第四十一話 ほう、感心だな
大金欲しいですねぇ~♪(ノ´∀`*)
思わぬ大金が入ったおっさんことアイバー。
前生なら1、2回行きつけのお店に行って、残りは手元に置いておこうかな~♪と思う所だろうか? この村にも娼館はあるような事言ってたし。
幸いと言っていいのか、性欲関連に関してはそれほど沸き上がってくるものがないので今はいいやと思うアイバー。
それよりは…
「失礼しま~す、ドワーフのおっちゃん!! また来たよー♪」
鍛冶屋の工房兼店舗にズカズカと踏み込むアイバー。昨日の店主とのやり取りで、ざっくばらんな付き合い方の方が良さそうに思えたので、そのように対応している。
世の中には人によって態度を変えるのはよくない、なんて考えもあったがおっさんの身からすればそんなものは嘘っぱちである。世の中にはTPOという重要な言葉があるのだ。
「なんじゃ、昨日の刀の小僧か。昨日は逃げるようにいなくなりおって」
今日はカウンターではなく奥の工房らしき所から出てきた。頭に巻いた布とか、はだけた上半身とか、手袋とかガテン系の仕事中っぽいな。
「ゴメンゴメン」
「ふん!! まあええ、で何の用じゃ? 刀は要らんのじゃろ、他の武器でも欲しくなったか?」
「昨日は断ったけど、やっぱり刀を打って欲しくてね。それなりの物をさ♪」
言って、先程ギルドで受け取った報酬から金貨2枚を取り出す。囲碁か将棋かを打つようにパチンとカウンターに置いた。
俺カッケ~♪
「ほう!! 驚いた…しかも金貨払いとはのう!! この村の若い連中は、なんとか貯め込んだ銀貨や銅貨をジャラジャラさせてくるもんじゃが、やるのう小僧♪」
ふふん♪ そうだろうそうだろう♪
これがやりたくて報酬受けとるときに『使いやすく銀貨や大銀貨にしましょうか?』って言われても頑なに金貨にこだわったんだ!! まあ、残りの金貨1枚は大銀貨5枚と銀貨50枚に崩してもらったがな。いちいち大量のお釣りをもらうのはゴメンだ。
「こういう払い方って男のロマンだからね♪ 1度はやってみたかったのよ♪」
「なんじゃ? ロマンっちゅうのは?」
「あれ、知らない? 異世界には無い言葉なのかな? ノックスさん達にもセクハラとか人権団体とかの意味の通じない言葉あったしな。
え~とロマンていうのは、端から見ると無駄とか道楽とかに見えるんだけど…なんつーか見ていると不思議と真似したくなるな~とか男心をくすぐると言うか、説明しようとすると結構ムズいな…見たりやったりしてるとカッコいいなあって…!!!!
そう!!カッコいいからだ!!」
「?」
「そうだよ!!さっきの金貨の出し方とか、実際には銀貨で払ったって特に変わらない無駄なことでも、それをすることによってカッコいいと思う思わせる事がロマンなんだよ!!」
「ふーむ? じゃが無駄なんじゃろ? じゃったら…」
「いや、ドワーフのおっちゃんだって武器を打つのにより斬れる剣を打ったりするだろ!! 冒険者だって別にドラゴンを相手にする訳じゃない!! だったらそこそこの剣を打ってりゃいい!! ゴブリン倒すのだったら剣じゃなくても石ころでも倒せる、でも打ち方を変えて、素材を探して、より凄い剣を打とうとしてるんじゃないのか!! いつか、出会わない可能性のほうが高い、それでも万が一!億が一!!に出会ったときにドラゴンを斬るための至高の剣!!
それをカッコいいと思わないのか!!」
「………」
「それがロマンなんだよ!! 飽くなき探求心!! 無謀な冒険心!! いい女をモノにしようとする熱い心!! それがロマンさ!! おっちゃんの心にはそういうモノがないのかい!?」
「………ッ!!」
…なんか勢いでエラいノリで語ってしまった。なんだ?俺は何をやってるんだ!?
なんか急に恥ずかしくなってきた…高校の文化祭の後夜祭のキャンプファイアーでテンション上がって『心も体も熱いぜ!!』みたいな事を口走ったら、後ろで他校の女子生徒に『ナニあれ~♪』って笑われた時ぐらい恥ずかしい…
だが目の前のドワーフには別の感情が生まれてきているようだ。
「…感動した…ワシはいつの間にか、ただ生活の為に武器を打つだけになっとった…職人失格じゃ。思い返せば12で鎚を握り、ただ武器を打つことが楽しゅうて楽しゅうて仕方のなかったあの頃…」
おお、おっちゃんが泣いている。漢泣きだ!
「ロマン、ロマンか!! この響き、気に入ったぞ!! なんという気分の良さじゃ!! よし、お前にはワシの最高峰の刀を打ってやろう!!」
おお、おっちゃんが燃えている!!
「おっと、おっちゃんの職人魂に火ぃつけちゃったかな?」
「ガッハッハ!! 刀っちゅうのも燃える題材じゃ!! 久方ぶりに1本鍛えあげてみるかのう!!
今は廃れた刀を使っているお前さんもロマンじゃないか!!」
「お、分かるかい!? おっちゃん、俺の故郷じゃ刀とドリル、パイルバンカーはロマン武器って言って実用性うんぬんよりもカッコいいってだけで絶大な支持を得てるんだ!! 男のロマンだよ!!」
最終的には巨大人型ロボットだな。不安定だとか、合理性がないとか言ってはいけない。
だってロマンなんだから。
カッコいい…それ以上の理由が必要か?
「ドリル、パイルバンカー…なんと鍛冶屋の琴線に触れる言葉じゃ…刀を打ち終わったら話を聞かせるんじゃぞ!!
刀は最短で…3日貰うぞ。材料は鉄しかないがその中でも最高のモノを打ってやる!! さあ仕事じゃ!!」
あ、工房に駆け出して行っちゃった。
なんか途中で妙なノリになってしまったが、刀を打ってもらう事は頼めたからいいか。
あ、壊れた戦鎚とオークジェネラルから回収した壊れた鉄錘売るの忘れたけど後日でいいか。
あと、おっちゃんの名前も聞き忘れたんだよなぁ…
相変わらず忘れっぽいおっさんであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
さて昼まで時間があると考えたアイバーだったが、今は教会にいた。
鍛冶屋を出て《光魔法》の取得訓練をしていたところで、
『スキル《光魔法Lv1》を取得しました』
と、天の声が聞こえてきたのがきっかけである。
「今まで独学と言うか、思い込みで魔法の訓練してたからなあ。詳しそうな人に聞いてみるのも1つの方法だろ」
で、詳しそうな人という風に考えてみたところ、目の前に教会があったため入ったという訳だ。
ダークエルフのカーミラさんや警備隊のエルフ、ネールさんの顔も浮かんだのだが…ネールさんは門で働いているかもだけど確実にそこにいるかわからないし、カーミラさんの場合あんまり立て続けに女性の職場を訪れるのもねぇ!? なんか気まずいじゃないですか~ストーカーとか思われるのもやだし~。
なので《回復魔法Lv6》が使えた神官の人に白羽の矢を立てた、自意識過剰で女性の評判を微妙に気にするおっさんであった。キモい。
「お邪魔しまーす」
教会の大扉を開けて中に入って行くアイバー。ギギギとか音がするかと思ったら結構軽い。
少し手狭な礼拝堂といった感じか…従弟が結婚式挙げた式場の、なんちゃってチャペルみたいだ。ところどころに燭台と蝋燭が立てられており、荘厳な雰囲気作りに一役かっている。
「ついでに《火魔法》の《火操作》でMPを使いきってしまおう」
蝋燭の炎が揺らめき、治まる。教会で魔法っていいのかな…と少し引っかかったが、回復魔法使ってたからいいかと思い直したアイバーである。
奥の左右に扉があり、確か一昨日は右側から出てきた気がする。扉の先に廊下があって…学校の保健室みたいな部屋の他にも住居っぽいのが…
「おや、神の家にお客さんかね? 私はしないが、神は歓迎するだろう」
思っていたら、そのドアから出てきたのは先日世話になった神官さんだ。金髪細目で白い服。
傍らに女性を連れている。
「では、根本的な解決策を授けてやれないのはすまないが、気を付けたまえ」
「…はい、お世話になりました…」
軽くやり取りして、茶髪の女性が神官さんに促されて教会のから出ていこうとする。自然入り口付近にいたアイバーとすれ違うが、足元にいたシュー達を見ると気付いたようにアイバーを睨み、出ていった。
なんか見覚えある気がするが…
「クゥ…」
「クゥクゥ?」
シューも何か言いたげだが…思い出せない事は放っておいて、今は魔法の事だな。
「ちょっとお聞きしたい事がありまして…」
「そうか、私は話したい事はないので我らが神に祈っていきたまえ。神に時間があれば返答してくださるだろう。
ま、神は多忙ゆえ、時間を取ってくれる事はほとんどないがね」
なんだ、この新手の中二病だか高二病みたいな人は? ああ、でもこんな感じだったけ!? 一昨日の治療後は短かいやり取りだったし、カーミラさんが対応してくれてたからな。
あと、神様は結構暇してたりしそうですよ!? 少年跳躍読んだりしてましたから。
まあ、お金スキーなのは分かってるから、対応策もちゃんとある。
「はあ…神官様に聞いていただきたいと思っているんですが。あ、これ寄付したいんですけど、どこに納めれば…」
「そうか、それは感心だな。私に預けてくれれば構わない。さあそれを置いて帰りたまえ」
銀貨を取り出したら早足で近付いて来る神官。分かりやすい人だな。
「さあさあさあ、寄付をするのだろう?その手にもった貨幣を私に!!さあさあ!!」
グイグイ来やがる。本当に聖職者か?
「勿論寄付するつもりなのですが…その前の少しだけお話を」
「………よかろう、だが少しだけだぞ」
礼拝堂最前列の長椅子に通路側を向いて座ったため、アイバーも中央の通路を挟んで同じように座り向き合う。
「それで? 何を聞きたいのかね?」
「まあ、色々なんですが…神官様、って、呼び方は『神官様』でよろしいんですかね?」
「うん? どういう事だね?」
「その…宗教っていうんですか? その中には司祭とか僧侶とか位を表す呼び方が色々あるじゃないですか? で、神官って呼び方でいいのかなぁ~って…」
前生では宗教とは距離のあった日本人なので、ちょっと聞いておきたい。
見たところ西洋の唯一神教とかぶる事が多いように見受けられる教会なのだが、そこんところどうなのだろう。
「ああ、なるほど…それが聞きたい事なのかね!? 神官というのは神に仕えるもの、または教団に属する者達の大きな総称だな。
少なくとも、私はそう呼ばれる事は不快でもなんでもないので構わんよ。
一応、私の属する教団では教皇をトップに司教・司祭・助祭・待祭という区別があるが、教区の規模や本部・支部等の要因で大司教や枢機卿のような呼び方もされるな…ちなみに私は司祭だ。
司祭の中にも細かい呼び名があるが、全部知りたいかね?」
えらい細かくなりそうなので手を降って辞退させてもらう。
神官でいいならそれでいいや。大司教とか枢機卿とかも、ファンタジーだと定番だし。大抵腐敗して権力争いしてるイメージだ。
「教えて下さってありがとうございます。それとは全く関係ないんですが、これ寄付です。どうぞ」
「寄進に感謝しよう♪ 他には聞きたいことはないかね?」
そっと銀貨を差し出すと、厳かに受け取る神官さん。ちょっとモッタイナイと思ったが、相手の口を滑らかにするための投資だと割りきろう。
案の定、神官さんは次を促してきている。ボロい商売だと思ってるのだろう。
こっからが本番だし多少はね。銀貨2枚を手元で見せつける。
「魔法についてお伺いしたいのですが…神官さんは《回復魔法Lv6》を使えますよね? 結構レベル高いと思うんですが、それってどのように修得されたのですか?」
「…ふむ、それに関しては…秘奥の部分になるのでね…」
「う~ん、そうですか~。仕方ないですね。
まあ、ある程度の想像はついていますし、どこかの魔術師や魔法に詳しそうなエルフさんにでも…」
「まあ、待ちたまえ。慌てる何とかは、だぞ!?」
アイバーが銀貨をしまって椅子から立ち上がりかけると、素早いがゆっくり見える動作で肩を抑え立ち上がりを制された。
この神官、合気道みたいな動きしやがるな。
「魔法というものは一般の人々には浸透していないものでね。魔法を修めようとすれば市井の魔術師の私塾か、もしくは王立学園で学ぶのが普通なのだ。どちらもそれなりの対価を払わねばならぬモノなのだよ………言いたいことが分かるかね?」
要は銀貨2枚じゃ相場以下だから、もうちょっと上乗せしろって事だよね。う~ん、Lvが上の魔法を使い続ける事で自然と上がっていくんじゃないかなー、って思ってるんだけど途中からは魔力の精密性がどうとかって話になるルートもあるかなって話で迷ってるんだよな……どうしよ?
「ん~じゃあこれだけ寄付します。
んで、寄付とは全く関係ないんですけど、神官さんの気分次第で結構ですので魔法に関して教えていただいていいですか?」
銀貨4枚を出してチラつかせるアイバー。まだ渡さない。
奪おうとしてくれば、聖職者にあるまじき行為だとギルドにでも訴えよう。
「よかろう。
決して寄付の対価などではないが、魔法という神の恩恵を学ぼうとする姿勢に感心して、僅かばかりの知恵を授けようではないか」
この白々しいやり取りも結構楽しいな♪
よーし♪この調子で魔法Lv上げのコツってヤツを…
「魔法の成り立ちというのは実は分かっていない。遥か昔からあるとされているが…ウンヌンカンヌン」
予想に反して、なんか魔法学概論みたいなのが始まった…
お読みいただきありがとうございましたm(__)m
神官さんの性格は拝金主義だけど生真面目、某伝奇作品のヒロイン、赤い悪魔を参考にしたつもりです 。あくまで参考程度ですが…本作というよりC×3、○ネーイズパワーシステムよ!!
ドワーフのおっちゃんはコー○ーさんの神ゲーRPGのドワーフさんがイメージの元になってます。




