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第三十三話 どんな時も

救助を待つ間のお話です。


またシモ関連の表現あります。

お食事中の方はお気をつけ下さいm(__)m


 村で救出隊が結成された頃、当のおっさんことアイバーが何をしていたかというと…


「…う~ん不味…い、もう一本…」


 湖岸の木に寄っ掛かって座った姿勢で、薬草と魔力草をムシャムシャしていた。

 動けない体で出来る事はそれぐらいしか浮かばなかったのだ。

 

「…こんだけ草食ってりゃ…明日のウンコは…ほぼ緑、いや野菜…メッチャ食うと宿便出るっていうから黒っぽい便…か? 野菜の葉っぱって…胃酸とかで茶色になったりしないのかな…」


 どうでもいいシモ知識の考察をするおっさんことアイバー 。


「あ、ヤベ…そんな事考えてたら、もよおしてきた…クソッ、シモ関連だけに…」


 くだらないオヤジギャグの独り言を言いつつ、力の入らない体を必死に揺らしてズボンを下ろす。


「あ~、漏れる…漏れる、アブね、間に…合った《落穴(ビット)》、《水操作(ウォータムーブ)》」


 もよおすおっさんの排泄口の真下に、調整して細く深く掘られた落とし穴が出現し、その中に注ぎ込まれる固形物(ウンコ)

 時同じくして、おっさんの排泄管から排泄される水分(オシッコ)が球状にまとまっていき、やがて最後の1滴までまとめ終わると、手を払うような仕草で塊が湖の側へ飛んでいく。

 ポチャンと水音が聞こえた。


「ふう………排泄は…人間の最後の尊厳だからな…救助に来てもらえた時…に糞尿まみれは…お互いに気ま…ずい、あ、葉っぱで拭いて…ポイ、んで《土操作(アースムーブ)》…これで…穴のアフターケアも…万…全だ」


 即興で考えた排泄用の魔法。

 小は《水操作》でまとめて湖へ。

 大は《落穴》で自作ボットン便所。

 こんな描写要らねぇよなぁ…と思ったアイバーだが、ちょいリアル系ファンタジーだとこういうのも必要か、と顔も知らぬ高次観測者用の言い訳をしておく。


「よっ、と…ズボンあげておか…ないと。握力ないから…大変だ…」


 こうやって体の不自由な思いをしていると、寝たきり高齢者や事故や病気で後遺症に悩まれる人の気持ちがわかる気がする。オムツ変えられたり尿瓶(しびん)入れられたりしてな…

 あれってされる方もする方も大変なんだろうなぁ…看護師・介護士の待遇改善、期待したいけど…どうせ無理なんだろうなぁ。


 思考が訳の分からない方向へ流れて行く。


「ブモモ!!」


 そこへ、耳に不快な声が聞こえてくる。先刻の戦闘で苦手意識さえ生まれそうな魔物、オークの鳴き声だ。

 今度はジェネラルではなく普通のオーク。


「ブモモ♪ ブモモォ♪」


 オークは既にこちらにロックオンしているようで、動かないアイバーへ嬉々として向かって来る。手負いの餌と見られているようだ。


「ったく…まあ、こういった危険も…あるよな…引き付けて、引き付けて」


「ブモモォ♪」


 ドスンドスンと、ほぼ正面から走って近付いて来るオークの足元に照準を合わせて…


「《土槍(アースニードル)》」


「ブモェゲ!?」


 足元からそそり立った土槍がオークの下腹部を貫き、周囲に血臭と消化物の臭いが漂う。走っていた勢いでオークの体がアイバーのすぐ近くに倒れた。


「…ブ、ブモ」


「も一発…《土槍》」


「!! ブ…」


 息があるようだったので喉周辺を狙って《土槍》を唱え、トドメを刺す。幸いといっていいのか、かなり近くに倒れており、ボロ袋を死体に近づけて回収した。

 オークの前にもゴブリンを1匹、同様の手法で仕留めているので慣れたものである。


 この世界の魔法は、唱えれば自動で発動するので現状、体を動かせないアイバーの生命線である。万が一《土耐性》を持っていた時の為に《落穴》の準備もしてあった。


 しかし、先程シューの状態回復とHP回復でほぼ底をついていたMP、そして使いきってしまったはずの魔力草。

 いったいどうやってMPの供給をしているかと言うと、 


「アウアウ!!」


「…お、戻って…来てくれたのか…今度は、魔力草だな…サンキュ♪」


 新たに従魔になった黄色の毛皮の子狼の口には魔力草がくわえられている。それをアイバーの手元近くの地面に置いていった。

 見れば手元近くには、ちょっとした野草の山が出来ている。どうやら何度も採取を繰り返し、往復しているようだった。


 そう、冒頭からアイバーがムシャムシャしていたアイテム類の供給源は新従魔ブランだった。


 従魔になった時確認したステータスがこれだ。


【 名 前 】ブラン

【 年 齢 】0

【 性 別 】女性

【 職 業 】従魔

【 L V 】1

【 H P 】72/79

【 M P 】48/48

【 STR 】70

【 VIT 】55

【 INT 】109

【 MIN 】62

【 DEX 】91

【 AGI 】108

【 スキル 】《鑑定》《噛み付きLv1》《咆哮Lv1》《土耐性Lv2》《風耐性Lv1》 《孤独耐性Lv1》《毒耐性Lv1》《採取Lv3》



 シューの初期ステータスに比べると肉体性能的に少し劣っているが、INTが高めな印象。

 だが、アイバーにとってはそこは重要ではなかった。特筆すべきなのはスキル、《鑑定》と《採取Lv3》。


「これ…見たときは驚いた…けど絶対役に立つ…って思ったんだよなぁ…ングング…にがぁ…。

 あと…シューと同じ種族だからか…同じスキル持ってんな…」


 早速取ってきてくれた魔力草を口にし、ステータスについての考察を行うアイバー。

 魔物にとっての《鑑定》がどのように見えるかは分からないが、従魔になったシューの様子をみるとかなり複雑な意志疎通が可能な感じだった。

 薬草や魔力草等の採取物集めが可能なのでは?と思い、現に今もその両者を集めて来てくれていた。


「…《噛み付きLv1》、《土耐性Lv2》、《風耐性Lv1》 はLvまでおんなじだし…《孤独耐性Lv1》はLvこそ違うけどシューも…持ってたもんな…ング…ウップ…」


 さらに魔力草を口にするアイバー。


「…シューが斥候兼牽制…俺が火力…担当で、ブランが…後方支援兼調達役……

 盗賊、…魔法戦士、アイテム師みたいな…パーティー構成だろ…ンググ…ゥッハ…」


 相変わらずゲーム脳な考えで整理するおっさん。また1つ魔力草を口に詰め込み、飲み下す。


『スキル《過食Lv2》を取得しました』


『スキル《吸収Lv2》を取得しました』


 スキル取得を知らせる天の声。この2つはセットなのだろうか?どうやら、食べ過ぎてキツい状態からさらに無理して食べると得られるスキルのようだが…

 スキルを得るほどに、だいぶ無理を押して食べているアイバー。先に述べたように魔法が生命線なので、MP回復のために無理矢理口に詰め込んでいる状態だった。


「…これで…また、少し魔法が…使える。オエップ…」


「ガウゥガウゥ…」


『だいじょうぶです?』


 従魔から心配の念話が来るほどに、キツそうなのだろうか?

 ちなみに、ブランはシューよりも念話の頻度が多い。食欲全開なシューに比べると、理知的なのかもしれない。あと、念話内では『です』口調。


「…大丈夫…だ…よ、また、魔力草、頼む…たまに魔物…いるから気を付けて…な、森、より湖岸の方が多いぞ…」


「ウゥウゥ…」


 心配そうに何度か振り返りながらも、離れて行くブラン。薬草でもいいが、魔力草を優先してもらうようオーダーしてある。

 スキルのレベルが上がったお陰で、また数束の魔力草をモグモグする。


「…ハァ、このまま食べ続けると…某七つの大罪をテーマにした…洋…画みたいに食道…破裂…すんじゃないか? ウゥ…」


 あの映画の雰囲気好きだったわ~、最後に○ラッドでピットな俳優が…おっとネタバレはダメか…

 回復したMPを確認する。


「…よし、また回復魔法…使える。《小状態回復(リカバー)》、…」


 攻撃魔法数回分を残して《回復魔法》を使うアイバー。重傷状態を回復させるべく、数回《小状態回復》時おり減少したHPの為《小治癒(ヒール)》の頻度だ。


 救助を待つ間、魔法の回数を稼いで少しでもLvを上げようとする心づもりだった。

 今することか?とも思ったのだが、極限状態のハイテンションと前生でのちょっとしたゲーム効率厨魂が今がチャンスと囁きかけていた。

 なんだか、資格試験前日の詰め込み勉強をしているような、学生時代のテスト前日の修羅場のような、『今だけ頑張る感』に支配されているおっさんだった。


 あわよくば、重傷状態からの回復を目論んでいたのだが、シューにかけた回数を考えるとまだまだ回数が足りていない。


「…重傷状態の…今が…逆にチャンスだ…回復魔法かけて経験値が稼げる…ラン○な…リッサーのように…フッフッフッ…この…天…才○…軍師アイ…バーに…おまかせあれ…♪」

 

 だいぶ錯乱状態になっているアイバー。ついでに眠くて仕方がなかった。先程から独り言を話しているのも黙っていると眠ってしまいそうになるからだ。


 《狂化》状態での戦闘、重傷を負った体での行軍、食べ過ぎによる内臓への血流優先等による眠気が限界にきていた。


「…ね、眠い、早朝出勤で…車で…事故りかけた…とき以来の眠……気…クソ《小状態回復》、……《小状態…回復》………………」


『スキル《回復魔法Lv3》を取得しました』


「!! ウオッ!? …やった《回復魔法Lv3》取得だ。

なにか…役に立つ魔法は…」


 危なく夢の国に旅立つところだったアイバーだったが、天の声のお陰で戻って来ることが出来た。


 実際、眠ってしまうと先程のオークの時のような、外敵からの襲撃に対して無防備になってしまう。ブランに側についてもらえればいいのかもしれないが、そうすると唯一の攻撃手段である魔力の回復が《MP自動回復》頼みになってしまうので効率が悪い。

 それに、ブランはスキル《気配察知》がない。狼の嗅覚的なモノもあるが、スキルの様に確認出来ないモノに頼るのも怖かった。おっさんは臆病で疑い深いモノなのだ。


「…《回復魔法Lv3》は、…《治癒(ミドルヒール)》と《解毒(キュアポイズン)》か…う~ん…現状の突破口には…難しい…あ、でも…」


「キャウンキャウン!!」


 なにか思い付いた主人のところに駆け寄って飛び付いてくる従魔ブラン。また採取してきてくれたのかと思ったのだが、口には何もくわえていない。


『きました、きましたのです!!』


 念話で伝えてくるブラン。


 なにが? と尋ねようとしたところでブランとは別の声が聞こえる。


「………キャウ~~~ン!!」


 すかさず、アイバーの胸の中にいるブランも鳴き返した。


「キャウ~~~ンキャウ~~~ン♪」


 その声に反応して、小さいが人の声も聞こえてくる。


「………案内役が急に鳴き出したな」


「………あら、返答があったみたいねぇん♪ 野生の狼かしら? それとも…」


「………新たなモフモフ様が!!」


 なんだか聞いた事のある声がしたような気がした。


「キャウキャウ~~ン♪」


「キャウ~~ン♪」


 2度目のやり取りで位置を把握したのか、鳴き声の主がこちらへ駆け寄ってくる気配。湖岸とは言え森近くなので、ガサガサと木の葉が擦れる音がする。


 そして木陰から飛び出して来たのは…


「シュー…ブベッ!!」


 アイバーの鼻先にシューのダイレクトアタック、アイバーは気絶した。


「クゥン♪」


「クゥンクゥン♪」


「こーら♪ シューちゃんたら、急に飛び出したら危ない…あらぁん♡ 情熱的ねぇ♪」


「気絶してんな、ここまでたどり着いてガクッって感じか? 浅い場所とは言えよく無事だったもんだ…にしても従魔が1匹増えてんな」


「…モフモフ様がもう1匹ぃ♡ ここは楽園(パラダイス)?」


 意識を失い、2匹の従魔に顔を舐められているアイバーを見て一言づつ感想をもらす救助隊の面々。


 17時21分、要救助者確保である。


 


お読みいただきありがとうございましたm(__)m


ブランのスキル設定に関しては、ちょびっとだけ伏線を仕込んでありました。 閑話と二十六話です。

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