第三十二話 でもんずぶらん
久々のタイトル詐欺回…です。多分
作者名の変更行いました。
活動報告に詳細載せてありますのでよろしければどうぞ。
気にしない方は気にせず読んでいただいて大丈夫ですm(__)m
ああ、これで何度目だろう?
思えば母方の実家のバア様は亡くなる前には認知症を発症しかけていたって聞いたことがある。母さんも亡くなる前は結構物忘れが多かった。あれは前兆だったのかもなぁ…そういう家系の俺だからか。
「うっかり…っつうか物忘れ多すぎだろう!!」
遡る事昨日、宿の場所を聞き忘れかける。
遡る事朝、ギルドの場所を聞き忘れる。細かい事だとアイテムや魔石の価値を聞き忘れる。
遡る事午前中、MPばかり見てHP欄の状態異常を見逃す。
そして今、自分の状態を確認しないまま重傷と疲労困憊でぶっ倒れる。
「んぁ…へへ…アホだ…アホの所業だ…若年性予備軍だ…」
ちなみに父方の実家、前世での自宅だが、の家系は呼吸器循環器系の病死が多い。
家系によって、結構死因の偏りがあるので調べてみるのも悪くないかもしれない。予防もしやすい。
まあ最新のDNA鑑定には劣るかもだが。乳ガン予防に乳房切除する海外セレブってスゴい覚悟だ。アホな男の立場からすると、オッパイ勿体ない、なんて思うが、あれは女体についてるからいいんであって、アレを単独で貰ったりしたら困る…というかグロい。どこの人体収集家だって話になってしまう。
個人的には、生まれ持った体を自ら傷つけるというのには否定的なのだが、その判断は個人の意思に任せるべきだろう。なんかピアス穴開ける開けないでこんな議論になった覚えがある。
「バカ思ってないで…打開策を…まず現状の把握、重傷は数分に1回の…HP減少を引き起こす。MPは95か…残りHPと合わせれば2~3時間は問題ない、何も起きなければ。
疲労困憊は、重傷で…無理に動いたからか? 確かにオークジェネラル戦終了後からスゴい…かったるかった………zzz…んが!!!
油断すると…眠く…なる、これ疲労困憊と神経衰弱の…影響か?」
うつ伏せに倒れた主人を心配してか、シューとブランの従魔コンビが駆け寄ってくる。心配そうに顔を舐めてくるが…正直唾液が臭い。
「ガウウ…」
「ガウウガウウ!!」
「ああ、心配して…くれたのか!? ありがとな♪」
何とか体を起こそうとするが、それだけの行為が物凄く大変で面倒に感じられる。先程までもたれて座っていた木の根本に大変な労力をかけて戻った。
「キュウン…」
「キュウンキュウン…」
「…さて、どうしよう? 村の近くまでは来てると思うんだが…正直、1歩も動ける気が…しない。
魔法で回復…させようにも魔力草は使いきったから…いや、ブランもいるし……次善の策もあるか…でも完全回復までは無理っぽい……」
ブツブツ考えて打開策を検討するおっさんことアイバー。やがて考えがまとまる。
「シュー、こっち来て…よし《小状態回復》《小状態回復》…」
「キャウン!!」
シューに《小状態回復》を重ねがけして負傷状態を回復させようとする。
【 H P 】42/114 負傷
【 M P 】37/45
20回ほどかけたところで負傷が軽傷に変わる。
さらに10回ほどかけると、ついに状態異常の表記が消えた。
【 H P 】42/114
【 M P 】37/45
「後は薬草食ってHP回復……いや、そんなに食べるの嫌がらなくても…」
「グァウゥゥ!!」
『くさきらい、いや!!』
久々のシューのハッキリ念話だった。
「グァウグァウゥゥ!!」
『おやさいたべるのです!!』
なんか、ブランの念話も聞こえた。なにげにブランとの初念話である。
主人そっちのけで口論?吠論?を始める従魔2匹。そろそろ止めないと、と思うが体が動かないので口と念で呼び掛け、ようやくおさまる。
「HP半分以下なのは不安なんで、《小治癒》で回復させるぞ」
シューに《小治癒》をかけてHPを半分以上にするアイバー。体はダルいが、魔法は唱えるか念じるだけで発動出来るようだった。ありがたい自動機能魔法である。
だがこれでMPはほぼ底をついた。残りMPは5。
「こっからは真剣な話だ。
シュー、お前にはこれから村まで戻って救助を呼んできて欲しいんだ。湖岸沿いに進めば村につくと思うから…
足の布に『救助求む』って書いた木片を挟んどくから、警備の兵かギルドの人間になんとか見せてみてくれ…病み上がりで人が怖いお前に頼むのは悪いとは思うんだが、なんとか…頼む。
分かってくれたか?」
言葉と念話でシューに伝える。これまでのシューの様子から、多少複雑な指示でも通じると思っての言だ。
「…ガウ!!」
「もし、魔物とかを見つけても…やり過ごすか無視していけよ…」
少し緊張して返事をした従魔に、念押しをしておく主人。気負い過ぎなくてもよい、無茶はするなと念で伝えておく。
「ブランは…俺の世話役を頼むな? さっき見たスキルで…俺を助けてくれ」
「ガウガウ!!」
2匹から返事をもらって、共に頷き合う1人と2匹。
チームって感じがしていいんじゃないですかぁ♪
「村への帰還大作戦、開始だ…」
手を振り上げてキメたいところだが、疲労で肘から下ぐらいしか動かせないおっさんだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
シューは走った。
主人の為に走った。
走れシュー、どこぞの文学賞の名の元になった作家の作品タイトルみたいである。
「ハウッ、ハウッ」
主人の言う通り、湖の岸沿いに走っていると20分程で村の外縁に到着した。出発後にゴブリンの集団を発見したが、言われた通りやり過ごして1度の戦闘も無しでの到着だった。
時刻は午後の4時前後、まだ明るいがじきに赤い夕陽に変わる頃合いであろう。
「ハッ、ハッ、ハッ、ガウウ…」
村についたものの次はどうしようかと悩むシュー。アイバーの言う通りシューは人間が苦手である。
それは少し前に、群れの巣を襲撃された事に起因するのだが、主人のアイバーは危ないところを助けてくれたり肉を与えてくれるので除外している。
でも主人は人間にこの木の板を見せろって言ってたし…
「ガウウ! ガウガウ!!」
そうだ、そんな主人が仲良くしていた人間を探して見せればいいんだ!! と、名案を思い付いて駆け出すシュー。
村の構造等は分からないが、狼らしく匂いで昨日今日の訪れた場所を特定しようとする。時に鼻を地面に近付け、時に上を向いて漂う匂いに…
「あー、きのうのワンちゃん!?」
「キャン!?」
声をかけてきたのは、昨日の夕方に会った人間である。
主人は仲良くしていただろうかと考え、なんか避けてたなぁと思い、離れようとするシュー。
「あー、まってワンちゃん!? マーちゃんとあそぼ~♪」
「キャンキャン!!」
追いかける幼児、逃げる子狼。
「マリア!! 何してるの!?」
「ママ~ワンちゃん!! ワンちゃんあいにきてくれたの♪ マーちゃんのとこにきてくれたの♪」
母親が止め、幼児特有の自分中心理論で反撃する子の言い争いを尻目に村の中心部に向かうシュー。
徐々に人間の巣である建物が増えており、見覚えのある通りに出た。
そこで見覚えのある人間を見つけた。
「さーて、今日もこれから大人の時間かぁ。
マナ姉ぇは夜遅くまで起きてらんないし、メーナは遅くまで酔っ払いの相手させるにはまだ女の子女の子だしねぇ♪ 深夜まで私が頑張りますか」
清湖亭のマイルドヤンキー二女ミナである。ストレートロングを後ろで束ねて、鼻唄を歌いながら店前の掃き掃除をしている。夕方の本格営業開始前の習慣なのだ。
この人間とは…主人は話してたな。確か、主人は自分を優先させていた気がする♪ などと、何となく優越感らしきモノを抱いてミナに近付くシュー。
「ガウガウ!!」
「そうよ~♪私が宿屋の看板娘♪…あら!? なに、ワンちゃん、お腹でも空いた!? でもごめんね~うちは人様相手の商売だからね~♪来るなら飼い主と一緒か人間になってから来なね~」
突き放しながらも、シューの近くで座り込み頭を撫でてくるマイルドヤンキー娘。外見不良と外見痩せた子犬、需要の多そうな絵面である。
「キャンキャン!! キャウ!!」
「ずいぶん痩せてるのね、人には慣れてるみたいだし前足に布も巻いてあるから飼い犬だと思うけど…餌貰えてないの? ん~~干し肉ぐらいなら…」
ちがうちがう、そうじゃない!! 不良と痩せ犬としては正しいけど、そうじゃない!! でも干し肉は欲しい。
右前足の布に挟まれた木片を、なんとか見てもらおうとするシューだが気付いてもらえない事に焦るシュー。
「キャンキャン!! グルゥ!!」
「はいはい、でも今日だけよ~、ってまた来たらあげちゃうのよねぇ…ダダ甘な私、ハァ。
こういうのマナ姉ぇとか父さんは厳しいのよね」
勘違いして建物内へ戻ろうとするギャップ萌え二女、その背中に吠え続けるが効果はなさそうだ。
だが、そこに救世主が現れる。
「こんばんは、ミナさん」「ヨーッス!! ちっと早ぇけどやってっか!?」
通りの逆方向から同時にかけられる声。
前者はダークエルフの女性、後者はツンツン髪のバリトンボイスの男性。
「おや、いらっしゃい♪ カーミラさん今日は早いんだね?」
「ええ、今日は早番だったので…少しお酒でもと思いまして」
「警備隊の皆さんもお揃いで毎度どうも♪ 3名様ですね、やってるよ~」
「まったくもう、いくら飲みたいからって早すぎよぉ~♪ もう少し日が傾いてからでもいいじゃないのぉ♪」
「……同意」
「いいじゃねえかよ!! 夜番が終わった頃じゃ、どこも店はやってねえし、一眠りして起きると真っ昼間なんだぜ? 酒が恋しくて仕方なかったんだよ!!」
「…私たちはそこまで飲みたい訳じゃない。アル中隊長…」
「んだと!! んな事言ってテメエいつも深酒するじゃねえか!!」
「ほらほら、お店の前で騒がないの♪ ごめんなさいねぇミナちゃん、それにギルドのカーミラちゃんじゃない!? 今日はここでなの? 良かったら同席いかが?」
「……カーミラ久しぶり、元気…そうだね」
「久しぶりねネール、よろしければご一緒させてもらっていいでしょうか? シュミーズさん、ノックスさん」
「おうおう♪ 美人の同席は大歓迎だぜ♪ 今日の払いは俺が持つからよ、楽しくやろうぜ♪」
ギルドの受付嬢と警備隊の面々は顔見知りのようで意気投合したようだった。
一方シューにとっては見覚えのある人間が一同に介している好機である。ここぞとばかりに吠えたてる。
「キャンキャンキャンキャン!!」
「こーら、うちのお客さんに吠えんじゃないの!!」
「あら、ちょっと待ってぇ…この子、昨日の従魔ちゃんじゃないかしら? ねえノックス♪」
「ん…ああ、そうだな。昨日のなんて言ったっけ!? ア…ア…アガー!? 名前出てこねえや、刀持ってた変わったボウズってのは覚えてる」
「…モフモフ様」
「んもう…アイバーちゃんとシューちゃんでしょう♪ 初めての街道側からの入村者なんだからそれくらい覚えましょうよ♪」
ノックスとシュミーズは話し込み、ネールはシューの眼前に高速移動して高速ナデナデをしている。負けじと声をあげるシュー。
「ウァウ、キャウン!!」
「モフモフ様~♪」
「アイバーさん、ですか? そういえば朝の登録時もこの従魔をつれていましたね。ここにいるということは…ミナさん、この従魔の飼い主さんはもう宿を取っているのですか?」
「あー、そういや俺がここ紹介したんだっけか!?」
「ん~? そう言われると昨日宿帳書いてもらった男の子の足元にこのワンちゃんいたような~、泊まりはしたけど、その後どうしたかはわかんないよ。多分そのまま部屋から出てこなかったと思うし、私は今から仕事だから、朝はどうしたかはマナ姉ぇか父さん母さんに聞かないと。
あれ? でもこの子向こうから来たよ?」
ネールのナデナデ攻撃から逃れ、シュミーズの足元に軽く爪を立てるように引っ掻くシュー。
昨日干し肉をくれた人間なので、この中ではダントツに信用していた。動物にオネエの概念は分からないので、忌避する理由もない。
「クゥクゥ!!」
「あん♡ シューちゃんたら、ワタシに爪を立てるなんて…イケない子ねぇ♪」
「…羨ましい」
ネールが何か呟いているが、シュミーズは取り合わずにシューを止めようと抱き上げた。そこで、ある事に気付く。
「クゥゥ!!」
「あら、アイバーちゃんたら、ちゃんと従魔の区別がつくようにプレゼントしてあげたのね♡
う~ん、ちょっと女の子にあげるには野暮ったいけど…この村じゃあ、しょうがないかしら? あら?」
ようやくシュミーズが右前足に巻いてある布の中に木片が挟んであるのに気付く。ここが最後の勝負と木片に向かって吠えたてるシュー。
目論見が当たってくれたのか、木片を確認するシュミーズ。
「!! これは…おそらくアイバーちゃんの救難要請だわ」
木片に書かれた『我助ケ求ム、北ノ湖岸』の文字を見て即座に理解するシュミーズ。周囲の面々にもその内容を伝えてくれている。
カタカナっぽい表記なのは体がダルい事から画数が少ないのと、救難時のそれっぽさを演出するおっさんの趣味だった。こんな時までアホである。
「これは…確かに救難要請ですね。朝に私が北の森を狩場として勧めましたから、その事からも符号します」
朝のギルドでのやり取りを思いだし報告するカーミラ。
「ええ!! あの子冒険者だったんだ…あんま荒事に向いてなさそうだったけど」
マイルドヤンキー二女ミナが昨夜の様子を思い出す。
「ったくよぉ!! 本来冒険者ってのは自己責任なんだがな…」
「それはそうなのですが、なんとかお願い出来ませんか?」
「わーってるよ、にしても北の森…つうかここいらじゃゴブリンとオークぐらいしかいねえはずなのにな。何にやられたんだ!? 数か?」
「それは本人に聞くしかないわねぇ♪ 生きてたらだけど♪」
「モフモフ様のお願いならやってあげる…」
「私は教会に受け入れの準備を頼んで来ます」
「よくわかんないけど、うちのお客さんが危ないってんならヨロシクね♪ 席空けとくからさ」
「キャンキャン♪」
ここにアイバー救出隊が結成された。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m
次回かその次で完結or第一部完の予定です。




