第三十四話 なぜ生きるのか…さあ?
第一部完です。
その後気絶したおっさんことアイバーは、警備隊長のノックスに担がれて村に帰還する。
担がれた際に半ケツになって色黒オネエのシュミーズさんを喜ばせたり、エルフのネールさんがシューとブランに構いすぎて敬遠されたりする事があったらしいが、概ね平穏な道のりだったそうな。
次に目が覚めたのは村の教会の一室だった。
「…ん、知らない天井だ…」
お約束の一言を済ませ、室内を見渡す。ベッド下にシューとブランが丸まって寝ており、それ以外は誰もいない。
「ここ、どこだろ?」
教会に運ばれた事を知らないアイバー。
周囲を見回した印象だと、田舎の学校の保健室みたいな感じだ。
かけられていたシーツをはいで、上半身を起こすと状態の確認を行う。着ている服はそのままだが、武器や革鎧の装備が外されている。どこにいった?と思っていたら室内のテーブル上にまとめてあった。ボロ袋も一緒だ。
「えっと…ここに運ばれる前の記憶は、湖でグッタリ、人の声が聞こえてきたなと思ったらシューが激突…コラッ!!」
ベッド下で丸まっている従魔の片方の頭をペシッと叩く。鼻っ面にダイレクトアタックしたらあかん!!
「キャウ!? グゥゥ…」
「キャウンキャウン♪」
叩かれたシューは不満げだが、ブランは目を覚ました事に気付き、喜んでいるようだった。
主人冥利につきるなあ~♪
「おや、目が覚めたようだね」
「お体は大丈夫ですか? かなり疲労していましたよ」
備え付けの扉から2人の人物が入って来る。
1人は見覚えのない男性。真っ白な、いかにも神官服といった感じの服に身を包んだ30代くらいの金髪の男性だ。
もう1人は見覚えのある、冒険者ギルドの受付嬢カーミラさんだ。朝以来だが、相変わらずクールビューティーだぜ。
「あの…俺ってどうなったんですか?」
「そうですね…カクカクシカジカ…」
カーミラさんの説明によると、シューの救難要請に気付いてくれたのは警備隊のノックスさん達とカーミラさんらしい。そのままノックスさん達がシューの道案内で捜索・発見し、気絶していた俺を教会に運んでくれたという流れだ。
この世界の教会はアイバーの予想通り、病院的な役目も兼ねているらしく、カーミラさんが受け入れの要請をしてくれていたらしい。
「教会とギルドは、冒険者の治療に関して提携を行っていますので」
話が早かったとカーミラさんの談だ。
「ここの教会は日暮れには門を閉じてしまうのでね。店じまいの準備を始めていたのだが、少し残っていて欲しいと頼まれたのだよ。まったく面倒な…」
「まだギリギリ日は暮れていませんよ。営業時間内でしょう」
カーミラさんの指摘に、フンッと顔を背ける神官らしき男性。
「ともかく、そういう訳だ。治療はすませてあるので、とっとと払うものを払ってお帰り願おう」
アイバーに右手を差し出して来る神官。どうやら知らぬ間に治療をしてくれたようだ。確かにあの拭えきれなかった疲労感や体中の痛みや傷が消えている。ステータスを確認してもHPMP欄の横から状態異常の文字が消えていた。
「あ、ありがとうございます…あのそれでおいくらでしょうか?」
「ふむ、そう言えば言っていなかったか…《状態回帰》1回と《治癒》1回で銀貨6枚だ」
「銀貨6枚…結構しますね。あの、カーミラさん…」
約60000円。
横にいるカーミラさんにこの値段が適正価格なのか、それとなく目で訴えるアイバー。
デキル女カーミラさんもその意図に気付く。
「適正ですね。先程も言いましたが、ギルドと教会は提携していますので、これでも良心的な価格です。
もしかして、持ち合わせが? でしたらギルドで立て替えも…」
「ああ、いや、大丈夫です。ありますから」
適正価格か知りたかっただけなのだが、懐具合を心配されてしまったようだ。そんなに貧乏に見えますか? カーミラさん?
ボロ袋から銀貨6枚を取り出し神官に渡す。ああ…手持ちが心もとなくなっていく。
「1、2、3、4、5、6…確かに♪ では、出ていってくれたまえ」
銀貨を数えている間だけは嬉しそうだったが、それを懐に入れると途端に出ていけである。なかなかお金好きの殿方であるらしい。
「…相変わらずですね。
アイバーさん、行きましょう」
カーミラさんに腕を引かれて退出させられるアイバー。掴まれた腕がちょっとドキドキである。
金髪神官はシッシッといった感じで手を振っていた…なかなかロックな神官さんだ。
「神官としての位は高いのですが、性格に難がありましてね、ハァ…」
悩ましげに首を振るカーミラさん。色々と言いたいことがあるっぽいなぁ…
「でもまあ、確かに体の調子は完璧ですよ♪ これってやっぱり魔法のお陰ですか?」
手を離しどこぞへ向かって歩いて行くカーミラさん、その横に並ぶアイバー。せっかくだしお供させてもらおう♪
暗がりの道を、篝火だよりに歩く。従魔コンビも、アイバーを挟んでテクテク歩いていた。
「そうですね。《回復魔法Lv6》の《状態回帰》といって、大抵の状態異常は完治できる魔法です。
その後にLv3の《治癒》をかけていますので、体力的にも問題ないのでしょうね」
「へー」
《治癒》先刻覚えたばかりだが《状態回帰》かあ、そんな魔法があるならいずれは覚えられるかなぁ、と皮算用を始めるアイバー。
「それにしても、気を付けて下さいね? 北の森でこの様子ですと、しばらくは自己鍛練に励んだ方が良いと思いますよ」
「いやあ、あんなのが冒険者になって、初日に遭遇するとは思わなくって…気を付けます」
「はぁ…? でもこれからもすぐに遭遇すると思いますよ?」
「いやいや、あんなの滅多に出てこないでしょう!? あれがそこいらにポンポン出てくるようなら、この村かなりヤバいんじゃないですか?」
「え?」
「へぇ?」
カーミラはアイバーを襲ったのがゴブリン、せいぜいオークぐらいだと考えており、アイバーはオークジェネラルを思い浮かべている。それゆえのスレ違い。
ここはこういったシチュエーションを何度となく読者目線で見てきたおっさんの面目躍如だ。なにかボタンの掛け違いがあることに気付く。
「あ、わかった!! カーミラさん、俺がゴブリンとかオークにやられたと思ってるでしょ!?
残念、今日俺が遭遇したのはなんとぉ~~~、オークジェネラルだったんだよ!!」
「…見え透いたウソはやめた方がいいですよ。そんな上位の魔物が、こんなところにいるわけないです」
ええぇ…折角の男の武勇伝を、斬って捨てられたアイバー。でもまあ、こういうのも転生物のテンプレかぁ、と妙に納得する。
物語序盤、到底その地域では出ないような強敵が現れ主人公が人知れず倒す…うん、完全に一致。
「…まあ、信じられないのも無理はないですね」
「クゥゥ…」
「クゥゥクゥ…」
従魔達も反論したげだ。実際目の当たりにしてるからな。
あとで証拠を出せばいいか、と考えてこの場はそれ以上反論はやめておく。
「そうですね、出たとしてもせいぜいハイオークでしょう…それでも初めての目撃例ですが。
もしその情報が正確なら、多少の報償金が出るかもですよ…本当なら、ですが」
わー、カーミラさん、完全に信用してないな。
「ま、いいです。それにしてもなんだか、見覚えのある通りのような…ハッ!? まさか我が『逃走経…」
「? 何を言っているのか分かりませんが、目的地につきますよ。『清湖亭』です。
私は食事とお酒目的ですが、アイバーさんもここに泊まるのでは?」
ああ、どうりで見覚えがあると思った。昨日今日で2回通ってますね。
「そうですね、良い宿だったし今日も泊まらせてもらおうかな…お金結構ギリギリだけど、まあいいか♪
シューは2回目だし、ブランもいいか?」
「ガウ♪」
「ガウガウ♪」
2匹ともOKのようなのでここに泊まることにする。またシャワー付きの部屋にしよ♪
そういえば、なんだかシューも村の中でも怖がらなくなってるな。
「よかったら一緒に食事でもどうですか、おごりだそうですよ?」
「え? マジですか? 女性からのお誘い!?」
夢みてたシチュエーションだけど、いざなってみるとテンパる。でも、『そうですよ』って?
「それじゃ入りましょう、皆さん待ってますよ」
は? 皆さんですか、と思う間もなく…
「おー、やっときたか!! 先始めてんぜ~♪」
「よかったわぁ~♪ すぐに目が覚めたのね」
「……ああ、モフモフ様を見るだけでお酒が美味しい♡」
ですよねー。
気絶していたので、昨日の夕方ぶりの再会となる警備隊の面々だった。実際にはつい先ほど顔を会わせているはずなのだが。
「オラ!! 入り口で突っ立てねえで、こっちこい!! ボウズにゃ冒険者の心得ってヤツを叩き込まねえとなぁ♪ 初日から助けを呼ぶなんて情けなさ過ぎだぁ♪」
「アラアラ♪ 風を吹かせるのもホドホドにね、ノックス♪ でも、私たちも冒険者だった事があるから少しは参考になる話が出来るわよぉ♪」
「モフモフ様~モフモフ様~♪」
「おや、無事帰ってこれたんだね。男の子は無茶するくらいがいいと思うけど、ホントに死んじゃダメだよ」
警備隊の面々に加え、テーブルに追加のオーダーを運んできた看板娘二女ミナさんが声をかけてくれた。
なんだか、会社の飲み会に遅れてきたみたいだな…でも悪くない。
「今日はノックスさんの奢りだそうです。ご馳走になりましょう」
カーミラさんが促してテーブルに歩き出す。かと思ったらこちらに振り向いて…
「そうそう、今朝ギルドを出るときに言ってましたので私も、お帰りなさい。お疲れ様でした」
………あー、まさかカーミラさんにそう言ってもらえるとは思ってなかった。これって脈アリ?
「今日の受付業務で、冒険者の方々に同じように言ってみたところ、なんだか皆さんやる気になっていましたので、今後も続けてみようかと」
ですよねー。
でもまあいいかと思うアイバー。
シューにもブランにも、警備隊の面々にもカーミラさんにも名も知らぬ神官さんにも助けてもらった。
宿の娘さんにも心配してもらえたし、しばらくは人手の足りなそうなこの村に腰を据えて発展に寄与しながらレベルアップに励もうかと思うおっさん。
発展途上国の学校作りとか井戸作り的な活動にも興味あったしな。やりたいことはやってみようだ!!
「じゃあ、ゴチになりまーす♪」
「おう、飲め飲め♪ だがまず俺様に感謝の一礼だ♪」
「アザーっす♪」
「まったくもぉう♪ あらシューちゃん、なにか食べたいの?」
「ガウ♪」
「シューさんとおっしゃるんですか、もう一方の方はなんと?」
「あっ、紹介し忘れてましたね、新従魔のブランです♪ シューより黄色っぽいのが目印です♪」
「ガウガウ♪」
「…シューちゃぁん、ブランちゃぁん~♡」
「キャンキャン!!」
「おまっとさーん♪ ワイルドボアのステーキね♪新規のお2人さんはなんにする」
「私はワインを」
「俺は皆さんと同じでいいです」
「はいよー♪ ワインとエールね~毎度~、そういやお兄ちゃんは今日も泊まるの?」
「ああ、そっすね。昨日と同じ部屋空いてます?」
「はい、これまた毎度。昨日の宿帳に続けて宿泊にしとくよ♪ 楽しんでってね♪」
「はーい♪」
騒がしく宴の夜は過ぎていく。
明日への活力を得るためのバカ騒ぎも時には必要で、前生では廃れた飲ミニケーションもバカにしたものではないのかも知れない。
やがて夜はふけ、清湖亭の食堂にもアイバー達しかいなくなる。
「ギャハハ、嘘つくんじゃねえよ♪ オークジェネラルなんざいるわけねえだろぉ~♪」
「そうです、絶対ウソでしゅ!!」
「…ブランちゃぁ~ん、ナデナデさせて~♪」
「キャウキャウ!!」
「オークジェネラルねぇ、ホントならうちで買い取らせてよ♪ ね、特別価格で♡
お肉美味しいって話だし…タマタマの精力剤もね~♪ お姉さんと試してみない♪」
「ミナ姉さん!! お客さんにしなだれかからないで…くぅ、いつの間にか看板娘の座が…」
「ガウウ♪」
「んもう、皆騒ぎすぎよぉ♪ アイバーちゃんも煽らないの…」
「いやマジですよぉ? なぁんならここに出しましゅか? お~おくじぇねら~るぅ」
呂律の回っていない口で、未来の猫型ロボット風にボロ袋からオークジェネラルの死体を取り出すアイバー。酔っぱらってるので周囲への配慮もすっ飛んでいた。
ドデーンと店の床に置かれた巨体のオーク。
「「「「「「……………マジで?」」」」」」
辺境の村の開拓史に新たな伝説が刻まれた瞬間だったそうな。
第一部完
お読みいただきありがとうございましたm(__)m
今後は、閑話とお話の整理の為の人物プロフィールを投稿してからどうするか考えるつもりです。
お付き合いいただき、ありがとうございましたm(__)m




