第四十三話 びっくらぽん!!
初めての通常依頼回です。
「あぶない、あぶない。またも揚げ物マッスィーンにされるところだった…」
宿屋兼食事処清湖亭の昼飯時から、からくも逃げ出したおっさんことアイバー。
昼飯時になり、唐揚げの功績があるからか快く厨房を貸してくれた清湖亭の皆様方。
本日はオーク肉でトンカツを作ったアイバー。露店で小さめだが玉子と山椒のような野草が見付かったので購入し、作ってみたところこれも好評だった。トンカツのまま食べたり、ソースがないながらもカツサンドにして食べたりと和やかな食卓だったのだが、昨日の再現でトンカツを揚げ続けろ的な流れになった為、逃走したアイバーである。
「にしても、オークジェネラルの肉はヤバかった…ジュルリ♪」
「ワォウ♪」『おいしかった♪』
「ワォウワォウ♪」『あれはいいものなのです♪』
従魔達の副音声も喜びを伝えてくる。
強い魔物の方が旨い、という話を聞いていたので普通のオーク肉とオークジェネラル肉のトンカツで食べ比べをしたのだが段違いだった。肉と脂に含まれるイノシン酸的な旨味成分の量というか質というか…とにかくウマかった♪
「でもまあ、美味しいものを作るのは嫌いじゃないけど、作ってもらった方が美味しいからな。
俺は家庭面ではまだまだダメな元日本男児のおっさんなのだ!! 言うなれば家庭面ではマダオ!!」
自慢にならない事を宣言するおっさん。
「だが、男の本分は仕事だ!! 仕事をするぞ!! ギルドで仕事探しじゃ~!!」
一昔前のサラリーマンのような思考でギルドに向かうアイバー。
「…と、いうわけで何か仕事はありませんか? カーミラさん?」
「何が『と、いうわけ』なのか分かりませんが…お仕事でしたら後ろのボードに貼ってあるのが全てです」
クールビューティーな返しに従いボードに振り返る。
【通常依頼】
『村周辺の森の伐採手伝い:ランクF 当方が指定する大木1本(根含む)につき銅貨20枚』
『畑の耕作手伝い:ランクF 当方が指定する耕地10平方m分につき銅貨30枚』
「………なんか数日前に見た依頼がそのまま残ってる…もしくはカット&ペーストされてない?」
常時依頼の方にも目を向ける。
【常時依頼】
『常時依頼:ランクF 薬草の採取 10本1束につき銅貨3枚』
『常時依頼:ランクF 毒消し草の採取 10本1束につき銅貨5枚』
『常時依頼:ランクE ゴブリン討伐 右耳の提出につき銅貨10枚』
『常時依頼:ランクE オーク討伐 右耳の提出につき銅貨15枚』
『常時依頼:ランクE ビッグボア討伐 左右の牙一組の提出につき銅貨20枚』
※重要通達案件 村北部周辺の森にて警備隊の巡回訓練があるため数日間立ち入り禁止とする。破った者は厳罰に処す。 東サイアン開拓村ギルド長
どうやらオークジェネラルの件は本人が思っていたよりも大事だったようだ。また、アイバーの影響かは分からないが、常時依頼にオークとビッグボア討伐も足されていた。
「森でもたまに見かけてたもんな。オークとビッグボア、肉の供給源として役立ちそうだよなぁ。
…にしても、常時依頼ぐらいしかやってもいいと思える仕事がない。本格的なレベル上げは刀が打ち上がってからにしようかと思ってたんだけど…どうしよ? シューとブランをあんまり運動させないのもなぁ」
そう迷うアイバーに、
「でしたら、南の伐採場の依頼を受けてみてはいかがですかな?」
ボードを見ていたら後ろから声をかけられる。
「えっと…キースさん、どうしたんですか?」
ギルドの事務長的な立場の男性職員、キースさんが声をかけてきた。
「いえ、依頼で迷っているようなので、アドバイスを、と。
もっと言えば、これらの依頼を少しでも消化して下されば、と♪」
「あー、残ってるって事は………不人気依頼なんですよね? 朝の争奪戦でも『伐採』と『畑』は露骨に避けられてたような…」
「そこを何とかお願い出来ないでしょうか…? この2つが終わらないと自由に動ける冒険者がおらず…」
なんでも例のノルマが冒険者達を圧迫し、常時依頼や周辺情報の確認が進まないらしい。これもサイアン家の意向が優先されている弊害だとか。
「アイバー様には例のノルマが無いので、これを行わなければならない事情が無いのは分かっているのですが…お手が空いているのなら、どうか」
見ればキースさんだけじゃなく、カーミラさんや奥の机にいるギルド長も苦笑いで『なんとかお願いできない?』って感じの生温い笑顔だ。クリエさんだけ我関せず。
俺は顔も知らない相手からの電話でのしつこい勧誘にはノーと言える男………だが顔見知りのお願いに対しては強くでられない男でもあった。
「…じゃあ、たまに、ですよ」
せめてもの抵抗にこの台詞。強くはねのけられない自分のバカ!!
こうしてアイバーは『伐採』の依頼を受けることになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
教えられた伐採場への道のりを進むと、コーン、コーンという、おそらく斧で木を叩く音が聞こえて来る。
「ヘイヘイホー、だな」
有名な演歌の1節を口ずさむアイバー。
やがて村外縁の森の一部に動いている人々が見えた。あれが伐採の現場だろう。
「こんちゃーッス」
昼休みは終わっているのか、20名近くの人間が幾つかのグループに別れて作業しているようだ。
切り倒した木をさらに小分けにして木材の形にしているグループの1人に声をかけるアイバー。
見た目少年なのだが、働いているという事は成人の15歳なのだろうか。
「誰ですか?」
「すいません、ギルドから依頼を受けて来ました」
「てことは冒険者!? こんな時間に!? しかも犬連れ!?」
「ガウ!!」
「ガウガウ!!」『おおかみなのです!!』
犬扱いにもようやく反発するようになったシュー。念話はない。ブランは念話でも反論してるな。
「コラコラ、吠えないの。申し訳ないです。一応狼なんでそう呼んでやって下さい。
依頼自体初めて受けたもので…色々教えて欲しいんですけど、誰に聞けばいいですか?」
「お、おう。ちょっと待ってて。親方~!! お~や~か~た~!!」
伐採現場に向かって声を張り上げる少年。
程なく鳥打ち帽を被った筋肉ダルマがこちらに近付いて来る。
なんか某有名アニメ映画で無言で筋肉自慢して殴り合いそうな親方さんだ。そうすると少年は空から降ってくる少女を助けそうにも見えてくるな。
「なんだぁ!? ダスティン、どうした?」
「親方、こっちの人が依頼受けてきたってさ」
「依頼だ~? こんな時間に来るバカがいるのか?」
またこんな時間言われた。普通は朝か午前中には来てるって事なんだろうな。遅刻して半日出勤したみたいな居心地の悪さだ。
「どうも」
バカです。
「コイツか、んじゃさっさと来い」
「あの~初めてなんで説明とか…」
「木こりをしに来たことぐれえ分かってんだろ!! 指示通り斧を振ってりゃいい!!」
体育会系な職場だ。苦手な雰囲気だと思うアイバー。シューとブランは目に入って無いみたいだ。
「斧は持ってきてんのか? なけりゃそこの使え。壊したら弁償だ」
「持ってますんで」
ボロ袋から片刃の斧を出すアイバー。
ギリギリ片手で扱えるぐらいで、ボロ袋から出てきても不自然ではない。アイテムボックスの事は周りに知られないように気を付けないとな。
「ふん、なら、メーーック!!」
「でけえ声出さなくても聞こえてるよ」
「おう、ならコイツを頼む!! 今から参加だとよ!!」
「あいよ、俺はメックだ。よろしくな。
得物は持ってんな。この×印から木の中心に向かってぶった切れ。オメエの仕事はそんだけだ。簡単だろ!?」
メックさんは親方と似たような雰囲気の男性だが多少は理知的っぽい。
とはいえ、これからしばらくは頭空っぽにして体を動かすしかないな。
「ウイーッス、あ、ちょっと待ってて下さい。
シュー、ブラン!!」
「ガウ」
「ガウガウ」
主人が木こりをしている間の指示を、従魔に伝える。内容を伝えると2匹は森へ駆け出していった。
「お待たせしました!!」
「おう」
とにかく削れと言われたので、無心に斧を振るった。
指定された木は大人2人の両腕を繋いだぐらいの円周だったが、逆からメックさんが削っているのですぐにエンピツの先っちょのようになる。
倒れる寸前になると、メックさんが違う木を指定して先に切っているようにと言われた。
倒れる木を特定の方向に誘導するには、少しコツがいるとの事だ。
『スキル《斧術Lv1》を取得しました』
「お、ラッキー♪」
5本目の木に斧を叩きつけていると天の声からスキル取得のアナウンスが来た。
「あん!? なにがだ!?」
声を拾われていた為、少し迷いながらもスキル《斧術》を得たことを言ったところ、
「良かったじゃねえか♪」
と喜ばれた。
作業の合間になけなしのコミュ力を総動員して話したところ、メックさんは30年近く木こりをやって《斧術Lv4》らしい。神官さんから聞いた魔法のLvの向上と比べると、なんだか年数とLvの割合が合っていない気がしたのだが、まあ何か知らない要素があるのかも知れない。
「おし、この木はもういいぞ。次はそっちの2本目を切ってろ」
「オイーッス」
指定された木に向かおうと、1本目の大木を迂回する。
大木過ぎるので後回しにするのかな?と疑問に思いながら歩いていると、
ブツン
「? なんか切れる音が…」
「ニャニャー!? 下の人!! 退くニャー!? アブ…」
声に反応して上を向いたアイバーの眼前に飛び込んで来たのは……………………………………………………………………ムチムチホットパンツだった。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m
落ちてくる系ヒロイン候補?




