してあげるからね」
ここで少し演出だ。どっかの歯医者さんがパフォーマンスしながら治療すると、痛いのから意識がそれるみたいな事を言っていた気がする。
「《光操作》」
《光魔法》を唱えて自身の手を光らせる。
夕方前なのでまだ日の光は充分にある為、それらを魔法で手の周りに集める。
あえて言うならプリズムっぽい感じだろうか。
「なにこれ? ピカピカしてる♪」
目論見が当たってくれたのか、マーちゃんの目は光る掌に釘付けだ。
「これから痛い所を治すからね。痛い所を出して」
「うん!!」
右手と足を出して来たので、傷口の位置を確認して手を当てる。そして、
「痛いの痛いの飛んでいけ~♪」
『《治癒》×2、《光操作》×5』
言葉を発するのと同時に、無詠唱で《治癒》と《光操作》を使う。
《治癒》は勿論傷の手当て、患部の数。
《光操作》は重ねがけすることでカメラのフラッシュのような一瞬の光量を作り出す。
「どう? まだ痛い?」
「あ、もういたくない♪ スゴーい!! オジちゃん今のなに!?」
「魔法だよ。オジちゃんは魔法が使えるんだ♪」
「スゴーい!!」
どうやら上手くいったようだ。
《光操作》の重ねがけは魔法を印象付ける為のハッタリだった。普通に回復魔法をかけてもよかったが、ピカッと光ってその後に傷が無くなっていた方がより魔法っぽい。そう考えたアイバーのハッタリだ。ペテンのオジさんだ。
「マリア~!? どこ~!? もう帰るのよ~!!」
「あ、ママだ~」
どこからか、誰かを探す声が聞こえてきたと思ったらマーちゃんの事のようだ。
「しゅーちゃん、ぶーちゃん、オジちゃん♪ マーちゃんもう行くね♪ あ、そうだ、まほうのお礼にこれあげる♪ 今日一番キレイに作ったの♪」
アイバーの手に何か丸いモノが乗せられた。
「何?」
「じゃあね~♪ バイバイ♪」
また転ぶんじゃないかとハラハラしながら見送ったが無事だったようだ。少し離れた場所で大人の影と合流した幼女マーちゃん。手を繋いでいるようなのでママさんなのだろう。
通報されなくてよかった。
ふと、渡されたモノを見るアイバー。黒光りする球状の塊。
その外見から、一瞬チョコレートかな?と思ったが違う。
「懐かし~、磨いた泥団子じゃん♪」
田舎育ちのおっさんには懐かしいモノだ♪
割れてしまわないよう、大事にボロ袋に仕舞いこむおっさんである。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m
日付にちなんだイベントを急遽、挿しこんでみました(ノ´∀`*)




