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第三十五話 ねえ、あなたはどうして主役なの!?

第二部開始です。よろしくお願いいたしますm(__)m

 現在午前9時過ぎ、ここ東サイアン開拓村冒険者ギルドでは朝の新規依頼の奪い合いを終え、一息ついたところである。


 新規依頼が張り出される8時過ぎ頃からは、条件の良い依頼の奪い合いとなり混雑する。その後、ブツクサ言いながら残った依頼を受ける冒険者達の相手をしているとこれくらいの時間になるのである。


「あー、今日も第一波が終わりましたねぇ…何で学習しないんですか? あの人達!?」


 ショートカットをカチューシャでまとめた受付嬢が、先程までたむろしていた冒険者に対し愚痴を言う。


「仕方あるまい。ここの通常依頼はどれも単純作業・肉体労働ばかりだ。報酬が同じ程度の仕事なら、楽な方を選びたいというのが普通だろう」


 それまで受付窓口に位置していたゴージャス美人といった印象の女性が奥の机に移動する。彼女の本来の仕事場所はそちらのようだ。


「ギルド長、毎朝申し訳ありません。受付業務まで…」


 ダークエルフの女性が頭を下げながら言う。言葉通り、先刻の女性はこのギルドの長であった。本来なら受付業務等は長である彼女がやるような仕事ではないのだが…


「人手が足りんからなあ…今日はキースが非番で更に足りん。

 まあ、私も受付嬢時代を思い出して少し若返るよ…なんだ!? オバサンは受付に座んなってか!? 泣くぞ!?」


「いえいえ!! そんなことないです!! ギルド長はお若いですよ、10代のワタシと並んでも変わらないですって!? むしろ大人の妖艶な魅力って言うか…」


「そ、そうだよな♪ まだまだイケるよな♪」


 年齢を気にしだした、若干扱いのめんどくさい上司をなだめる一般職員の受付嬢。

 なんとか爆発物の導火線の鎮火に成功、と思いきや、


「そうですよ。年齢だって私とそれほど変わらないじゃないですか」

 

 ダークエルフの女性から火炎放射。もはや導火線関係なく爆弾そのものが熱せられ爆発。


「!! エルフ種と一緒にすんなよー!! お前ら10代後半から外見変わらないじゃん!! 

 私なんか10代から冒険者してお肌はボロボロ、シワも深くなって…20代前半でギルドに就職したは良いけど、その冒険者の経歴で男には敬遠されて本来寿退職率の高い受付嬢から正職員になっちゃって、今じゃ辺境とはいえギルド長なんだぞ!! 出世コースにのっちゃって、このままここでの任期が終わったら領都で幹部候補になっちゃうんだぞ!!

 ウアァ~、わだじぃ~ふづうにげっごんじて~旦那と子供どおだやがにぐらじたがっだのに~~」


 机に突っ伏して泣き始めるギルド長。哀愁を感じる大人の女性に声をかけられない受付嬢2人。


『カーミラさん、何で年齢のこと言っちゃうんですか?』


 火をつけたダークエルフ、カーミラ嬢に向けアイコンタクトで責めるカチューシャ受付嬢。


『すいません、クリエさん。以前に年齢の話になった時には軽く流していたので、つい…』


 目と目で通じあう受付嬢ズ。かすかに色っぽい。

 ギルド職員は普段荒くれ者の冒険者相手の仕事なので、戦闘訓練も必須なのだ。声を出せない状況下での意思疏通もお手のものだった。

 建物の造りといい、強盗相手の対応を思い起こさせる職員といい、銀行か郵便局みたいな雰囲気だ。


『ああ~、たまたま機嫌がよかったとか…たまにありますよね、そういう日』


 カチューシャ受付嬢あらためクリエ嬢が納得する。普段無愛想な同僚がたまに朝の挨拶をしてきたりするような感じだろうか。


『それでも私の落ち度です。今度何か奢ります。

 とはいえ、こうなったらしばらくはこのままでしょう。様子をみながらこちらはこちらで仕事を進めましょう。』


「ウワーン、アン、アン…ウワーン、アン、アン…」


 泣き続けるギルド長を尻目に自分達の仕事を片付ける受付嬢ズ。このギルドでは2月に1度は起こることなので、慣れたものだ。すでに2度程経験済みである。


 ガチャ


「…おーい、昨日分の素材の管理まとめ終わ……」


「エーン、エンエン…エーン、エンエン…」


 バタン


 奥の扉、解体所兼倉庫に通じる扉が開けられたと思ったら閉められた。

 ギルド長の惨状を見て撤退したのだろう。状況把握能力に優れた賢明な判断である。


「ゴーシュさん逃げましたね…専用の持ち場がある人はそこにひきこもれていいですね~」


 クリエ嬢が毒づく。

 先程扉を開けて閉めたのは、素材の管理と解体業務を専門とするギルド職員で名をゴーシュという。ねじり鉢巻に日に焼けた肌、魔物の解体時用に防水性の高い作業着を身に付けたその外見は魚屋の店主か漁師か、といった具合だ。


 これに先に名前のでたキースという男性職員を合わせて計5名が東サイアン冒険者ギルドのメンバーだ。他に期間限定の臨時職員を募集するときもあるが、基本はこの5人で仕事を回している。

 地方の支店郵便局並みの人員の薄さだ。


「仕方ありません。特殊性の高い仕事ですから…どうしても人がいないときには手伝ってくれますし」


 手を止めずにカーミラ嬢が返事をする。

 カーミラ達がしているのは、受理した依頼を確認し、同種依頼毎に分別、番号順に並べてファイリングだ。冒険者の持つ依頼表にも対応した番号がふってあるので、達成時にはその番号と合わせれば照会が手早く済ませられるという訳だ。

 現代日本ではPCによるデータ管理が当たり前だが、ひと昔前まではこういったアナログ式の伝票管理が主流だった。この世界アーニスもアナログ式だ。


「街道が13、街道護衛が4、伐採が3で畑が2、ゴブリンの群確認が1ですねぇ…最後はともかく、代わり映えしないラインナップですよね」


 集計を終えてクリエ嬢がボヤく。良くも悪くも素直な娘さんなのだ。


【通常依頼】

『街道敷設手伝い:ランクE 森の集落に通じる小路周辺の伐採5時間につき銀貨1枚』

『街道敷設の護衛任務:ランクE 街道敷設の人足の護衛5時間につき銀貨1枚』

『村周辺の森の伐採手伝い:ランクF 当方が指定する大木1本(根含む)につき銅貨20枚』

『畑の耕作手伝い:ランクF 当方が指定する耕地10平方m分につき銅貨30枚』 


 このギルドの通常依頼のほとんどがこれらに属する依頼だった。


「ウッ、グスッ…仕方ないだろう。ヒンヒン…このギルドに依頼を出すのは、ほとんどが領主の意向を汲んだ代官と役人だ。まずは村を大きくしないとって考えなんだろ…ウウッ、ブヒームッ!!」


 ようやく立ち直ったギルド長が説明してくれる。最後のは泣いて鼻水が出たので自前のハンカチで鼻をかんだ音だ。


 この話題はこのギルド創設以来繰り返し話されている、もはや挨拶みたいなもんである。

 職場で改善点や不満等があると結構長い間ブツブツ言い続けるあるあるだ。

 買い換えた給湯室の電子レンジの暖まりが弱いとか、年に一度の年末調整の提出期間がギリギリだとか色々だ。


「確かにそうですが…冒険者というよりは農家や木こりの気分でしょうね。

 彼ら冒険者の半分程は農村部出身ですから、これじゃ村にいた頃と変わらない、なんてボヤいてるのも聞きます」


「嫌なら受けない…って言う選択肢もないですもんね、ちょっとだけ同情しますよぉ…」


 村には50人前後の冒険者がいるが、皆領都サイアンからある依頼を受けて派遣されて来ている者達ばかりだ。その依頼の内容は、


【指名依頼】※対象Eランク以下の冒険者

『東サイアン開拓村への常駐:ランクE 新たに興された開拓村に3ヶ月~6ヶ月の派遣。月毎に定められた通常依頼の達成ノルマあり。依頼達成後、領都サイアン冒険者ギルドにて金貨1~2枚。

※特別事案として当依頼達成時は複数回分の依頼達成とみなす。』


 という内容だ。多少のメリットはあるようだが…

 指名依頼とはなっているが、ギルド側から半ば強制的にランクの低い新人達やうだつの上がらない低ランク冒険者に押し付けているのが実態だ。

 中には金貨の文字に惑わされて自ら志願する者もいるが、通常業務の内容や達成ノルマの欄をよく見ずに後悔するものが多数であった。

 ちなみにノルマ数だが、3ヶ月期間の場合通常依頼を月30、6ヶ月だと月25になる。代わり映えのない肉体労働を、ほぼ毎日行わなければならない彼らの気持ちはいかばかりか…いつの世も弱いものは理不尽を味わうものである。

 ブラックダメ!!!!!


 更にちなみに、アーニスの暦は1年は360日、12ヶ月の月30日、1日24時間というほぼ地球準拠である。

 とはいえ労働基準法も、週2で休日などという概念もないファンタジー世界アーニスであるので、平民にとってはわりかし普通のことでもある。

 現代で言うとマグロ漁船に乗るような感じだろうか。蟹を工する船程劣悪ではない…と思いたい。 

 

「私達が言ってもどうにもならんな。大貴族サイアン家、黒鉄(クロガネ)の貴族なんて呼ばれる3大名家肝いりの事業だ。領都のギルドも否とは言えんだろう」


 ギルド長がようやく自分の仕事に取りかかる。まだちょっと目元と鼻周辺が赤い。

 この村全体がサイアン家の支援なしでは立ち行かない訳である。仕方ないで済ませるしかないのだ。


「まあ…そうですよねー」


「今日なんかは農家からゴブリンの調査があるだけましだな。この調子で住民からの依頼が増えてきてくれれば良いんだが…」


「先は長そうですね」


 自然とため息が重なるギルド長と受付嬢ズ。


「……ところで、カーミラ。例の彼、そろそろ来るんだろ?」


 ちょっと重くなってしまった空気を紛らすようにギルド長が問い掛ける。

 今日の早朝にカーミラから報告を受けた件だ。


「え!? なんですかそれ…例の彼? なんだか乙女心をくすぐる言葉…私、気になります!!」


 クリエ嬢がなんだか鼻息を荒くしている。


「いや、そんな話じゃ…まさか!? そうなのか!? カーミラ、オークジェネラルなんてのは嘘っぱちで、実はお付き合いする彼を紹介する口実だったり…そんな事をしてみろ、私は君をどうするかわからないぞ……おあつらえ向きに湖があるな…底は冷たいだろうなぁ………………カーミラァ…」


 ギルド長の髪は長いのだが、なぜか今は前側にほつれてホラー感満載である。

 妄想における嫉妬の炎が1人の女を鬼女に変える瞬間だった。スキル《鬼神化》とか取得してそうである。あるいはスキル《呪い》や《呪詛》か。


「そんなわけがないでしょう。純粋に仕事として報告しなければならない件です」


 そんな乙女思考をどこ吹く風で冷静に返すカーミラ嬢。胸の奥底にほんの、ほんのちょっとだけ揺れ動くナニかがあるようなないような感じがしたのは…秘密だ。


「なーんだ、ってオークジェネラルですか!? なんかスゴい単語が…」


「そ、それなら良いんだが…何か私にとって不吉な心の動きがあったような…」


「10時にギルドに来るよう伝えてありますので、もうそろそろ…」


 備え付けの置き時計を見ると現在9時40分。まだ約束の時間に余裕はあるが、


「あの~、失礼しま~す…」


「ガウウ!!」


「ガウウガウウ♪」


 ギルドの正面扉を開ける男、おっさんことアイバー、元アラフォー転生者にして従魔2匹を従える冒険者。

 先日この世界『アーニス』に転生し紆余曲折あって東サイアン開拓村に滞在する、一応この物語の主人公。


「あの~、時間前だと思うんですけど…ひょっとして時間間違えて遅れました?」


 約束の時間前余裕だけど、ギリギリ滑り込みな登場である。

 




お読みいただきありがとうございましたm(__)m


ギルドメンバー紹介回で、主人公ほぼ出番なし。

新展開への導入を意識して書いたつもりです。


ギルド長のイメージは河合○の○弓さん、若干マイルド気味。

新受付嬢はガワのみアイ○スの○務員、内面は特にないです。

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