第四十二話 バチバチ娘はもういない!! いないんだ!!
魔法談義回になってます。
※途中とても不快に思える表現・思想があります。お気をつけ下さい。
「という訳で…ウンヌンカンヌンであり…カクカクシカジカなのだ…」
ダメだ全く頭に入ってこない…分かったのは神官さんが思った以上に真面目だけどポンコツだった事だ、と悟ったおっさんことアイバー。
『わざとじゃねえの!? ちょっと前の話の流れを見りゃ、そうじゃねえ事が分かるでしょうよ!?』とも思ったのだが、別に嫌がらせで長話をしている訳では無さそうだ。きっと魔法の成り立ちから変遷等について分かりやすく説明してくれているつもりなのだろう。
変なところでウッカリ効果を発揮する神官さんである。
「ところがチョメチョメ…面白いのはピーチクパーチク…」
アイバーが望んでいたモノとは違う。しかもまた、この概論らしい話というものが眠気を誘う。
大学の講義で~~学概論というのは、ほぼ全ての学部で必修だったのだが、これがとにかく退屈で仕方がなかった。そんな記憶のあるおっさんは眠くなりそうだ。
フランス文学やドイツ文学なら、具体的な作品を持ち出して講義に絡めてくれれば良いのに…と思った若かりし頃のおっさんである。
「クゥ…zzz」
「クゥクゥ…zzz」
ほらぁ!! 主人を差し置いて従魔2匹は先にお昼寝してるし!! コイツらギルドでも寝てたな、午後は運動もかねて依頼でも受けるかな。ゴブリン退治でもいいし。
しかし、このまま聞いていると銀貨4枚分の話が終わるまで状況が変わらなそうだ…仕方がないが遮らせてもらおう。俺はしつこい電話での保険や太陽光発電パネルの勧誘にもノーと言える男!!
「こうしてペラペラ…両派のズンドコズンドコ…魔法理学というものが…」
「あのぉ…」
「うん、何かね? 今の発展の仕方に何か疑問でも? 確かにグロイト派とルング派、バトラーの提唱には…」
誰だよグロイトとルング、バトラー? 心理学概論思い出しそうな名前だけど、知らねーし…
「いや、そうではなく…俺の聞きたい事とは大分方向性が違います。もちょっと身近に使える事が聞きたいんです!!」
「?…つまりあれかね? 実戦で使える魔法といった事などかね?」
最初っからそういうつもりだったんですけどねえ。
「そうそう、そういうのです」
「そうか…すまないな、かつて教職を目指した事もあるのでその頃を思い出してしまった。教職で安定した収入を得つつ、たまの《回復魔法》で臨時収入…理想の生活だな♪」
そんな夢を語られても…あ、でも確かにいいかも…
定職に就きつつ、たまの印税収入…夢があるじゃないか♪ 確定申告がちょっと面倒そうだが。
「では、君の聞きたい事を聞いて答えるのが一番てっとり早いな。
なるべく簡単な事から聞いてくれたまえ。寄付の件とは全く関係がないが、最近少し喉を痛めてね。言葉が上手く出ない可能性もあるからな」
「…それはそれは、お大事に」
このやり取りもまだ続くんだ…いいけど。
最初に聞くのは…そうだな、これにしよう。
「スキルの魔法の種類はどれくらいあるんでしょうか? 光・闇・火・水・風・土・回復魔法があるのは知っているのでそれ以外で」
あるって分かれば《○操作》でLv1まで上げられそうだし。
「なるほど…その質問が出るということは…ま、いい。
………私が知る限りでは、それ以外だと『雷魔法』だな」
お、ナイス情報!! 攻撃特化で《火魔法》程周りに被害が及ばなそうな、なんか火と風の複合上級魔法っぽい感じするよね♪
「とはいえ、《雷魔法》を使えるものはほとんど見ない。
魔法自体が実用レベルに至っているものがそう多くはない中で、先に君が言った魔法のどれかを使える者1000人よりも《雷魔法》を使える者1人を探す方が難しいな。
魔法に触れる機会の多かった私でも生涯に2人しかお目にかかった事がない。実体験だから間違いないと思うぞ?」
ああ、なるほど…この世界の文明レベルだと電気を恒常的に維持出来ないもんな…
魔法の修得方法がLv1魔法の《○操作》未修得verを使い続ける事だとしたら、そも自然のカミナリが側になくっちゃいけない…最初の段階で結構な無理ゲーだ。雷雨の中でいつ落ちるか分からない落雷を待つんだもんな。
「ちなみにどんな方ですか?」
「…私が学んでいた学舎の学園長とその弟子だ。弟子の方は生まれつき《雷魔法》の才能を持っていたらしい…既に彼女は故人だがね…」
確かに先天的に《雷魔法Lv2》以上を覚えてないとキツそうだな。ま、地道に方法を探そう。
にしても神官さんの口振りからすると、結構若い内に亡くなったっぽいし、知り合いっぽい。
若い娘さんが亡くなるのは世界の損失だよなぁ~、前生でも女子学生が亡くなったっていうニュースを見ると自分の彼女でもないのに『もったいないなぁ~いつか俺の嫁さんになったかもしれないのに~』とか結構クズな事を考えてたもんな。
男子学生が亡くなると『いや、こいつが成長しても立派な人間になるとはかぎらねぇよな~、むしろとんでもない犯罪者になるかもしんねえじゃん』と正反対の事を考えて、教育関係者の『かけがえのない若い命が~』っていう擁護に反発したな…あらためて考えるとドン引きだ。ルサンチマンがひどい。
もうちょっと真っ当な人間になろう!!
よし! 切り替えていこう!! 真っ当な人間になるための一歩だ!!!
「『氷魔法』ってないんですか?」
「ない。それに関しては『水魔法』のLvを上げていけば解決する…気がするな」
おお、いいですねぇ♪ 神官さん、ナイスよナイス♪
「…他には伝説や神話の物語に《聖魔法》や瞬間移動、時間操作といった眉唾物の話もあるが、再現出来たという話は聞かない…ない、とも証明出来ないが…」
ここいらは悪魔の証明だな。あるかもしれないけど出来た人はいない、か…
「神官さんって結構頭が柔らかいんですね。俺のイメージの宗教関係者って頭ガチガチで、可能性とかを認めないって感じなんですが…」
「フム、そうだな上の老人達のほとんどはそんな感じだな。むしろ私が異端に類するといったところだ」
「まあ、金好きの聖職者っていうのもねえ…はい、これ寄付の追加です」
とりあえず銀貨4枚の内2枚を渡す。
《雷魔法》以降の情報はアイバーにとってかなり有用な知識だったので渡してもいいと思った訳だ。
「寄進に感謝する♪ そちらの2枚も渡してくれて構わんぞ」
「まあまあ、慌てる何とか、ですよ♪」
銀貨2枚をボロ袋にしまうアイバー。
『ああ!? ちょっと!?』と言わんばかりの表情を浮かべる神官。
ボロ袋に入れた手を再び上げた時、その手の中には…
「!!」
息を飲む神官。
アイバーの手には先程よりも大振りの銀貨、大銀貨が摘ままれていたのだ。通常の銀貨の10倍の価値。アイバーの価値換算によると10万円相当だ。
「なんだかこれを寄付したくなっちゃったんですけどぉ…」
神官に揺さぶりをかけるアイバー。
要は、『次の質問で結構重要な事を聞くんだけど答えてくれるよね♪ そうすればこれ払うよ♪』という事である。ゲスい。
神官さんの様子を見る。今まで表面上は涼やかにしていたが、片方の手が伸びかけておりそれを逆の手で抑えている。もはやギャグだ。
こうかはてきめんだ。
あぶく銭みたいなもんだから、こんな風に大胆に使えるな♪ 後で無一文になったら後悔するかもだけど…
「…くっ!! 聞け!!」
クッコロみたいな台詞を吐く神官さん。せめて性別が逆だったら…
「んん!! ではお聞きしますが、魔法のLvを上げるのにてっとり早い方法を教えて下さい。最初の方にも聞きましたよね?」
最初の時みたいにごまかすのはやめてね♪という意味を込めた笑顔で問いただすアイバー。
「………神への敬虔な信仰を持つものに魔法の才は発現しやすいとされている…」
「へぇ!? そうなんですかぁ~じゃあ俺には無理かな~」
「フゥ、慌てるな、建前だ。
実際には覚えた魔法を使い続ける事で何らかの蓄積が行われ、それが一定の段階に達するとLvが上がる、そう考えると納得がいく部分が多いな」
うん、それなら納得できる。その確証が欲しかったんだ。
「この説は、あくまで私の実体験と周囲の人間を観察した上での推論だ。絶対ではないし、他の聖職者には話さない事をオススメする。
魔法を使わない奴よりは使う奴の方がLvが上がるのが早かったし、学園もそれを推奨していた。だがその差が顕著なのは低レベルの内だけだ。やがてLvは頭打ちになる。3年後の卒業時にはLv3が平均、チラホラその上下にエリートのLv4と落ちこぼれのLv2が生まれて、十数年に1度は在学中にLv5の超エリートやLv6の天才が出る様な印象だ。
その超エリートや天才達は私の見た限り、とにかく魔法バカや変人の類いで、何かにつけて魔法を行使していた気がするよ」
フムフム、大体予想通り。
回数使うことでLvが上がる。
↓
Lvが上がる程、次のLvまでには必要な習熟度が大きくなるから3年の期間ではLvがほぼ横並び。
↓
中には同じLv3でも、もうちょいでLv4になる奴もいればLv2から上がったばっかりの奴もいると。
↓
超エリートや天才はとにかく魔法を使うからLvが上がる。
って感じかな?
学園って事は複数系統の魔法に分散して学ぶんだろうし、Lv3くらいが平均になるのかね?
中には一極集中するロマン仕様の愛すべきバカもいたりするのかも…風魔法が至高とかいうヤツな♪ それに転生部屋で聞いた【スキル適正】もあるんだろうな。もう俺にも見えないし、この世界の人も見れないんだろうし。
一応、問題の精密性の事も聞いておこう。
「高Lvになるのに何か特別な条件とか訓練みたいな事はしませんでした? 瞑想とか魔法を使うのに、こう具体的なイメージを持つようにしたとか…」
「………特には思い付かんな。私も戦…いや、止めておこう」
くぁ~♪ 神官さん、戦場で影とか背負っちゃってる!? 不謹慎だけど燃える展開!! 神官さんの過去で話が1つ出来そうな勢いだ!!
脱線したな。
とにかく、結論としては魔法使いまくれ!!な方針だな。それが分かっただけで充分だ♪
「ありがとうございました。大変有意義なお話でした♪ これ寄付です、役立てて下さい」
「ありがとう、君に神の祝福があらんことを………話の途中で大きなクシャミをしてしまった事は黙っておいてくれたまえ!? 説法中に粗相をした等という話は聖職者の沽券に関わるのでね」
はは、慣れれば愉快な人だ♪
大丈夫、と会釈して教会を出るアイバー。
「さーて、今日の昼は受け取ったオーク肉で豚カツでも作らせてもらお」
「ガウウ~♪」
「ガウウガウウ~♪」
今まで存在感を消していた従魔の尻を足で小突きつつ、昨日使って汚れた油を交換する為商店を目指すアイバーだった。
あ、神官さんの名前聞くの忘れた…男だからいいや!!と思いながら。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m




