第四十話 へぇ、いいもん持ってんじゃん
また投稿再開いたしますm(__)m
この作品関連の短編を前日に投稿していますので、よろしければお目通し下さい♪
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宿屋『清湖亭』の朝は早い。
前夜から仕込みをしているとはいえ、宿泊客の都合に合わせて食事の提供を行う訳だ。たいていは作りおきのスープと保存に適した固く締まったパン、それに少量の野菜程度だが、稀に卵料理や塩漬け肉を焼いたものが出たりする。
今日の皿には…
「昨日の唐揚げの残りか…大量に揚げさせられたからな…ふぁ」
「昨日はありがとね~♪ それじゃ~ねぇ♪」
看板娘長女のマナがお盆をおいて厨房に戻る。
かたや、テーブルにつきながら欠伸をするおっさんことアイバー。寝癖のついた髪の毛のまま食堂のテーブルで朝食を摂る。服装も起きたときのままだ。
昨日までは部屋でソコソコ身なりを整えていたのだが、宿泊3日目にして早くも実家のようなダラケ具合、旅館の大食堂に着崩た浴衣姿で出てくるようなモノだ。
「シュー達のも唐揚げの残りか…夜の酒場のお試しメニューにって追加で鳥買ってきて揚げたもんな…」
「グアウゥ♪」
「グアウゥアウゥ♪」
主人に構わず美味しそうに鳥の唐揚げ食べている従魔達。
他の宿泊客の皿にも提供されており、みたところ好評のようだ。食堂にはパーティーなのか、冒険者らしい格好をした男3と男2女2のグループが席についている。
パンをスープに浸して食べながら、今日はどうしようかと考えるアイバーであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うへぇ…なんじゃコラ…」
朝食後、装備を整えてギルドに向かうと中は男女入り乱れた若者の集団がところ狭しと立ったり座ったりしている。例外は依頼表を貼り付けるボードの前だけだ。
事情を知らず、オークジェネラルの代金を引き取るだけのつもりだったアイバー。
「おい、ちょっと、どけよ」
「邪魔なんだけど…」
ピリピリした場の雰囲気に立ち尽くしていたアイバーの後ろから、年若い冒険者が声をかける。正面扉のすぐ前で立ち止まっていた為、通行の妨げになっていたようである。
「あ、ゴメン…」
慌てて道を譲り、隅っこの空いてる方に移動するアイバーとその従魔。
職員スペースには昨日と同じ面子と、昨日はいなかった男性の職員が見える。カーミラさんと目が合った為、会釈すると会釈が返ってきた。
一体これから何が始まるというのか?
冒険者の事情に疎いアイバーはシューとブランと戯れながら成り行きを待つ。途中女性冒険者がシューとブランを見て指差したり、目配せしているのが気になった。悪口ですか?
そんな事をしていると、
「お待たせしました~!! 本日の新規依頼貼り出します!! 落ち着いて、喧嘩しないで選んで下さいね!!」
クリエと呼ばれていた受付嬢が紙の束を持って、依頼ボードの前に移動、その紙の束をペタペタと貼り付けていく。
周囲の冒険者はそれを遠巻きに見ており、クリエの周囲にだけポッカリと空間が出来ていた。邪魔しちゃいけないとかの不文律があるのだろう。
「これで全部っと、もう1回言っておきますが、落ち着いて、喧嘩しないで選んで下さいね!! あまりにも目に余るようなら、ギルド長からペナルティーがありますよ!!」
最初に言った注意をもう1回繰り返すクリエ。
受付にいるギルド長が手に鞭を持ってパシパシ伸ばしていた。マジで叩くの!? Mにはご褒美になっちゃわない?
そして、クリエが職員スペース内に戻った瞬間。
「護衛だ!!護衛依頼を寄越せ!!」「テメッ、押すな!!」「護衛は4つかよ!!もっと増やせよクソが!!」「イテイテ、痛えよ!!」「護衛はいらねえ!!今のうちに街道取っとけ!!人数分!!」「テメエラまとめ取りしてんじゃねえよ!?1人1枚だろ!!」「登録してるパーティーで受けるんだよ!!」「昨日結成登録済みだ♪違反じゃねえぞ、うっし!!4枚!!」「アダッ!?誰だ!!今殴ったの!?」「私だ、ギルド長!!ペナルティーを!!…アフン♡」「今日は譲ってよ!!そしたら夜はサービスしてやるから!!」「昨日も畑だったんですぅ!!今日は譲ってください!?」「ヨッシャ!!」「ふざけんな破れんだろ!!」「先に取ったのは私よ!!アンタが放しなさいよ!!」「足踏んでんだよ!!」「通せって!!」「ウニャー!?」「おっし、護衛、受付に出したぞ、こっから触ったら違反だからな♪」「それはどうかな!!…アフン♡」「チックショー!!」「他の護衛持ってる奴誰だ!?」「伐採はイヤだ~」「畑だってイヤよ~」「街道敷設依頼4人分だパーティー名は…」
テレビで見た猿山の餌やりのような光景が始まった。なんか、途中ギルド長の鞭が2度ほど宙を飛んだような…
貼られたばかりの依頼が次々と剥がされていく。何やら共通の単語が幾つか飛び交っており『護衛』と『街道』、たまに『伐採』や『畑』が複数の口から発せられているようだ。
「なんぞこれ?」
騒動が治まるまでの20分程、アイバーはギルドの壁際で置物になって様子見だ。
「クァァ~」
「クゥクゥ」
従魔達は最初こそ驚いたものの、騒ぎが自分達に向かってこない事が分かると日の当たる窓際を見つけて昼寝をしていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
猿山騒ぎは30分程すると落ち着き、そこからはなんの依頼も受けずに出ていく者やボードの前でうんうん唸って依頼表を見比べる者、諦めたように剥がして受付に持っていく者、依頼表を持っていったはいいが受付でクドクド文句を言っている者等が残っていた。
先程までの混雑ぶりについては、以前カーミラさんに聞いた冒険者の定められた仕事というヤツだろうとアイバーは見当づけた。詳しい内容は知らないが結構大変なんだろうと思うばかりである。
俺には関係ないしな♪ ノルマオツでーす♪
「ちくしょう…やるしかねえか」
「もう4日、畑耕しと石ころ拾いですぅ…」
「仕方ないじゃん…1日かけてのんびりやろうよ…もうちょっとで護衛とれたんだけどなあ…」
「私は伐採にいくニャ!! 土を耕すよりはスッとするニャ」
最後まで残っていた冒険者らしき男女が、ボードに残っていた依頼表を剥がして受付に出し受理してもらっていた。様子を見るに、明らかに嫌々といった感じだ。
一応今度、依頼について詳しいことを聞いておこうと思うアイバー。特に最後の女性に。同じ冒険者として、交流も持たないとな、うんうん。
語尾がニャか………革兜をかぶり、マントで体を覆っていたので耳や尻尾は確認出来なかったがおそらく…ニヤリ♪
「受理いたしました。大変でしょうが、頑張って来てくださいね」
カーミラさんに依頼表を出したのは男性冒険者だが、そう言われてちょっと足取りが軽くなったようだ。
残りの女性3人は知り合いなのかギルドを出るまで固まっていた。受けた依頼は別のモノだったので外で別れるのだろう。
ニャの女性の後ろ姿をよく覚えておかなくては!!
「アイバーさん、よくない顔をしていますね」
「なんの事でしょう?」
ポーカーフェイスを装ってカーミラさんの受付に並ぶアイバー。
さて、さっさと用件に入ろう。
「オークジェネラルの件で来ましたのでお願いします」
「…はい 、丁度良かったです。他の方がいると少し問題が」
「うむ、そうだな極秘と言う訳ではないが、広めて欲しくないというのも確かだ。アイバーくんは気が利くな♪」
受付窓口に座っていたギルド長がカーミラさんの後ろに控えて自分に対応してくれた。なんかお得意様みたいな対応ですね。
行動も勝手に良い方に解釈してくれるし。
「ギルド長お疲れ様です。見事な鞭さばきでした」
「おや、見ていたのか!? 得意武器の1つでな♪ 《鞭術Lv6》まで鍛えてある。そんな訳だから混雑してても罰則者以外に当てる心配はないぞ。
本命武器は別なんだが搦め手に使えてな。なかなか重宝している」
へえ~、ネタかと思ってたら結構本格的なんですね…
「オークジェネラルの件ですが清算は終わっています。金貨3枚と銀貨3枚ですね。内訳ですが、
オークジェネラルの報告兼討伐の報酬、魔石:金貨2枚
素材のオークジェネラルの皮、睾丸:金貨1枚
素材のオークの皮、睾丸×4匹分:銅貨260枚
素材のビッグボアの毛皮×2匹分:銅貨40枚
お肉の方は解体所で保管してありますので。そちらでお受け取り下さい」
おお、想像以上の金額だ♪ 現金収入約303万円、あくまで俺の予想比較だけど。内訳も詳しく聞いておきたい。
「すいません、魔物の素材とかに関して無知なのでどういう部位がどういう風に価値があるのか教えてもらってもいいですか?」
「うわっ…やらし…」
クリエ嬢が小さくつぶやく。はて? 何かセクハラしたか?
「やめて下さいクリエさん…申し訳ありません、アイバーさん」
「いえ、あの、なんかしちゃいました俺?」
「気にすることはないよ、アイバーくん。
素材の『睾丸』についてなのだが、所謂精力剤としての用途があってね。使用目的と付いている部分がなぁ…男性器直結、早い話が金玉だろう?
その事で受付嬢をからかうような冒険者がいてな、その逸話が語り継がれているんだよ。
…あと、クリエ、真剣に聞いているのか、からかい目的なのかの判断ぐらいしっかりつけろ。誉められた態度じゃないぞ…」
「…はい…申し訳ありませんでした…」
へ~、ありがちな逸話だな。牛のぺニス料理とか、カツオがイタリア語だとチ○コの意味と知ってからかう中学生みたいなもんか…気をつけよ。
それにクリエ嬢にはあまり好かれてないのかな?そんな風に感じる。まあいいや。
「不快にさせてしまったなら申し訳ない。今後は無いようにする。
もし君がそういう事を気にするようなら、私は冒険者上がりだからだから気にしないし、こっちの男の受付に頼んでもいい。
昨日はいなかったから、紹介しておこう。職員のキースだ」
「はじめまして、キースと申します。ギルド内の事務方のまとめ役などをつとめさせていただいていますので、お見知りおきを」
少し痩せぎみだが温厚そうな人だ。片眼鏡をかけていて、後は強いて言うならゴッホより普通にラッセンが好きそうな外見と年齢の男性だな。ラッセンの絵って知らないけど。
「こちらこそ、よろしくお願いします。アイバーです」
「存じております。オークジェネラルの件でギルドで知らぬ者はおりませんよ。5名ですがね♪」
なかなか茶目っ気のありそうな人だな♪ 仲良くしていきたい所だ。
「あの、途中になってしまってすいませんが、素材の説明を…」
「ああ、すまないカーミラ。ここは君に任せないとな、でしゃばって悪かった。私は奥にいるよ」
「そうですね。アイバーさんはカーミラさんに尋ねているのですから、任せるのが筋でしょう。
ギルド長、こちらの3枚にサインと、警備隊からの報告書を地図におこしたモノが出来ていますので確認を」
なんか忙しそうな2人だ。話の中にオークジェネラルって単語が出るから見回りとかの確認の話なんだろうな。
「アイバーさん、よろしいですか?」
その後報告と討伐の報酬は王種関連事項で定められた金額なんだとか、王種や将軍種の魔石は討伐証明として強制的に買い取り対象になるとか、オークの皮は革製品になってオークジェネラルの皮は大層な防具になるとか、睾丸は強いオークほど効果の高い精力剤になるとか、ビッグボアの毛皮はボロボロで価値が低くなってしまったとか、肉は全部で銀貨30枚程度の価値になるけど引き取らなくていいですかとかカーミラさんに説明された。
説明に納得したアイバーは解体所で肉を受け取りボロ袋にいれると、依頼は受けずにギルドを出た。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m




