第四十五話 べ、べつにアンタの事なんか
お約束回です。
「お疲れ様でした。伐採本数計5本で銀貨1枚になりますな」
『伐採』依頼を終えてギルドに戻ってきたおっさんことアイバー。
あの後、切り株を21本引き抜いて夕方をむかえ、依頼表に5本伐採した証明を親方に書いて貰った。根っこを引き抜くのに大いに貢献したが、切り倒した分は5本だとメックさんに証言されたのでこの本数だ。
残りの16本分は猫獣人のリアと変態のマーソンで、8本分づつ折半した。
「お疲れ様でした。リア様とマーソン様は8本で、銀貨1枚と銅貨60枚。銅貨の枚数が少ない為、大銅貨が混ぜてありますのでご確認下さい」
「ひーふーみー…大丈夫ニャ♪ やったニャ、『伐採』でこんなに稼げたの初めてニャ」
「うむ、こちらも大丈夫だ♪」
「よろしゅうございました。にしても、午後から依頼を受けてこの成果とは、アイバー様には驚かされますな…どのような方法を用いたのですか?」
3人の依頼の処理を終えたギルド職員のキースがアイバーに水を向ける。
「まあ、企業秘密ってことで」
どうせどっかからばれてしまうだろうが、今は少しでも秘密にしておきたい。殊更に誇るつもりもない、というのもあるがやっぱこういうのは秘密にしておきたいからな。
「ほう、それは残念です…時にリア様、マーソン様…」
「スゴかったニャ!! いつもだったらせいぜい1本2本分しか木こりの人は書いてくれないニャ!?」
「全くだな。最終的に切り株の数で決まってしまう事が多いからな…人数が少なければ切り株を抜く数は少なくなってしまうし、人数が多いと引き抜いた切り株よりも配分される冒険者の方が多くなってしまい、結果1人1本分等とされてしまったりもしたな」
リアと変態の2人は喜び合っているが、不自然にキースの話を聞こえていないフリをしている。
「…ふーむ、根回し済み、ですかな」
キースさんの言う通り、2人にも口止め済みだ。ギルドに戻る道のりでそうお願いしてある。
明日も伐採に付き合うという条件付きだが…
「まあ、秘匿するのも自由って話なので…すいませんね」
「いえいえ、確かに自由ですので♪」
何かの書類をトントンして揃え、これ以上は踏み込みませんよ、という風に仕事に戻るキース。
そちらに背を向けて本日の仕事仲間に向き直るアイバー。
「せっかくなんで、今日は少し飲みません? 俺、清湖亭に泊まってるんでそこで。奢りますんで」
「ほう、いいのかね? 依頼では譲って貰った分もあるので私たちが出してもいいが…」
変態は別に来なくてもいいんだけどな、と言いたいアイバーだが、この場で本命だけ誘うのも、そういうこと目的だと思われたら嫌なのでこらえておく。
「奢ってくれるなら歓迎ニャ♪ でも友達も連れてきていいかニャ? 2人共女の子だからオマエも嬉しいニャ♪」
おそらく朝のギルドで話していた2人だと思い、確かに嬉しいので了承するアイバー。
「いいよ♪」
「んじゃ呼んでくるニャ♪ 場所は清湖亭だニャ」
ギルドを飛び出していくリア。
「では私も甘えさせてもらおうかな。
大した物はないが、荷物を取ってこよう。せっかくなので、久々に清湖亭に泊まらせてもらう事にするよ」
鉄仮面の変態もギルドを出ていき、現地で待ち合わせする事になった。夕方を過ぎているので、直に集まるだろうと思いギルドを出るアイバー。
「シューもブランもお疲れ様。少し運動できた?」
「ガウ!!」『おなかへった!!』
「ガウガウ♪」『しゅじんさまのおやくにたてたのです♪』
働いてくれた従魔を労うと、そんな返事がきた。
伐採場でMPの切れかけたアイバーの元にシューとブランが魔力草を持ってきてくれたのは、勿論偶然と言うことではない。
伐採場で働き始める前に2匹に与えた指示のお陰だ。
シューへの指令
・ブランの護衛兼荷物持ち。魔物等を見つけたらアイバーの方へ誘導する事。
ブランへの指令
・回復効果と毒のあるアイテムを採取。魔力草を中心。採取したらシューの持つボロ袋に。シューが敵性の魔物を見つけたらシューの指示に従う。
共通の指令
・アイバーの声が聞こえる範囲で行動して、呼んだら戻ってくる。魔物を見つけたら、絶対に戦わずにアイバーの元にくる事!!
疲れたら休憩可。
という指令を伝えておいたのだ。
「試しにやってみたけど、いけそうだな。採取の時にこれができれば効率2倍近くいけそうだし♪」
上機嫌な足取りで、常宿になった清湖亭へ向かうアイバーだった。
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清湖亭に到着するとハーゲンさんに厨房に拉致されかけたアイバーだったが、
「昨日の唐揚げと今日のトンカツで2度もやり方を見せたはずなのに、本職の人間が俺みたいな素人に頼ってどうするんですか!!」
って言ったらショックを受けたように固まってしまった。
そしたら今度は宿屋の女性陣から無言で責められている気がする。なんだか、小学生男子が女子の1人を泣かせてしまったら問答無用で『謝りなさいよ!!』って責められてるみたいだ。こういう時の女の結束力ってなんなんだろう?
「あ、あとハーゲンさんに足りないのは経験だけです!! なのでこの肉を差し上げますのでドンドン揚げてみてください!!」
仕方がないので余り気味だったオーク・ビッグボア肉を提供して、揚げるように発破をかけてみたら再起動してくれた。
奥さんのモナさんとも相談し、今日揚げて提供する分は無料にして、代わりに多少コゲたりしてても目をつぶってもらう。試供品という体にして新メニュー(予)の宣伝をするという事だ。
残っても多少は日持ちするので明日の弁当に使う事を提案してなんとか事なきを得る。
「なんとか手伝いは回避、肴もトンカツで無料になったな」
「そう言わないで親父にも付き合ってやってよ♪ あといっぱい頼んでね♪」
食堂で給仕をしていたミナさんに頼んでテーブルの1つを貸しきらせてもらうよう頼むアイバー。
ついでに、今日得た報酬でシングルの特別室を一月借りれるかを尋ね、大丈夫との事なのでまとめ払いする。これでしばらくは家賃的なモノの心配はしなくてすむ。
オークジェネラルの報酬様々だ。
「シュー、ブラン、これからさっきの人や他の知らない人と話したりするからな。
ご飯は食べるけど、退屈だったら先に部屋に戻って休んでてもいいからな」
「ガウ♪」『おにく、おにく♪』
「ガウガウ♪」『ごはんなのです♪』
「待たせたか!? そなたの従魔は2匹というので目立つ故、分かりやすいな」
従魔の返事後に男の声が重なったので顔を上げる。先ほどまでは鉄仮面のせいでくぐもっていたから少し雰囲気が違うが、変態だろうと思い上げた視線の先には、
「………誰?」
そこには貴公子がいた。
長い前髪、涼やかな目元、高く通った鼻梁、細く整ったアゴのライン。
某国民的猫型ロボットアニメのス○夫、日曜夕方のアニメの先の方の○輪くんを金髪にしてイケメンにした感じだ。
服もそれっぽいドレスシャツってヤツだ。
「何を言っている? 先ほどまで一緒にいたマーソンだ。見忘れたのか?」
いやさっきまで隠してたところ出して、出してたところ隠したらわかんねえよ!?せめてどっちかは特徴残しとけよ!!
「…あの、さっきまでの鉄仮面と、半ば裸みたいな剣闘士みたいな装備はどうしたんですか」
心の中で罵倒しつつ尋ねるアイバー。
「あれは冒険者としての活動を行う時の装備だからな、荷物を取りに行くついでに着替えてきたのだ」
そうか、眼鏡を外したら美人的な人だったのか…鉄仮面を外したら貴公子、まあ…男だからクるモノはないな。
しかしイケメンだ。釈然としないモノを感じるが…正体は変態だから憎いとまでは思わんな。変態だから。
「私も1部屋取ってくるので待っていてくれたまえ」
「あ、俺も部屋に戻って着替えます」
そういえば宿にきた途端、拉致されかけたので革鎧と鉢がね姿のままだ。
1度部屋に戻って平服に着替えてくる。
「おー、来たニャ♪」
「私の方が早かったようだな」
部屋から食堂に戻ると本日の仕事仲間達が揃っていた。リアも武装はといているがホットパンツはそのままの健康的な姿である。
眼福、眼福♪
「紹介するニャ、パーティーメンバーのミゼットとポルカだニャ」
「私がミゼット、今日は奢りだってんで来たよ~♪ 初めましてだけどよろしくね♪」
「ポ、ポルカですぅ~、リアに聞いたんですけどスゴい魔法が使えるってホントですか~!?」
小柄な少女がドダダダダと駆け寄って手を掴んでくる。
こうして冒険者達との飲み会が始まった。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m
そういうお約束です♪(ノ´∀`*)




